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Final Gift  作者: トキハル
本編
42/49

第39話 作戦会議

 愛美先生が作戦本部に戻った直後。

 残ったメンバーによる班分け(ドラフト)会議は、難航の兆しが見えていた。

「では、皆さんには、行方不明者を捜索救助する班と、蝙蝠型魔獣『ばっとん』を討伐する班の2つに分かれて活動を始めていただきたいと思うのですが…。前提として、皆さんの装備を教えていただけますか?」

 その問いに、春華さんは「わかった」と言って口火を切った。

「私は『M39EMR(マークスマンライフル)』と『トライブ』。あと、サバイバルナイフも持ってるよ。」

「俺の装備は『AR57(アサルトカービン)』と、相棒の『M29(マグナム)』だ!」

「私は、PSG1ベースの『PSG3(スナイパーライフル)』と、3点バースト付きの『92FS(ハンドガン)』です。」

「俺は、軍刀の『時雨』と短刀の『吹雪』。それと『M45A1(ハンドガン)』も持っています。」

「わたしは『SR-25(マークスマンライフル)』と、フルオート射撃ができる『Cz75(ハンドガン)』があります。」

「こっちが『さむ(ショートソード)』でー、こっちが『ぷろだくと(マインゴーシュ)』っす。借り物っすけど、『おーとまぐ』?っていうハンドガンもあるっすよ。」

 俺たちの装備の確認が一通り終わったところで、視線は着ぐるみ(自称マスコット)へと集まる。

 それに応えるように、うさぎはどこからともなくボードを取り出し、ペンを素早く走らせて文字を起こす。

『僕はこの施設の関係者だからね★』

『ここにある武器はなんでも使っていいんだ★』

『それに、僕は武器ならなんでも扱える超エリートだからね★』

『どんな穴でも埋めてみせるよ★』

「ねえ、隼くん。これは信頼できるの?」

 うさぎのくせにビックマウスなマスコットを指さして、春華さんは隼人さんに確認を取る。

「はい。この人の実力は僕が保証します。」

 瞬時に出された答えは、俺たちの認識に大きな影響を与えた。

 回答者が隼人さんであるというだけで、相当の信用性がある。

 その隼人さんが、迷いや疑いといったものを一切挟むことなく、このうさぎに全幅の信頼をおいている。

 それだけ、このうさぎの実力は凄まじいということが推知される。

「ふ〜ん。」

 同時に、疑念ももたらした。

 なぜ、このうさぎは執拗に姿を隠しているのか?

 口ぶりから察するに、隼人さんはその正体を知っているようだが、揃って口を閉ざしている理由がさっぱりわからない。

『中の人なんていないよ★』

『僕は捌幡浜市のマスコットだからね★』

 品定めをするように観察する春華さんに対して、うさぎは言い訳するようにボードを示した。

 うざったいほど設定に忠実なうさぎから、春華さんは視線を隼人さんに戻す。

「ここの武器庫にはなにがあるの?」

「『64式小銃(バトルライフル)』、『89式小銃(旧型アサルトライフル)』、『20式小銃(新型アサルトライフル)』、『M24SWS(スナイパーライフル)』、『M9(サブマシンガン)』、『M249MINIMI(ライトマシンガン)』に、2種類の『9ミリ拳銃(ハンドガン)』。その他自衛隊が有する装備は一通り揃っています。一般参加者に対する使用許可は下りていませんが、()は使用可能です。」

 堡内支所ってのは、自衛隊拠点の中では小さい部類だと思っていたが、やけに充実しているな。

 それだけ頻繁に戦闘が発生しているということか?

 それとも、他になにか理由があるのか…?

