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Final Gift  作者: トキハル
本編
23/49

第20話 取説はちゃんと読むべし

「それじゃあ、始めましょう。」

 綾音(?)が太もものホルスターから銃を抜き、クルッと一回まわして顔の高さまで持ち上げる。

「綾の得物はコレよ。」

 その銃は、いつも愛用しているGlock(グロック)18Cとは似ても似つかない一品だった。

「なあ、お前が今考えていることを当ててやろーか?」

「どうぞ。」

「『またM1911(ガバメント)か。』」

「────仰せのとおり。」

 シルバーカラーのM1911。

 もはや見慣れたその形に、俺は首をかしげる。

 なぜなら、俺の知る限り、

「『あいつはガバメントなんて持っていなかったはずだ』って顔をしているな。」

 夏先生の戯れはまだ続いているらしい。

「そんなお前に俺から質問をしよー。あのガバメント、()()かわかるか?」

「え?」

 綾音が構えるガバメントを、目を凝らして観察する。

 フラッシュライトやLAM(レーザーサイト)を取り付けるためのアンダーレールはない。

 消音器(サイレンサー)などを取り付けるための、バレル先端のネジ切りも確認できない。

 アイアンサイトは、同じガバメントモデルの一つである俺のM45A1のようなタクティカルサイトではなく、やや大型の古き良きシンプルなステーキオンサイト。

 撃鉄(ハンマー)も標準的なスパーハンマー。

 引き金(トリガー)やグリップセイフティ周りは綾音の手に隠れて見え辛いが、特に変わったところはないショートタイプのようだ。

 以上から察するに、あのガバメントは、

Colt(コルト)民生品(シビリアンモデル)。それもオーソドックスな、なんの変哲もないやつじゃないですかね?」

 これが俺の導き出した答えだ。

 さあ、どうだ⁉︎

「80点だな。」

 これは、思っていたよりも高得点だ。

「お前の言うとおり、あれは『コルト M1911 Mk(マーク) IV SIERIES(シリーズ)'80』というオーソドックスなモデルをベースにしたカスタム銃だ。」

 なるほど。

カスタム(なんの変哲もある)銃だと見抜けなかったから減点ですか?」

「100点だ。」

 生徒にひととおり点数を告げ、教師は設問に対する解説を始める。

「あの銃は、3種類ある安全装置(セイフティ)のうちマニュアルセイフティを除いた2種類をオミットしている。さらにだ、銃身(バレル)はもちろん、トリガー周りの射撃精度に関わるパーツも全部使い手に合わせた特注のものに変えてある。『標的射撃競技仕様(ナショナルマッチ)』ならぬ『特定射手対応仕様(パーソナルマッチ)』モデルだな。」

 なるほどなるほど。

「つまり、あれは綾音に合わせて調節された銃だと…。」

「いや、それは違う。」

 はい?

「あれは『あやね』用に調整されたものじゃないぜ?」

 どこから取り出したのか、夏先生は銀ピカの愛銃を手に、実物を指し示しながら解説を続ける。

「そもそも、M1911という銃は、あのちっこいのみたいに手の小さな人間には使い辛いものだ。グリップは比較的細めだが、最近の銃みたいに人間工学に基づいた作りにはなっていないから、見た目よりも握りにくい。スライドストップレバーやマガジンリリースボタンはグリップから離れた場所にあるせいで操作し辛い。しかも重い。あいつと同じでな。」

「あら、誰のなにが重いというのかしら?」

「自分の胸に聞け。」

「それはつまり、胸が重いと…」

「そーいうわけでだ、あいつには向かない銃ってことだ。」

 確かに…

「それじゃあいったい…」

 誰のための…?

