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Final Gift  作者: トキハル
本編
39/49

第36話 誰が年寄りだって⁉︎

 ショッピングモールこと「地点(ポイント):スコッチモーテル」の2階。

 硬い床に布団を敷いただけの即席仮眠室。

 右手に冬華、左手には春華さん。

 眠る二人の女性に挟まれるという、男であれば緊張し、あるいは喜ぶこと必至のこの状況で、俺は深いため息をついていた。

「はぁ………」

 もちろん、俺が女性に興味がないわけでもなく、二人に魅力がないわけでもない。

 それどころか、兄妹という贔屓目抜きでも冬華は可愛いし、春華さんの整った顔立ちとプロポーションは綺麗で、とても蠱惑的だ。

 ただ、変えられない過去(今日)と、やがて訪れる未来(明日)を前に、それどころではいられないというだけだ。

「7.62mm×51 NATO。」

 名前のとおり、北大(N)西洋(A)条約(T)機構(O)に加盟する国々の統一規格として採用されたこの弾は、高い威力と長い射程を両立する、狙撃銃(スナイパーライフル)向きの銃弾だ。

 そして、この作戦に参加している狙撃手四人が持つスナイパーライフルは、全てこの弾を使用している。

「消費弾数は970発か。」

 薄く照らされた光を頼りに、俺は補給班のレポートに目を通す。

 正直なところ、異常な数値と言わざるを得ない。

 単純計算で1人当たり約240発の消費というのは、およそ「狙撃」という概念からかけ離れている。

 「制圧射撃のために弾幕を張った」と評価されてもおかしくない数字だ。

 もちろん、その原因が四人にあるわけではない。

 狙撃に関しては天賦の才を持つ奏はもちろん、春華さんもかなりの腕前だった。

 本職ではない冬華と愛美先生も、そんな二人に負けず劣らずの活躍で、並の狙撃手を遥かに上回る戦果をあげている。

 特に、大人組の活躍は、いろんな意味でも目を見張るものがあった。



『8時方向から新手が来ます!』

 綾人からの報告に、戦慄が走る。

『また⁉︎これで7波目だよ⁉︎あと何匹来るのかな⁉︎』

 狙撃手たちは、その名のとおり狙撃を。

 俺や新は、弾倉(マガジン)の準備や、観測手(スポッター)としての仕事をこなしている。

 だが、人数が少ないゆえに、代わりの人員もなく、全員休む時間もなく働いている状態だ。

 魚型魔獣「ぎょ」が大群で行動していることもあり、一人当たりの仕事量もかなりのものとなっている。

 とんだブラックバイトだ。

「ロケットランチャーとかがあればいいのにね。まとめてドカーン、って。」

 疲労のせいか、春華さんが死んだ魚のような目で、ぶっとんだ解決案を提示してくる。

 ただ、気持ちは同じだ。

 この事態が手早く収束に向かうのであれば、この際手段はなんでもいい。

 まとめてドカン、大いに結構。

 ただ、ロケットランチャーをはじめとする爆発物の類は、テロ防止の観点から所持を禁止されているため、この案は机上の空論止まりだが…

「ないものねだりしても、しかたないよね。」

 当然、春華さん自身もこれはわかっているようで、ため息をつきながら諦めるように自分で答えを出す。

「でも、そろそろ銃を休ませた方がいいですよね?私たち、予備の銃を持っていないですし。」

『そうですね。すでに100発近く撃っているので、銃身はかなりの熱をもっているはずです。このまま撃ち続けると、過熱(オーバーヒート)で精密射撃はより難しくなるでしょう。コックオフが発生する可能性も考えないといけませんね。』

