第40話 Truth&Alive
左右どちらの手でも操作できるようにアンビデクストラス化されたスライドストップにマガジンリリース、そしてセイフティレバー。
俺の愛銃にも装着されているPachmayr社製のラバーグリップ。
対して、本体の大きさと、その口径にはそれなりの差異がある。
そんな、どこかで見たような形の二挺一対で構成されたカスタム拳銃。
「Truth」と「Alive」。
春華さんが所持し、今俺が装備している「トライブ」と呼ばれているものの正体だ。
行方不明の綾音たちを捜索するため、俺たちは手がかりを求めて廃校後である「地点:ダン」に向かっている。
その道中、歩を進めながらも、俺は春華さんから「トライブ」の性質についてのレクチャーを受けていた。
「大きい方の銃『Truth』は、隠された『真実』を求める銃。基本的には小型化された閃光弾、照明弾、煙幕弾、信号弾といった特殊な弾をメインに使用する、サポート寄りの銃だよ。」
作戦会議の時にも思ったが、この銃はかなり特殊だ。
普通のハンドガンでも実包以外の弾を撃つことはある。
俺もこの前使った「実銃用非致死性演習弾」もそうだが、一般的には「ペイント弾」や「ゴム弾」あたりが挙げられるだろう。
だが、閃光弾や照明弾、煙幕弾、信号弾なんてものは聞いたことがない。
なんせ、
「本来は大砲で使うような弾を小さくしたものだから、照明弾は発光時間が短かったり、煙幕弾は展開範囲が狭い。どれも一発当たりの効果が薄いっていう弱点があるから気をつけてね。」
誰のものかは知らないが、実用性を保ったままハンドガンサイズまで小型化させるにはかなりの技術が必要になるだろう。
「『Grizzly Win Mag』っていう50口径の銃がベースだから、一応『.50AE』っていう普通の銃弾も撃つことができるよ。」
もちろん、殺傷兵器としての銃の機能も失ってはいない。
弾種が多いということは、それだけ選択肢が存在するということだ。
あらゆる状況に際して、柔軟に対応できることは大きな強みになる。
しかし、それは同時に使用難度が高いことも意味する。
敵や味方の位置と状況を把握する能力。
場面に応じて適切な判断をする能力。
必要な時に必要な弾を撃てる状態を維持、管理する能力。
これらが一つでも欠けると、いともたやすく機能不全に陥ってしまう。
また、装備が極端にかさむ点も見過ごすことはできない。
敵の視力を奪う閃光弾が5個。
周囲を照らす照明弾が3個。
単発だと効果が薄いらしい煙幕弾は10個。
紫、緑、赤、白と4色ある信号弾は、それぞれ2個ずつ、計8個。
そして、普通の銃弾こと「.50Action Express弾」が4個。
「Truth」一挺だけで、合計30個の予備弾倉。180発もの弾を携行している。
これに加えて、「Alive」の予備マガジンも10個ある。
マグポーチとウエストポーチ、場所がないため服のポケットにまでマガジンを突っ込んでいるが、重いし動きにくいしと、正直かなり辛い。
俺の主兵装である軍刀「時雨」と小太刀「吹雪」も合わせれば、その重量はかなりのものだ。
「もう一つの、小さい方の銃が『Alive』。自分自身と大切な人を『生かす』ために脅威となる敵を挫く銃で、『Truth』とは違って完全攻撃特化の銃だよ。ベースは『SIG GSR』って銃だから、基本的には同じ『.45ACP弾』を使うことになるね。」
春華さんは、トライブと交換で一時的に携帯する俺の愛銃「M45A1」を見せながらいう。
だからこそ、「完全攻撃特化」という表現にはいささか疑問が残る。
「.45ACP弾」のエネルギー量は「.50AE弾」の3分の1ほどだ。
つまり、単純計算にはなるが、「Truth」は「Alive」の3倍の威力を持っていることになる。
「Alive」は「Truth」と異なり消音器の装着が可能ではあるが、サイレンサーを必要としないこの状況では大したアドバンテージはない。
むしろ、各種特殊弾が撃てない分劣っているとも言える。
装弾数では利があるものの、それもたかが1発。
反動の大きい「.50AE弾」より使いやすいのは間違いないが、「完全攻撃特化」の肩書きが独り歩きしてる感は否めない。
「その子が真価を発揮するのは対集団戦かな。ってことで、これを渡しておくね。」
まるで俺の考えを見透かしたようにそう言うと、春華さんは新たに5つのマガジンを取り出した。
「これは着弾点から半径約1mの範囲に爆発を起こす特殊な弾で、上手く使えば敵をまとめて倒すことができるよ。」
おかしいな。
これ、ハンドガンだったよな?
