第36話 誰が年寄りだって⁉︎
ショッピングモールこと「地点:スコッチモーテル」の2階。
硬い床に布団を敷いただけの即席仮眠室。
右手に冬華、左手には春華さん。
眠る二人の女性に挟まれるという、男であれば緊張し、あるいは喜ぶこと必至のこの状況で、俺は深いため息をついていた。
「はぁ………」
もちろん、俺が女性に興味がないわけでもなく、二人に魅力がないわけでもない。
それどころか、兄妹という贔屓目抜きでも冬華は可愛いし、春華さんの整った顔立ちとプロポーションは綺麗で、とても蠱惑的だ。
ただ、変えられない過去と、やがて訪れる未来を前に、それどころではいられないというだけだ。
「7.62mm×51 NATO。」
名前のとおり、北大西洋条約機構に加盟する国々の統一規格として採用されたこの弾は、高い威力と長い射程を両立する、狙撃銃向きの銃弾だ。
そして、この作戦に参加している狙撃手四人が持つスナイパーライフルは、全てこの弾を使用している。
「消費弾数は970発か。」
薄く照らされた光を頼りに、俺は補給班のレポートに目を通す。
正直なところ、異常な数値と言わざるを得ない。
単純計算で1人当たり約240発の消費というのは、およそ「狙撃」という概念からかけ離れている。
「制圧射撃のために弾幕を張った」と評価されてもおかしくない数字だ。
もちろん、その原因が四人にあるわけではない。
狙撃に関しては天賦の才を持つ奏はもちろん、春華さんもかなりの腕前だった。
本職ではない冬華と愛美先生も、そんな二人に負けず劣らずの活躍で、並の狙撃手を遥かに上回る戦果をあげている。
特に、大人組の活躍は、いろんな意味でも目を見張るものがあった。
『8時方向から新手が来ます!』
綾人からの報告に、戦慄が走る。
『また⁉︎これで7波目だよ⁉︎あと何匹来るのかな⁉︎』
狙撃手たちは、その名のとおり狙撃を。
俺や新は、弾倉の準備や、観測手としての仕事をこなしている。
だが、人数が少ないゆえに、代わりの人員もなく、全員休む時間もなく働いている状態だ。
魚型魔獣「ぎょ」が大群で行動していることもあり、一人当たりの仕事量もかなりのものとなっている。
とんだブラックバイトだ。
「ロケットランチャーとかがあればいいのにね。まとめてドカーン、って。」
疲労のせいか、春華さんが死んだ魚のような目で、ぶっとんだ解決案を提示してくる。
ただ、気持ちは同じだ。
この事態が手早く収束に向かうのであれば、この際手段はなんでもいい。
まとめてドカン、大いに結構。
ただ、ロケットランチャーをはじめとする爆発物の類は、テロ防止の観点から所持を禁止されているため、この案は机上の空論止まりだが…
「ないものねだりしても、しかたないよね。」
当然、春華さん自身もこれはわかっているようで、ため息をつきながら諦めるように自分で答えを出す。
「でも、そろそろ銃を休ませた方がいいですよね?私たち、予備の銃を持っていないですし。」
『そうですね。すでに100発近く撃っているので、銃身はかなりの熱をもっているはずです。このまま撃ち続けると、過熱で精密射撃はより難しくなるでしょう。コックオフが発生する可能性も考えないといけませんね。』
もしそうなったら最悪だ。
コックオフを起こした銃は、暴発を連鎖させ。射手の意思とは関係なく、ありったけの弾薬を吐き出すようになる。
当然、その銃は、整備しない限り使用することはできない。
ただでさえ少ない狙撃手を、初日で失うわけにはいかない。
「まなちゃん、私たちの銃は一応、軍や警察用のものだし、コックオフはまだ大丈夫じゃない?」
『あり得なくはないでしょう?』
「そうだけどさぁ…」
愛美先生の心配もわかるが、現実として撃ち続けなければならない。
そんなジレンマが、現状の深刻さを再確認させてくれる。
『休憩と冷却の時間が欲しいかな。』
『そうだよね〜。やっぱり休みたいよね〜。』
奏の言葉に答えのは、我らが作戦立案担当者様だった。
『みんな元気〜?あやちゃんだよ〜♪』
『元気っすよー。』
いやいや、それは…
「お前だけじゃないか?」
『ええー。とっしーは元気ないのかー?』
「魔獣が出始めてから、もう2時間ぶっ続けだぜ?元気が有り余ってる方がおかしいだろ。」
『私も、結構疲れてきたかな。』
『かなやんもかー。はなちゃんは大丈夫だよなー?』