「まさか…!」

「そう、あれはもともと俺の銃だ。」

 どおりで、銃どころかカスタムの内容まで把握しているわけだ。

「あいつに持っていかれたな。」

「そうなんすかー。」

「人聞きが悪いわね。俊先生がくれたのでしょ?愛の証にってね。」

「おおー。」

「それは多分、別次元の和泉俊夏だろう。お前の夢の中にいるな。」

「なんだ夢かー。」

「知っているわ。正夢のことね。」

「なるほど現実かー。」

「そんなありもしないものの前に、()()()現実ってやつを見てもらおーか。お客様がお待ちだぜ?」

 夏先生がある方向を小突くように指さす。

 そこにいるのは言うまでもなく、ちょくちょく相槌を挟み、左右に体を揺らしてソワソワしている新だ。

 その光景はさながら、餌を前に飼い主から「待て」とお預けをくらっている犬のようだ。

「そうだったわね。俊先生との絡みが楽しすぎて、つい忘れていたわ。」

 これも綾音らしくない台詞だ。

「待たせて悪いわね。さっきも言ったとおり、綾の獲物はこのガバメントよ。」

 うすうす感づいてはいたが、あの「あやね」は、俺の知る「綾音」ではないのだろう。

 「綾音」であれば、わざわざ聞くまでもなく、新が使用する武器はすぐにわかるはずだ。

 「綾音」の演技という線もなくはないが、あいつはそんな無意味なことをするような奴じゃない。

 考えられるとすれば、()()が「綾音」を演じている。

 つまりは、偽物だろう。

「それで、あなたの獲物はなにかしら?」

「俺のはコレっす!」

 偽綾音に促され、新が「S(スミス)&(アンド)W(ウェッソン) M500」とショートソードの「SUM(さむ)」を抜く。

「あら?その銃は確か…」

「んー?知ってるんすかー?」

「ええ。綾の記憶が正しければその銃は…」

綾嶺(あやね)()()()()()()だ。気にせずやってくれ。」

「なるほど、珍しい子もいるのね。」

 そんなこんなで、ようやく演習の火蓋が切られるのだった。

 だが……………

「じゃ、俺たちは少し下がるか。」

「観客席じゃなくていいんですか?」

「ああ、そこまでしなくてもいーだろ。どーせすぐに終わる。」

 結論から言うと、夏先生のいうとおり、この演習()一瞬で終わった。



「この学校では先手を後輩に譲るのが慣習になっているのよ。だから、あなたに先手を譲るわ。」

「おおー、ありがとうっす!」

 今のやりとりで一つわかったことがある。

 あの偽綾音は俺たちの先輩のようだ。

「お前に去年の卒業生の話をしてやろう。」

 夏先生がこのタイミングで口を開くあたり、そういうことなのだろう。

「去年卒業した奴らの中に、実力も性格もヤベー3人がいた。『じつぶつくろーん』を作った奴。『実銃用非致死性演習弾』を作った奴。そんで、あそこにいる『腹黒モノマネ軍師』だ。」

 ヒドイ肩書きだ。

 それに、「モノマネ」はともかく、「軍師」ってのはなんだ?

「じゃあいくっすよー。」

「いつでもいいわよ。」

 新は、右手にSUMを、左手にM500を構えている。

「お前と同じ構えだな。」

 新の才能(ギフト)は、Bランクの「転写(トレース)」。

 「転写」という名のとおり、対象の能力(アビリティ)や行動を、ある程度自分のものとして写し取る能力だ。

「俺を先にしたのはこのためですか?」

「理解が早くて助かる。」

 つまりこの人は、俺の戦闘を先に見せて、俺の構えや動きを新に転写させた。

「一応、理由を聞いてもいいですか?」

「簡単な話だ。お前もあいつも、初めて『銃』という武器を手に入れて、戦術の幅が広がった。それを、秋、お前ならうまく実戦に取り入れると思った。だが、あいつは違う。」

 夏先生が観察するように新を見すえる。

「こと戦闘に関して、新のセンスってやつは学年随一といってもいいだろう。だがそれゆえに、あいつはそのセンスだけで戦っている。センスに頼りすぎている。頭を使っていないと言ってもいいな。」

