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Final Gift  作者: トキハル
本編
30/49

第27話 外見より中身が大事なんだよ!

 今年のゴールデンウィークは、いつもどおりの祝日に加えて、土日、学校側の都合による日程変更が重なり、なんだかんだ4月30日から5月6日までの7連休となった。

 今日はその初日だ。

「にぃに、あとどれくらいで着くの?」

「地図だともう少しのはずなんだが…」

 媛山市郊外。

 俺たち兄妹は、夏先生に紹介されたとある射撃場を目指していた。

 目的は冬華の愛銃である「SR-25」の………

 いや、「射撃武器(スナイパーライフル)」の零点規正(ゼロイン)だ。

 これまで、夏先生と愛美先生の取り計らいで、生徒ではない冬華も済陽学園内の射撃場を利用させてもらっていた。

 しかし、ゴールデンウィークになり、射撃場を利用する生徒が増えたことで、もともと部外者の冬華が利用することが難しくなった。

 そこで、代わりとなる射撃場を紹介してもらったというわけだ。

「ここだな。」

 そのはずなんだが…

「ねぇ、にぃに。」

「なんだ?」

「本当にここなの?」

 ………………

「悪い。自信ない。」

 目的地に着いたはずの俺たちの前には、確かに建物らしきものが建っている。

 だが…

「ボロボロだね。」

「そうだな。」

 「廃墟」という言葉が似合う建物。

 その壁には店の名前だろうか、文字らしき形跡があるが、かすれてしまって判読不能だ。

 そんな外観には似合わない比較的新しい入口のドアには、「営業中」と書かれた看板がぶら下がっている。

「銃声も聞こえるし、人はいるだろう。」

「とりあえず入ってみる?」

「ああ。」

 こうして、俺たちは廃墟のドアを開いた。

 取り付けられたベルがカランカランと鳴り、

「いらっしゃいませ〜!」

 俺たちは元気な女性店員に出迎えられた。

「………え⁉︎」

 内装はめちゃくちゃキレイだとか、割と防音性が高いとか、言いたいことはいろいろあるが、一番の問題はこの女性店員。

「冗談だろ?」

 なぜか最近よく会うあの人にそっくりだった。

「みぃねー⁉︎」

 いやいや、よく考えるんだ。

 これは本当に綾嶺さんなのか?

 最初に会った時、綾嶺さんは綾音に変装していた。

 俺たちが知らなかっただけで、もしかしたら天山家の人間はそういう趣味をお持ちなのかもしれない。

 つまり、今目の前にいるのは綾嶺さんに変装した綾音…

 ………そんなわけないか。

 だが、もしそうだと考えるといろいろとおもしろい。

 あのぶっきらぼうで、毒舌家の綾音が、ある部分に詰め物を入れて膨らまし、明るく元気に振る舞っている。

「ふふ、ははは…」

 そう、あの綾音が。

「あははははは!」

「に、にぃに⁉︎どうしたの⁉︎大丈夫⁉︎」

「む〜。よくわからないけど、失礼なこと考えてるでしょ〜。」



「先ほどは申し訳ありませんでした。」

 笑いのツボにハマり自爆した俺は、ようやく落ち着きを取り戻した。

「む〜。」

 自らの行動を振り返り、とりあえず謝罪する俺に、綾嶺さん(仮)は、腕組み膨れっ面で不満をあらわにしている。

 だがしかし、正直なところ、凄みのようなものは一切なく、小さい子が見栄を張っているようにしか見えない。

「次はないからね〜!わかったかな⁉︎」

「はい。」

「ならいいよ〜。」

 しかも、俺をあっさりと許し、眩しい笑顔を返してくれる。

 なんというか、妹的な愛嬌を感じる。

 なんて口にすると、今度は冬華の反感を買いそうなので黙っておこう。

「それじゃあ〜、改めまして…。ようこそ!射撃場『ライフリング』へ!あーちゃんは〜、天山(あまやま)綾香(あやか)だよ〜!ここの店主の一人なんだ〜。気軽に『あーちゃん』って呼んでくれると嬉しいな〜。二人ともよろしく〜!」