 もしそうなったら最悪だ。

 コックオフを起こした銃は、暴発を連鎖させ。射手の意思とは関係なく、ありったけの弾薬を吐き出すようになる。

 当然、その銃は、整備しない限り使用することはできない。

 ただでさえ少ない狙撃手を、初日で失うわけにはいかない。

「まなちゃん、私たちの銃は一応、軍や警察用のものだし、コックオフはまだ大丈夫じゃない?」

『あり得なくはないでしょう?』

「そうだけどさぁ…」

 愛美先生の心配もわかるが、現実として撃ち続けなければならない。

 そんなジレンマが、現状の深刻さを再確認させてくれる。

『休憩と冷却の時間が欲しいかな。』

『そうだよね〜。やっぱり休みたいよね〜。』

 奏の言葉に答えのは、我らが作戦立案担当者(あねね)様だった。

『みんな元気〜?あやちゃんだよ〜♪』

『元気っすよー。』

 いやいや、それは…

「お前だけじゃないか?」

『ええー。とっしーは元気ないのかー?』

「魔獣が出始めてから、もう2時間ぶっ続けだぜ?元気が有り余ってる方がおかしいだろ。」

『私も、結構疲れてきたかな。』

『かなやんもかー。はなちゃんは大丈夫だよなー?』

「え⁉︎あの…、その…。うん!わたしは大丈夫だよ!新にー!」

 おいおい…

『ほらなー。』

 新、気づくんだ。

 後輩に気を使われていることに。

『そっか〜。みんな大変だね〜。』

 そう思うなら、増援や支援の手配をお願いしたいものだ。

『そんなみんなに頼みたいことがあるんだけど〜、いいかな〜?』

 いや、仕事を増やして欲しいとは言ってないんだが…

『どのような要件ですか?』

『さすが愛美せんせぇ、話が早くて助かるよ〜。』

『そう思うなら、さっさと要件を伝えてください。ただし、応じることができるかどうかは、別の話です。』

 本当にさすがというべきか、あの綾嶺さん相手にまったく動じていない。

 3月まで教師と生徒という関係だったようだが、この手合いの扱いに慣れているといった感じだ。

『は〜い。』

 綾嶺さんも綾嶺さんだけどな…

『新しい魔獣の群れの中に、「アジ」以外の魚がいるみたいなんだ〜。でも〜、こっちからは、それがなにかまではわからないんだよね〜。地上班はまだ余裕があるみたいだし〜、一旦狙撃を中止しちゃっていいから〜、確認してくれないかな〜?』

 ということは、つまり…

「冬華ちゃんの出番だね!」

 なぜか誇らしげに言う春華さんだが、俺も同意見だ。

 …と、思っていた時期が俺にもあった。

『ん〜?春華さんも〜、Aランクの料理(クッキング)技能(スキル)を持っているよね〜?』

「「え?」」

 チームメイトの新情報に、俺たち兄妹は、そろって素っ頓狂な声を上げる。

『そ、そうなんですか…?』

 奏は奏で、どこか期待を込めたような声色で、確認を取っている。

 いったいなにを企んでいるのだろうか…

「うん、持ってるよ。」

 その期待に応えるように、春華さんはそう答えた。

 目を輝かせている奏が、目に見えるような気がする。

 だが、それも束の間、

『それなら〜、食材についても詳しいんじゃないの〜?』

 一方的な期待は、一瞬にして裏切られた。

「うんん。私は肉派だから、魚のことはさっぱりだよ。」

 おかしな話だ。

 今回、俺たちの保護者的な立ち位置でもある、20代中頃の二人の女性。

 愛美先生と春華さんは、そろって肉派とのことだ。

 魚も美味しんだけどな。

「あ、魚を食べないわけじゃないよ。好き好んで食べるのが肉ってだけだから。」

 それは、食べないのとたいして変わらないのでは…?

「と、いうわけで、冬華ちゃん、よろしくね!」

「は、はい!」

 まあ、結果として妹の活躍の場が増えたんだ。

 ここは兄として、素直に喜ぶべきところだろう。

『それじゃあ〜、スコープでサクっと覗いちゃってよ〜。7時の方向、はなちゃんのいるところから2.3kmほど先の丁字路に〜、赤茶色っぽいのがいるよね〜?何かわかる〜?』