「え⁉︎あの…、その…。うん!わたしは大丈夫だよ!新にー!」
おいおい…
『ほらなー。』
新、気づくんだ。
後輩に気を使われていることに。
『そっか〜。みんな大変だね〜。』
そう思うなら、増援や支援の手配をお願いしたいものだ。
『そんなみんなに頼みたいことがあるんだけど〜、いいかな〜?』
いや、仕事を増やして欲しいとは言ってないんだが…
『どのような要件ですか?』
『さすが愛美せんせぇ、話が早くて助かるよ〜。』
『そう思うなら、さっさと要件を伝えてください。ただし、応じることができるかどうかは、別の話です。』
本当にさすがというべきか、あの綾嶺さん相手にまったく動じていない。
3月まで教師と生徒という関係だったようだが、この手合いの扱いに慣れているといった感じだ。
『は〜い。』
綾嶺さんも綾嶺さんだけどな…
『新しい魔獣の群れの中に、「アジ」以外の魚がいるみたいなんだ〜。でも〜、こっちからは、それがなにかまではわからないんだよね〜。地上班はまだ余裕があるみたいだし〜、一旦狙撃を中止しちゃっていいから〜、確認してくれないかな〜?』
ということは、つまり…
「冬華ちゃんの出番だね!」
なぜか誇らしげに言う春華さんだが、俺も同意見だ。
…と、思っていた時期が俺にもあった。
『ん〜?春華さんも〜、Aランクの料理技能を持っているよね〜?』
「「え?」」
チームメイトの新情報に、俺たち兄妹は、そろって素っ頓狂な声を上げる。
『そ、そうなんですか…?』
奏は奏で、どこか期待を込めたような声色で、確認を取っている。
いったいなにを企んでいるのだろうか…
「うん、持ってるよ。」
その期待に応えるように、春華さんはそう答えた。
目を輝かせている奏が、目に見えるような気がする。
だが、それも束の間、
『それなら〜、食材についても詳しいんじゃないの〜?』
一方的な期待は、一瞬にして裏切られた。
「うんん。私は肉派だから、魚のことはさっぱりだよ。」
おかしな話だ。
今回、俺たちの保護者的な立ち位置でもある、20代中頃の二人の女性。
愛美先生と春華さんは、そろって肉派とのことだ。
魚も美味しんだけどな。
「あ、魚を食べないわけじゃないよ。好き好んで食べるのが肉ってだけだから。」
それは、食べないのとたいして変わらないのでは…?
「と、いうわけで、冬華ちゃん、よろしくね!」
「は、はい!」
まあ、結果として妹の活躍の場が増えたんだ。
ここは兄として、素直に喜ぶべきところだろう。
『それじゃあ〜、スコープでサクっと覗いちゃってよ〜。7時の方向、はなちゃんのいるところから2.3kmほど先の丁字路に〜、赤茶色っぽいのがいるよね〜?何かわかる〜?』
冬華が指示された場所をスコープで覗く。
同時に、春華さんと俺も、それぞれスコープと双眼鏡で対象を確認する。
「確かにいるな。」
「あのトゲトゲしている魚のこと?」
『こっちからは、そこまではわからないけど〜、赤いのはそんなにいないはずだし、それであってるんじゃないかな〜?』
体長およそ50cm、暗めの赤を基調に褐色の模様がある皮目、背びれには鋭い棘がある。
もちろん、他の「ぎょ」と同じで、腹部から人間の足に似た何かが生えている。
それは一旦置いておくとして、あの見た目は、なんというか、いかにもこう…
『さあ!はなちゃんの回答は〜⁉︎』
「『オコゼ』の仲間かな?背びれに毒があって、死ぬほどじゃないけど、刺されると痛いって聞いたことがあるかな。」
まあ、持ってるよな、毒。
『7時方向にもう200m位行ったところの、標識があるところに、アジよりも平べったい、葉っぱみたいなのもいるよね〜?それもわかるかな〜?』
「えっと…。あ!見えました!黒の縦縞に、あの斑点は…。『アイゴ』だと思います!」
『あいご〜?なにそれ〜?美味しいの〜?』
「背びれ、腹びれ、尻びれに毒があるんですけど、唐揚げにすると美味しいですよ!」
また毒魚か。
『もう1匹いるんだけど〜。6時方向に150mぐらいの壊れた戸建てのあたりかな〜。薄っぺらい感じで〜、青っぽい線みたいなのが見える個体がいるんだけど〜、わかるかな〜?』
「あれは『ソウシハギ』ですね!内臓に毒があって、そこは食べれないんですけど、身は美味しいですよ!」
うちの妹、ちょっと毒魚に詳しすぎないか?
