表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Final Gift  作者: トキハル
本編
35/49

第32話 ばっくれました

「まったく、俊くんは!」

 天山夫妻が経営する射撃場「ライフリング」。

 そこで出会った立花春華さんの好意で、俺たちは室内100yd(ヤード)レンジを利用することができた。

「新くんにいったいなにを吹き込んでいるのかな⁉︎」

 どうやら、春華さんの目的も、俺たちと同じく得物の零点規正(ゼロイン)だったようで、彼女のアドバイスもあり、冬華の得物である射撃武器(スナイパーライフル)「SR-25」のゼロインは一瞬で終わった。

 ………自分の才能(ギフト)の転化のためとはいえ、いちいち武器をカテゴリー別に分類するのはしんどいな。

「確かに、私はスナイパーライフルが好きだよ!」

 なぜゼロインをするかというと、近々その銃を使う予定があるからだ。

 春華さんのそれは、明日、5月1日から5月3日までの3日間に行われる、旧捌幡浜(はちまんはま)市市街地の魔獣掃討作戦に参加するためだった。

 つまり、これも俺たちと同じだ。

「だから、私がスナイパーライフルマニアなのは認めるよ。認めるけどさ!」

 ちなみに、捌幡浜市というのは、県西部にかつて存在した、漁業を中心とした港町として栄えていた都市らしい。

 しかし、魔獣の出現により行政組織は壊滅、ゴーストタウンと化し、今では県もその地を放棄してしまっている。

「それを人に吹き込まなくてもいいんじゃないかな⁉︎」

 現在では、対魔獣防衛の最前線として、旧捌幡浜市役所を拠点に、国家機関である自衛隊の管轄下に置かれている。

 そのため、かつては魔獣で溢れかえっていた旧市街地も、現在はある程度の安寧が保たれているらしい。

「しかも、よりによって新くんに!」

 だが、毎年ゴールデンウィークの時期になると、魔獣も連休を街で楽しみたいのか、旧市街地に大量の魔獣が押し寄せてくる。

 これに対応すべく、防衛省と委託を受けた県庁により魔獣討伐のアルバイト募集が行われ、毎年の恒例行事となっている。

「私だって、新くんのことは信頼しているよ。友達のことを馬鹿にするような人じゃないってね。」

 ここで重要なのは、このアルバイト、かなり実入りがいいということだ。

 3日間で20万円。

 日給6万円オーバーのアルバイトとは思えない破格の待遇に加え、交通費や宿泊費、食費、弾薬の支給まであるうえに、公機関による募集のため、ある意味ではホワイトだ。

 今回は俺と冬華の2人で参加するから、給料も2人分で40万円。

 これ以上、お世話になった燈花里園の久米夫妻に面倒をかけるわけにはいかない俺たちにとって、この収入はかなり大きい。

「でもね!口の軽さも信頼できちゃうんだよ!なにか訊いたら、口止めでもしてない限りなんでも答えてくれるからね!」

 デメリットを挙げるとしたら、旧捌幡浜市までがやや遠く、旧市街地もそこそこの広さがあるため、移動だけで疲れることは間違いないこと。

 そして、魔獣との戦闘で怪我をし、最悪死ぬ可能性があるところだろうか。

「新くんが知ったことが、1週間も経たないうちにみんなの共通認識に変わることは知ってるでしょ⁉︎」

 俺たちは、春華さんから、作戦機関である3日間、一緒に行動しないかと提案を受けた。

 どうやら現地では、自衛隊の外部顧問チームなる組織の指揮下に入って、3、4人のグループに別れて行動するらしい。

 冬華に、どこの馬の骨ともしれない奴らを近づけるよりは、面識があり、女性でもある春華さんと組んだ方が、俺としても気が楽で、願ってもないことではあるが、作戦前日にそんな希望を出しても通らないのではないだろうか?

「それになにかな?あの『マニア魂が昂る』って表現は?」

 という心配をしたこともあったが、春華さんは外部顧問チームの人と知り合いらしく、直接掛け合ってくれるようだ。

 これで、俺も魔獣狩りに集中することができる。

「昂るに決まってるでしょ⁉︎マニアなんだから!」

 とはいうものの、今回の俺の仕事は、あくまでも狙撃手である冬華と春華さんの護衛。

 基本的には周囲の警戒と、弾薬などの補給のために、兵站班と連絡を取るといったところだろうか。

「昂らない人はマニアじゃないんだよ!どうしてそこがわからないかな!」

 そんなこんなで、いろいろと充実していた、廃墟にしか見えない射撃場から帰ってきたわけだが…

「ねえ!私の話、ちゃんと聞いているのかな⁉︎」

 どうやら俺にも、現実と向き合う時というものが来たみたいだ。

 今のところ、命は取られていない。

 これだけは是が非でも守らなくては…

 そのためなら、俺はなんだってするぜ!

