第28話 Guilty
済陽学園女子寮201号室。
ここが私、桑原奏の暮らす部屋だ。
燈花里園で暮らしていた3月までは、男子と女子に分かれて、それぞれ大部屋でみんな一緒に寝ていた。
そのためか、一人部屋というのは少しもの寂しさを感じる。
そんなことを考えてしまう今日こと、ゴールデンウィーク初日の4月30日。
私は、夏先生に「所有する全ての狙撃銃を持って」射撃場に来るように言われている。
「重ッ…」
射撃場に行く。
ただそれだけであれば、いたって簡単だ。
5分もあれば辿り着くことができるだろう。
問題は、その荷物の大きさだ。
「むりぃ…」
「インタベ」こと「M200 Intervention」が10kg。
「バレット」こと「M82A3」が14kg。
ある一件以来、一度も使っていない「PSG1」が8kg。
この前手に入れた狙撃仕様のリボルバーハンドガン「MR73」が3kg。
銃だけでだいたい35kg。
これにガンケースや予備マガジンがついて、もろもろの重量は40kgを超える。
とりあえず、長物3挺をまとめてはみたものの…
「ムリぃ…。ぜっ…、たいにむりぃ…」
私の力ではびくともしない。
わかってはいたけれど。
そもそも、これを全部持って来いというのが無理かな。
40kgは重いよ40kgは。
誰かな?こんなに重くしたのは?
もし会ったら文句言ってやるんだから!
「はぁ…。どうしよ…」
このまま愚痴り続けても何も解決しない。
それはこのまま一人で頑張り続けても同じだ。
誰かに手伝ってもらう。
それが一番現実的だろう。
「はぁ…」
端末の画面を見て、何度目かわからないため息をつく。
俊くんは、朝から冬華ちゃんと出かけていて不在。
隣の部屋に住む綾ちゃんは、昨日の夜から部屋に戻っていない。
どうやら外泊届を出してどこかに行っているみたいだ。
最後の頼みである新くんにメッセージを送ってはいるが、返信はきていない。
「でもな〜」
仮に新くんから返信がきたとして、新くんが快諾してくれたとして、その先がない。
女子寮は、原則男子禁制だ。
例外は、共用の1階玄関と談話フロア。
それと、寮監が発行する許可書を持っている場合には、寮内周知のうえで居住区画への入場が許される。
つまり、新くんが来てくれたとしても、私の部屋まで入ることができない。
「私の部屋、なんで2階なのかな…」
一つずつ運ぶというのは避けざるを得ない。
今運んでいるのは銃火器だ。
人だろうが魔獣だろうが、相手の命を刈り取ることのできる兵器だ。
目を離した隙に盗まれたなんて言い訳が許されるわけがない。
せめて寮にエレベーターがついていれば、台車を使って運ぶこともできたのに。
部屋割りを決めた人も、女子寮の設計者も、もし会ったら文句言ってやるんだから!
「誰か信頼できる人は…」
画面をなぞって、登録している連絡先を眺めていた時だ。
「………愛美先生!」
文字どおりすがるような思いで、女子寮の寮監でもある愛美先生に電話をかける。
『もしもし?湊です。』
1コールで電話に出た愛美先生はどうやら外にいるようで、車が走るような音が漏れ聞こえている。
「愛美先生!桑原です!ちょっと困っていて…。今どちらですか?」
『今ですか?「ライフリング」というガンショップに来ています。和泉先生が学校に在庫のない銃弾を使用するとかで、ていよく買い出しを押しつけられた感じですね。』
ガンショップ。
それに学校に在庫のない銃弾。
「えっと…。その銃弾って…?」
『…?「.50BMG弾」と「.408Chey-Tac弾」の2種類です。確かに、威力が大きく、使用する銃も限られているので、学校ではあまり使わないものですね。』
あああああぁぁぁ………
バレットとインタベ用の弾だぁぁぁ…。
「すいません!自力でなんとかします!本当にすいません!」
『えっ⁉︎大丈夫なんですか?急げば20分ほどで戻ることはできますが…』
「大丈夫です!どうにかします!してみせます!お願いですから安全第一で帰ってきてください!すいません!失礼します!」
逃げるように電話を切り、端末をそっと机の上に置く。
もうッ!夏先生は!
