第13話 今日、『はじめて』を経験した
城山。
江戸時代に築城されたらしい城の天守閣が現存する、この街を代表する観光スポット。
そんな作戦地帯に俺たちはいる。
『こちら司令部、冬華です。これより通信機器の動作確認を行います。皆さん、聞こえていますか?』
「Dチーム、俊秋だ。大丈夫、聞こえている。」
「俺も大丈夫だぞー。」
『Sチーム、綾音よ。こちらも聞こえているわ。』
『奏だよ。私の方も問題ないかな。』
『わかりました。こちらからはUAVによる索敵と、各種情報伝達を行います。』
言うまでもないが、このエセ軍隊通信はあの人の仕業だ。
『早速ですが、夏先生より、にぃに…。俊秋さんに伝言です。』
「なんだ?」
『「ハンドガンの使用を許可する。Sランク『武具天稟』の才能があれば、使いこなすことはできるだろう。ただし、銃を使いこなすことと、銃弾を目標に命中させることは別の能力であることを忘れるな。」以上です。』
「了解した。」
面倒なのは間違いないが、銃を使う許可もでたことだし、このぐらい別にいいかとも思う。
「なーなー、はなちゃん。俺はー?」
『新に…。新さんに銃の使用許可は下りていません。」
あくまでも、「俺は」という枕詞が付くが。
「そんな〜」
隣にいるパートナーがみるみるうちに落ち込んでいく。
昨日、新はこの日に向けて、付け焼き刃ながらも相当に銃を撃ち込んでいた。
その努力が報われなかったんだ、ショックを受けてもおかしくはない
「まあ、いっかー。」
が、それはそれで「普通は」という枕詞が付く。
新の落ち込みは、ほとんどの場合一過性のものだ。
長々と引きづることもなければ、今回のように数分と持たないこともある。
よく言えば切り替えが早い、悪く言えば…
「どうしたんだー?とっしー?」
「単純だと思ってな。」
「んー?」
『奏だよ。今デルタチームの北西300メートルぐらいの狙撃位置にいるよ。わかる?』
北西方向に視線を向ける。
わずかだが、何かがチカチカと光っているのが見える。
「確認した。もう着けてもいいぞ。」
『了解だよ。』
今の通信で、奏がキルフラッシュと呼ばれるアタッチメントをスコープに取り着け、対物レンズに太陽光が反射するのを抑える。
これで狙撃手が位置を敵に察知されにくくなる効果を望むことができる。
一方で、それは同時に、味方からも身を隠すことを意味する。
ここからは、俺たち前衛と狙撃手である奏、双方の位置取りが要だ。
俺たちが狙撃手の射線が通らない位置にいれば、当然、狙撃手からの援護を受けることはできない。
逆に、射線が通れば援護を受けることはできるが、敵と同じく俺たちも撃ち抜かれる危険性がでてくる。
昨日の連携確認が活かさねば。
そしてもう一つ重要なのは、作戦地帯を俯瞰視することのできる第三者…
つまり、オペレーターとの連携だ。
現場では、そこにいる人間が見ているものが全てだ。
周りの状況、離れた場所にいる他者の様子なんてものはすぐにわかるものではない。
また、現場で行動していると自分のことで精一杯になり、そこから連携が崩壊していく。
チーム間の連携を密にし、その崩壊を防ぐには、まとめ役は必要になる。
幸いにも、今回のオペレーターは冬華だ。
事前の確認作業こそ行なってはいないが、これまでに培ってきた共闘経験が穴埋めしてくれるだろう。
『現在時刻09:15。これより作戦行動を開始いたします。皆さん、よろしくお願いします!』
作戦行動開始からはや1時間。
「ぜんぜんいないなー。」
魔獣の捜索は難航していた。
「奏、何か見えるか?」
『木、木、どっちを見ても木かな。このフィールド、狙撃には向いてないと思うんだ。いっそのこと木に登った方がいいかな?』
