第25話 あいつもこいつもそいつもどいつも
「『組み分け』の大まかな説明は以上です。次の時間は、班に分かれて活動してもらいます。お互いの才能の性質、転化に向けた方針を話し合ってまとめてみてください。それでは班分けを言いますので、休み時間の間に机を寄せ合うなどして、話し合いの準備をしておいてください。」
そんなこんなで2限目。
本日最後の授業。
集まった班員はというと…
「とっしー、あやちーに、かなやんも、よろしくなー。」
いつものメンツだった。
「ああ。」
「ええ。」
「うん。」
「みんな元気ないなー。どうしたんだー?」
「むしろ、筋肉がそこまで元気な理由を知りたいわね。」
「まあ、いつもの連中だし、代わり映えしないからな。」
「ええー。いつもどおりだからいいと思うんだけどなー。かなやんもそう思わないかー?」
「……。えっ⁉︎ああ、うん、そうだね!」
班に分かれてから気づいたが、奏の様子がおかしい。
なにかこう、集中しきれていないというか、ほかのことに気を取られて、心ここにあらずといった様子だ。
「奏、大丈夫か?」
「う、うん。私は大丈夫だよ…。」
「ならいいんだが。」
一応、気に留めておくか。
「では、各班で話し合いを始めてください。私と和泉先生は、それぞれ班を順番に回っていきますので、疑問点などあれば、遠慮なく質問してください。」
班活動開始の号令とともに、教室全体が騒がしくなる。
「さあ、綾たちも始めましょう。」
「そうだなー。」
「まずは、才能の性質を洗い出すところからだな。『武具天稟は武器の取り扱いに長けた能力』みたいな感じに。とりあえず、全員の才能を確認しておくか。」
「そうね。綾の才能はCランクの『要人警護』よ。」
「俺はBランクの『転写』だなー。」
「…………」
いまだに奏の心は、ここにはいないようだ。
「奏?大丈夫かしら?」
「あっ、うん。ごめんね。私はAランクの『狙撃手』と『博識』だよ。」
だが、奏がなにを気にしているのかはなんとなく見当がついた。
「才能が二つ。しかも、両方Aランク。いつ聞いても羨ましいわね。」
「それは…」
奏は二つの才能を持っている。
それは奏自身のポテンシャルの高さを証明するとともに、他者からの羨望と憎悪の対象になることも意味していた。
『あいつ、ちょっといい才能を持っているからって調子に乗りやがって。』
『先生にも気に入られて、恵まれている奴はいいよな。』
これまでにも、こんな感じの隠す気のない陰口を叩かれることは日常茶飯事だった。
なかには、一線を越えて、イジメともいえる嫌がらせをしてくるような連中もいなくはなかった。
それらに触れるたびに、奏は傷つき、俺たちはあの手この手でフォローして回った。
奏には優しく、そして敵には容赦も慈悲無く、狡猾に、な。
「……ごめんなさい。綾が悪かったわ。」
だが、今の奏が気にしていることは自身の才能や過去についてではない。
「うんん、私こそごめんね。綾ちゃんにはいっぱい助けてもらったし、そういう人じゃないってわかってるから。」
「……それは、………どうかしらね。」
消えいるような声で発せられた言葉は、俺たちに届くことはなかった。
だが、誰も聞き返すようなことはしない。
そう、本当に様子がおかしいのはこの綾音だ。
「なーなー、それでどうすればいいんだー?」
なんとなく止まっていた会話と、妙に重たい空気を新が更新する。
こういうときに口火を切るのはいつもこいつだ。
その陽気さに、臆面のなさに何度助けられたかわからない。
「全員分を同時進行ってのは難しいから、一つずつ潰していくか。っても、俺のは夏先生たちが終わらせたようなもんだし、3人で順番を回そうぜ。」