「はぁ…」
夏先生が指定した時間まであと10分。
状況は一向に好転しない。
ーピンポーンー
そうして頭を抱えていた時、部屋のチャイムが鳴り響いた。
夏先生への言い訳を考えるのに忙しい時に、いったい誰かな?
「かなやーん。いるかー?」
この声…
それに私を「かなやん」と呼ぶのは…
「新くん?」
扉を開けた先には、想像どおりの人物が立っていた。
「おーす。おはよー。」
「あっ、うん。おはよう。」
ところで、さっきも話題になったけど、ここは女子寮居住区画だ。
男子がここに来るためには、寮監の許可が必要だ。
その入場許可を出す権限を持つ愛美先生は、今ここにはいない。
それは電話で確認済み。
許可が出た場合には必ず行われる寮内周知もされていない。
「ねぇ、新くん。」
「なんだー?」
「愛美先生から許可はもらってる?」
「なんの許可だー?」
「女子寮への立ち入り許可かな。」
「もらってないなー。」
つまりは、不法侵入だ。
いくら人畜無害な新くんでも…
「それはまずいよ!」
「そうかー?今日の朝飯はいいできだと思ったんだけどなー。」
いやいやいや…
「そうじゃないよ!」
「えー、美味しかったのに。白飯、焼き鮭、味噌汁に筑前煮。やっぱ朝は和食だよなー。」
なかなか凝ったメニューだ。
あれ?ちょっと待って…
寮の食堂に筑前煮なんてメニューはないはずだ。
毎日3食食堂の私が言うんだから間違いないかな。
ということは、もしかしなくても…
「新くん。それって自分で作ったの?」
「んー?そうだぞー。」
「全部⁉︎」
「ぜんぶー。」
新くんって料理できたんだ⁉︎
勝手に仲間だと思っていたのに…
「ああー、かなやんは料理ができないんだったなー。」
………………
「そ、そう、かな?」
「大丈夫かー?調子でも悪いのかー?」
料理の調子はいつやっても悪いけど…
「大丈夫大丈夫。体調はね。」
「おおー。やっぱり元気が一番だからなー。」
さて、ここで一つ気になることは…
「ところで、料理のことは誰から聞いたのかな?」
「とっしーだなー。」
なるほど。
なるほどなるほど。
そうですか。
「あー。忘れてたけど時間がないんだー。早く行かないと夏せんせーに怒られるからなー。」
え?夏先生?
「かなやんの荷物はあれかー?」
新くんは私をおいたまま、まとめられた40kgの塊を指さして言う。
「え?え?どういうことかな?」
「んー?聞いてないのかー?」
おかしいなーと首を傾げながら、ようやく事情を説明してくれた。
「今日、俺も夏先生に呼ばれているんだー。それでなー、かなやんの荷物運びを手伝ったら受講料を免除してくれるんだってさー。」
確かに、新くんもガンケースを持って来ている。
中身は言うまでもなく、リボルバーハンドガン「M500」だろう。
基本的に、新くんは嘘をつかない。
いや、正確には嘘をつくという思考自体を持ち合わせていない。
その新くんの今までの言動と行動は一致している。
夏先生に呼ばれていること、私の手伝いをするように言われたことは事実で間違いないだろう。
ところで、受講料ってなにかな?
もしかして、私も請求されるのかな?
「かなやん?」
「あ、うんん。ごめんね。それじゃあ手伝ってもらってもいいかな?」
「おー、任せてくれー。」
そういえば、なにかを忘れているような………
ん〜?気のせい、かな?
<桑原奏のMR73>
・製造メーカー「Manurhin (マニューリン)」
・製造国「フランス」
・正式名称「MR73 Gendarmerie」
・通称「MR73」
・リボルバー式ハンドガン
・ブラックカラー
・装弾数6発
・近距離狙撃仕様で、スコープとバイポッドが装着されている。
・フランス国家憲兵隊治安介入部隊 (GIGN)のアイコニックウェポン。