 そんなわけで、俺たちはこの店員さんの名前を知ったわけだが…

「あまやま…、あやか…、さん?」

「そうだよ〜。でも、『あーちゃん』って呼んで欲しいな〜。」

「えっと、その…。じゃあ、『綾香さん』で…」

「『あーちゃん』って呼んで欲しいな!」

「せめて『あーさん』で…」

「む〜。仕方ないな〜。」

 妙に自分の呼び名にこだわる人だが、俺たちが一番気になっているのはそこではない。

「あーさん。質問してもいいですか?」

 先に踏み込んだのは冬華だった。

「うん!いいよ〜。」

「あやねー。『天山綾音』お姉ちゃんをご存知ですか?」

 あーさんの外見は、ある一部を除いて綾音そっくりだ。

 綾嶺さんに瓜二つと言い換えることもできる。

 加えて、「天山」という姓に、「綾香」という名前。

 何らかの繋がりを疑わない方が不自然だろう。

「もちろん!知ってるよ〜。」

 綾音が自分のことを話すことは少ない。

 そこそこ長い付き合いの俺たちでさえ、つい最近まで姉弟がいたことすら知らなかったほどだ。

 だから、それが今更四人になろうが、五人になろうが、俺は驚かないぜ。

「『みーちゃん』と『おーちゃん』。二人の「あやね」は、あーちゃんの可愛い娘だからね〜。」

 なるほど、二人は娘だと…

「「娘⁉︎」」

「そうだよ〜。」

 綾香さんの衝撃発言に、俺も冬華も現実をすぐには飲み込めなかった。

「つまり、綾音のお母様でいらっしゃる…?」

「お母様なんて、照れちゃうな〜。」

 両手を頬に当て、照れ隠しなのか体をクネクネと揺らしているこの人が、あやねーズの母親。

「お姉さまとかではなく…?」

「うん、違うよ〜。」

「なんというか、その…」

「お、お若いですね!ビックリしちゃいました!」

 冬華が、たじろぐ兄のフォローをする。

「えへへ〜。そうでしょそうでしょ〜?まだまだピチピチだからね〜。」

 困ったことに、「発言が若くない」とはとてもじゃないが言えない雰囲気だ。

 大学1回生の綾嶺さんの母親であることを考えると、若く見積もっても年齢は45くらいだろうか。

 見た目は綾音と同じぐらいにも見える…

 そもそも、綾音自体が年相応の見た目をしていない。

 見かけで判断するなとはよく言ったものだ。

「ところで〜、君たちは何者かな〜?学生さんみたいだね〜?おーちゃんのことを知ってるみたいだし〜、済陽の子かな〜?あっ、済陽の子はうちには来ないか〜。じゃあどこの子かな〜?」

 俺たちに質問しているのか、自問自答しているのかわかりにくい。

 しかも、割り込むスキがない。

「それに〜、二人の関係も気になるな〜。そっちの子が『にぃに』って言ってたから〜、兄妹なのかな〜?それとも〜、近所に住んでる歳の差幼馴染カップルとかかな〜?あーちゃん気になるな〜。」

 さすがは射撃場の店主というところか、トークも射撃武器(マシンガン)級だ。

「俺たちは兄妹で、俺は済陽、妹は椿原の生徒です。あっ、これ紹介状です。」

 そう言って、俺は夏先生から預かっていた紹介状を手渡す。

「なんだ〜、済陽の子か〜。おーちゃんの同級生とかかな〜?」

 「おーちゃん」は綾音のことだよな…

「そうです。」

「ってことは〜、『俊秋』くんか、『筋肉』くんのどっちかかな〜?」

「俺は…」

「ちょっと待って!あーちゃんが当ててみせるよ〜!」

 忙しい人だな。

 このあたり、綾嶺さんに通ずるところがある。

 これが親子なのだろうか…

「確か、筋肉くんは一人っ子だよね〜。妹ちゃんがいるってことは…。キミは俊秋くんだね〜?」

「………正解です。」

「ということは〜、そっちは冬華ちゃんだね〜?」

「はい!よろしくお願いします!」

「うんうん!よろしくね〜!」

 入店から自己紹介までにいったい何分かかったのか。

 まあ、冬華が楽しそうだからいいか。

「それじゃあ、ここに用事があるのは冬華ちゃんの方かな〜?」

「………?どうしてわかったんですか?」

 見透かしたような綾香さんの言葉に、冬華が疑問を投げかける。

「わかるよ〜。済陽には射撃場があるから〜、わざわざここに来る必要ないよね〜。」

 それもそうだ。

 そもそも、俺たちは済陽の射撃場が使えないからここに来たわけだしな。

「済陽の子もホントたま〜〜〜に来るけどね〜。でも、紹介状を持ってきたのは二人が初めてだよ〜。」

 綾香さんは封を開け、中身を取り出す。

「送り主は誰かな〜?まなちゃんかな〜?」

 まなちゃん?

 また新しい名前が出てきたが…

 響きからして愛美先生のことだろうか?

 綾音の副担任でもあるし、綾嶺さんが在学していた時に知り合っていてもおかしくはないが…

 なんだかそれ以上に親しい関係のような感じだ。

 残念ながら、この紹介状は夏先生のものだけどな。

「およ?」

 二つ折りになった紙を広げた瞬間、綾香さんがなにか驚いたような顔になる。

 なにが書かれていたのだろうか?

 それとも、また夏先生がなにかやらかしたのか?

