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Final Gift  作者: トキハル
本編
37/49

第34話 お忍び訪問

 2挺の射撃武器(スナイパーライフル)、冬華のSR-25と、春華さんのM39 EMRが、轟音をあげている。

 銃弾が次々と放たれ、二人の標的となった魔獣が、一匹、また一匹と倒れていく。

 魔獣はすぐに、まるで初めから存在していなかったかのように四散し、残るのは、地面を抉る7.62mm口径の銃痕だけだ。

 それを、俺はただ、二人の後ろから眺めることしかできない。

「………暇だな。」

 現在地は、とある地方銀行の捌幡浜支店だった建物の屋上。

 通称(コード)地点(ポイント):プライス」だ。

 大通りを少し進んだところには、昔は賑わっていたであろうショッピングモール、「ポイント:スコッチモーテル」があり、地上班のメンバーが制圧に向かっている。

 「スコッチモーテル」の安全が確認されるまで、大通りの魔獣の進行を食い止めるのが俺たちの任務だ。

「そろそろ、向こうもポイントについた頃か?」

 俺は通信機(インカム)の周波数を専用回線に合わせる。

「こちらA(アルファ)チーム、俊秋だ。B(ブラボー)チーム、聞こえてるか?」

『おおー、とっしーかー。こっちは聞こえているぞー。』

「こっちは『ポイント:プライス』から、大通りの魔獣を狙撃しているところだ。そっちの様子はどうだ?」

『んー?ぷらいす?「ぷらいす」ってどこだー?』

『大通りに面した銀行跡地です。アルファチームの狙撃位置ですね。』

『おおー、さすがせんせー。』

 相変わらずというか、新はブレないな。

『こっちはようやく目的地に到着したところだー。魔獣もいなくて楽だったなー。』

「その目的地、ちゃんと名前があっただろ?」

『そういえばそうだなー。なんだったかなー?かなやん、覚えているかー?』

『ここは「ポイント:マクミラン」だよ。』

『おおー、それだー。変な名前だよなー。』

『あはは…。こっちも準備ができ次第、お仕事を始める予定だよ。』

『5分程度で始められると思います。』

「わかりました。新、こっちは地上班の『スコッチモーテル』制圧の連絡を待って、移動する予定だ。移動前にまた連絡する。」

『わかったー。』

 地上班はすでに「スコッチモーテル」に到達している。

 やや広めの敷地ではあるが、毎年拠点として使用されているようで、自衛隊も普段から定期的に巡回しているみたいだし、そこまで時間はかからないだろう。

「向こうもすぐに始められるみたいだね。」

 少し考えていると、通信を聞いていたらしい春華さんから声をかけられた。

「そうですね。向こうが狙撃を始めたら、こちらからもわかるはずです。始まったら、銃身の放熱も兼ねて、少し休憩しますか?」

 俺の言葉を聞いて、春華さんは少し驚いたような顔になる。

「銃身の放熱に気を配れるなんて、普段から銃を使っている人でもなかなかいないのに、俊秋くんすごいね。」

「普段は奏と組んでるんで、知識として知っているだけですよ。なんでも、精度が落ちるらしいですね。」

「そうそう、銃身も金属でできているから、熱膨張で変形した結果としてね。故障の原因にもなるし、放熱は大事だよ。特に、すぐに修理や補給ができない、こういう実戦の場ではね。」