「綾は最後でいいわ。待ちきれないようだし、筋肉からでいいんじゃないかしら?」
口ではこう言っているが、今日の綾音はなんとなく生き急いでる感がある。
「そうだね。私もそれでいいよ。」
「おおー、ありがとなー。」
「お礼はいらないわ。それよりも、さっさと才能の性質を考えていきましょう。」
この発言なんかは典型例にも思える。
気にはなるが、ここはいったんスルーだ。
「『転写』の性質か…。新はどういう理解をしているんだ?」
「んー?『人のモノマネをする能力』だなー。」
確かに、そんなところだろうな。
新はこの才能を使って、他人の技をコピーし、自分の戦闘に生かしている。
コピー元が多いのも特徴で、対象が現実に存在している必要もない。
新がよくアクションゲームやロールプレイングゲームをしている理由の一つだ。
それゆえに、型にとらわれず、状況に応じた選択肢が多いことが最大の長所ともいえる。
新の場合、頭を使わずに、感覚で行動選択することがほとんどではあるが…
「ちなみに、姉さんが『模倣』という似たような技能を持っているわ。」
「おー、そうなのかー。」
もちろん初耳だが、これで一つわかったな。
「俺たちが綾嶺さんに最初に会った時、綾音みたいな声色や口調で登場したが、そういうことか。」
「なるほどー、技能を使っていたんだなー。」
さすがの新でも、これは察したようだ。
「姉さん、そんなことしていたの?これは後で問い詰めるべきかしら?」
「そういえば、俊くんの声マネもしていたような…」
「とっしーの部屋に行った時だなー。」
「まあ、それのことよ。筋肉の才能も姉さんの技能も、性質自体は似ていると思うわ。でも、別々の能力として存在している以上、この二つには明確な違いがあると考えるべきではないかしら?」
綾音の言うことにも一理ある。
問題は、この二つの能力は、なにがどう違うのか。
他人の「モノマネ」をする能力。
「転写」と「模倣」の違い。
「転写」と「模倣」の性質の違い。
「辞書でも引けば、なにか掴める…、か?」
「言葉の意味を調べて、そこからヒントを得ようということかしら?」
「『性質が異なるから違う名前をつけた』ってことなら、逆に言葉の意味の違いから性質を見極めることもできるんじゃないかと思ってな。この考え、どう思う?」
「んー?」
「そうね…」
俺の意見を吟味する綾音に対し、奏が素早く答えを出す。
「なにがきっかけになって問題が解決するかわからないし、行き詰まっていて、目の前に取り返しのつかなくなるようなリスクが存在しない方法があるなら、それを試すことに躊躇する必要はないと私は思うかな。」
奏の言葉に背中を押されて、綾音も賛同した。
「それじゃあ辞書を引くかー。図書室にあったよなー?分厚いのー。ちょっと取ってくるなー。」
「あっ、私、電子辞書持ってるよ。これ使って。」
「おおー、ありがとなー。」
奏から電子辞書を受け取った新が、検索を始める。
「てんしゃ、てんしゃー。これかー?読むぞー。『こよみちゅうの一つ。天がすべての罪を許すとされる吉日。何事をするにもよいという日』だってさー。」
???
「いったいなにを調べているのかしら?」
「んー?『てんしゃ』だぞー。」
「もしかしなくても、『天赦日』の『天赦』じゃないかな?」
「全然違うじゃねえか⁉︎」
「そうね。いいかしら筋肉、ここは『こよみちゅう』じゃなくて『暦注』よ。」
「おー、そうなのかー。」
「いや、そこじゃねえよ!つか、なんでお前ら『天赦日』に詳しいんだよ!」
「詳しいもなにも、常識じゃないかしら?綾からすれば、あなたが知らないことの方が不思議だわ。」
「……俊くん。」
学力でこの二人に勝てた覚えはないが、「天赦日」ってのは一般教養レベルなのか?