「SFの世界みたいな話ですけど…。そんな弾作れるんですか?」
「存在してるってことは、作れるんだろうね。」
そりゃそうなんですけども…
「作り方とか、中身とか、何一つ知らないんだけどね…」
ハハハと自虐気味に笑う春華さんに、俺は一抹の不安を覚える。
撃つ前に暴発したりしないだろうな…?
「強いならいいんじゃないかー?」
新らしい無責任な発言が、その不安をより加速させる。
ゲームでもそうだが、簡単に手に入る強い武器には何かしらのデメリットがあるというのがテッパンだ。
「詳しいことは開発者に聞くのが一番だね。燈花里園にいるから、顔を出すついでに聞いてみたらいいよ。」
燈花里園?
まさか…
「これ作ったの、大きい先生なんですか?」
「懐かしいなぁ…。その呼び方。」
「大きい先生」というのは、燈花里園の園長である久米涼夜先生のことだ。
182cmという先生の身長が、園の子供たちからはかなり大きく見えたことからこの名前で呼ばれている。
だが、春華さんの表情には、それだけではない感情が入り混じっているように見える。
「その『大きい先生』だよ。この弾の開発者は。」
大きい先生は孤児院の園長であると同時に、銃整備士としての一面を持つ。
単に整備するだけではなく、カスタム品も手がけていることは知っていたが、まさか銃弾まで作っているなんて…
「名前とかないんすかー?」
「この弾に?」
「そうっすー。」
古来より「名は体を表す」と言う。
例えば「.」のあとの数値を見ることで、俺たちはその銃弾の口径を知ることができる。
アルファベットの羅列も、なんらかの頭文字であることがほとんどだ。
「.45ACP弾」の場合、「45口径Automatic Colt Pistol用の弾」となる。
弾の素性がわからない今、その名前からなんらかの情報を得ることは有意義なことだ。
新の奴、やってくれるじゃないか。
何も考えちゃいないと思うけど。
「え〜と、確か『.45NAP弾』だったかな。」
「『えぬ、えー、ぴー』?すかー?」
「そうそう。『Nitro Alive Pistol』の略だよ。」
どうしよう…
思ったよりヤバそうなブツのようだ。
これが知らなくていい事ってヤツか。
まさか本当に存在するとは…
「『とぅるーす』と『あらいぶ』ってのもはなさんが考えたんすかー?」
言ったそばから知らなくてもいい事を新が聞き出そうとしている。
なぜかって…?
話は簡単だ。
名前もそうだが、「隠された真実を求める」や「生かすために挫く」となかなか凝っている。
有り体に言ってしまえば男子中学生のそれだ。
もしこれが春華さんの考案だとしたら、拗らせているどころか、今までの印象が180度変わってしまうかもしれない…
「…………ねぇ、新くん。」
頼むぜ…、春華さん。
「この名前どう思う?」
「カッコイイっす!」
「本当に?」
「ホントーっすよ。」
どっちだ⁉︎
「…………男の子だね。」
許されたのか……?
そんなことどうでもよくなるほど、どこか寂しそうにも見える春華さんの表情が俺の瞳に焼きついた。
「二人は『M1911』って銃を知ってるよね?」
「はい。」
「知ってるっすよー。」
なんたって、俺らの担任の得物である成金銃がそうだからな。
「昔、ペアを組んで活動していた人がいたの。調子のいい人でね、おちゃらけたことをよく言って振り回されることばかりだったけど、おかげで退屈することはなかったかな。」
先ほどとは異なり、思い出を語る春華さんの表情は明るく楽しそうだ。
「そいつがね、ある日いきなり『やっぱ二挺拳銃はロマンだよな⁉︎』とか言ってきてさ。余程の実力がない限り一挺のときよりも命中精度は落ちるし、それを段数でカバーすることになれば消費弾薬量が多くなるから現実的じゃないって私は反対したんだけどね…」
その苦笑いと「トライブ」の存在が答えを示していた。
「『簡単に使いこなせないからロマンなんじゃねーか!』『どーせなら二人でお揃いにしよーぜ!』って聞く耳持たずでさ。あれやこれやしているうちに、あいつが好きな『M1911』系譜の銃をベースにしたカスタムガンが作られていたの。」
誰だか知らないが、なかなかクセの強い奴だな。
「それが、ここにある『Grizzly Win mag』と『SIG GSR』をベースにしたブラックカラーの『トライブ』と、二挺の『Colt M1911 Mk.IV SERIES'70』をベースにしたシルバーカラーの『ライアンデッド』だよ。」
こんな化け物銃があと二挺もあるってのか…?