()()()()()()()()()()()()()、ね。」

 自衛隊という組織について考えを巡らせる俺に対して、春華さんの興味はうさぎにあるようだ。

「なかなか優秀みたいね。()()()さん。」

 その挑発するような発言に、

『それほどでもあるんだ★』

 軽口がボードに書かれる。

「・・・・」

 なにかを考えるように沈黙する春華さんの口角が、少し上がったような気がした。

「わかった。それじゃ、組み合わせを決めていこうよ。」

「はい。愛美さんが言っていたように、春華さん、史也さんをそれぞれチームリーダーとし、他のメンバーをチームの目的に応じて分けていきましょう。差し当たり、お二人がどちらを担当するか決めたいのですが…」

「春ちゃんは『トライブ』を持って来てんだろ⁉︎なら、捜索救助班で決まりじゃねぇか⁉︎」

「僕も同意見です。ただ、討伐対象の種類と居場所がある程度知れている討伐班とは異なり、救助班の先行きは不明確です。いかなる事態にも対応できるよう、可能であれば装備面でもバランスの取れた編成にしたいと考えています。問題は、残りの皆さんは近接か遠距離のいずれか主体であり、どの組み合わせでも偏りが出てしまうことですね。」

「そのためにこいつがいるんじゃねぇのか⁉︎」

 史也さんはうさぎを親指で差しながら訴える。

「おっしゃるとおりです。しかし、確認されているだけでも『ばっとん』の個体数はゆうに3桁を超え、また、通常の蝙蝠を凌ぐ飛行能力と察知能力を備えたうえで、集団で行動する生態を持っています。したがって、群れの殲滅には、標的に悟られない程度に離れた位置から相当量の火力を放つ必要があります。討伐班には、それだけの火力と人数を確保したいと思っています。」

「蝙蝠を相手に、近接がメインの俊秋くんや新くんでは対応が難しい。かといって、遠距離から一体ずつ仕留めていく狙撃手だけでは、群れを一網打尽にする火力が足りない。その両方を備えるのがこのうさぎさん。そういうこと?」

「はい。装備の選択肢が多い彼には、討伐班に入ってもらいたいと考えています。加えて、人員も討伐班の方に多く割きたいと考えています。通信さえ回復すれば、展開中の各部隊はもちろん、行方不明者とも交信できるかもしれません。」

「それなら、いっそのことよぉ、ここにいる全員で魔獣を狩った方が早くねぇか?情報もなしに広い山岳部を探索するよりは、救助も早まるかもしれねぇしな!」

「いえ、全員で出たとしても、通信の回復までにどれほどの時間がかかるかはわかりません。また、行方不明者が何らかの危機に陥っていた場合、通信が回復してからでは間に合わない可能性が高くなります。幸いにも、今回のリーダーは春華さんです。少なくとも、要救助者が増えるようなことはないと思える程度には、安心してこの状況を預けられると思っています。」

「それは俺も同じだが…」

「ですので、人命を優先し、戦力を分けてでも、救助の可能性が高い方に賭けたいと思っています。」

「だが、全員で出てもどれだけ時間がかかるかわからねぇってのに、それより少ない人数じゃあどうしようもねぇぞ⁉︎」

「現在展開中の部隊から、可能な限り『ばっとん』討伐に人員を割くことで、多少なりとも穴埋めは可能かと思います。」

「どれだけの人数を集められるんだ?」

「状況次第では、ゼロということもありえるでしょう。」

「ハッ!頼もしいじゃねぇか⁉︎」

「私は、綾くんの言うように戦力を分けてもいいと思うよ。俊秋くんと新くんには悪いけど、二人は装備の性質上、討伐班に入ってもあまり戦果は期待できないからね。なら、その戦力を救助班として活用した方が無駄にならないよね。私も、綾人くんたちの信頼分は働くよ。」

 しれっと戦力外通告を受けてメンタルにダメージを受けるが、正直なところ俺も同じ考えだ。

 刀では飛行するタイプの相手には何もできず、銃も慣れてきたとはいえ腕前の方はまだまだ。

 左右に動くだけの相手ならまだしも、上下も加わるとお手上げだ。

「その二人だけを連れてくつもりか?」

「うん、そうだよ。冬華ちゃんと奏ちゃんは狙撃手だから、細かく移動を繰り返す救助班よりも、討伐班の方が向いてると思うし。」

「でもよぉ、『トライブ』だって万能じゃないんだぜ?M39(ライフル)で遠距離はカバーできるかもしれねぇが…。二人を加えても、近接ばかりで、バランスが悪くねぇか?」