 見た目的には、かなり若く見える春華さんだが、それとは裏腹に実戦経験はかなり積んでいるようで、醸し出される雰囲気はベテランのそれだ。

 いったい何者なのだろうか。

 親しくなってきたとは思うが、俺たちはまだ年齢すら把握できていない。

「とはいっても、魔獣もそんなにいないし、『スコッチモーテル』の制圧もすぐ終わりそうだし、それまで撃つ分には問題ないと思うよ。」

「にぃに、わたしも問題ないよ♪」

「了解。補給は『スコッチモーテル』で受けられるよう手配するから、ここは手持ち分で狙撃を続けよう。地上班から制圧の連絡が入り次第、移動する。」

「うん、わかった♪」

「オッケーだよ。」



 しばらくして、その時がやってきた。

『よぉ!アルファチーム!待たせたなぁ!すこっちもーてる?の安全は確認したから、いつでも来てくれい!』

 インカムに、地上班の人から連絡が入る。

「わかりました。これから移動を開始します!」

『おうよ!待ってるぜ!』

 返事をするのも束の間、端末を操作しながら、冬華と春華さんに声をかける。

「『スコッチモーテル』制圧完了。移動の準備をしてくれ。」

「うん!」

「ちょっと待ってね。」

 そんなやりとりの間に、周波数を本部に合わせる。

「こちらアルファチーム、俊秋だ。本部(HQ)、聞こえるか?」

『こちらHQ、綾人です。どうぞ。』

「アルファチームはこれから『スコッチモーテル』に移動する。地上班と合流後、補給を受けるから、すまないが、しばらくの間狙撃はできない。」

『わかりました。ベータチームの方でフォローしていただけるようですので、問題ありません。お気をつけて。』

「助かる。ありがとう。」

 そして、再度端末を操作する。

「アルファチーム俊秋だ。」

『新だー。とっしー元気かー。』

「何もしていないからな。それよりも、こっちはこれから『スコッチモーテル』に移動する。しばらくの間、狙撃は頼んだぞ。」

『奏だよ。こっちはまだまだ余裕があるから、心配はいらないかな。俊くんたちも気をつけてね。』

「ああ。こちらの狙撃準備が整ったら、また連絡する。」

『了解だー。』

 通信終了。

「準備オッケーだよ。」

「わたしもいつでもいいよ♪」

「よし、移動しよう。」

 電気の通っていない建物の屋上から、地上まで、俺たちは階段を駆け降りる。

 大通りに出て、10分程度歩いて「スコッチモーテル」に入店する。

「3人ともお疲れさん!ようやく一息つけるな!」

 寂れたショッピングモールの2階に上がったところで、俺たちはやけにゴツいおっさんに出迎えられた。

 通信でも話したこの人が、地上班のリーダーだ。

「それにしてもねーちゃんたち、スゲェじゃねえか!いったい何匹の魔獣を倒したんだ?これまで何人もの狙撃手を見てきたが、あんたらは間違いなくトップクラスだ!」

 ガハハと豪快に笑う様は、これまで周りにいなかったタイプで、とても新鮮に感じる。

「にーちゃんの方は……。はて?なんかしてたっけか?」

 なにかしたかと言われると…

「………なにもしていません。」

 自分で言ってて悲しくなる。

「ハッハッハッ!冗談だ!そんなにショボくれるなって!」

 消沈する俺を見て、ゴツいおっさんは、これまた豪快に背中を叩いて励ましてくれる。

 バシバシバシバシバシバシバシバシ………

「痛ッ!」

 背中に半端ないダメージが蓄積されていくのを感じる。

「ちょ!これ以上はッ!」

「ガッハッハッハッ!気にするんじゃねぇぞ!まだ始まったばかりだからな!にーちゃんの活躍の場もどっかにあるさ!」

 これが20万円の対価。

 俺は、初日の早々に脱落するのか?

「ちょっと!俊秋くんが痛がってるでしょ!」

 病院送りになる前に助けてくれたのは、春華さんだった。

「俊秋くんはちゃんと働いてくれてるんだから!それと、その初対面みたいな言い草はなに?()()()()?」

 はい?

 あの、春華さん? 

「ガハハ!すまねぇな!久しぶりじゃねぇか、春ちゃん!元気してたか?」

 もしかして、このゴリラとお知り合いで…?