 正直、この手だけは使いたくなかったが、いたしかたない。

 というわけで、作戦名「レッドライディングフード」を実行させてもらうとしよう。

 覚悟するんだな!奏!

「聞いてる聞いてる。お前も明日、捌幡浜に行くって話だろ?」

「全然違うかな!」

「いやいや、違うことはないだろ?だって行くんだろ?捌幡浜。」

「行くけど……、今はッ!」

「もともと行く予定じゃなかっただろ?いったいどうしたんだ?」

「だって、夏先生が勝手に…。じゃなくて!」

「夏先生がどうしたって?」

「だからッ!って、なんで近寄って来るのかな?」

「お前の言葉を一言一句聞き逃さないためだ。」

「そんなに近寄る必要ないよね!」

「お前の目をしっかり見て会話するためだ。」

「近い近い近い!」

「お前に俺の言葉をちゃんと伝えるためだ。続けてくれ。」

「続けるって…、なにを…?」

「そりゃお前、明日の話に決まってるだろ?俺は冬華と、綾音んとこの射撃場で会った、立花春華さんっていう人と、3人で組むことになりそうだ。そっちは?」

「私は、新くんと夏先生の3人で…。って!」

「狙撃班か?」

「私にはそれしかできないからね。」

「狙撃班は、狙撃手2、3人に、護衛が一人っていう編成のはずだが、奏と夏先生で狙撃を担当して、新を護衛として配置するってことか?」

「そうじゃないかな?夏先生は城山で助けてもらった時にも狙撃してたし、きっとなんでもできるんだよ。」

「本当に化け物だな。」

「それで俊くん。」

「なんだ?」

「うまく話を逸らしたつもりでいたり、なんてないよね?」

「俺はそうだといいなと、そう思っているがな。」

「じゃあ、その望みは捨ててもらおうかな。」

「そうか…。そいつは残念だ。」



 ー5月1日ー

 自衛隊の拠点である旧捌幡浜市役所で、俺たちは春華さんと合流した。

 今対魔獣の最前線とは思えないほどまったりとした空気が流れるこの待合室で、俺は、遅れてくるらしい夏先生と、作戦開始時刻の到来を、今か今かと()()()()()()()

 なぜかって?

