第30話 まにあだましい?
「一応、用意した銃の基本スペックと、ちょっとした説明を書いたメモを置いてある。そいつを読んで、あとは好き勝手にやってくれ。それでも、どーしても、わからないことがあれば、俺のところに来るよーに。涙を飲んで、一度銃を置いて対応しよーじゃないか。俺からは以上だが、なにか質問はあるかー?」
要約すると、「俺の楽しみをくだらないことで邪魔するな」。
意訳するなら、「あとは奏がどうにかするように」になるのかな。
どっちにしても、責任を押しつけられている気がしてならないけど…
「とりあえずは問題ありません。」
「こっちも大丈夫っすー。」
私たちの答えに、夏先生は満足気にうなずく。
「そんじゃ、始めてくれ。」
そして、その一言だけを残して踊るようにPSG1の元へと向かって行く。
まるでおもちゃ売場ではしゃぐ子供だ。
「かなやーん。早くー。」
それは新くんも同じだった。
「うん、今行くね。」
呆れのような感情が渦巻く中、目の離せない危うさとは別に、そんな姿を可愛らしいと思える自分がいる。
子供の成長を見守るお母さんってこんな気持ちなのかな?
私にはまだわからないや。
「いっぱいあるなー。」
台車に乗ったガンケースは全部で15個。
大きさから察するに、狙撃銃10挺、自動拳銃5挺かな。
それぞれのガンケースには「1」から順に番号がふられている。
一つずつ試していけ、ということだろうか。
「かなやんの方が多いのなー。いいなー。うらやましいなー。」
新くんのが少ない理由はなんとなく察しがつく。
なんたって、数が多いといろいろ大変だ。
主に「管理」とか、「管理」とか、そう、なにとは言わないけど「管理」とかが…
「あははは…。まあ、とりあえず開けてみようよ。」
「おー!」
私たちは、「1」のシールが貼ってあるガンケースに手を伸ばす。
「これは…?」
「封筒だなー。」
ガンケースの中には、当然、銃と弾倉などの付属品が入っている。
一方で、それ以外のものは入る余地すらないと言える。
封筒なんてものはその代表だ。
「これが『ちょっとしたメモ』なのかな?」
「あけてみるかー。」
私たちは封を開け、中身を取り出す。
『拝啓、親愛なる奏様。」
なんだろう、このひどくかしこまった文章は?
遊び心なのか、あるいは、ただ単にからかわれているのか…
その意図はわからないが、どうでもいいから捨て置くことにしよう。
『今回は、2種類のスナイパーライフル。ボルトアクションとセミオートをそれぞれ5挺ずつ用意した。なにが入っているかは、それぞれのガンケースを開けてからのお楽しみってやつだ。』
10挺のスナイパーライフル…
ちょっと楽しみになってきたかな。
『もちろん、対物ライフルは入れていない。あんな漬物石、これ以上必要ないだろう?』
………そのとおりだ。
こういうところは気がきくのに、どうして普段はああなのかな?
『理想は、作戦内容と作戦区域に合わせて銃を選択できるようにすること。ボルトアクションとセミオートを一つずつ調達するといいだろう。すぐに二挺は無理だというなら、とりあえずはセミオートを調達することをオススメはするが、用意したボルトアクションの感覚はつかんでおくように。』
魔獣の駆除が職業として成り立つこの時代、そのための道具である銃の購入に際しては、国から最大で半額分の補助が出る。
それでも、学生にとって大きな出費となることに変わりはない。
とりあえずは夏先生のオススメどおりになるかな…
『「1」から「5」のガンケースにはボルトアクションが入っている。当然知っていると思うが、一般的に、セミオートに比べてボルトアクションは命中精度に優れる一方で、連続射撃には向いていない。単一標的に対する一撃必殺がモットーとなる。』
私の手持ちのボルトアクションライフルは、M200 Interventionだけ。
数あるボルトアクションの中でも、長距離狙撃時の命中精度と威力、そして本体重量に特化した化け物だ。
細かい立ち回りが求められることの多い魔獣駆除の場面においては、取り回しの悪さばかりが目立つ困ったちゃんかな。
でも、そういう子の方が…
「…?かなやん?ニヤニヤしてどうしたんだー?」
「……ううん、なんでもないよ。」
いけない、いけない。
引き締めていかないと。
『このガンケースに入っているのは、豊和工業製「M1500」の.308 Winchesterモデル。魔獣なんてもんが出てくる前から猟銃としての評価は高かったが、ブランド力がないせいで日本では売れなかった悲しき一品だ。今回用意したのは、去年の卒業制作品になる。性能はM1500そのものだが、取り回し面はそこそこ手が入っている。希望するなら同じカスタムを用意することも可能だ。まあ、大切に使ってやれ。』
なるほど、なるほど。
夏先生もなんてものを用意してくれたんだろう。
そこそこ手が入っている?