『それはやめて欲しいわね。護衛が難しくなるわ。それ以前に、この無駄に重たい銃を担いで木なんて登れるかしら?』
奏が携行しているスナイパーライフル「M200 Intervention」は、カタログスペックで14キログラムほどと、個人携行火器としてはかなり重たい部類の銃だ。
さすがにそのままでは扱いづらかったのか、奏によって大幅な軽量化がなされている。
それでも、10キログラムの大きな壁を超えるには至っていない。
『あはは…。無理かな。』
『でしょうね。運ぶのですら二人がかりだもの。』
ちなみに、M200には携帯用弾道計算コンピューターなるものが付属している。
これがかなりの性能を持つ代物で、狙撃には欠かせない風速やら、コリオリの力といった、物理学の塊みたいな計算を瞬時に行うものらしい。
が、Aランクの弾道計測や同ランクの気象観測に代表される狙撃に向きの技能を一通り揃える奏には無用の長物らしく、残念ながら倉庫に眠っている。
『こっちの状況は聞いての通りよ。冬華、そっちはどうかしら?』
『ちょっと待ってね、綾ねー。うーん、ドローンからも敵影は確認できないかな。』
山と言っても、平野にポツンとある城山の規模は大したものではない。
入り込んでいるらしい魔獣の数からしても、ここまで見つからないのは珍しい。
『あっ、夏せ…。総司令官、どうされましたか?』
すっかり忘れていたが、俺たちはデルタチームだったな。
『俊夏だ。全然見つからないみたいだな。時間もないし、居眠りしてる奴を叩き起こすのもメンドーだし、なにより暇だし、熱探知を使ってサクッと見つけるとしよーか。』
いったいどれが本音なのだろうか?
『そんじゃあ、冬華ちゃんよろしく。』
『わかりました。これより熱探知による索敵を始めます。』
この状況を打開してくれるなら、この際なんでもいい。
モニタールームにいない俺たちにはなにがどうなっているのかはわからないが、夏先生が提案するものなら、それなりに結果を出してくれるだろう。
後は、その結果を冬華から聞いて行動するだけだ。
『熱探知の結果が出ます。』
『ん…?これは…』
『どうかされましたか?』
『んー、いや、そーだな。今は「なんでもないかもしれない」と答えておこう。』
『え?え?どういうことですか?』
『どーいうこともなにも、そーいうことだ。てわけで、冬華ちゃん。ここは任せた。』
『え⁉︎先生!どちらにいかれるんですか⁉︎』
『ちょっとそこまでー』
………………?
なにが起きているんだ?
俺たちにもモニタールームの様子をモニターさせてくれよ。
『えぇーっと。とりあえず熱探知の結果を報告するね。にぃにたちから南に50メートルほどの地点に1体だけ反応があるよ。』
「了解だ。すぐに向かう。」
『わたしたちも移動するね。』
『あっ、あと夏先生が「足元に気をつけろ」って言ってたよ。』
「わかったぞー。」
『今さらね。とりあえず了解よ。』
50メートルか…
「案外近くにいたなー。」
「ああ、魔獣の中には五感が鋭い奴もいるし、念のため気配を消しながら行くぞ。」
「了解だぞー。」
慎重に歩を進めて行くが、距離が距離だけに、俺たちはあっという間に目標地点にたどり着いた。
そこにいたのは、木の根元をまさぐっている猪型魔獣の子供だった。
「『うりぼー』だなー。」
「ああ。」
餌探しに夢中になっているのか、こちらにはまだ気づいていないようだ。
「こちら俊秋、目標を発見した。」
『奏だよ。私もポイントについたよ。こっちからもバッチリ見えてるかな。』
包囲は完了した。
『それで、どうするのかしら?』
簡単な話だ。
俺ろ新で突入してもいいし、奏に任せてもいい。
「狩る…。しかないだろうな。」
それができれば、の話にはなるが…
『ちょっと躊躇っちゃうよね…』
「かわいいもんなー。」