「見てのとおり、元気にしてるよ。それより、ふみやん。今までどこにいたの?ブリーフィングの時は姿を見なかったような…」

 前から思ってはいたが、この人も相当顔が広いな。

「あーちゃんに頼んで、別室に通してもらったんだ!見つかったら、それでしまいだからな!」

「…?(れき)ちゃんと喧嘩でもしたの?」

「ちゃうわい!倅だよ、せ が れ!今日はアイツの働きぶりを、歴と一緒に、こっそり見に来たんだ!」

 話の流れ的に、「歴」さんなる人は、この人の奥さんだろうか。

 夫婦で息子の仕事ぶりを見に来る。

 まるで授業参観の様ではあるが、それが羨ましくも思える。

「倅?名前は確か…」

 いったい誰なんだ?

「『(あらた)』くんで合ってる?」

 はい?

「おお、合ってるぞ!よく覚えててくれたな!俺は嬉しいぞ!」

 おいおい、まさか!

「一応確認するんだけど、新くんは狙撃班のベータチーム配属で間違いない?」

「おお!そうだ!確か狙撃班って言ってたなぁ!あいつ、狙撃なんて細けぇことできなかったはずだが…。世の中不思議なことだらけだよなぁ!」

 もう間違いない。

 この人は俺たちの友人、古川新の父親だ。

 言われてみれば、似ている様な気がしなくもない。

 特に、口調は違うものの、言葉選びなんかはそっくりだ。

 それじゃあ、歴さんって人は、前に新の家で会ったあの優しそうな人か…。

 それはそうと、息子の様子を見に来たのに、肝心の息子の居場所を把握していないのか、この人は。

「新は、俺と同じ狙撃手の護衛なんで、狙撃はしてないと思いますよ。」

「お、そうなのか⁉︎もしかして、にーちゃんも倅の知り合いか⁉︎」

「俺は和泉俊秋っていいます。こっちは…」

「妹の冬華です♪よろしくお願いします♪」

 俺たち兄妹の隙のない連携から繰り出される、完璧な自己紹介。

 入念な打ち合わせと、際限ない努力(れんしゅう)によって培われた、どんな人でも感心すること間違いなしの、俺たちの得意技だ。

「聞いたことある名前だなぁ…。ちと待ってくれよ…」

 しかし、「ふみやん」さんは、太い腕を組み、目を閉じながら首を傾げて、自分の記憶をたどっている様子だ。

 …………もっといい反応を期待していたんだがな。

「ああ!思い出したぞ!『とっしー』と『はなちゃん』だな!」

 いや、むしろ期待以上だったようだ。

「そ、そうです。」

 俺は、あまりの勢いの良さに、思わずたじろいでしまう。

「そうかそうか!いつも倅が世話になってるな!俺は父親の古川史也(ふるかわふみや)だ!よろしくなぁ!」

 そうして差し出された右手を、俺はついうっかり握ってしまった。

「こ、こちらこそッ!よろしくお願いしますッ!」

 まるで万力に挟まれたような痛みを堪えながら、俺は必死に返事の言葉を紡ぐ。

「…………ッ!」

 腕が持っていかれそうになるほどの、激しい上下運動を加えられた俺の右手には、史也さんの手形がくっきりと残っていた。

 これは、冬華とは握手させるわけにはいかないな。

「ところで、『あやちー』と『かなやん』ってのはどこにいるんだ⁉︎その二人にも倅が世話になってるみてぇだからな!挨拶しとかねぇと!」

 この人、自分がここに来た目的忘れてないか?

「『かなやん』は新くんと同じチームにいるよ。『あやちー』の方は山岳部側だから、すぐには会えないと思うな。それと、二人とも繊細な女の子だから、さっきみたいな握手は禁止ね。手加減を知らないんだから。」

 あの、春華さん?