俺はいったい、普段なにを食べさせられているんだ?
あの時も、あの時も、あの時の魚も、よく考えればなんだったのか聞いたことがなかった…
『そうしはぎ?の体液が〜、人の体にかかったりしたら死んじゃうかな〜?』
「かかっただけなら死なないとは思いますけど、洗い流す必要はあると思います。体内に入ったら、死ぬ可能性はあるかもしれませんけど…」
『なるほどね〜。あとあと〜、『フグ』っぽいのもいるんだよね〜。』
それもうしっかり死ぬやつじゃん。
『いますね。さすがに私でもわかります。』
『大漁だ〜♪』
ははははは…
まったく笑えないな。
『綾人です。地上班からの連絡で、体長70cmほどの、「ごかいん」と呼ばれる多毛類型の魔獣も確認しました。基になった生物は、おそらく「ウミケムシ」だと思われます。』
ん?ケムシ?
「まさか…」
『はい。有毒です。』
どれだけいるんだよ、有毒種。
『みぃねーさん。地上班に迎撃をお願いしますか?』
『う〜ん。魔獣の生態はよくわかってないことも多いし〜、倒してから消えるまでにはタイムラグがあるからね〜。倒した瞬間に毒汁的なものがブシャーしたり、毒針が飛んできてグサグサーってなっても困るよね〜。だから〜、あやちゃんはね〜、人が近くにいないところで〜、サクッと倒しちゃった方がいいと思うの〜。』
『そうですね。』
『というわけで〜、狙撃班のみんなには〜、「アジ」の大型個体じゃなくて、各種有毒個体の討伐をお願いするね〜。』
突然の作戦変更ではあるが、これは俺たちにとっても悪い話ではない。
有毒個体は、「アジ」よりも断然数が少ない。
標的が少なくなれば、単純に仕事量が減り、人も銃も休憩することができるようになるはずだ。
『物量という意味で、地上班の負担が増えることになると思いますが、そちらは大丈夫ですか?』
『今のところ順調に殲滅できているし〜、罠も一通り仕掛け終わっているからね〜。毒魚を相手にする危険と比べれば、「アジ」を乱獲するぐらいどうってことないよ〜。それに〜、地上班の中でもFチームが大活躍でね〜、そこそこ余裕があるんだ〜。やっぱり、リーダーってチームの士気や戦果に影響を与えるんだね〜。』
ああ、あの人か。
『おおー、そんな人がいるんすねー。』
…………。
『…………わかりました。あなたが考える策だけは信用できます。』
「能ある鷹は…」なんて言うが、この慣用句は、この人のためにあるのかもしれない。
鷹というよりは、猫のような気もするが…
それはそうと…
『そうでしょ〜♪』
いいのか?そんな扱いで。
『AチームとBチームは違う場所にいるんだよね〜?』
「アルファチームは『ポイント:スコッチモーテル』にいるよ。」
『ベータチームは「ポイント:プライス」にいます。』
『うんうん♪射線が通せる場所が多いに越したことはないからね〜。もし休憩するなら〜、チームごとじゃなくて〜、それぞれのチーム内で順番決めて〜、交代で休むようにしてほしいな〜。』
この指示も、すごい的確なんだけどな…
『わかりました。従いましょう。』
『それじゃあ、あとはそっちにお任せするよ〜。愛美せんせぇに〜、春華さんもいるから大丈夫でしょ〜?』
『かまいません。』
「問題ないよー。」
『うん!うん!よろしくね〜♪』
