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Final Gift  作者: トキハル
本編
36/49

第33話 不安なのか、不満なのか

 アルバイトの業務説明こと、ブリーフィングに参加するため、大会議室の入口に来た俺たちを待っていたのは、

『Welcome☆HACHIMANHAMA!』

 と書かれたプラカード持つ、ピンキーなうさぎのキグルミだった。

「なあ、とっしー。部屋の前に変なのがいるぞー。魔獣かー?とりあえず、斬っとくかー?」

 腰にぶら下げている剣に手をかけ、物騒な台詞を吐く新を見て、うさぎがやや後ずさる。

「やめといた方がいいんじゃないか?ただのキグルミっぽいし。」

 新を静止する俺の言葉を聞いたうさぎは、なぜか持っていたプラカードにペンを滑らせ、こちらに見せつけてきた。

『僕はキグルミじゃないよ☆』

『中の人なんていないんだからね☆』

 お、おう…

「キグルミじゃないらしいぞー。やっぱり魔獣かー?斬るかー?」

 新が再び剣に手をかける。

『待ってよ☆』

『僕は人畜無害で☆』

『世間では人気のマスコット☆』

『「うさたろう」なんだよ☆』

『僕がいなくなったら☆』

『僕を待っている子供たちが悲しむよ☆』

『キミたちはそれでもいいの?☆』

 ……………………………。

「新。」

「なんだー?」

「斬っていいぞ。」

「にぃに⁉︎」

『⁉︎☆』

「そうですね。このままだと遅刻は免れませんし、後顧の憂を取り除く意味でも、多少の犠牲はしかたありません。」

「愛美先生⁉︎」

『⁉︎☆⁉︎☆』

「これも全部、私たちの邪魔をするマスコットさんが悪いかな。」

「奏ねー⁉︎」

『⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆』

「そうと決まれば、善は急げだよ新くん。」

「春華さん⁉︎」

『⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆』

「わかったっすー。」

「新にー⁉︎」

『⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆⁉︎☆』

 あまりのウザさから提示した俺の案に、冬華意外のメンバーが次々と賛同していく。

 そんな俺たちの敵対心(ヘイト)は、今もなお増え続けている。

 そして、「☆」の数もねずみ算式に増えていく。

「二枚?いや、三枚かー?四枚でもいけそうだなー。」

 何枚に下ろすか考えながら迫る(ハンター)を前に、標的(うさたろう)は一歩ずつ下がっていく。

 壁際へと追いやられ、逃げ場を失ったうさぎを前に、新は剣を抜いた。

「筋肉、待ちなさい。」

 本気でやりかねないのを止めようかと考え始めたその時、大会議室からある人物が出てきた。

「そのうさぎをさばかれると困るわ。」

 姿を見せた声の主は…

「あやちー、ここにいたのかー。」

 休日の初日から姿を消していた綾音だった。



「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。ただいまより、旧捌幡浜市魔獣掃討作戦のブリーフィングを開始いたします。」

 夏先生が来なかったり、大会議室の前で変なうさぎが仁王立ちしていたりと、ちょっとしたトラブルはあったものの、俺たちは全員、無事にこのブリーフィングに参加している。

 だが、一つだけ、事前に聞かされていない情報が残されていた。

「私は、自衛隊外部顧問チーム『ライフリング』所属の天山隼人と申します。本作戦の指揮は、我々『ライフリング』が担当いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

 隼人さんが告げる事実に、俺たちは驚きを隠せないでいる。

 春華さんも、知ってて黙っていたな。

 そう思い視線を送ると、案の定ペロッと舌を出して答えた。

「まず作戦区域ですが、大きく分けて、西側の沿岸部と、東側の山岳部になります。沿岸部はここ、旧捌幡浜市役所を、山岳部は、旧捌幡浜市役所堡内(ほない)支所をそれぞれ中心拠点とし、活動していただきます。お手元の資料の2ページに、皆さんの担当区域を記載していますので、まずはそちらをご確認ください。」

 参加者の全員が、自身の端末に送信されたデータに視線を落とす。

「例年、沿岸部は、かなりの数の魔獣が出現するため、その掃討に手間がかかる傾向にあります。一方で、山岳部は、魔獣の出現数こそ少ないものの、険しい地形のため、移動や物資の補給に苦慮する傾向にあるといえます。今年は狙撃手の参加が少なく、狙撃班は二班のみの構成となります。そのため、狙撃班は二班とも、例年魔獣の出現数が多い沿岸部に配置することといたします。」

 つまり、俺たちは沿岸部で魔獣退治に専念するということか。

 沿岸部といっても、港町である旧捌幡浜市的には市街地と同義で、過去に整備された道路が張り巡らされているため、移動に苦労することはなさそうだ。

 狙撃の性質上、基本的には定点移動しながら、魔獣を狩ることになるだろう。

 …………奏たちが。

「『ライフリング』の構成員はそれぞれ、旧捌幡浜市役所に、沿岸部防衛担当兼本作戦の全体統括者である天山綾香、作戦立案担当の天山綾嶺、通信担当の天山綾人が、堡内支所に山岳部防衛担当の天山綾音と、山岳部統括者兼通信担当として私が、それぞれ詰める予定です。」