「ど、どうかしたんですか?」

「うんん〜。なんでもないよ〜。」

 まるで何事もなかったかのように返されるのが一番不安を煽る。

 何もお咎めはないということなのか、あるいは()でお呼び出しされるオチなのだろうか。

 そのときは、ことの成り行きを大人たちに任せるとしよう。

「それじゃあ二人とも、この書類にカキカキしちゃってよ〜。」

 綾香さんが取り出したのは、『射撃場利用申込書』と書かれた書類だ。

 氏名、住所、生年月日、年齢、電話番号、職業。

 どこにでもあるような記載事項を、俺たちはスラスラと埋めていく。

 しかし、

「二人は未成年だから〜、ここの欄もカキカキしてね〜。」

 指されているのは「保護者」欄。

 そう、俺たちには埋めることのできない項目だ。

「……………」

「……………」

 冬華が助けを求めるようにこちらを見る。

 去年までなら、俺たちは燈花里園の園長である、「大きい先生」こと久米(くめ)涼夜(りょうや)先生の名前を書いていただろう。

 だが、俺たちはすでに燈花里園を出た身。

 大きい先生の名前を書くわけにはいかないだろう。

 とはいうものの、代わりに書ける名前があるわけでもない。

「およよ〜?」

 そんな俺たちの様子を見ていた綾香さんに、あらぬ疑いをかけられる。

「二人ともどうしたのかな〜?あっ!そうか〜!ご両親は某国のスパイなんだね〜?それともそれとも〜!国際超A級スナイパーかな〜?それは素性を明かせられないよね〜。」

 どこかの漫画や映画でありそうな設定が、まだ見ぬ両親に追加されていく。

 まあ、そんなものがいるのはフィクションの世界だけだ。

 もし仮にそうだったとしても、子供の面倒ぐらいしっかり見て欲しいものだ。

「わたしたち、燈花里園っていう孤児院で育ったんです。だから保護者と呼べるような人がいなくて…」

「燈花里園?」

 孤児院のことなんて普通知らないよな。

「そっか〜、二人はりょーちゃんとこの子でもあるんだね〜。」

 りょーちゃん?

「大きい先生をご存知なんですか?」

「へ〜、子供たちにはそう呼ばれているんだね〜。懐かしいな〜。」

 懐かしい?

 昔のことを思い出したかのような口ぶりに、やや疑問を覚える。

 大きい先生も綾香さんも、そこまで年齢差があるとは思えない。

 それに大きい先生の教え子という線はないだろう。

 ならどうして…?

「久米涼夜って言った方が間違いなかったかな〜?」

「あっ、大きい先生の名前だ。」

「りょーちゃんは銃整備士(ガンスミス)でもあるからね〜。腕もいいから、この業界ではわりと有名人だよ〜。」

「そうなんだ…。にぃに知ってた?」

 そういえば、姿を見ない日も結構あったな。

「いや、知らなかったが…。そういわれると納得できるような気もする。」

「そうでしょそうでしょ〜。」

 胸を張る綾香さんは、どこか誇らしげだ。

「でもでも〜、燈花里園の子なら、りょーちゃんの名前をカキカキすればいいんじゃないかな?」

「俺たちはもう燈花里園を出た身ですので…」

「出たといっても、関係が切れたわけじゃないでしょ〜?子供は大人に頼るもんだよ〜。」

「これ以上ご迷惑をおかけするわけには…」

「むむむ〜、強情だな〜。りょーちゃんなら気にしないと思うけどな〜。」

 そう言われても、俺たちだって譲れない一線がある。

 大きい先生たちには、すでに返し切れないほどの恩がある。

 だからこそ、次は俺たちがその恩を返していく番だ。

 子供も大人も関係ない。

「でも〜、ここをカキカキしてくれないとあーちゃんも困っちゃうな〜。」

 それを言われると俺たちも弱い。

 プライドを貫いた結果、射撃場を利用できないのであれば本末転倒だ。

 妥協を迫られる俺たちに、綾香さんが一つの案を提示した。

「そうだ!りょーちゃんがダメなら、現在進行形で迷惑をかけている人の名前をカキカキすればいいんだよ〜!」

「え?」

「それは…?」

 いったい…?

「そうと決まればカキカキしよ〜よ!」

 誰なんだ?

「『和泉俊夏』ってね!」

<和泉冬華のSR-25>

・製造メーカー「Knight's Armament Company (ナイツ アーマメント)」

・製造国「アメリカ」

・正式名称「SR-25」

・通称「SR-25」、「にこちゃん」

・セミオートスナイパーライフル

・ブラックカラー

・装弾数20+1発

・各種パーツがM-LOKハンドガード、PRSストック、P-MAGなどに換装されている。

・冬華がフルオート機構をつけようと画策したことがあったが、俊秋により阻止されている。

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