 これは褒められているのか、はたまたけなされているのか。

「そんな状態でいきなり銃だけ渡してもな。剣を抜かずに銃だけで戦いかねないし、その逆もありえる。それはもったいないだろ?」

 俺の場合、夏先生に刀だけでは勝てないと思って銃を使っていたわけだが…

 それも夏先生が言うところの「頭を使った」戦闘ということだろうか。

「まあ、残念ながら裏目に出たがな。」

「どういうことですか?」

 俺の質問に、夏先生はまるで「見てればわかる」とでも言うように指をさす。

 その先にいる新は、左手に持つM500を構え、照準を定めている。

「お前の先手と同じだな。」

 もし、本当に俺の先手と同じことをするのであれば、新は装填している弾が尽きるまで連射することになる。

「M500を利き手じゃない左で5連射。普通の銃なら問題ないかもしれないが…」

 新が引き金(トリガー)を引く。

 轟音とともに.500S&W演習弾が放たれる。

 1発目はやや狙いが外れていたのか、回避行動を取らなかった偽綾音の後方にある壁に着弾した。

 だが、問題は2発目以降だった。

「え?」

 ある一発は目の前の地面にめり込み。

 さる二発は演習場の天井にめり込み。

 唯一標的を捉えた一発は、ひらりと身を躱されて壁にめり込んだ。

 そして最後には、M500が新の手から滑り落ちた。

「あー、やっぱりな。」

 この事態を想定していたらしい夏先生は冷静だ。

 その一方で、攻撃を繰り出したはずの新は痙攣する自身の左手を押さえて、「何が起きたのかわからない」というような表情を浮かべている。

「ねーねー、その銃使うのは初めて〜?」

「何回か撃ったことはあるっす。」

「じゃあ〜、左手一本で撃ったことは〜?」

「ないっす。」

「だからだよ〜。」

 すっかり話し方が変わった偽綾音にお説教される姿は、どこかいつもの光景と重なって見える。

「演習終了だ。綾嶺、救急箱を取ってきてくれ。」

「は〜い。」

 夏先生の宣言と同時に、新を治療するために各自が動き始めた。

「新、お前、説明書見ないタイプだろ?」

「とっしーもせんせーも見ないっすよね?」

「俺らは特別なの。お前はちゃんと読んどけ?周りのお友達と一緒にな。」

 夏先生は親指を俺に向かって指し、新にそんなアドバイスを残すのだった。

「了解っすー。」



 新の手当がひととおり終わったところで、夏先生が切り出した。

「そういえばお前、なにしに来たんだ?」

「およよ〜?」

 気がつけば馴染んでしまっていたが、そもそも俺たちはこの偽綾音の目的どころか、正体すら知らないままだ。

「あやちゃんは〜、俊夏さんに逢いに来ただけだよ〜?」

 実際、顔つきはかなり綾音に似ている。

 それに「あやちゃん」という一人称を使うあたり、もしかしたら…

「あー、そう。」

 ただ、夏先生の心底めんどくさそうな対応だけが気にかかる。

「ひどいな〜。せっかくカワイイ教え子が逢いに来たんだよ〜?もっとかまって〜。」

「とりあえず、『教え子』を名乗るなら、恩師を『さん』付けで呼ぶな?『先生』と呼べ『先生』と。」

「大丈夫だよ〜。なんたって〜、あやちゃんは教え子以上の存在になる予定だからね〜。」

「いったい何者だよ。」

「それをあやちゃんに言わせるの〜?俊夏さん、オトメゴコロがわかってないな〜。」

「お前、乙女ってタマじゃないだろ。」

 そして最後には、逃げるように話題を変えた。

「つーか、こいつらとは初めてだろ?自己紹介しとけ?先輩。」

「は〜い。」

 偽綾音が俺たちに向き直る。

「あやちゃんは〜、天山(あまやま)綾嶺(あやね)っていうんだ〜。」

 「天山」という名字は、そうコロコロといるもんじゃない。

「ちなみに、綾取りの『(あや)』に、領土とか領収書の『領』に山冠がつく『(みね)』という字で『綾嶺(あやね)』だ。」

 さらに「綾」の名を冠するというのであれば、これはもう確定だろう。

「ところで〜。(おと)ちゃん…。あやちゃんと同じ『あまやま あやね』って名前の子がこの学校にいるんだけどー、二人は知ってる〜?」

「はい。」

「知ってるっすよー。」

「おお〜、話が早いね〜。あやちゃんは〜、音ちゃんのお姉ちゃんなんだよ〜。」

 つまりは、この人が噂に聞く綾音の姉。

 通称「あねね」様だ。

「それでそれで〜、君たちはなにものなのかな〜?」

 先攻の手番(ターン)が終わったら、次は後攻。