うりぼーは、成長すると「いのしん」と呼ばれる大型の魔獣に成長する。
その凶暴性と攻撃力は数ある魔獣の中でもトップクラスで、藁でも木でも煉瓦でも、家一軒ぐらいならあっという間にスクラップへと変えてしまうほどだ。
ところが、うりぼーは真逆の特徴を持つ。
人懐っこく、社交的。
そして、誰からも愛される愛玩動物のような見た目。
過去には本当にペットとして飼われていたなんて記録もあるほどだ。
『誰が殺るのかしら?先に言っとくけど、綾は射程外だから無理よ。』
綾音から一抜け宣言が出されるが、こればかりは仕方がない。
俺か、新か、奏か。
誰かが手を下さなければならない。
そう標的の処遇に迷っていると、新からある提案を受けた。
「なーなー、とっしー。どうせなら銃を使ってみたらどうだー?」
『そ、そうだね。夏先生から使用許可も貰ってるし、ちょうどいいんじゃないかな?』
確かに、タイミングといい、標的といい、これはまたとない絶好のチャンスかもしれない。
だが…
「おまえら、俺に押し付けようとしてないか?」
『そそ、そんなことないかな。うん。』
「そうだぞー。俺だって撃ちたいんだぞー。」
奏はともかく、新はいろんな意味でガチかもしれない。
「わかった、わかった。やるよ、やってやるよ。」
ホルスターからM45A1を抜いて構える。
そのまま照準をうりぼーに合わせるが…
「なあ、奏、綾音。何かアドバイスとかないか?」
イマイチ自信を持てない俺は、熟練者に意見を求めることにした。
『えっ⁉︎アドバイス?うーん、そうだね。脇を締めて両手で構えて、風の流れを読みつつ照準を合わせて撃つって感じかな?ごめんね。普段あまり意識してないから…。上手く伝えられてないよね…。』
『昨日、筋肉と一緒に射撃練習したのでしょ?どうにかなるわ。ヘタれてないでさっさと撃ちなさい。』
ただ、今は聞かなければよかったと後悔している。
「新、援護は任せた。」
「はいよー。」
隣で新が獲物を構える。
照準の先では、うりぼーのお尻が左右に可愛らしく揺れている。
俺は最後の迷いを断ち切り、引き金を引いた。
結論から言うと、弾丸はあっけなく命中した。
「おおー、やったなー。」
新からの賞賛に、妙な達成感が込み上げてくる。
初めての実戦での発砲。
初めての銃撃による魔獣の討伐。
刀とは違う手応え。
間近で感じる火薬の匂い。
その何もかもが新鮮だった。
「ところでさー、」
半放心状態の中、不意に新から声がかかる。
「魔獣ってなんで消えるんだろうなー。」
俺が撃ったうりぼーは、すでに四散して跡形もなく消えている。
まるで初めからそこには何もいなかったような、そんな物悲しさだけが残っている。
「そういうものだからじゃないのか?」
「そうなんだけどなー。ゲームの敵みたいだよなー。」
「ゲームの方が現実に寄せているんだろ?」
「おー、それもそうだなー。」
この時、俺たちは目の前の出来事にとらわれて忘れていた。
今はまだ作戦行動中だということに…
『にぃに!新にー!大変だよ!』
切羽詰まった冬華の声を聞くまでは…
<桑原奏のM200>
・製造メーカー「Cheyenne Tactical (シャイアン タクティカル)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「M200 Intervention」
・通称「M200」、「インタベ」
・ボルトアクションスナイパーライフル (アンチマテリエルライフルに分類されることもある)
・ブラックカラー
・装弾数7+1発
・本来14kgオーバーの重量があるが、奏による改良の結果、10kg程度まで軽量化が図られている。
・付属する弾道計算コンピューターは、一度も使われることなく、奏の部屋の隅に転がっている。