 冬華が指示された場所をスコープで覗く。

 同時に、春華さんと俺も、それぞれスコープと双眼鏡で対象を確認する。

「確かにいるな。」

「あのトゲトゲしている魚のこと?」

『こっちからは、そこまではわからないけど〜、赤いのはそんなにいないはずだし、それであってるんじゃないかな〜?』

 体長およそ50cm、暗めの赤を基調に褐色の模様がある皮目、背びれには鋭い棘がある。

 もちろん、他の「ぎょ」と同じで、腹部から人間の足に似た何かが生えている。

 それは一旦置いておくとして、あの見た目は、なんというか、いかにもこう…

『さあ!はなちゃんの回答は〜⁉︎』

「『オコゼ』の仲間かな?背びれに毒があって、死ぬほどじゃないけど、刺されると痛いって聞いたことがあるかな。」

 まあ、持ってるよな、毒。

『7時方向にもう200m位行ったところの、標識があるところに、アジよりも平べったい、葉っぱみたいなのもいるよね〜?それもわかるかな〜?』

「えっと…。あ!見えました!黒の縦縞に、あの斑点は…。『アイゴ』だと思います!」

『あいご〜?なにそれ〜?美味しいの〜?』

「背びれ、腹びれ、尻びれに毒があるんですけど、唐揚げにすると美味しいですよ!」

 また毒魚か。

『もう1匹いるんだけど〜。6時方向に150mぐらいの壊れた戸建てのあたりかな〜。薄っぺらい感じで〜、青っぽい線みたいなのが見える個体がいるんだけど〜、わかるかな〜?』

「あれは『ソウシハギ』ですね!内臓に毒があって、そこは食べれないんですけど、身は美味しいですよ!」

 うちの妹、ちょっと毒魚に詳しすぎないか?

 俺はいったい、普段なにを食べさせられているんだ?

 あの時も、あの時も、あの時の魚も、よく考えればなんだったのか聞いたことがなかった…

『そうしはぎ?の体液が〜、人の体にかかったりしたら死んじゃうかな〜?』

「かかっただけなら死なないとは思いますけど、洗い流す必要はあると思います。体内に入ったら、死ぬ可能性はあるかもしれませんけど…」

『なるほどね〜。あとあと〜、『フグ』っぽいのもいるんだよね〜。』

 それもうしっかり死ぬやつじゃん。

『いますね。さすがに私でもわかります。』

『大漁だ〜♪』

 ははははは…

 まったく笑えないな。

『綾人です。地上班からの連絡で、体長70cmほどの、「ごかいん」と呼ばれる多毛類型の魔獣も確認しました。基になった生物は、おそらく「ウミケムシ」だと思われます。』

 ん?ケムシ?

「まさか…」

『はい。有毒です。』

 どれだけいるんだよ、有毒種。

『みぃねーさん。地上班に迎撃をお願いしますか?』

『う〜ん。魔獣の生態はよくわかってないことも多いし〜、倒してから消えるまでにはタイムラグがあるからね〜。倒した瞬間に毒汁的なものがブシャーしたり、毒針が飛んできてグサグサーってなっても困るよね〜。だから〜、あやちゃんはね〜、人が近くにいないところで〜、サクッと倒しちゃった方がいいと思うの〜。』

『そうですね。』

『というわけで〜、狙撃班のみんなには〜、「アジ」の大型個体じゃなくて、各種有毒個体の討伐をお願いするね〜。』

 突然の作戦変更ではあるが、これは俺たちにとっても悪い話ではない。

 有毒個体は、「アジ」よりも断然数が少ない。

 標的が少なくなれば、単純に仕事量が減り、人も銃も休憩することができるようになるはずだ。

『物量という意味で、地上班の負担が増えることになると思いますが、そちらは大丈夫ですか?』

『今のところ順調に殲滅できているし〜、罠も一通り仕掛け終わっているからね〜。毒魚を相手にする危険と比べれば、「アジ」を乱獲するぐらいどうってことないよ〜。それに〜、地上班の中でもF(フォックストロット)チームが大活躍でね〜、そこそこ余裕があるんだ〜。やっぱり、リーダーってチームの士気や戦果に影響を与えるんだね〜。』

 ああ、()()()か。

『おおー、そんな人がいるんすねー。』

 …………。

『…………わかりました。あなたが考える策()()は信用できます。』

 「能ある鷹は…」なんて言うが、この慣用句は、この人のためにあるのかもしれない。

 鷹というよりは、猫のような気もするが…

 それはそうと…

『そうでしょ〜♪』

 いいのか?そんな扱いで。

A(アルファ)チームとB(ベータ)チームは違う場所にいるんだよね〜?』

「アルファチームは『ポイント:スコッチモーテル』にいるよ。」

『ベータチームは「ポイント:プライス」にいます。』

『うんうん♪射線が通せる場所が多いに越したことはないからね〜。もし休憩するなら〜、チームごとじゃなくて〜、それぞれのチーム内で順番決めて〜、交代で休むようにしてほしいな〜。』

