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Final Gift  作者: トキハル
本編
21/49

第18話 俊秋vs俊夏

「そんじゃ、始めるとしますか。」

 夏先生の装備は腰のホルダーに差したやや短めの剣と、左手に持った納刀状態の剣の二振り。

 どちらも形状から察するに日本刀の一種だろう。

 つまるところ、()()()()の俺の装備と同じだ。

 銃器の類を携行していない点も同様で、なんとなく親近感が湧いてくる。

「先手は譲ってやろー。刀でも銃でも何でもいい。俺に一発浴びせることができれば合格だ。」

 対する()()俺の装備は、軍刀だったらしい太刀「時雨」と小太刀の「吹雪」。

 そして「実銃用非致死性演習弾」を装填した拳銃(ハンドガン)「M45A1」。

 これらを、右手に時雨、左手にM45A1を持つスタイルで構えている。

 なお、この構えに対する夏先生の評価はというと…

「変わった構え方だな。」

 だそうだ。

「確か、記録上では二刀流スタイルだったと思うが…」

 そんな記録、取った覚えも、取られた覚えもないんだが…

「基本は時雨の一刀で、たまに二振りとも抜くことがあるってだけです。」

「つまり、どちらの手でもある程度刀を使いこなせるわけだ。」

「二刀の時は、利き手で持つ時雨がメインで、もう一刀は補助に近いですけど。」

「なるほど。ちなみに利き目は?」

 利き目?

 あまり考えたことないな。

「えっと…、たぶん右ですかね?」

 刀を持ったまま腕を組み、うーんと唸りながら夏先生は何か考え事に(ふけ)る。

 …………今なら簡単に一本取れるんじゃないか?

 そんな邪なことを考えていると、再び質問が飛んできた。

「じゃあ、お前にとってその銃の役割はなんなんだ?」

 利き手でも、利き目でもない左に構えるM45A1。

「攻撃には大きく分けて2つの効果がある。一つは相手に命中させて身体にダメージを与える、文字通り『攻撃』としての物理的効果。もう一つは、相手に命中するかどーかは別にして、防御に専念させて、あるいは恐怖心を抱かせて攻撃を抑制する『牽制』としての精神的効果だ。お前のその構えは、いったいどっちに重点を置いているんだ?」

 二刀流の時、左手に持つ小太刀は俺にとって『牽制』や『防御』といった補助的役割が強く、『攻撃』の主軸はあくまでも右手に持つ時雨。

 ものが刀から銃になったところで、それ自体が簡単に変わるものではない。

「まあいい。どうせすぐにわかることだ。」

 刀を抜かないのはそのままに、夏先生は俺を挑発する。

「つーわけで、さっさとかかってこい。」

 試したわけではないが、間違いなく剣術の腕は夏先生の方が上。

 なんたって、俺の目の前にいるのはSランクの「剣帝(ソードマスター)」。

 接近戦になればこちらが不利になるのは、火を見るよりも明らか。

 もし可能性があるとしたら、こいつ(M45A1)だけだ。

 幸いにも、俺には「武具天稟(ウェポンマスター)」の才能(ギフト)がある。

 銃の取り扱いだけならすでに一流。

 想定していた運用とは異なるが、これを当てさえすれば勝てるはずだ。

 そんな思惑を胸に、対面する夏先生に向けて慎重に照準を合わせる。

「────ッ!」

 1回、2回、3回。

 左の人差し指に力を入れるたびに、銃の機構が動作する小気味いい反動(リコイル)が腕に伝わってくる。

 俺と標的(夏先生)との距離はおよそ10メートル。

 一方で、M45A1が使用する「.45ACP弾」は、初速が秒速300メートルほどの亜音速弾。

 着弾までの時間はたったの0.03秒。

 数ある銃弾の中では比較的遅い部類だが、それでも、複数発を至近距離から撃たれれば人間の反射速度でどうこうできるものではない。

 いくらなんでもこちらが有利すぎる。

 すぐに決着がついてしまうだろう。

 そんな考えはいとも簡単に打ち砕かれた。

「………嘘だろ⁉︎」

 マガジン1本分を撃ち尽くし、俺のM45A1はホールドオープンして弾切れを知らせる。

 そして銃口の先には、まるで何事もなかったのように涼しい顔でたたずむ夏先生がいた。

「おいおい、せっかく先手を譲ってやったってのに無駄にするなよ。」

 俺が撃った7発の銃弾は、夏先生を捉えることはできなかった。

「撃つだけで勝てるとでも思っていたのか?そんなわけないだろ。」

 まるで生徒を怒る教師のような口調で、普通ではありえないことをさも当然のことのように話す。

「いいか。弾道ってのは、射手の腕と銃口の向きである程度予測することができるもんだ。強いて言えば、引き金(トリガー)の引き方次第で良くも悪くもバラけたりもするが、お前は才能(ギフト)のおかげで安定している。今回は完全に裏目だがな。」

 つまり、あんたが避けなければ俺は勝てていたのでは?