初めて聞いたぞ。
「あー、もう、降参だ。これ以上は勘弁してくれ。」
あとで調べておくとしよう。
「新、とりあえずそれは違うから、別の『てんしゃ』を頼む。」
「ならこいつかー?『文章、絵、図などをそのまま他に写しとること』だってさー。」
「うん、それだね。」
「次は『模倣』ね。筋肉。」
「ちょっと待ってくれなー。もほう、もほう、っとー。出たぞー、『他ものをまねること。似せること。』だってさー。」
これでピースは出揃った。
あとは適切な形に組み替えることができれば、パズルは完成。
この二つの能力の性質の違いは解明され、転化方針を決める一歩に繋がる。
はずなんだけどな…
「手詰まり、ね。あまり時間もないのに、どうしたものかしら?」
やはり、今日の綾音は時間に追われているようだ。
「俺の後回しにするかー?ダメそうなら夏先生に聞けばいいからなー。」
「いいんじゃないかしら?綾はありだと思うわ。」
俺も選択の一つとしてありなのではないかと思い始めていたとき、奏の力のこもった説得が始まった。
「ちょっと待って!煮詰まっているのは確かだけど、もうちょっと考えてみない?先生に頼るのは最後にした方がいいと思うの。」
「それもそうかもなー。」
「でも、筋肉や綾のはもちろん、あなたの才能2つだって難敵よ?時間は限られているのだから、合理的に進めていくべきではないかしら?」
「それはあくまでも授業時間の話だよね?仮にこの時間内に終わらなかったとしても、納得のいくまで続ければいいんじゃないかな?」
ややギスギスとした押し問答のなか、現れたのはやはりあの人だった。
「へぇ、いい目のつけどころじゃないか。」
奏がノートにとっていたメモを見ながら、夏先生は続ける。
「それで?言葉の意味を調べて、お前らはどー考えたんだ?」
夏先生からの問いに、俺たちは顔を見合わせた。
「意味を調べたところで詰まっていたわ。」
「へ?」
思わぬ回答に、夏先生がすっとんきょうな声をあげる。
「あまりにも出口が見えなさすぎて、いったん保留にしようかと議論していたところよ。」
「そいつはもったいないな。答えは半分以上見えているよーなもんなのによ。」
そう言いながら、夏先生は不敵な笑みを浮かべる。
「なあ、新。調べた内容は覚えているか?」
「覚えているっすよー。」
「それはまったく同じ内容だったか?」
「違ったっす。」
「どこが違うんだ?」
「んー。『転写』は『写しとること』で、『模倣』は『似せること』だったすねー。」
「まだ足りないな。『写しとること』と『似せること』の違い。そこが重要だ。」
「んー?」
夏先生から続けざまに出される質問に、とうとう新の処理性能が限界を迎えた。
「んー。んんー?んー。んー。んんー。」
「おいおい、大丈夫か?」
首を四方にかしげながら唸るだけの新に、夏先生も頭を抱える。
夏先生は、答えをそのまま教えるのではなく、ヒントを出しながら生徒を答えに導くタイプの先生だ。
自分で答えに辿り着くことにより、単に答えを教えられるよりも思考力を鍛えることができ、また記憶にも残りやすい。
自分で答えに辿り着いたという経験も、生徒が自信をつける一助となる。
だが、新を答えに導くにはより多くの手助けが必要になる。
いつもどおりであれば、綾音が役割を担うことの多い事案ではあるが、今日に限っては…
「『写しとること』は『同じものを作ること』、『似せること』は『同じようなものを作ること』って解釈したらどうかな?」
奏が担当している。
「なかなかいい答えだな。『転写』は『対象の本質を完全にコピーする』能力で、『模倣』は『対象のみてくれだけをコピーする』能力だ。つまり、対象の本質をコピーできるかどーかが、この二つの能力を分けるポイントになる。」
「おおー。」
解説に対する新の反応に、夏先生は不満を隠さずに言う。
「『おおー』じゃねーよ。こっから転化方針を考えてもらわねーとな。」
「てんかー。てんかかー。」
夏先生に促されて転化方針を考える新が、ふと思いついたらしい疑問を夏先生にぶつける。
「なー、夏せんせー。『転写』と『模倣』って、どっちがスゴイんすかー?」
これに思わぬ食いつきを示したのは綾音だった。
「それは綾も気になるわね。」
