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Final Gift  作者: トキハル
本編
4/49

第2話 ニヤつく幼馴染にはご注意を

「ねーねー、(とし)くん。」

 高校最初の休み時間。

 次の授業である数Iの準備をしていると、見慣れた顔が俺の席へとやってきた。

「なんだ、奏か。」

 桑原奏(くわはらかなで)

 俺とは2歳の頃からの付き合いになる幼馴染で、このクラスに5人しかいない女子生徒の一人。

 入学初日に、夏先生からクラス委員長を押し付けられた苦労人。

 そんな俺と奏は、ある共通する事情を抱えている。

 両親がいない、いわゆる孤児であるということだ。

 両親がどんな顔だったのか、どういう経緯で孤児になったのか、俺たちはそろって何も知らない。

 わかっていることは、孤児院「燈花里園(ひかりえん)」に拾われたのがともに2歳の時で、奏との出会いであり、同じ屋根の下で暮らすようになった経緯でもあるということぐらいだ。

 そういう意味では、ただの幼馴染というより、家族といった方が適切かもしれない。

「その反応はヒドくないかな?」

 ぷくっと頬を膨らませる奏は今日も平常運転だ。

「それで、俺になにか用事があったんじゃなかったのか?」

 いつも通り不満を受け流してそう訊くと、ぷっくり顔がニヤけ顔へと変わっていった。

 その様子に、俺はなにか嫌な予感を覚える。

「夏先生の授業が終わったからね。俊くんに感想でも聞こうとかと思いまして。」

「なんでだよ。」

「それはねー」

 ニヤニヤが止まらない奏は、無駄に長い溜めを挟んで楽しげに言い放った。

「昨日のHR(ホームルーム)で先生の名前を聞いた時から親近感がわいてしかたがないからだよ!」

 和泉俊夏(いずみとしなつ)先生。

 俺たち(一年生)が「夏先生」と呼んでいるあの人は、上級生からは「和泉先生」や「俊先生」と呼ばれている。

 なぜこの一年で呼び方が変わってしまったのか?

 その答えを握っているは、ほかならぬ俺自身だ。

(あや)も聞いてみたいわね。」

「俺もー。」

 どこからともなく現れた、中学からの友人である天山綾音(あまやまあやね)古川新(ふるかわあらた)の二人も加わり、瞬く間に逃げ道が潰されていく。

「さあ、和泉俊秋(いずみとしあき)くん?大人しく感想を述べるのです。」

 新生活が始まったせいなのか、それとも夏先生のせいなのか、はたまた俺のせいなのか…

 普段とは違う口調で、テンション高めに詰め寄ってくる奏を前に、逃げ場を失った俺は観念して答えた。

「はいはい、わかったって。言えばいいんだろ?正直、かなり適当な先生だよな。なんつーか、こう、聞いてた通りの人って感じだ。」

 それは本心だった。

 だが、いや、だからこそ、なんの変哲もない回答になってしまった。

「そんな普通の答えは求めてないかな。」

 奏の冷ややかな視線が突き刺さる。

 そして、どこか呆れたように続けた。

「もっとこう、『もしかしたら親戚かも?』とか、『まさかお父さん⁉︎』みたいな考えはないのかな?」

 孤児である「和泉俊秋」の前に、教師の「和泉俊夏」が現れた。

 もし本当に親子であったなら、これほど感動的な再会はほかにあるだろうか?

 そう思いはするものの、俺はその可能性は否定せざるをえない。

 なぜなら…

「夏先生は今26歳だぜ?俺が生まれた15年前はまだ11歳。父親っていうにはいろいろと無理があるだろ。」

「いや、夏先生なら…。ムリかぁ…」

 目に見えてうなだれる奏を尻目に、綾音がいつも通りの冷静なツッコミをいれる。

「親戚という線はどうなったのかしら?」

「あっ!そうだよ!そっちがあったね!」

 完全に忘れていたらしい奏も便乗してくる。

 確かに、可能性が全くないとは言い切れない。

 ただ、

「確認のしようがないな。それに、もし本当に親戚なら、向こう(夏先生)からなにか言ってきてもいいんじゃないか?今のところなにもないぞ?」

「夏先生も知らないだけかもしれないわ。DNA鑑定でもしてみたら?」

「おいおい、それ一回10万円以上するんじゃなかったか?残念だが金に余裕はないぜ?そもそも、どうやって夏先生の検体を手に入れるつもりなんだよ?」

「そうね…」

「う〜ん」

 女子二人が考え込む中で、この問に答えたのは新だった。

「そのまま聞いたらダメなのかー?」

「どういうことだ?」

「『せんせーの検体下さい』ってなー。」

「マジで言ってんのか?」

「マジだぞー。」

 もし俺が夏先生の立場で、いきなり入学二日目の生徒からそんなこと訊かれたら…

「怖ぇだろ。」

「だよね。」「でしょうね。」

 俺の一言に、奏と綾音も口をそろえて続いた。

「ダメなのかー?」

 自分の提案の恐ろしさを理解できていないのか、新はするまでもない確認をする。

「ダメだな。」

「そうかー。ダメかー。」

 その言葉とは裏腹に、まったく残念そうではない新もまた、いつも通りだ。

 高校生になり、入寮して孤児院を離れたこともあいまって、生活サイクルは大きく変わってしまった。

 もしかすると俺たち4人の関係も変わってしまうのかと密かに心配したりもしていたが、それは杞憂に終わったようだ。

「もう時間ね。」

 綾音に釣られるように、教室の時計を確認する。

「次の準備できてんのか?怒られても知らないぜ?」

 俺の言葉に、奏が本日二度目のぷっくり顔で言い返してくる。

「俊くんこそ。授業についてこれなくなっても知らないから。」

 それは困るな。

 奏からの反撃に一抹の不安を覚えた俺は、今のうちに手を打っておくことにした。

「そん時は、知り合いのAランク博識(ヴィッセン)殿を頼ることにするさ。」

「………しょうがないんだから。」

 ボソッと呟くと、奏は自分の席へと戻っていった。

「綾も戻るわね。行くわよ、筋肉。」

「あっ、待ってくれよー。あやちー。」

 全員が席に着くか着かないかというその時、二限目開始を知らせるチャイムが鳴った。

 ひかえめな扉を開ける音とともに、数学の先生が入ってくる。

「起立、礼。」

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