これはかなり、いや、めちゃくちゃ手が入っている。
被筒はM-LOK方式のものを採用し、軽量化とともに立射時の支えやすさにも一役買っている。
人間工学に基づいて作られたピストルグリップも握りやすいのはもちろん、シボ加工により滑りにくく工夫されている。
信頼と実績のあるPRSストックとHarrisバイポッドにより、伏せ撃ち時の銃の固定に問題はない。
スコープは「TMOA」と呼ばれるシンプルなレティクルのものを採用している。
『そうそう、零点規正は100ydで調整している。』
うん、どれもが私好みに仕上がっているかな。
銃身はもちろんフリーフローティングで、射撃精度は十分に保証されている。
極めつけは、ボルトをストレートプルボルトに換装して、ボルトアクションの弱点である連射性を高めている。
中身はM1500だとしても、外側はもはや違う銃といっても過言ではないかな。
工作精度に定評のある豊和工業と、狙撃手が納得するカスタムを施すまだ見ぬ卒業生の合作ともいえるこの銃。
すでに撃つのが待ちどおしい。
「かなやん、楽しそうだなー。」
夏先生からの文章を読み終えたらしい新くんから、再度声をかけられる。
「そ、そうかな?」
「にまにましているからなー。」
私って、そんなに顔に出るタイプだったのかな?
「あれだー。『まにあだましい?がたかぶるぜー!』ってやつだろー?」
ん?
「なにかな?そのなんともいえない表現は?」
「違うのかー?おかしいなー。かなやんはそうだって聞いたのになー。」
「聞いた」?
つまり、新くんに妙なことを吹き込んだ輩がいるんだね?
「ねえ、新くん。」
「なんだー?」
「さっきの、誰に聞いたの?」
「『まにあだましい』のことかー?」
「そう。」
「とっしーだぞー。」
俊くん。
そう、やっぱり俊くんなんだね。
「かなやんは、スナイパーライフルのことになると周りが見えなくなるって言ってたぞー。そういうのを『まにあ』って言うらしいなー。」
へぇ、いい度胸してるじゃないですか。
これは直接褒めてあげないといけないかな。
「新くん、ごめんね。私、少しだけ席を外すから、先に始めてて。」
「いいけど、どうしたんだー?」
「ちょっと俊くんにメッセージを、ね。」
「そうかー。とっしーによろしくなー。」
試射を始めてから、そこそこの時間が経過した。
射撃場内には、銃声から耳を守るイヤーマフ越しにもわかる、M82A3の銃声が轟いている。
隣の射座では、新くんが銃の取扱説明書とにらめっこしている。
私は、「M1500」から順に、「DSR-1」「MSR」「L96A1」「Ballista」「SVD」「SR-25」「MSG90A2」「G28E2」と、合計9挺の試射を終えたところだ。
夏先生が勧めるだけあって、どれも十分な精度を持ち、取り回しも良く、甲乙つけがたいいい銃ばかりだった。
それもようやく最後の1挺。
「えへへ〜」
私の目の前にあるこの1挺。
「うへへへ〜」
そこそこの重量感。
ウッドパーツの滑らかな肌触り。
特徴的な長方形型のシルエット。
「にへへへへ〜」
放熱性を重視したフルーテッドバレル。
そのバレルへの干渉を最小限にするための吊り下げ式バイポッド。
銃をコンパクトにするためのブルパップ方式。
精度を保証する精密な内部パーツに、ガンオイルの芳しい香り。
「ふへへへへへ〜」
これがWaltherクオリティ。
これが「WA2000」。
ああ、一日中愛でていたい!
寝る時も抱いていたい!
「ぐへへへへへへ〜」
弾倉の準備は万全。
銃もレーンも準備完了。
さぁ!張り切っていこうか…
「またスゲェ顔してるな。」
………へ?
「なんだ?その緩み切った顔は。まったく、お前も大概だよな。」
お楽しみを目前に迎えた私の前に、失礼なことを言う夏先生が現れた。
私からすれば、夏先生の女性の扱いも大概だと思う。
「別にいいじゃないですか!好きなんですから!」
「はぁ…。それを秋に素直に伝えられたらな…」
「それはムリです。」
「自信満々で悲しいこと言うなよ。もたもたしてると他の奴に取られちまうぞ。」
「それはイヤです!誰にも渡しませんよ!というかなんで知ってるんですか⁉︎」
「いや、ほとんどの奴が察しているだろ。わかってないのは秋と、そこで取説に弄ばれてる奴だけだろーな。」
私って、そんなにわかりやすいのかな?
「さて、そんな奏に『良い知らせ』と『悪い知らせ』がある。どっちから聞きたいか選んでもらおーか?」
「…………。『良い知らせ』からお願いします。」
「お前のPSG1が暴発する理由がわかった。」
「…………え?」
わかった?
一流のガンスミスや専門家でもわからなかったのに?
それをこんな短時間で?
「『武具天稟』の能力ってのは、単に武器の扱いに長けた能力というだけではなく、こういう不具合なんかの特定にも一役買ったりするもんだ。なんたって、感覚で操作方法を掴む能力だからな。」
ということは、俊くんに見てもらっていたら、原因がもっと早く判明していたってこと?
「もちろん、それに気づく素養ってのが必要だけどな。」
私の考えを見透かしたように、夏先生が説明を補足する。
いったいどこまで見えているんだろう?
「つーことで、『悪い知らせ』だ。今からその説明をするんで、お前のお楽しみはここで終了だ。」
…………え?
「えぇぇーーーー!」
<桑原奏のM82A3>
・製造メーカー「Barrett (バレット)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「M82A3」、「M107」
・通称「バレット」
・セミオートアンチマテリエルライフル
・ブラックカラー
・装弾数10+1発
・当時中学生だった奏が、某国の軍からのスカウトを断った際に、軍から友好の印として送られた(押し付けられた)品。
・奏自身は一度も使用したことがない。