夏先生にとっても予想外だったのか、やや訝しげにこう返した。
「逆に訊くが、お前らはどー思うんだ?」
そう、まさかの逆質問だ。
「例えば、二つの能力が同じランクだと仮定して、俺が目の前でなんらかの技を使ったとする。完璧にコピーできるのはどっちだと思う?」
「転写」と「模倣」の性質を考えれば、それは考えるまでもなく…
「『転写』っすかー?」
「正解だ。」
俺たちは、技の入り方、タイミング、振り抜く方向や角度、さらに力の入れ方に至るまで、意識無意識は別として、多くのことを考えながら刀を振っている。
だからこそ、他人の技の再現はかなり難しい。
それを可能にしうる、「本質を完全にコピーする」能力と「みてくれだけをコピーする」能力の二つの能力。
どちらがより高い再現度を達成できるかといえば、やはり前者になるだろう。
だが、この明快な答えに難色を示す者がいた。
「『模倣』では『転写』に勝てないということかしら?」
綾音だ。
「どーしてそー思うんだ?」
問いに対して、綾音は自分の考えを述べる。
「簡単な話よ。『転写』は本質ごと完全にコピーできる。能力ランクによる程度の差はあれど、あなたの剣術を再現できるほどにね。でも、姉さんの話を聞く限り、見た目だけをコピーする『模倣』にそこまでの能力はないはずよ。せいぜい人の声真似をするのが精一杯ってとこかしら。」
「そーかもしれないな。」
そして夏先生は、これをすんなりと肯定した。
「なあ、新。お前、俺や秋の声マネってできるか?」
「んー?試してみるっすかー?」
夏先生からの無茶振りに、新は嫌な顔一つせずに応えた。
「『よう、かなやん。俺、とっしー。』」
「似てないかな。」
「そっかー。」
「ちなみに、綾音や奏はいけるか?」
「『よう、あやちー。私、かなやん。』」
「似てないわね。」
「そっかー。」
一言で感想を申し上げるならば、多少声色を変えただけのそのまんま新だった。
「さて、こーなったわけだが…。綾音、新の声マネ再現度が低い理由はわかるか?」
「『筋肉だから』ではないかしら?」
「おいおい新、ワザとできないフリしてたのか?」
「んー?全力を尽くしたっすよー。」
「だ、そうだが?」
「そう。もう綾には手に負えないわ。」
いろいろと諦めたように綾音が両手を上げる。
「深く考える必要はない、万能な能力なんぞ存在しねーってだけだ。言っただろ?『転写』は『対象の本質を完全にコピーする』能力だってな。」
本質?
声マネの本質…?
声そのものの本質……?
「まさかとは思うけど、『声帯をコピーすることはできない』なんて言わないわよね?」
「ああ、そのまさかだ。」
夏先生は真面目なトーンで続ける。
「いわゆる『武芸』であれば、その本質は切る、撃つ、殴るといった『技』それぞれに個別に存在することになる。もちろん、同じ『技』でも使う奴次第で大きく変わるが、それはどちらかというとアドリブの範疇であって、『技』の本質とは関係ない部分だ。一方で、人の『声』や『体格』、『思考』なんかは、そいつの『身体構造』や『性格』といった本質に起因するものだ。当然、どんな能力を持っていようとも、他人が簡単にマネできるもんではない。」
「でも、みてくれなら真似できる。」
「そーだ。だからこそ、『転写』と『模倣』は似た能力ではあるが、それぞれに長所短所があり、使い方次第で化けるってもんだ。他にも類似する別個の能力ってのはあるが、使い勝手の良し悪しはあれど、『完全上位互換』みたいなものはあまりないな。」
「そう、それならいいわ。」
平静に言葉を紡ぐ綾音だが、その顔はどこかホッとしているようにも見える。
「それはなによりだ。新も理解したか?」
「んー?そうっすねー。」
「………そーか。わからないことがあったら綾音に訊けよー。」
「了解っすー。あやちーもよろしく頼むなー。」
「しかたないわね。」
いくばくながら普段の綾音が戻ってきたことで、俺たちも安堵に胸をなでおろす。
「じゃ、班検討を続けてくれたまえ。」
「せんせー、ありがとうっす。」
「おう、よきにはからえ。」
嵐のようにやってきた夏先生は、俺たちの前にあった視界を遮るモヤを吹き飛ばし、道を示して去って…
「おっと、その前に…。秋、奏、ちょっといいか?」