「なるほどね。それは俊秋くんが悪いかな。」

「そうですよね!春華さんもそう思いますよね!」

「にぃに……」

 答えは簡単だ。

 昨日の一件について、現在進行形で女性陣に吊し上げられているからだ。

「とっしーは、でりかしーがないからなー。」

「お前がそれを言うか⁉︎」

 原因の一端を担っているはずの新はこんな調子で、なぜかあちら側だ。

「あやちーも言ってたぞー。男どもはでりかしーが足りないってなー。」

 ここにはいない綾音までもが、今や俺の敵だ。

「それ、絶対にお前も含まれてるだろ⁉︎」

「そんなことはないかな。今は俊くんだけだよ。」

 味方もいなければ、連座する仲間もいない。

 本当に、世の中は理不尽だ…

「俊秋くん。」

 神妙な面持ちの春華さんに、俺は思わず息を呑む。

「な、なんでしょうか…」

「女の子には優しくしないとね。相手のことを大切に思っているなら、なおさらね。」

「はい……」

「なぜかそういう人に惹かれるんだけどね………」

 最後に小さく呟かれた言葉だけはよく聞き取れなかったが、隣にいる奏だけが深く頷いていた。

 『まもなく、ブリーフィングを開始します。参加者の皆さんは、2階、大会議室までお越しください。繰り返します…』

 待ちわびていた放送が、ようやく流れ始めた。

 欲をいうならば、もう少し早く始めてくれても良かった。

「時間かー。かなやん、どうするー?もう行くかー?」

 奏と新のチームは、最後のメンバーである夏先生がまだ合流していない。

 事前情報によると、今回参加している狙撃班は少数のようで、奏たちに求められる仕事も多いはずだ。

 そんな状況のなかで、重要な戦力である夏先生を抜いた状態でブリーフィングを始められては困る、という気持ちもわからないでもない。

「う〜ん。先生とは合流しておきたいかな。もう少しここで待たない?」

 まあ、奏としては当然の考えだろう。

 一方で、

「そうだけどさー、説明も聞かないといけないんじゃないかー?」

 新にして珍しい、このまともな意見も、奏の意見と同じく的を射ている。

「そうだよね…。どうしたらいいかな…?」

 この奏の発言が、俺たちを不毛な会話へと導いていった。

「奏ねーたちの分も、わたしたちが聞いてくるのはどうかな?」

 最初に提案したのは冬華だった。

 狙撃という同じ領分に住むもの同士、情報伝達に齟齬が生じる可能性は低く、現実的な意見のようにも思える。

「ありがとう。でも、ごめんね。大事なことだから、できれば自分の耳で、直接聞いておきたいかな。」

 しかし、奏の重要な説明の又聞きを許さないという、生徒会長気質な部分がそれをよしとはしなかった。

「二人いるから、奏ちゃんと新くんのどっちかが説明を聞いて、もう一人が、『先生』だっけ?その人を待つのはどう?」

 次に提示された春華さんの案も、奏と新で役割分担をするという、これまた現実的な意見だ。

 役割や、先ほどの奏のこだわりを考えると、奏が説明を聞き、新が待機というのがベストだろう。

「俺は説明を聞く方がいいなー。待ってるだけなのはつまらないからなー。」

「「「「……………」」」」

 おそらく、新以外の全員が、同じ不安を抱いているだろう。

「俺と奏の携帯をビデオ通話で繋いで、ブリーフィングの映像を送るのはどうだ?」

 最後の提案は俺からだ。

 これまでの案がダメなら、もうこれしかないだろう。

「えー。俺が説明きくのにー。」

 これしかないんだよ!

「にぃに、ここって一応、自衛隊の防衛拠点だから、勝手に撮影とかするのは難しいんじゃないかな?」

 それもそうだ。

 どこに国家機密があるかわからないこの場所で、撮影なんかしてたら、ガチムチの怖い人たちにしょっぴかれてもおかしくない。

「ダメか…」

 待合室の扉が開かれたのは、その時だった。

「すいません、お待たせしました。」

 丁寧で、真面目な口調。

 落ち着いていて、安心感のある声色。

 そう、部屋に入ってきたのは…

「…?皆さん?どうかしましたか?」

「「「愛美先生⁉︎」」」

 ということは、まさか…

「あの先生、な…」

「ばっくれました。」

 口調こそ変わらないものの、その声色にはやや怒りの感情が見え隠れしている。

 クイズ王ばりの即答と、威圧感ある笑顔が全てを物語っているようだ。

 きっと、直前になって全てを押し付けられたのだろう。

「あなたは……」

 そんな爆発物に、初対面であろう春華さんが近づいていく。

「お久しぶりですね。春華さん。」

「やっぱり!(まな)ちゃん!久しぶりだね!」

 初対面ではなかったらしい。

「ずっと探していたのに!まさか、こんなところで会えるなんて!」

 しかも、春華さんの尋ね人かよ。

 世間ってのは狭いもんだな。

「…………ん?『春華さん』?それに、その敬語はなに?」

 愛美先生の両手を取って、上下に揺さ振っていた春華さんが、突然動きを止めた。

「………はぁ。」

 ぶつけられた疑問に、愛美先生は、一つ息を吐いてから答えた。

「春ちゃん、今の私はこの子たちの教師なの。立場があるのよ、立場が。」

 それ、俺たちの前で言っちゃダメなやつじゃないですかね?