 俺も十分繊細なんですけど…

「ガハハッ!わかったわかった!その代わり、『かなやん』って子を後で紹介してくれよな!」

「あれ?『あやちー』はいいの?」

「山岳部側なんだろ⁉︎そっちはいったん歴に任せるさ!」

「あ、歴ちゃんはあっちなんだ。」

「おうよ!新の奴がどっちになってもいいようにな!今回は、こっちが当たりだったわけだ!今日も俺の運勢はバッチリだな!」

「ああ、いつもの()()だね。今日も当たったんだ。」

 そんな和やかに、あるいは豪快に進んでいた会話は、突如打ち切られた。

『緊急連絡です!無人偵察機(UAV)が敵影を捕捉しました!旧捌幡浜港(ポイント:ソープ)から、数えきれないほどの(うお)型魔獣が、大通りを通ってHQ方面に進行しています!「ポイント:スコッチモーテル」への到達予想時間はおよそ10分ほどです!ポイント到達前に、至急、迎撃に当たってください!』

 切迫した様子の綾人からの無線に、緊張が走る。

「もう少し話していたかったが、仕事じゃしかたねぇ。春ちゃん、積もる話もあるが、今は目の前のことを片づけるとしようや!」

「うん!ふみやんも気をつけてね!」

「おうよ!二人も気ぃつけて行けよ!」

「はい。」

「ありがとうございます♪」

「そんじゃ、またな!」

 そう言うと、史也さんは地上班のメンバーのもとへと向かっていく。

「おう!みんな今の通信聞いたか⁉︎標的は魚型だってよ!三枚におろして、刺身にして食ってやろうぜ!」

 史也さんから飛ばされた激励に、猛々しい喚声が返ってくる様子が、離れた場所にも届いている。

「めちゃくちゃ頼もしいですね。」

 「豪放」

 そんな言葉がよく似合う、勢いでみんなの士気を上げるタイプの人だ。

「そうでしょ?ふみやんを見てたら、『落ち込んでられないな』って気持ちにさせてくれるんだよね。あの豪快さには、私たちも何度も助けられたな。」

 地上班は、間違いなく大きな戦果を挙げるだろう。

 そして、上がった士気は他のグループにも伝播していく。

「負けてられないですね!」

「うん!さあ、私たちは…」

『アルファ、ベータ両チームへ。こちらHQ、綾人です。』

「アルファチーム、俊秋だ。聞こえている。」

『ベータチーム、新だー。こっちも大丈夫だぞー。』

『アルファチームの皆さんは、ポイント:スコッチモーテルの屋上駐車場から大通りへの狙撃をお願いします。ベータチームは、ポイント:プライスへ移動して、同じく大通りへの狙撃をお願いします。補給班にお願いして車を手配していますので、そちらに乗って移動しつつ、補給を受けてください。』

「了解だ。」

『わかったー。』

「俺たちはこのまま屋上に登って、大通りの狙撃にまわる。補給物資は俺の方で手配するから、二人は狙撃に集中してくれ。」

「うん♪」

「任せといて!」

 意気込みを新たに、階段を駆け上がる俺たちに、再び通信が入る。

『んー?なー、かなやん。俺の双眼鏡知らないかー?』

『ここにあるよ。あと、インカムが入りっぱなしかな。』

『おおー?ホントだなー。誰にも聞こえてないはずだから、大丈夫だー。』

 残念ながら、俺たちのもとに届いてしまっている。

 奏の声が少し遠いことから、新がインカムを誤操作したと考えるのが筋か。

「新にーは、やっぱり新にーだね♪」

「ああ、あれはあれで、安心するといえばするんだが…」

 今回は参観日なんだ。

 頼むからしっかりしてくれ。

本話では、特定の場所やグループに対して、通称コードなるものが使用されていますが、実は、それぞれ元になったものがあるんです!

・NATOフォネティックコード

 A = アルファ

 B = ベータ

 D = デルタ (第13話で登場)

 F = フォックストロット (第32話で登場)

 S = シエラ (第13話で登場)

・英語

 HQ = Head Quarters = 本部

・とあるゲームのネタ

 ポイント:プライス ≒ 大尉 = 囚人627号

 ポイント:マクミラン ≒ 先生 ≒ ビューティフォー

 ポイント:スコッチモーテル = SM = ショッピングモール

  →ウイスキーホテル = WH(※フォネティックコード) = ?

みなさん、知っているものはありましたか?

もし知っていたら、こっそり教えてください!

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