いかなかった。
「どうしたんですか?」
呼び出しを受け、夏先生とともに廊下に出た。
「綾音のことだが、お前らも様子がおかしいことには気づいているんだろ?」
夏先生からの質問に、俺と奏は顔を見合わせる。
そして代表するように、奏が回答した。
「……はい。」
やっぱりな、とうなずきながら夏先生は続けた。
「そのことについてだが、お前らから特段なにかする必要はない。」
「「え⁉︎」」
驚きを隠せない俺たちに、なおも夏先生は続けた。
「綾音の抱えている『悩み』ってのは、その性質上、新も含めて、お前らでは解決できない類のもんだ。むしろ、お前らが関わると逆効果になりかねない。そもそもが、綾音自身でどうにかすべき内容のものだ。綾嶺のときと同じでな。その意味では、同じ『悩み』を持っていた姉の方が、相談役としては適任といえるな。」
あの綾嶺さんも抱えていたという「悩み」なら、それは簡単に解決できるものではないのかもしれない。
それでも、友人として、綾音が悩んでいるというなら、それを解決するために俺はいくらでも手を貸す。
もちろん、奏や新も同じだろう。
だが、この人はそれを不要と断じ、あまつさえ逆効果だと言う。
「………。一つ聞いていいですか?」
俺と同じで納得のいかない様子の奏が、夏先生に噛みつく。
「なんだ?」
「綾ちゃんの『悩み』っていうのは、いったいなんですか?」
綾嶺さんも抱えていた「悩み」。
俺たちには解決できない「悩み」。
俺たちが関わると逆効果になりかねない「悩み」。
「『悩み』自体は明確で簡単で単純だ。今日の綾音を見て、ちょっと考えればわかる程度にはな。ただ、お前らが答えに辿り着くのは難しいかもしれないがな。」
夏先生の言葉は、答えのようで答えになっていない。
「それは…?」
明確な回答の提示を促す奏の言葉を、夏先生は明確な拒絶でいなした。
「残念だが、俺からこれ以上この件について言及するつもりはない。お前らが綾音の親友だろうとなんだろうと、引くべき一線は引かせてもらう。」
つまり、これは綾音にとってそれだけデリケートな問題ということなのだろう。
そう、なんでも話してくれそうな夏先生が口をつむぐ程度には。
「お前らはいつもどおり、天山綾音の親友の和泉俊秋と桑原奏でいればいい。そんで、そばにいて、一緒に話して、笑って、バカやってりゃいいんだ。それだけで、あいつの心の支えにはなるはずだ。」
せっかくの提案ではあるが、
「俺たちもお飾りで綾音の親友やってるわけじゃないんで、やっぱ素直に『はい、そうですか』とは頷けません。」
とはいっても、これまでの夏先生からの助言にハズレがなかったことも確かだ。
だから、
「俺たちはいったん様子を見ることにします。その間も、その先も、綾音と話して、笑って、バカやりながら。」
「でも、綾ちゃんがその『悩み』から抜け出せないでいるなら、私たちは綾ちゃんを手伝うことにします。例えそれが逆効果になるようなものだとしても、可能性があるのであればどこまでも付き合うつもりです。」
俺たちの決意表明に、夏先生は口角を上げて切り返した。
「いいだろう。ただし、様子見期間を最低半年はとることが条件だ。」
俺と奏は、再度顔を見合わせた。
互いの顔を見てうなずき、今度は俺が代表して答える。
「わかりました。」
その答えに満足したのか、教室にきびすを返した。
「じゃ、授業に戻るとしよーか。綾音を心配するのもいいが、それで自分が授業に集中できなくなってるよーじゃ意味がない。そこんとこよろしく頼むぜ?」
言いたいことを一方的に言い、俺たちを残して教室へ入っていった。
残された俺たちは、何度目かわからない互いの顔を見合わせる。
「見透かされてたかな。」
「あれは誰が見ても集中できてないと思うだろうな。」
「そんなにわかりやすかったかな?」
「お前、自覚なかったのか。」
「そんなに?」
本当になかったんだな。
それも奏らしいといえばらしいが。
「………とりあえず教室に戻ろうぜ。これ以上は綾音からお小言貰いそうだしな。」
「えっ⁉︎ちょっと!ちゃんと答えて欲しいかな!」
こうして俺たちはそれぞれの席へと戻った。
この後、奏が少し不機嫌になったのは言うまでもない。




