第17話 準備は念入りに
「さあ、着いたぞ」
反省会解散後、俺と新の2人は、夏先生に連れられてとある施設へと来ていた。
「改めて紹介しよう!ここは『Amphitheatrum』という名前の施設で、命名者は例によって学園長のオッサンだ!ちなみに、日本語に直訳すると『円形劇場』らしーぞ。」
相変わらずうちの学園長はよくわからない。
ネーミングもさることながら…
「なーなー、夏せんせー。」
「なんだね。新くん。」
「この建物四角いっすよー。」
センスが独特というか、ズレている気がする。
「大丈夫だ。中はちゃんと丸い。」
それでいいのか?
「っても、『実技演習場』とか『闘技場』って言う奴がほとんどなわけだが…。まあ、よろしく覚えてやってくれ。テストにはでないがな。」
この施設といい、あの射撃演習場といい、通称で呼ばれる施設ばかりだな。
あー、そういえば射撃演習場の正式名称ってなんだっけな…
「せんせー、ここでなにするんすかー?」
ここでなにをするのかだって?
さすがは新といったところか、それは愚問という奴だ。
俺たちは今、城山で使用した装備を携行させられているうえ、目の前には実技演習場なる施設。
ここから導き出される答えは、聞くまでもなく一つしかない。
「秋、教えてやってくれ。」
夏先生は、新の察しの悪さに呆れたような仕草を見せながら、俺に仕事を押し付けてくる。
「たぶん、『実技演習』だろう。」
「そうなんすかー?」
「そーなんすよ。わかったか?」
「わかったっすー。」
ああ、先が思いやられるな…
「さて、まずは準備といこーか。」
実技演習場に入って早々、俺たちの目の前に現れたのは空港にある保安検査場のような設備だった。
「こいつの名前は『じつぶつくろーん』だ。」
X線検査装置のような大きな箱をペシペシと叩きながら、夏先生は装置の紹介するが…
これまた変な名前だな。
「学園長ですか?」
どうせそうだろうと思って質問したが、ここで思わぬ答えが帰ってきた。
「いや?これの名付け親は製作者でもある去年の卒業生だ。なんでも学園長だと思ったら大間違いだぞ?」
とうでもいいことであるはずが、なぜだか無性に悔しい。
そこは学園長であって欲しかった…
というか、これを一生徒が作ったのか?
かなり大掛かりな機械に見えるが…
「『じつぶつくろーん』のコンセプトは、スキャンした刀剣の類を、刀身や柄、鞘、鍔の形から、重さ、握り心地に至るまで、限りなく実物に近い模造刀を作成することにある。まあ、実際に使ってみた方が早い。秋、そこの台に刀と鞘を置いてみろ。」
夏先生に言われるがまま、俺は「時雨」を抜き、刀と鞘を指定された台に置く。
するとベルトコンベアーが動き出し、謎の装置に吸い込まれていく。
「よし、こっちだ。」
またも夏先生に言われるがまま、指示通りに前進する。
この一連の動作は、やはり保安検査場のそれだ。
しばらく待っていると、謎の装置から二振りに増殖した時雨が流れてきた。
「おおー、ホントに増えてるなー。」
コンセプトのとおり、持ち主の俺でもパッと見では違いが全くわからない。
模造刀というからにはものを斬ることはできないのだろうが、刃を見てもどちらが本物かまったく検討がつかない。
「手に取ってみたらどーだ?」
三度、俺は指示に従って、真贋の区別ができないまま片方の時雨に手を伸ばす。
「これは偽物だな。」
手に取った瞬間、無意識的に出たのはそんな言葉だった。
「へぇ、どーしてそー思うんだ?」
「正直、『なんとなく』そう思うだけで、具体的にどこがどう違うってのは説明できないんですけど…。あってます?」
「ああ、正解だ。」
正解してしまった…
本当なら素直に喜ぶべきところなのだろうが、
「おおー、とっしーすごいなー。」
「いや、そんなことは…」
「謙遜するなって。なかなか正解する奴はいないぜ?」
どこか夏先生の様子がおかしい。
具体的に表現するのは難しいが、なにかこう、企んでいるような…
「誇っていいんだぜ?おもしろくねーなこいつとか微塵も思ってないから。」
………………。
「それにしてもすごいな、刀緒まで再現されているとは…」
「とうちょー?」
「ああ、これだ。」