 綾音とは別か。

 残念ではあるが、これも仕事だ。

 また次の機会があるだろう。

「加えて、自衛隊からは、こちらにいらっしゃる、自称『捌幡浜市のマスコット』さんが本作戦に参加し、沿岸部担当としてこちらに詰めることとなっています。」

 そうか、あのうさぎ、自衛隊のにんげ…

『……………☆』

 マスコットだったのか。

 いろいろありすぎて、もはや、なにに驚いていればいいのか、感覚が麻痺してきた。

 自衛隊って、思っていたよりゆるい組織だったんだな。

「なお、我々ではどうしようもないような緊急時には、自衛隊の主力部隊が投入される予定ではありますが、腰が重たいので、基本的にはないものとして、過度な期待は持たないようよろしくお願いいたします。」

『ごめんね☆』

 …………………。

 やっぱり、ゆるい組織だな。

「それでは、この場は一度解散いたします。山岳部担当の方は、堡内支所への移動準備を始めてください。地下道に車を用意していますので、所定の時間までに集合いただくようお願いいたします。沿岸部担当の方は、引き続き、全体統括者の天山綾香から情報伝達を行いますので、このまましばらくお待ちください。」

 給料が高いアルバイトには気をつけろとはよくいうが、つまりはこういうことなのだろう。

 行政機関による公募とはいえ…

 いや、むしろ行政からの公募だからこそ、慎重に吟味することが大事だと、今日、俺は身を持って知った。

 これが20万円の対価か…

 覚悟はしていたが、思った以上に命や精神が危なそうだ。



「みんな同じ区域の担当になるみたいだね。」

 山岳部組の移動準備のためのちょっとした自由時間。

 待合室に戻った俺たちは、春華さんの切りだしから、たわいのない会話を再開していた。

「でも、綾ちゃんと離れ離れなのは寂しいかな。」

 山岳部担当で、堡内支所に移動していく綾音に手を振りながら、奏が残念そうに吐露する。

 対して、こちらに向かって控えめに右手を上げてから部屋を出る、いつもどおりの綾音には、どこか安心感すら覚える。

「隼人さんもいるし、向こうは大丈夫だろ。俺たちは俺たちの心配をしようぜ。」

 沿岸部担当として残っている他のメンバーのうち、はじめましての参加者たちと、通信担当の綾人はまだいいとして、綾香さん、綾嶺さん、そしてあのうさぎ(マスコット)に関しては、なんとなく胡散臭いというか、不安しかない。

「あーちゃんと、みーちゃんの二人なら大丈夫だよ!ちょっとお調子者なところが玉に瑕だけど、実力は本物だからね!」

「そうですね。天山一家は全員知っていますが、皆さん優れた能力と、素質を持ち合わせていることは間違いありません。特に、こと『防衛』に関しては、あの一家の右にでる者はそうはいないと思いますよ。」

 俺からなにか感じ取ったのか、春華さんに加えて、愛美先生までもが、続々とフォローをいれる。

 そもそも、よく考える必要もなく、当然、たいした実力もなしに自衛隊の外部顧問に選ばれるはずがないのだから、そこまで心配する必要はないのかもしれない。

 だが、普段の二人が普段の二人だけに、作戦の成否とは別のベクトルの不安が拭えない俺がいる。

「あのうさぎの人はどうなのかな?」

 誰も触れなかった禁忌を口にしたのは、冬華だ。

「「「「……………」」」」

「んー?」

 新を除く全員が顔を暗くして黙り込む。

 春華さんや愛美先生からフォローの言葉が出ることはなく、状況を理解できていない新からなにかが出るわけもない。

「え⁉︎え⁉︎わたし、なにかマズイこと言いました⁉︎」

「マズイもなにも…」

 どう説明したものか…

 戸惑う俺は、助けを求めるように愛美先生を見る。

「私たちも、あのうさぎを測りかねている。そう理解してもらえればいいかもしれません。中身、実力、真意。そのほとんどが謎に包まれていますからね。」

 その安心感は絶大だ。

 やはり、最後の最後に頼れるのは、俺たちの愛美先生だ。

「春華さん、あのうさぎについて、綾香さんからなにか聞いていませんか?」

 唯一の欠点といえば、(仕事)(プライベート)で別人すぎることだろうか。

「いつもどおりでいいんだけどな…」

 そんな仕事モード全開の愛美先生に、春華さんは苦笑い気味で答える。

「あーちゃんからはなにも聞いてないよ。訊いても教えてくれなさそうだしね。」

「確かに、綾香さんならありえますね。」

 二人の綾香さんに対する信頼も垣間見えたところで、この話は手詰まりを迎えた。

「いずれ、なにかわかる時が来るかもしれません。今は詮索するのをやめて、気に留める程度にしておきましょう。」

 結局は、「なるようになる」ということだろうか。

『お待たせいたしました。まもなく、沿岸部魔獣掃討作戦の、各種情報伝達を再開いたします。参加者の皆さんは、今一度座席にお戻りいただきますようお願いいたします。繰り返します…』

 綾人によるアナウンスが、スピーカーを通して部屋に流れる。

「時間みたいですね。私たちの動線を確認しにいきましょう。」

「狙撃班は私たちだけみたいだから、忙しくなりそうだね。冬華ちゃん、奏ちゃん、頑張ろう!」

「「はい!」」

 頼もしい狙撃手たちだな。

「俺たちは護衛かー。かなやんや愛美せんせーと組むのは初めてだから、楽しみだなー。」

「そういえばそうか…。新、奏に怪我させたら許さねえからな。」

「とっしーは過保護だなー。まあ、頑張るさー。」

 あまり心配はしていないがな。

「でもなー、どっちかというと暇な時間の方が多くなりそうな感じだよなー。それはつまらないよなー。」

「…………本当にそうだったらいいんだけどな。」

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