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Final Gift  作者: トキハル
本編
19/49

第16話 デンジャラス女子会

「おいしい紅茶ね。このクッキーも甘さ控えめで紅茶の良さを際立たせているわ。また腕を上げたわね、冬華。」

「本当⁉︎ありがとう、綾ねー!料理(クッキング)技能(スキル)のSランクを目指して頑張ってるんだ♪」

 反省会解散後、私と綾ちゃんは、俊くんと冬華ちゃんが暮らす男子寮の一室に招待されていた。

 家主の一人である冬華ちゃんはもちろん、まるでこの部屋のことを知り尽くしているかのような綾ちゃんの手際を前に、場が整うまでそう時間はかからなかった。

 男子寮で行われる女だけの女子会には、若干の違和感を覚えるけどね。

「それにしても、愛美先生には驚かされたわ。」

「夏先生のこと『俊くん』って読んでたね。」

「あなたと同じね。」

「な、夏先生のことはそんな呼び方しないよ!」

「なにを言ってるの?あの人の話じゃないわよ。」

「にぃにのこと、奏ねーは『俊くん』って呼ぶよね。」

「あっ、そういうことか…」

「奏って、たまに天然をかますわね。」

「そ、そんなことない…。と思いたいかな。」

「そういえば、あの時の愛美先生の話し方もどことなくあなたに似ていたわね。」

「『かなかな語』だね。」

「あら?冬華もその名前を知っていたのね。」

「私は…。ん〜?初めて聞くかな?」

「あはは…」

 私の言葉を聞いて、冬華ちゃんがなんとも言えないというような表情をする。

「それよ、それ。」

「それって…?」

「『かなやん』が語尾に『かな』って言葉をつけてしゃべるから『かなかな語』なんだって。」

「………新くんだね。」

「察しがいいわね。」

 だって私のことを「かなやん」って呼ぶのは新くんぐらいだもん…

 私って、そんなに「かな」「かな」言ってるのかな?