「それに、春ちゃんが本当に探しているのは、私じゃないでしょ?」

 二人が向き合ったまま、待合室は静寂に包まれた。

 だが、それも束の間、どちらともなくクスッと笑みが溢れ、明るい雰囲気が溢れ出した。

「変わってない!まったく変わってないね!ここに来て一番安心したよ!」

 目に浮かぶ涙を拭いながらそう言う春華さんは、とても嬉しそうだ。

「そんなコロコロ性格が変わったりするわけないかな。春ちゃんも、私も、他の人たちも。」

 どこか宥めるような口調の愛美先生も、それは同じようだ。

「さあ、早く行きましょう。これ以上遅れたら、()()()の相手を永遠とさせられる羽目になるかもだし。春ちゃんも、それは嫌でしょ?」

「うん、そうだね。みんなも行こう!」

 放送が流れ始めてから、はや10分。

 紆余曲折を経て、俺たちはようやく移動を開始した。



 旧捌幡浜市役所。

 現在は自衛隊の防衛拠点となっているこの場所を、全てが始まったこの都市を、私たちは再び訪れている。

「変わってねぇなぁ。ここはよぉ。」

 私の隣に立つ筋肉質の男が、感慨深そうに呟く。

「そろそろブリーフィングが始まるようだけど、私たちは別室(ここ)からリモートで見学することになったわ。」

「そうか!あーちゃんには後で礼を言っとかないとなぁ!」

「そうね。まあ、私たちの仕事はすでに聞かされているわけだけど…」

「俺が市街地側で、そっちが山岳部側だったよな⁉︎」

「ええ。ついでに言えば、あなたは地上班の一つ、F(フォックストロット)チームのリーダー。私は一人医療班ね。」

「なるほどな!まあ、どうにかなるだろ!」

 あなたがリーダーというのは、正直、ちょっと不安なのだけど…

 あーちゃんも、どうしてこの人をリーダーになんかしようと思ったのかしら?

「ちゃんと考えて行動するのよ。勢いだけで押し切ろうとするのは、あなたのいい点でもあるけど、悪い点でもあるのだから。」

「おう!わかったぜ!」

 本当かしら?

「ところで、()()()は、市街地と山岳部のどっちに配置されるんだ⁉︎」

「それは私も聞かされていないわ。狙撃班の配属とは聞いたけど、配置は綾嶺ちゃんが決めたみたいだから、彼女に聞かないとわからないかもね。ブリーフィングで答えが出るのを待ちましょう。」

「そうか…。そうだな!」

 男はなにかを言おうとして、それをそっと飲み込んだ。

 見え透いているあたり、この人らしいともいえるが、その気遣いが、今はとてもありがたいと思える。

「そんじゃ、いつもの()()でもして、どっちに来るか占っておくか!」

 話をすり替えるようにして提案すると、男は腰にぶら下げたホルスターから、回転式拳銃(リボルバー)「S&W M29」を取り出した。

「あなたも好きね。」

「いいじゃねぇか!初詣でおみくじを引くのと同じ、願掛けってやつだ!」

 そう言いながら、ポケットから取り出した真っ黒の薬莢を、1発ずつ回転弾倉(シリンダー)に詰めていく。

 「おみくじロシアン」。

 私たちの友人が作った、才能の無駄遣いでしかない謎アイテム。

 引き金(トリガー)を引くと、発生したガスが特殊な形状の弾頭を抜ける際の空気の振動を利用して、「大吉」、「吉」、「中吉」、「小吉」、「凶」、「大凶」の6種類から、音で使用者の運勢教えてくれる。

 音が止むと同時に、弾頭は燃え尽きる仕様ため、一定の広さがあれば、どこでも撃つことが可能らしい。

 ただし、人に向けて撃つのは厳禁ね。

「ほらよ、先に撃っていいぞ。」

 スイングアウトされた状態のM29を受け取ると、私はシリンダーを回転させる。

 手首のスナップを効かせ、遠心力を利用して回転を続けるシリンダーを銃本体に無理やり押し込む。

 そして誰もいない方向に銃身を向け、トリガーを引いた。

『ショウキチ〜。ガンバレ。』

 間抜けな機械音とも、声音ともいえない音が、私の運勢を伝えてくれる。

「『小吉』か!可もなく、不可もないって感じだな!」

「そう。」

 実際には下から3番目で、すぐ下には「凶」が控えているのだから、あまりいいとはいえない運勢ね。

「そんじゃ、次は俺だな!」

 私が撃った弾を入れ替え、男は同じ要領でトリガーを引いた。

『ダイキチ〜。ヤッタネ。』

 変わらない間抜けな音が、最高の運勢を伝えた。

「お!今日も俺はついてるな!」

 普段からなにかと運がいいこの人は、望みどおりの結果に喜びの声を上げた。

「よかったわね。」

「おうよ!この調子なら、あいつは俺の方に来るかもな!」

「その時はちゃんと見てあげるのよ。私は綾音ちゃんとおしゃべりでもして楽しんでいるから。」

「任せとけ!」

 そうこうしているうちに、部屋に置かれた端末から、(しゅん)君の声が聞こえ始めた。

「ほら、始まったわよ。早く席に着きなさい。」

「おうよ!」

 男は私の隣に腰掛ける。

「なあ、歴。」

「なにかしら?史也。」

「今は今だ。あいつらのためにも頑張ろうじゃねぇか!」

「そうね。わかってるわ。」

おみくじに記載される運勢の序列は、地方や神社によって違いがあるようですが、本作品での序列は次のとおりです。

 大吉>吉>中吉>小吉>凶>大凶

みなさんの最寄りの神社はいかがでしょうか?

時間がある時に調べてみるのも面白いかもしれませんね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