新からの問いに、俺は偽時雨の柄から伸びる紐を指し示す。
「こいつのことを『刀緒』というらしい。」
「でもこれってさー、日本刀にはよくついているやつだよなー。」
「『軍刀』に結ばれている紐を『刀緒』。普通の『日本刀』に結ばれているのを『下緒』っていうらしい。それで、時雨についているのは『刀緒』の方らしい。」
「そうなのかー。」
「ああ、俺にはさっぱり違いがわからないがな。」
「そーなのかー。」
………………。
「新も『さむ』と『ぷろだくと』のコピーを作ってみたらどうだ?」
「おー、やるぞー。」
嬉々とした様子で新が駆けていく。
そして残されたのは…
「で、俺になにか言うことはないのか?」
背後からそっと声をかけられる。
その声が誰のものなのかは言うまでもない。
それは質問に対する答えも同じだ。
「………ありません。」
「そーかそーか。だが、お前になくても俺にはあるぜ。」
まあ、そうですよね。
「『実技演習』が楽しみだな。」
………。
「おっ!とっしーとっしー!ホントに増えたぞー!」
────ハァ。
「そういえば、この銃はどうするんですか?」
丸い演習場にたどり着いた頃、俺はかねてからの疑問を夏先生にぶつけた。
「どーするとは?」
「使わない装備を持ってくる意味はあるのかと思いまして…」
「ん?なに言ってるんだ?使うに決まってるだろ?」
………。
「え⁉︎」
「え?」
思わぬ回答に目を丸くする俺を見て、夏先生も目を丸める。
「いやいや、オモチャじゃないんですよ⁉︎」
「あー、そーいうことね。」
かと思えば一人で納得して、唖然とする俺を置いていってしまう。
「とりあえず、お前らにはコイツを進呈しよう。」
夏先生が手をグッと握って拳を作る。
すぐに開かれた手のひらには、見覚えのあるものが乗っていた。
「おおー、スゲー!」
弾倉。
それも、俺が使っているM45A1を含むM1911系列のものだ。
普通に出せばいいものを、わざわざ手品を仕込んでいるあたり
「手が込んでますね。」
「どんなものでも才能は才能、技能は技能だ。使える時には使っていかないとな。」
Sランク「道化師」の才能。
10もある夏先生のSランク能力の一角。
それっぽいことを言ってはいるが、こんな使われ方なんだから無駄遣い感は否めない。
「ほら、さっさと受け取れ?」
催促されて、知らない間に4つに増えていたマガジンを全て受け取る。
「新はこっちだ。スピードローダーはまけといてやろう。」
「あざっす!」
M500を使う新には、リボルバー銃に対応した別のものが渡される。
「そのマガジンやローダーに詰まっている銃弾は『実銃用非致死性演習弾』。名前のとおり実銃で使えて、死なない程度に威力を抑えた各国の執行機関も絶賛する優れものだ。当たれば痛いのはご愛嬌だがな。」
また不可解なアイテムが出てきてしまった。
「がくえんちょーっすかー?」
「いや、去年の卒業生だ。言っただろ?なんでも学園長だと思うなって。」
名前の付け方から察するに、おそらく「じつぶつくろーん」を作った人物とは別人だろう。
しかも、夏先生の話が本当なら、この「実銃用なんたら弾」というのはとんでもない代物だ。
俺のM45A1が採用する比較的メジャーな弾種である「.45ACP弾」はもちろん、新のM500が採用するマイナー中のマイナー弾である「.500S&W弾」にも当然のように対応しているのは特筆すべき評価点だろう。
「いったい何者なんですか?去年の卒業生ってのは?」
「ああ。一言で表現するなら、『変人の集まり』だ。」
遺したものの評価もさることながら、作成者本人たちもすば抜けている。
「中にはお前の知っている人間もいるはずだ。これの製作者とかな。少なくとも向こうはお前のことを知っていたぞ。」
「あーー。」
実銃用なんたら弾を指し示しながら、そんな事実が突きつけられる。
まあ、なんとなく察してはいたが、やっぱり…
────姉さんたちか。
「さて、くだらない話ばっかりしてないで、そろそろ始めるとしよーぜ。まずは、秋。お前からだ。新は観戦席で待機なー。」
「了解っす!」
こうして、ようやく演習が始められるのだった。




