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Final Gift  作者: トキハル
本編
3/49

第1話 始まりは気だるげ教師と共に

 チャイムの音が鳴り響く。

「起立、礼。」

 委員長の号令と共に、高校生になって初めての授業が始まる合図を告げる。

「諸君、昨日は入学式お疲れさんだったな。そんでもって、今日から早速授業だ。めんどくせー限りだが、張り切っていくとしよーじゃないか。」

 俺らが所属する1-3HR(ホームルーム)担任でもある(なつ)先生は、()だるげに続ける。

「ってもなー、最初の授業なんて中学の復習みたいなもんだからなー。やる意味あんのかね?」

 入学初日から感じていたが、この人大丈夫なのだろうか?

 聞くところによると、生徒からの人気や評価は高い一方で、他の教師や生徒の保護者からのそれはあまり良くないらしい。

 この言動を見れば納得できる気もするが…

「まあいい、始めるとしますか。教科書6ページだ。開けー。」

 紙をめくる音が教室中にこだまする。

 それらが鳴り終わるのを待って、夏先生は再び口を開く。

「そこにあるよーに、最初にやんのは君ら全員が持っている『能力(アビリティ)』についてだ。知っての通り、能力(アビリティ)ってのは、後天的に、いわゆる努力と呼ばれるなにかによって形成される『技能(スキル)』と、それ以外の要因で身につく『才能(ギフト)』。この二つの総称になる。」

 中学の復習ということもあってか、夏先生は板書も何もせず、淡々と教科書を進めていく。

技能(スキル)才能(ギフト)はともに、その性能に応じて、別格の最高位であるSランクを含め、上から順にAからGまでの計8段階で評価される。一般的に、保有する能力(アビリティ)のランクと、その人間の評価は比例関係にある。世間で認められるのはDランクあたりからだな。持っている奴は少ないが、Sランク能力(アビリティ)が一つでもあれば、そいつの人生は間違いなく安泰だ。」

 一拍おいて、夏先生は首をかしげながらつぶやいた。

「そのはずなんだよなぁ…」

 夏先生は10個のSランク能力(アビリティ)を保有している。

 正直、化け物としかいいようがない。

 探すまでもなく、もっと条件の良い働き口が無数にあったはずだ。

 いったいなぜ、こんなところで教師なんてしているのだろうか?

「このクラスにもSランクの保有者がいるが、人生なにがあるかわかったもんじゃねーぜ?舐めてかかるのはオススメしねーな。」

 その口ぶりから察するに、夏先生の人生には()()()があったのだろう。

 この戒めをクラスで唯一受ける身としては、まったくの他人事ではいられない。

「それから、高位ランクの能力(アビリティ)なんて持ってねーよという諸君。その年齢で悲観的になるのは早いぜ?鍛えれば技能(スキル)のランクは上げれるし、才能(ギフト)技能(スキル)()()させることができる。」

 技能(スキル)とは、夏先生も言っていたように後天的に身につくものだ。

 そのため、生後に人が行う行動と関連性が強く、能力を伸ばすべく努力することによってランクが上がることがある。

 一方で、才能(ギフト)の多くは先天的な、文字通り生まれ持っての才能になる。

 ただ、例外的に、才能(ギフト)技能(スキル)へと変化することがある。これを『転化』という。

「特に、才能(ギフト)の転化には宝くじ並みに夢があるからな。」

 才能(ギフト)が転化すると、まるで空白になった才能(ギフト)を埋めるかのように、新たな才能(ギフト)が発現する。

 もし、新たに発現した才能(ギフト)がSランクだったら…

 そんな可能性を夢見て、誰もが一度は努力をする。

「っても、投資額が高い割に、見返りが少ない場合がほとんどだけどな。」

 転化の条件はただ一つ。「自身が持つ才能(ギフト)と同じランクの技能(スキル)を一から作り上げる」ことだ。

 才能(ギフト)という土台がある分、本当に一から技能(スキル)を築いていくよりは簡単という人もいるが、それでも転化に必要な努力は計り知れない。

 保有する才能(ギフト)のランクが高ければ、それはより顕著に表れる。

 中でも、最高位たるSランクの才能(ギフト)は、現実的に転化すること自体がほぼ不可能であることから、『才能の限界(リミットギフト)』や『最後の才能(ファイナルギフト)』とも呼ばれている。

 また、やっとの思いで転化にこぎつけたとしても、新たに発現する才能(ギフト)が高位のものであるとは限らない。

 幾度となく発現する低位才能(ギフト)を転化させ続けるという、一種のループ状態に陥ることも珍しくない。

 そのためか、才能(ギフト)の転化を諦め、自暴自棄なった世捨て人も存在する。

「まあ、せっかく高校(ここ)まできたんだ。やることやってから燃え尽きよーぜってことだ。」

 燃え尽きたらダメなのでは?

「これはちょっとした豆知識だが、それぞれの能力(アビリティ)は相互に影響を与え合うことがわかっている。例えば『博識(ヴィッセン)』の能力(アビリティ)を持っているなら、『数学(マスマティックス)』や『化学(ケミストリー)』といった各種学術関連の能力(アビリティ)を伸ばしやすい。その逆も然りだ。自分の能力(アビリティ)構成を見直して、今後の方針を決めるのもいいかもな。」

 教科書をなぞっていくだけかと思っていたが、そこには載っていない情報もこうしてカバーしている。

 割としっかりした先生なのか?

 いや、まだ入学して2日だ。判断するには情報が少なすぎる。

「そんじゃ、次にいきますか。教科書めくれー。」



「さて、何か質問はあるかー?」

 授業終了まで残り5分を切った頃。

 夏先生からの問いに対して、生徒たちは静まりかえることで答えた。

 しかし、この反応が不服だったらしい夏先生は、ため息混じりに

「あー、わかってた。こーなることはわかってたさ。」

 そう言うと、

「入学して間もないからな。仕方ないよーな気もするんだが…」

 俺たちの事情も考慮しつつ、それでもこう言い放った。

「まあ、教師(俺の立場)としては、やりにくい限りだ。」

 だって、質問なんてないんだもの。

「なくても反応ぐらいしろ?」

 え?心を読まれた?

 いや、偶然タイミングが被っただけか…?

「別に、小学生みたいに大きな声で返事しろとか言うつもりはねえ。首を縦か横に振りさえすれば終わる話だ。とりあえず、この1年で問いかけには反応できるよーになってくれ。どこにいってもコミュニケーションは大事だからな。」

 そんなこんなで、今年度最初のクラス目標が設定された。

「次の授業は数Iだったか?普通の科目も赤点を取らない程度には頑張ってくれよ?」

 その言葉を言い終えるのを待っていったかのように、二度目のチャイムが鳴り響く。

「そんじゃ、終わりにしよう。委員長!」

「起立、礼。」

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