「『らいあんでっど』?ってなんすかー。」
「『真実』と『生』で『トライブ』。その対になる銃って言えばわかる?」
「対っすかー?」
「もしかしなくても、『嘘』と『死』ですか?」
「そう、『Lie And Dead』。だから『ライアンデッド』だよ。」
略せているのか微妙な長さだ。
しかも、「ライアンさんが死んだ」みたいな名前になってるけどな…
「正直、私はそのまま『Grizzly』とか『GSR』っていうもともとの名前でいいんじゃないかと思ってたんだけど、『二挺一対のM1911には名前をつけるのが礼儀だろ?』とか言っちゃってさ…。『二つ合わせるといい感じになる名前にしよーぜ!』ってことで、この名前になったんだよ。ぶっちゃけ、語感で選んだとこもあるから、英単語の本来の意味と若干合わなかったりするんだけどね。」
どちらかというと気になるのは…
「組合せ違くないすかー?」
「真実」と「生」、「嘘」と「死」。
これでは対義語になるはずがない。
「そうなの、さっきの話には続きがあるんだよ。名前が決まった後にね、『じゃ、俺たち二人が揃えばいい感じになるよーにしよーぜ!』って言いだしてさ。結果的にお互いが片割れを一挺ずつ持つことになったの。」
俺が冬華と小太刀を交換しているのと同じようなものか…
「んー?」
そんなことを考えている俺の隣で、新がなぜか唸っている。
「どうしたんだ?」
「『らい』と『でっど』の方が銀ピカなんすよねー?」
「うん、そうだよ。」
「とっしー。『らい』が『ウソっぱち』で、『でっど』が『しぬ〜』ってことだよなー?」
「え?あ、ああ。大体そうだな。」
「うーん?」
「どうしたんだよ?」
「銀ピカは『とぅるーす』と『あらいぶ』の方が似合うと思うんだー。」
確かに、言葉の意味としては「Truth」や「Alive」の方が明るいイメージがある。
しかも、トライブはただのブラックカラーではない。
「マットブラック」と呼ばれる艶消しが施された特殊なものだ。
光を吸い尽くすようなその風体は、さながら暗器のそれだ。
見た目と名前にギャップを感じざるにはいられない。
そう考えると、新の言うことも大いに理解できる。
「そうだね。そうだよね。」
春華さんは笑いながら答える。
「私の説明が足りてなかったね…。『Lie』と『Dead』のシルバーはただの銀ピカじゃないんだよ。」
なんか嫌な予感がするな…
「ニッケルプレートっていう、ピカピカ通り越してギラギラのシルバーなんだよ。」
やはり、あの成金シルバーか。
「新くんの言うとおりでさ、最初は『Truth』と『Alive』をシルバーカラーの方にしようと思ったんだけどね。あまりにも光りすぎててさ…。それがなんか、こう、すごく嘘っぽかったんだよね。」
だから「Lie」という名前をつけた。
あとはそれに合わせたといったところか…
「それに、何者にも染まることなく、ただひたすらに『真実』と『生』を追い求めるって解釈をすれば、あながちブラックカラーもわるくないかなって…」
考え方次第ってことか…
ただ、春華さん?
その人に毒されてはいませんか?