「ほら、いつまでボサッと突っ立ってんだ?さっさっと再装填(リロード)してもう一回しかけてこい。言っておくが、次はこっちからもいくぜ。」

 促されるままマガジンリリースボタンを押し、空になったマガジンを新しいものに入れ替える。

 同時に、この短い時間で先の夏先生の行動分析に思考を巡らせる。

 俺が撃った弾数は7発。

 これをかなり少ない動きで回避していた。

 具体的には、一発目は正対していた体を横に向け、その後は小さなバックステップをいくつか刻むをいう方法で。

 素直に撃つだけでは勝てない。

 しかも、今度は夏先生からの攻撃も示唆されている。

 時雨でどうにかするしかないのは明白だ。

 だがそれだけでは勝てない、何か搦め手が必要になる。

「さあ、準備と覚悟はいいか?」

 スライドストップを解放し、薬室(チャンバー)に弾を放り込む。

「いえ、まだです。」

 そう言って俺は、マガジンリリースボタンを押して再びマガジンを取り出す。

「ったく。これが最後だぜ?」

 チャンバーに弾を送り込んだ後にフル装填のマガジンを差し込むことで、装弾数が通常より1発増える。

 たった1発ではあるが、これが勝負を左右する可能性も捨てきれない。

「お待たせしました。」

 時雨を納刀し、その代わりに右手には予備のマガジンを握る。

 左手にはM45A1を構え準備は完了だ。

「お待たせされてやったぜ。」

 さあ、後はなるようになれだ!

「どんな狙いかは知らないが、楽しませてくれるんだろーな?」

「ご期待に添えることができればとは思っていますけどッ…!」

 言い終えると同時に、夏先生との距離を詰めるためにスタートをきった。

 走りながらも、俺はトリガーを連続で引く。

 照準は先ほどより甘いが、それでも標的を捉えることはできている。

「へぇ…」

 対する夏先生は、俺から見て右に流れるように弾を回避していく。

 左で銃を構えている都合上、右方向に避けられると狙いを定めにくく、辛いものがある。

 この一瞬で最適解とも言える判断を下し、実行に移す。

 さすがというべきか、実戦慣れしている。

 だが、ここまではまだ想定の範囲内。

 ならば、俺が次にすべきことは………

「────プランBだ。」

 俺は一度立ち止まり、さらに2発の弾を撃ち出す。

 合計で7回の発砲を終え、右手に持つ4つ目の、最後のマガジンを装填する。

「………フッ」

 短く息を吐く。

 リロードの際にM45A1が吐き出した空のマガジンが地に着くのを合図に、俺は時雨を抜いて再び駆け出した。

 距離は5メートルと少し。

 常に夏先生より右に出ることを心がけながら、その短くも長い距離をトリガーを引きながら詰めていく。

「ようこそ。」

 ちょうど6発の弾を撃ったころ。

 俺は夏先生の間合いに入り、時雨を振り降ろした。

「余裕がありそうですね。」

「そんなことはないさ。さっきから鉛玉のあめあられで避けるのに精一杯だ。」

 我ながら会心の一撃だったはずだが、それを夏先生は刀を抜かずに鞘で受け止めた。

 その鍔迫り合いのなかで、俺たちはいくつかの言葉を交わす。

「鞘が傷んでも責任取りませんから。」

「ああ、心配ご無用だ。こいつは特注品でな。強度に関しては折り紙付きだ。」

「壊れる時は壊れるでしょ。」

「そん時は経費で新しいのを買うさ。」

「また学年主任に怒られます………、よッ!」

 無理矢理に時雨を振り抜き、小さく後ろに下がりながらM45A1を構えてトリガーを引く。

 この僅か2メートル程からの射撃にも夏先生は反応し、今度は左方向に回避した。

 明らかに時雨の攻撃範囲を意識した動きだ。

 この動きに合わせてM45A1の照準を合わせてトリガーを引くが、これも容易く回避される。

「もう終わりかな?」

 確かに、銃はホールドオープンして弾切れを知らせている。

 時を同じくして、夏先生もケリをつけるべく一歩を踏み出している。

 左側面を取られた状況で、リロードする余裕も、夏先生との距離を取る余裕もない。

 だが、

「まだだ!」

 M45A1のマガジンリリースボタンを押す。

 当然、マガジンは自重で銃から滑り落ちてくる。

 その落ち切るかどうかというギリギリのところで、俺は手首を左に捻った。

「………!」

 重力に従って、ただ下方向への運動エネルギーを与えられていたマガジンは、新たに加えられた作用によって進む方向を変える。

 その向かう先には、俺との距離を詰めるべく前進していた夏先生がいる。

 確実に不意を突くことはできたはず。

『刀でも銃でも何でもいい。俺に一発浴びせることができれば合格だ。』

 ならば、このマガジンがヒットしたら俺の勝ちだ。

 仮に対処されたとしても、そこには大きな隙ができる。

 その時はこの一振りでやはり俺の勝ちだ。

 体を捻り、時雨を振り抜こうとしたその時、俺は目の前の光景に目を疑った。

「惜しかったな。」

 夏先生は逆手のまま鞘を逆袈裟に振り上げ、俺が飛ばしたマガジンを打ち上げた。

 同時に、鞘を右手で握り、左手で柄を握って抜刀した。

「………くッ!」

 刀同士がぶつかる甲高い金属音が響く。

 もう俺に攻撃の術は残されていない。

 対して夏先生には…

「────痛ッ〜〜!」

 俺の頭に、やけに硬く重たい鞘がゆっくりと振り下ろされる。

「俺の勝ちだ。」

 夏先生の勝利宣言とともに、宙を待っていたマガジンが地に落ちた。

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