 それは常識としてわかっているんだが、自己紹介ってあまり得意じゃないんだよな…

「俺は和泉俊秋で、妹さんとは中学からの付き合いです。よろしくお願いします。」

 まあ、これが無難なところだろう。

 我ながら、よくやった俺。

「へぇ〜、名前が俊夏さんと似てるね〜。なんて呼んだらいいかな〜?」

「なんでもいいですよ。」

 なんて、ここで答えたらどんな呼び名をつけられるかわかったもんじゃない。

「普通に『和泉』か『俊秋』でいいと思いますけど。」

 この俺の提案に対して、綾嶺さんはすぐさま首を横に振った。

「あやちゃんにとって〜、『和泉』っていったら俊夏さんで〜、『俊』ときたら『夏』なんだよ〜。残念だけど『秋』に浮気するつもりはないんだ〜。ごめんね〜。」

 まさか、自分の名前を全否定される時が来ようとは…

 なぜだか無性に悔しい。

「おいおい、浮気もなにもないだろ。『俊秋』でいいじゃねーか。」

「ダメ!そこは譲れないの!」

 このくだらない論争に終止符を打ったのは、まさかの新だった。

「とっしーは『とっしー』っすよ。」

「なるほど〜。それ、採用だよ〜!というわけで〜、『とっしーくん』!よろしくね〜。」

「あ、はい。」

 もうなんでもいいよ。

「じゃあ、君は新くんでいいのかな〜?」

「おー、古川新っていうんだー。みーさん、よろしくっすー。」

「へぇ〜、古いのか新しいのかよくわからない名前だね〜。」

 新の名前にもケチがつくとは…

「それで〜、『みーさん』っていうのはあやちゃんのこと〜?」

「ダメっすかー?」

「うんん〜、いいよ〜。」

 この二人、喋り方もあいまって会話がスローペースなんだよな。

「つーわけでだ。帰るぞ、秋。」

「そうですね。」

「おおー。」

「おお〜。」

 ………………。

「お前も来んの?」

「もちろんだよ〜。」

「どこに?なにしに?」

「俊夏さんの部屋に〜、愛を育みに〜。」

「いや、お前はちっこい方の綾音に会ってさっさっと帰れ。」

「もちろん、音ちゃんにも会いに行くよ〜。服を返さないといけないからね〜。」

「借り物だったのか。」

「そうだよ〜。まだ制服姿もいけるでしょ〜。」

 夏先生に見せつけるように、綾音の制服を着た綾嶺さんがその場でくるくると回り、飛び跳ねている。

 そこで俺たちは思わぬ光景を目にすることになる。

「おい、そんなに跳ねると…」

 ────プツン

 そんな音とともに、ワイシャツの胸の部分のボタンが弾け飛ぶ。

「あっ…」

「そらみろ。」

 自身に向かって飛んできたボタンを夏先生は片手でキャッチし、綾嶺さんに手渡した。

 そのボタンを見つめて、綾嶺さんは震えてしまっている。

「ど、ど、ど、ど、どうしよう〜!音ちゃんに怒られる…。殺される〜!」

 ボタンが飛んで肌けた部分からは、サラシに巻かれた見るからに大きい胸が見え隠れしている。

 人によってはかなり恥ずかしい状況にも思えるが、当の本人は妹への恐怖心に支配されてそれどころではなさそうだ。

「それはもう、素直に殺されるしかないな。」

「んも〜。そんなこと言ってないで、どうしたらいいか考えてよ〜!」

「そーだな。とりあえず、残りのボタンを弾き飛ばす前に服脱いだらどーだ?」

「およよ〜?どさくさに紛れてあやちゃんを辱めるつもり〜?俊夏さんのえっち〜!」

「そーかいそーかい。じゃ、後は自力で頑張るんだな。」

「はわわ!ちょっと待って〜!助けてよ〜。」

 綾嶺さんもなかなかの曲者だが、夏先生の方が一枚上手のようだ。

「ったく、仕方ねーな。俺のジャケット貸してやるからそれ羽織っとけ。俺の部屋に裁縫道具があるから、それでどーにかするんだな。」

「は〜い。」

 こうして、演習を終えた俺たちはようやく解放されるのだった。

<天山綾嶺のM1911>

・製造メーカー「Colt (コルト)」

・製造国「アメリカ」

・正式名称「M1911 Mk.IV SERIES'80」

・通称「GOVERNMENT (ガバメント)」

・ハンドガン

・シルバーカラー (ステンレス)

・装弾数7+1発

・卒業前に、綾嶺が俊夏にせがんで、ある条件を達成した報酬としてもらった銃。

・もともと俊夏用に調整されているため、綾嶺にはあまり馴染んでいない。

・SERIES'80の特徴であるAFPBと、グリップセイフティは俊夏によりオミットされている。

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