「まあ、受け売りなんだけどね。」
どうやらそんなことはないようだ。
なんか今日一番ホッとした気がする。
「…………ん?」
今ホッとしてどうする⁉︎
俺たちのミッションはまだ終わっていない。
これはその時まで取っておかねば…
「あっ…」
春華さんも、手に持ったままだった「.45NAP弾」の存在を思い出したようだ。
「そういえば、これ渡してなかったね。」
苦笑い気味にそう言うと、俺にマガジンを手渡した。
「さっきも言ったように、その弾は着弾と同時に爆発するからね。自分の近くに撃つと巻き込まれて怪我するから気をつけてね。味方への誤射も許されないよ!」
どうやらこれが、トライブの扱いについての最後の注意事項のようだ。
爆発するような危険物を受け取った俺は、そのマガジンを細心の注意を払ってマガジンポーチに収納した。
そして極力使うまいと心に誓うとともに、綾音の捜索へと気持ちを切り替える。
「創ったのは銃だけじゃないんだけどね…」
ー旧捌幡浜市役所堡内支所・自衛隊武器庫ー
一般人の立ち入りが一応は禁止されているその場所に、俺はある人物と話をするために赴いた。
「よう、邪魔するぜ。クソウサギ。」
カードキーをかざして開いた扉の先にいる着ぐるみにそう声をかける。
『なにか用かな?★』
机に20式小銃を立てかけ、マガジンを並べて身支度しながらも、背中越しにプラカードを差し出した。
「お前、作戦行動中もそうやってプラカードでやり取りするつもりか?」
『うん★』
『僕は喋らないタイプのマスコットだからね★』
『声を出すのはご法度なんだよ★』
それだけが理由ならまだいいんだがな。
「こっちもいちいちお前のプラカードなんか見てる暇はないんだぞ。特に戦闘中はな。本当に声を出すつもりはないのかよ?」
『大事なことはキミが言ってくれるでしょ?★』
『この部隊のリーダーなんだからね★』
『今回の僕はあくまでも端役★』
『支援に徹することにするよ★』
「マスコットらしからぬことを言うんじゃねえよ。」
クソウサギが。
「ここには俺とお前しかいない。冬華ちゃんと奏ちゃんには補給場所で装備の最終確認をするように指示してるからな。」
『装備の確認は大事だよね★』
『僕も今その最中だよ★』
プラカードの棒をクルクル回して表示する言葉を変えながらも、その手は止まることを知らない。
器用なのは認めるが、どうやっているのかタネも仕掛けも謎のままだ。
まるで道化師だな。
「一つだけ聞かせろ。」
『なにかな?★』
「春ちゃんに顔を見せるつもりはないのか?」
沈黙が流れる。
身支度する手が止まり、着ぐるみの頭だけが上を向くように動く。
声もプラカードも出てこない状況に、俺は痺れを切らし始めていた。
「答えろよ。知ってんだろ?俺は気が短けぇんだ。」
俺の低く威圧するように発せられた言葉に、着ぐるみがようやく動きを見せた。
今まで俺に背中を向けていた奴が、ようやくこちらに振り向いた。
そして、新なプラカードが示される。
『そのつもりはない』
クソ野郎が。
「春ちゃんはずっとお前を探しているんだぞ。」
『知ってる』
「さっきのやり取りで、お前の正体にも勘づいている。」
『だろうな』
「それでも、綾音ちゃんの捜索を優先して、追求したい気持ちを抑えたんだぞ!」
『わかってるさ』
「じゃあどうして⁉︎」
拳をぶつけられたロッカーが大きな音を立てる。
『今はまだ会えない』
『それだけだ』
そろいもそろってクソ野郎ばかりだな!
………………。
「その刀、持っていくのか?」
俺は、20式小銃の横に立てかけられている紺桔梗の鞘に収められた一振りの打刀を指差して言う。
『当然だろ』
「『花嵐』はどこにやった。」
『ここにあるさ』
着ぐるみはどこからともなく、白地に舞い散る桜の花びらが描かれた鞘に収められた打刀を取り出す。
「ふん、安心したぜ。」
『お前こそ』
『気を使って慣れないことしてんじゃねぇよ』
「お互い様だろ。」
それでも、納得がいったわけじゃない。
「春ちゃんは小さい頃からの大切な友人だ。俺にとっても、歴にとってもな。それ以上の関係にあるはずのお前が、春ちゃんを泣かせるのは許さねぇからな。」
『約束はしかねるな』
「クソッタレが。」
『自覚はあるさ』
「一発殴らせろ。」
『全力で抵抗させてもらおーか』
「…………」
『…………』
「8分後に出るぞ。東口に集合だ。」
『あいあい、リーダー』
「フン…」