「先ほども言ったとおり、救助班の先行きは不明確です。重要な中距離戦に問題を抱えるその編成で出ることには反対です。」

「じゃあどうするの⁉︎こんなことに時間をかけてられないんだよ⁉︎」

「わかっています!わかってはいますが…」

 学校のテストとは違い、この問題に模範解答なんてものは存在しない。

 異なっているのは、それぞれの思い描く最優先事項だ。

 春華さんは、リスクを承知で、最も効率的なチーム分けを提案している。

 綾人さんは、俺たちの安全にも気を配りつつ、救助と討伐の二兎を追おうとしている。

 史也さんは、通信の回復を優先し、情報の確保に重きを置いている。

「参ったなぁ…」

 今の俺たちに足りていないのは、この状況をまとめられる人材だ。

「こういうときに、愛ちゃんがいれば…」

 どれだけ渇望しようとも、ないものねだりでしかない。

「……」

「…………」

「………………」

 司令室は重たい沈黙に包まれ、無為な時間だけが過ぎていく。

 この状況をどうにかしたい!

 そうは思うものの、打開策なんてものがあるわけもなく、己の無力さをひどく痛感させられる。

「……………………」

 だが、指を咥えているだけにもいかない。

 こんなとき、夏先生や綾嶺さんならどうする⁉︎

 俺たちにどんな無茶振りを要求してくる⁉︎

 もうここまで出かかっているんだ!

 あと一押し、なにかきっかけさえあれば…!