「愛美先生の場合、『まなかな語』だね。」

「いいわね。問題は、普段、愛美先生のガードが硬いことね。これからどうやってまなかな語を引き出そうかしら?」

 綾ちゃんがまた悪い顔をしている。

 このS(サド)っ気がなければなぁ…

「紅茶のおかわりはあるかしら?」

「うん!ちょっと待ってね♪」

 ティーカップに紅茶が注がれていく。

 綾ちゃんは少し口に含んだ後、クッキーを1つつまむ。

「本当においしいわね。奏もそう思うでしょ?」

 不意の言葉に、冷や汗が背中を伝う。

「そ、そうだね。」

「ところで、奏はもうクッキーは作らないのかしら?」

 さっきまで愛美先生に向いていた矛先が、今は私の方に向いている。

 それが意味するものはただ一つだ。

「作らないことも、あるというか、ないというか…」

「どっちかしら?」

 どっちかって訊かれても…

「どっち…、かな?」

「質問しているのがこちらなのは間違いないわね。さあ、答えてちょうだい。」

 綾ちゃんの連続攻撃に壁際まで追い詰めらたその時、親愛なる妹分から助け舟が出されたが…

「大丈夫だよ!奏ねーならおいしいクッキーが作れるよ!」

 その泥舟が私にトドメを刺した。

()()()()クッキーね。楽しみだわ。俊秋の反応が。」

 綾は食べないわよ。

 そう言われている気がする。

「に、にぃにも気にしてない…。んじゃないかな?うん!」

 断言はできないといった冬華ちゃんのもの言いから、私の作った料理によって引き起こされた被害の大きさがひしひしと伝わってくる。

「俊秋は何も言わないでしょうね。むしろ、苦しそうな顔しながら『美味い』とか言って食べていそうね。」

 まるで見てきたかのように、綾ちゃんの口から過去に起こった出来事の説明がされていく。

「それで冬華も、俊秋に合わせて『美味しいよ』とか言ったんでしょ?」

「綾ねー、エスパー???」

「あなたたちのことをちょっと知っていれば、誰にでもわかることよ。最後は全員が口裏を合わせて『美味しい』ことにしたのでしょ?」

 以上、燈花里園のとある日の話だ。

「事実を伝えないのも一つの『優しさ』だけど、時には伝えることも大事な『優しさ』だと綾は思うわ。」

 確かに、あの頃はまだ自分の料理が爆弾であるという自覚がなかった。

 それを伝えてくれたのは、綾ちゃんの優しさだったのかもしれない。

「ただこれだけは言っておくわ。綾は最後よ。」

 つまり、他の人間に毒味させてから持ってこいと…

「冬華ちゃん、ごめんね…」

「えっ?ええぇ⁉︎」

「あら、奏もなかなかヒドイことするわね。」

「だ、誰のせいかな⁉︎」

「さあ、誰のせいかしら?」

「綾ちゃんのせいだよ!」

 本当に、これさえなければなぁ…

「綾ねーってメチャクチャ強いね。」

「そうかしら?」

 ホントそうだよ。

 これまで何度綾ちゃんのオモチャにされてきたことか…

「でも、誰でもいいわけじゃないわ。綾が揶揄うのは、綾が愛している人間だけ。言わば愛情の裏返しよ。どうでもいい人間には構うだけエネルギーの無駄だわ。」

 この言葉を聞いて、私たちは喜んでいいのか、悲しむべきなのか…

 反応に困っ…ちゃ……う………

 ん?んんー?えっと…

 ちょっと待って、もしかしてこれは綾ちゃんを攻める絶好のチャンスじゃないかな?

 でも、これで綾ちゃんを攻め落とすことなんて…

 いやでも、いつもやられっぱなしなんだし、たまにはこっちから攻めないといけないよね!

 うん、そうと決まれば実行あるのみだよ!

「ねぇ、綾ちゃん。」

「なにかしら?」

「その『愛している人間』の中には、新くんも入っているのかな?」

 これは私の予想だけど、綾ちゃんは新くんに気があるはず…

 そうじゃなかったら、城山で助けてもらった時にあんな顔はしないよね。

 でも綾ちゃんの性格からして、それを素直に認めないに決まっている。

 さあ、いったいどんな顔を見せてくれるのかな⁉︎

「そのとおりよ。」

 あれ?

「当然じゃない。今さら何を言っているのよ?」

 まさか、こんなにあっさりと認めるだなんて…

 しかも、平静を保ったままで…

「綾が筋肉をいじめてるのを見たことないのかしら?」

 ボディービルダーみたいなこと言ってるし。

「それにしても不思議ね。どうしてそんなこと訊くのかしら?」

 そ、それは………

「城山で助けてもらった時に、綾ちゃんが顔を赤くしていたようにみえたから…、かな…?」

 私の言葉を聞いた瞬間、綾ちゃんの口角が上がった。

 マズい…

 これはマズい。

 そんな予感は、ものの見事に的中した。

「なるほど、あなたにはそう見えたわけね。でも、おかしいわ。あの時、綾の隣にも顔を赤くしている女がいたと思うのだけど?さて、あれは誰だったのかしら?」

 楽しそうに話す綾ちゃんの視線は、ある人物を捉えたまま微動だにしない。

「あなたは知らないかしら?ねぇ、奏。」

 言うまでもないが、私だ。

 話の流れ的にも、あの場にいた綾ちゃん以外の女も、私しかいない。

「さ、さあ…。誰だろうね…」

 無理矢理紡いだその言葉は、もはや事実上の肯定でしかない。

 綾ちゃんを攻めるはずが攻められている。

 チャンスを読み間違えたかな…

「それに、綾が今一番気になるのは俊秋の方よ。」

 え゛ッ⁉︎

「ど、ど、ど、どういう意味かな?」

「どうもなにも、そのままの意味よ。」

 動揺を隠しきれない私とは裏腹に、綾ちゃんは真顔で言い放った。

「綾は俊秋のことが気になっている。もちろん、男としてね。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

 おかしい…

 これはおかしい…

 綾ちゃんの想い人は新くんのはず…

 それがどうして、今このタイミングで俊くんの名前が出てくるのかな…?

 また揶揄われているの?

 それとも…

「…………綾ねー」

 静かだった冬華ちゃんから不意に声が発せられる。

 その一言をトリガーに、家主不在の中、私たち3人はさらなる混沌へと歩みを進めることとなった。

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