「軍師」や「参謀」なんて肩書きのやつは、もっと厳かというか、羽扇とか指示棒を持った堅物のイメージがあったんだが…
世の中ってのは広いな…
と、そんなことを思っているうちに、綾嶺さんという嵐は去っていった。
『綾人です。こちらでも引き続き、UAVによる索敵を行います。地上班、補給班からの情報も含めて共有しますので、みなさんも何かありましたら連絡をお願いします。』
「アルファチーム、了解した。」
『ベータチームも了解だー。』
息抜きにもならなかった通信を終え、俺たちは再び現実へと引き戻される。
目の前には、旧捌幡浜市の動脈を覆い尽くす魔獣の群れ。
こうしている間にも、地上班は戦闘を続けている。
銃声は止むことなく、時折聞こえる怒号から、狙撃班とは違い、間近で魔獣と戦う者たちの必死さが伝わってくる。
「分担はどうする?」
「冬華ちゃん疲れたでしょ?ここは私に任せて、先に休んでていいよ!」
「えっ⁉︎でも…」
『教師が生徒よりも先に休んでいては、示しがつきません。』
「そうそう、そういうことだよ。私は教師じゃないけどね。」
『というわけで、桑原さんも、先に休んでいてください。』
『そういうことなら…』
そう言って、見せ場を前に意気込む大人たちのボルテージを、意図せずして更なる高みへと引き上げる者が現れた。
「わたしなら大丈夫です!」
愛しの我が妹君だ。
「え?」
「冬華?」
まさか、いつぞやの新の言葉を引きずってるんじゃないだろうな?
「銃はわたしのものの方が新しいですし、そもそも撃った弾数もわたしの方が少ないですし…」
もう新に気をつかう必要はないんだけどな…
「それに、わたしの方が若いから、まだ大丈夫です!」
「へぇ…」
『なるほど…』
そこは気をつかって欲しかった。
「冬華ちゃん、やっぱり休んでていいよ。」
これはマズイことになった。
春華さんはああ見えて、挑発に乗りやすいタイプだ。
それは数時間前に、綾人が証明してしまっている。
「でも…」
間違いない。
「『でも』もへったくれもあるかー!」
修羅場がやってくる。
「年寄り扱いされて黙ってられるかってんだ!」
春華さん、春華さん。
人格変わっちゃってますって。
ここは落ち着いてですね…
『そうですね。桑原さんも下がっててもらえますね?ここは一旦、私たちが引き受けます。』
『は、はい。』
愛美先生?
まさか、普段から冷静なはずのあなたまでもが、そんな馬鹿な…
「26歳なめんなよ!今はふみやんよりも若いんだ!」
『そうだよ!私だって、あーちゃんよりも若いんだから!』
二人揃ってとんでもないことを口走っているが、こうなってはもう手遅れだろう。
なんかこう、いろんな人に被害が拡散しているような気もするが、今は本人たちが聞いていないことだけを願うばかりだ。
だが、ここで手を咥えて待つわけにはいかない。
俺にはすべきことがある。
「に、にぃに⁉︎わたし…」
春華さんのあまりの豹変ぶりに取り乱す妹の肩に、俺はそっと手を置いた。
「冬華。ここは春華さんたちに任せよう。」
「でも…!」
「いいから!ま か せ よ う な !」
「う、うん。」
半ば脅迫でもするかのようにして、冬華を無理やり引き下がらせる。
妹よ。
お前といい、綾人といい、今の椿原中生徒会はいったいどうなってるんだ?