「質問があります!」

 静寂を打ち破るように手を挙げたのは、奏だった。

「『トライブ』が何か教えてください!」

 そして、春華さんからその答えを聞いた奏は、怒涛の質問攻めを開始した。

「春華さんは、アサルトライフルやサブマシンガンって使えますか?」

「う、うん。本職は狙撃だけど、それだけじゃやっていけないからね。人並みには扱えるよ。」

「うさぎさん!武器庫の使用許可をいただけませんか?」

『ごめんね★』

『僕には権限がないんだ★』

『そのお願いを叶えてあげることはできないよ★』

「隼人さん!使えるものが余ってたりは…?」

「すいません。一般参加者向けの予備兵装はありません。僕も出撃する予定はなかったため、今は『P99(ハンドガン)』しか持ち合わせていません。」

「なら、史也さんのアサルトカービンを…」

「悪いけどよぉ、コイツを渡しちまうと、俺が困ることになっちまうな。」

「そうですよね…。どこかに余ってないかな…?」

「あー。『P90(サブマシンガン)』ならあるかもしれねぇな…」

 史也さんからの情報に、奏が目を輝かせる。

「どこにあるんですか⁉︎」

「どうどう、ちょっと落ち着いてくれ。」

 身を乗り出すように迫られ、史也さんも困惑の色を隠せない様子だ。

「歴が持っているはずだ。医務室に籠ってんなら銃なんぞ使ってねぇだろうし、頼みゃあ貸してくれるかもな!」

「春華さん!」

「う、うん。歴ちゃんに貸してもらったことがあるから、使えはするけど…」

 奏がいったい何を考えているのか計りかねていたが、俺にもようやく見えてきた。

「俊くん!お願いがあるんだけど!」

 間違いない、奏が考えているのは…

「俺に『トライブ』を使えって言うんだろ?」

 俺の返しに、奏は満面の笑みで答えた。

「うん!」

 俺には「武具天稟(ウエポンマスター)」という才能(ギフト)がある。

 「武器」であれば、どんなものでも扱うことのできるSランクの才能(ギフト)が。

 それは、対象が「トライブ」という俺にとって未知の存在のものであっても同じだ。

「春華さん、どうですか?」

 奏の提案に、春華さんは渋い顔で答える。

「う〜ん。正直、不安かな…」

 その心配もよくわかる。

 さっきの話を聞く限り、「トライブ」と呼ばれる二挺一対のハンドガンはかなり異質な性能のようだ。

 ただ殺傷能力のある弾が出るだけの普通の銃とは、その扱い方も使い道も大きく異なる。

 本来であれば、使いこなすだけでも相当な時間を要するだろう。

「俊秋くんが歴ちゃんのP90を使うのはどう?」

 結論から言えば、俺は間違いなく「P90」という、他の銃とは大きく操作性の異なる、異端なあの銃を使いこなすことができる。

 そうすれば、春華さんも使い慣れているであろう「トライブ」を使うことができ、選びうる最高の編成が組めるかもしれない。

 だが、そんなことは俺も、そしておそらく奏も、すでに考えた。

 考えた上で蹴り飛ばした。

 重要なのは、「トライブ」がハンドガンで、「P90」がPDW(サブマシンガン)であるということだ。

「すいません。多分、()()()()()()、俺はP90を使いこなすことはできません。」

 ()()使()()()()()能力と、()()()()()()()()能力は別物だ。

「弾を魔獣に当てる自信がまったくないです。」

 ハンドガンは俺の獲物でもある。

 手に入れてからまだ1ヶ月と経たないが、銃の中では一番使い慣れていて、ある程度の命中精度を保つことができるだろう。

 一方で、サブマシンガンは一度も触ったことすらないずぶの素人だ。

 仮に操作面については問題がないとしても、P90には固有の問題がある。

 それは「5.7×28mm弾」という特殊な弾薬を使用するという点だ。

 実質的に専用弾ともいえるこの弾薬の特性を、俺は「貫通力が高い」程度のことしか知らない。

 弾を適当にバラ撒くことはできるかもしれないが、威嚇射撃レベルの活躍しか見込めないだろう。

 救助対象を誤射するなんて最悪の失態をやらかす可能性を考えれば、素直に使わない選択をする方が無難なはずだ。

「う〜ん…」

 理由を聞いてなお煮え切らない様子の春華さんを動かしたのは、奏の一言だった。

「俊くんなら大丈夫です!」

 奏の曇りのない俺への信頼は、どこかこそばゆさすら感じさせる。

「……信じているんだね。」

「はい!」

 迷いのない奏を見て、春華さんはついに決意した。

「わかった!俊秋くんに任せるよ!」

「ありがとうございます!」

 春華さんに礼を言う奏から、ウインクが飛んでくる。

「綾ちゃんをお願いね。」

 そう込められた信頼を裏切るまいと、俺は気持ちを入れ直す。

「では、救助班の残りのメンバーですが…」

「装備のバランスが取れたってんならよぉ、春ちゃんが最初に言っていたとおり、うちの倅を連れてってやってくれ!」

「いいの?」

「俺はかまわねぇぜ!なぁ⁉︎綾人!」

「はい。僕からも、もう反対する要素はありません。」

「新もそれでいいだろぉ⁉︎」

「んー?あやちーの方に行けるならなんでもいいぞー。」

 …………え?

「ってわけだ!よろしく頼むぜ!」

 最初っからそっち(綾音を助けに行くこと)にしか興味がありません。

 そう言わんばかりの発言に、古川親子以外の全員が顔を見合わせる。

「あん?春ちゃん?どうかしたか?」

「…えっ?あ、うん、だいじょうぶ大丈夫。よろしくね、新くん。」

「よろしくっす!」

 これが古川家の血筋ってことか…

「それでは、救助班を春華さん、俊秋くん、新くんの3名に。討伐班を史也さん、奏さん、冬華さん、うさじろうの4名に、それぞれお願いします。」

「了解!それじゃあ、まずは歴ちゃんのところに行くよ!」

「はい!」

「おー!」

「俺たちは早速出るとするかぁ!準備はいいか⁉︎」

「大丈夫です!」

「わたしも行けます!」

『僕は武器庫に行きたいな★』

「そういえばそうだったな…。手短に頼むぜ?」

『★★★』

 こうして、俺たちはやっとの思いで作戦行動を開始した。

<古川新のさむ>

・正式名称「さむ」

・ショートソード

・全長 約85cm

・刃渡り 約70cm

・新のメインウェポンである西洋刀。

・中学生の時、「情報」の授業で使用した表計算ソフトの関数が覚えられず、「普段使うものにその名前を付ければ覚えられるんじゃないかしら?」という綾音の助言?を間に受けて命名した。

・「さむ」という関数があることは覚えたが、「SUM」とアルファベットでは覚えられなかった。

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