 この指示も、すごい的確なんだけどな…

『わかりました。従いましょう。』

『それじゃあ、あとはそっちにお任せするよ〜。愛美せんせぇに〜、春華さんもいるから大丈夫でしょ〜?』

『かまいません。』

「問題ないよー。」

『うん!うん!よろしくね〜♪』

 「軍師」や「参謀」なんて肩書きのやつは、もっと厳かというか、羽扇とか指示棒を持った堅物のイメージがあったんだが…

 世の中ってのは広いな…

 と、そんなことを思っているうちに、綾嶺さんという嵐は去っていった。

『綾人です。こちらでも引き続き、UAV(無人偵察機)による索敵を行います。地上班、補給班からの情報も含めて共有しますので、みなさんも何かありましたら連絡をお願いします。』

「アルファチーム、了解した。」

『ベータチームも了解だー。』

 息抜きにもならなかった通信を終え、俺たちは再び現実へと引き戻される。

 目の前には、旧捌幡浜市の動脈を覆い尽くす魔獣の群れ。

 こうしている間にも、地上班は戦闘を続けている。

 銃声は止むことなく、時折聞こえる怒号から、狙撃班(俺たち)とは違い、間近で魔獣と戦う者たちの必死さが伝わってくる。

「分担はどうする?」

「冬華ちゃん疲れたでしょ?ここは私に任せて、先に休んでていいよ!」

「えっ⁉︎でも…」

『教師が生徒よりも先に休んでいては、示しがつきません。』

「そうそう、そういうことだよ。私は教師じゃないけどね。」

『というわけで、桑原さんも、先に休んでいてください。』

『そういうことなら…』

 そう言って、見せ場を前に意気込む大人たちのボルテージを、意図せずして更なる高みへと引き上げる者が現れた。

「わたしなら大丈夫です!」

 愛しの我が妹君だ。

「え?」

「冬華?」

 まさか、いつぞやの新の言葉を引きずってるんじゃないだろうな?

「銃はわたしのものの方が新しいですし、そもそも撃った弾数もわたしの方が少ないですし…」

 もう新に気をつかう必要はないんだけどな…

「それに、わたしの方が若いから、まだ大丈夫です!」

「へぇ…」

『なるほど…』

 そこは気をつかって欲しかった。

「冬華ちゃん、やっぱり休んでていいよ。」

 これはマズイことになった。

 春華さんはああ見えて、挑発に乗りやすいタイプだ。

 それは数時間前に、綾人が証明してしまっている。

「でも…」

 間違いない。

「『でも』もへったくれもあるかー!」

 修羅場がやってくる。

「年寄り扱いされて黙ってられるかってんだ!」

 春華さん、春華さん。

 人格変わっちゃってますって。

 ここは落ち着いてですね…

『そうですね。桑原さんも下がっててもらえますね?ここは一旦、私たちが引き受けます。』

『は、はい。』

 愛美先生?

 まさか、普段から冷静なはずのあなたまでもが、そんな馬鹿な…

「26歳なめんなよ!今はふみやんよりも若いんだ!」

『そうだよ!私だって、あーちゃんよりも若いんだから!』

 二人揃ってとんでもないことを口走っているが、こうなってはもう手遅れだろう。

 なんかこう、いろんな人に被害が拡散しているような気もするが、今は本人たちが聞いていないことだけを願うばかりだ。

 だが、ここで手を咥えて待つわけにはいかない。

 俺にはすべきことがある。

「に、にぃに⁉︎わたし…」

 春華さんのあまりの豹変ぶりに取り乱す妹の肩に、俺はそっと手を置いた。

「冬華。ここは春華さんたちに任せよう。」

「でも…!」

「いいから!ま か せ よ う な !」

「う、うん。」

 半ば脅迫でもするかのようにして、冬華を無理やり引き下がらせる。

 妹よ。

 お前といい、綾人といい、今の椿原中生徒会はいったいどうなってるんだ?