この教訓を生かして、是非とも察しのいい人間になってくれ。
頼むから、本当に。
『HQ、綾人です!「エイ」が基になったと思われる個体を…』
「わかってる!調理して、酒のつまみにすればいいんでしょ⁉︎」
『え…………?』
春華さん、そんないきいきした顔で…
綾人の奴、困惑しちゃってるじゃないですか。
「まなちゃん、エイヒレでいい?」
『うん!フグのひれも追加していいかな?』
「任せてよ!」
追いつかないほどのツッコミポイントの数に俺が辟易するなか、二人は毒魚という毒魚に鉛玉を撃ち込む。
一発も外すことはなく、次々に魔獣と弾薬が消えていく。
M39 EMRのマガジンに弾を詰めながら、俺は冬華に呼びかける。
「冬華!ちょっと手伝ってくれ!俺一人じゃ追いつかねぇ!」
「うん!わかった!」
マガジンを用意するだけなら、これで問題ない。
だが、手持ちの弾はそう多くはない。
このままだと、10分も持たないだろう。
「補給班!アルファチームだ!7.62mmNATO弾を一箱…。いや、四箱!ポイント:スコッチモーテルまで持ってきてくれないか⁉︎」
『わかりました!すぐ行きますね!』
こちらの注文に、補給班にいる同い年ぐらいの元気な女の子が返事をする。
チームメイトが壊れていく中で、補給班の存在はもちろん、変わらない彼女の対応には精神的にも助けられる。
『ベータチームだー。ポイント:プライスにも同じものを頼めないかー?』
『はい!大丈夫ですよ!すぐに行きますので、ちょっとだけ待っててください!』
『わかったー。よろしくなー。』
これで残弾不足問題は解消されるだろう。
さて、春華さんたちの様子は…
「エイヒレ、刺身、唐揚げ、煮付け…」
『冷や酒、冷酒、熱燗、鰭酒…』
……………………。
「枝豆、ポテト、焼き鳥、だし巻き、冷奴…」
『ビール、ワイン、ハイボール、ウイスキー、カクテル…』
そうか、そういうことか。
これが戦場ってやつなんだな。
まさか、ここまで人を狂わせるとは…。
俺は、なんて恐ろしいところに来てしまったんだ…
たった20万円で…
『愛美先生!春華さん!ちゃんと「ごかいん」も倒してくださいね!』
「『あっ!』」
奏からの指摘に、二人が我に返る。
「ごめんね。食べられそうになかったから、つい…」
『そうだよね。あれはちょっとかな…』
愛美先生は、まだ教師モードには戻りきれていないようだが、狂ってしまった二人も、さすがにミミズの仲間である「ウミケムシ」まで食べようとは思わないようだ。
そもそも、あんなもん食べられるわけが…
「『ウミケムシ』は食べれるはずですよ♪」
いやまあ、食えたとしても、明らかにゲテモノだしな。
食すには相当な勇気がいるし、そもそも美味しいわけが…
「口の部分が美味しいみたいです♪」
冗談だろ?
「それ本当⁉︎」
『そういうことなら…』
せっかく、沈静化の兆しが見えていたというのに…
今日の冬華は、無自覚に空回りしている。
お説教が必要だな。
兄の怒りを、しっかりと受け止めてもらおうじゃないか。
ただ一つ、俺にとって幸いだったのは…
「いや、でも…」
『うん。あれを食べる気にはならないかな。』
春華さんも、愛美先生も、この燃料とは相性が悪かったことだ。
「とりあえず、パパッと倒しちゃうね。」
春華さんが引き金を引いた。
M39 EMRが轟音を、「ウミケムシ」こと「ごかいん」が断末魔をあげて倒れる。
「一丁あがり!ってね!」
その言葉を言い終える頃には、「ごかいん」は跡形もなく消え去っていた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「さあ!どんどん狩っていこー!」
この後、春華・愛美無双は3時間ほど続いた。
現在時刻、午前0時26分。
次の作戦行動開始まで、あと6時間ちょっと。
そろそろ寝ておかないと、次は持たないかもしれない。
「はぁ…」
ため息をつき、補給班のレポートに視線を戻す。
「少し考えないとな。」
なんて思いはするものの、具体的な節約術なんてものはすぐに浮かんでくるわけもなく、眠気だけが増していく。
「とりあえず寝るか。」
レポートを置き、布団をかぶる。
明日は明日の風が吹く。
そう信じて、俺は眠りについた。
<桑原奏のMARK.23>
・製造メーカー「Heckler & Koch (ヘッケラー ウント コッホ)」
・製造国「ドイツ」
・正式名称「MARK.23」
・通称「ソーコム」、「ソーコムピストル」
・ハンドガン
・ブラックカラー
・装弾数12+1発
・LAMを装着し、必要に応じてサイレンサーの取り付けができる。
・中学2年生の6月まで使用していたが、グリップが太く、握りづらかったため、Beretta 92FSに乗り換えた。