 この教訓を生かして、是非とも察しのいい人間になってくれ。

 頼むから、本当に。

『HQ、綾人です!「エイ」が基になったと思われる個体を…』

「わかってる!調理して、酒のつまみにすればいいんでしょ⁉︎」

『え…………?』

 春華さん、そんないきいきした顔で…

 綾人の奴、困惑しちゃってるじゃないですか。

「まなちゃん、エイヒレでいい?」

『うん!フグのひれも追加していいかな?』

「任せてよ!」

 追いつかないほどのツッコミポイントの数に俺が辟易するなか、二人は毒魚という毒魚に鉛玉を撃ち込む。

 一発も外すことはなく、次々に魔獣と弾薬が消えていく。

 M39 EMRのマガジンに弾を詰めながら、俺は冬華に呼びかける。

「冬華!ちょっと手伝ってくれ!俺一人じゃ追いつかねぇ!」

「うん!わかった!」

 マガジンを用意するだけなら、これで問題ない。

 だが、手持ちの弾はそう多くはない。

 このままだと、10分も持たないだろう。

「補給班!アルファチームだ!7.62mmNATO弾を一箱…。いや、四箱!ポイント:スコッチモーテルまで持ってきてくれないか⁉︎」

『わかりました!すぐ行きますね!』

 こちらの注文に、補給班にいる同い年ぐらいの元気な女の子が返事をする。

 チームメイトが壊れていく中で、補給班の存在はもちろん、変わらない彼女の対応には精神的にも助けられる。

『ベータチームだー。ポイント:プライスにも同じものを頼めないかー?』

『はい!大丈夫ですよ!すぐに行きますので、ちょっとだけ待っててください!』

『わかったー。よろしくなー。』

 これで残弾不足問題は解消されるだろう。

 さて、春華さんたちの様子は…

「エイヒレ、刺身、唐揚げ、煮付け…」

()や酒、(れい)酒、熱燗、鰭酒…』

 ……………………。

「枝豆、ポテト、焼き鳥、だし巻き、冷奴…」

『ビール、ワイン、ハイボール、ウイスキー、カクテル…』

 そうか、そういうことか。

 これが戦場ってやつなんだな。

 まさか、ここまで人を狂わせるとは…。

 俺は、なんて恐ろしいところに来てしまったんだ…

 たった20万円で…

『愛美先生!春華さん!ちゃんと「ごかいん」も倒してくださいね!』

「『あっ!』」

 奏からの指摘に、二人が我に返る。

「ごめんね。食べられそうになかったから、つい…」

『そうだよね。あれはちょっとかな…』

 愛美先生は、まだ教師モードには戻りきれていないようだが、狂ってしまった二人も、さすがにミミズの仲間である「ウミケムシ」まで食べようとは思わないようだ。

 そもそも、あんなもん食べられるわけが…

「『ウミケムシ』は食べれるはずですよ♪」

 いやまあ、食えたとしても、明らかにゲテモノだしな。

 食すには相当な勇気がいるし、そもそも美味しいわけが…

「口の部分が美味しいみたいです♪」

 冗談だろ?

「それ本当⁉︎」

『そういうことなら…』

 せっかく、沈静化の兆しが見えていたというのに…

 今日の冬華は、無自覚に空回りしている。

 お説教が必要だな。

 兄の怒りを、しっかりと受け止めてもらおうじゃないか。

 ただ一つ、俺にとって幸いだったのは…

「いや、でも…」

『うん。あれを食べる気にはならないかな。』

 春華さんも、愛美先生も、この燃料とは相性が悪かったことだ。

「とりあえず、パパッと倒しちゃうね。」

 春華さんが引き金(トリガー)を引いた。

 M39 EMRが轟音を、「ウミケムシ」こと「ごかいん」が断末魔をあげて倒れる。

「一丁あがり!ってね!」

 その言葉を言い終える頃には、「ごかいん」は跡形もなく消え去っていた。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。

「さあ!どんどん狩っていこー!」

 この後、春華・愛美無双は3時間ほど続いた。



 現在時刻、午前0時26分。

 次の作戦行動開始まで、あと6時間ちょっと。

 そろそろ寝ておかないと、次は持たないかもしれない。

「はぁ…」

 ため息をつき、補給班のレポートに視線を戻す。

「少し考えないとな。」

 なんて思いはするものの、具体的な節約術なんてものはすぐに浮かんでくるわけもなく、眠気だけが増していく。

「とりあえず寝るか。」

 レポートを置き、布団をかぶる。

 明日は明日の風が吹く。

 そう信じて、俺は眠りについた。

<桑原奏のMARK.23>

・製造メーカー「Heckler & Koch (ヘッケラー ウント コッホ)」

・製造国「ドイツ」

・正式名称「MARK.23」

・通称「ソーコム」、「ソーコムピストル」

・ハンドガン

・ブラックカラー

・装弾数12+1発

・LAMを装着し、必要に応じてサイレンサーの取り付けができる。

・中学2年生の6月まで使用していたが、グリップが太く、握りづらかったため、Beretta 92FSに乗り換えた。

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