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Final Gift  作者: トキハル
本編
14/49

第11話 最強がやってきた

 目の前で奏が綾音を誘拐していった。

 そして取り残された俺たちは、しばらく雑談した後、寮にあるそれぞれの部屋に戻ることにした。

「ただいまー。」

 しかし返事はない。

 部屋は暗く、人気もまったく感じられない。

 どうやら、冬華はまだ帰ってきていないようだ。

 今日は4人で集まっていたこともあって、普段よりも帰るのが遅くなったと思っていたが…

 冬華はいったい何をしているんだ?

 ────まさか⁉︎冬華の身に何か起きたんじゃないだろうな⁉︎

 いや、落ち着け、落ち着くんだ俺。

 まだそうだと決まったわけじゃない!

 そうだ、電話だ!電話をかければいいじゃないか!

『おかけになった電話番号は、電波の届か…』

 クソッ!

 電波の届かない場所だって?

 一体どこにいるんだ!

 待てよ?最近の携帯にはGPS機能がついているはずだ。

 冬華の携帯をGPSで探知すれば…

「俺、使い方知らねーじゃん!」

 どうしたらいいんだ!

 こうしている間にも冬華が危険な目にあっているかもしれないってのに!

「何やってんだ?」

 声のした方に振り向くと、

「ただいま!にぃーに!」

「あ、ああ。おかえり。」

 探し回っていた最愛の妹と、

「お前はどーして玄関先でのたうちまわってるんだよ?」

「えっ?いや、あのー。なんでですかね?」

「いやいや、聞いてるのは俺なんだが…」

 夏先生がいた。



 冬華が帰ってきてから20分ほど経った頃。

 現在進行形で3人分の夕食を作っている妹。

 当たり前のように俺たちの部屋に上がり込んでいる教師。

 俺はまだこの状況が理解できていなかった。

 家庭訪問にはまだ早いと思うが…

 確か、こういう時は上司や年長者に聞けばいいって誰かが言っていたな。

「というわけで夏先生。」

「どういうわけかわからんが、なんだ?」

「どうして夏先生が、冬華とここにいるんですか?」

「答えるのはいいんだが…。とりあえず、ダダ漏れの殺意的なやつをしまってくれねーか?」

 おっと、無意識のうちにいろいろと垂れ流してしまったようだ。

 よく言われるんだよな。

 直していかないといけないな…

「失礼しました。それで、なぜですか?」

「まだ出てるぞー。ちゃんと収納しろ?」

「すいません。で?」

「わかったわかった。話せばいいんだろ?」

 何かを諦めたようにため息をつき、夏先生は事情を話し始めた。

「理由は簡単、ここがむさ苦しい男子寮だからだ。」

「つまり、どういうことですか?」

「荒れ果てた大地の真ん中に、可憐な華が一輪だけ咲いていたらどーなると思う?」

「それは…」

 夏先生からの問いに、これまで目を背けてきた嫌な想像が頭の中を駆け巡る。

「愛でる奴もいるだろうし、中には我先にと摘み取って、持ち帰ろうとする奴もいる。まあ、そーいうことだ。」

 同時に怒りのようなドス黒い感情が湧いてくる。

「摘み取ろうとしていた奴が?持ち帰ろうとしていた奴がいたと…?」

 気がつくと、俺の手には時雨が握られていた。

「先生。それはどこのどいつですか?」

 立ち上がり、すぐにでも飛び出せる態勢を整える俺に対して、

「おいおい、落ち着けよ。」

 夏先生は至って冷静だった。

「そんな奴がいたら、お前より先に俺が()ってる。」

 ただし、そこには俺よりも格段に強い殺気が満ちていた。

「今のところは大丈夫だし、これからもそーいうことがないよーに気は配るさ。」

 そうかと思えば、次の瞬間には、いつものヘラヘラした夏先生に戻っていた。

「ただ、冬華ちゃんにとっても隣人とのコミュニケーションは大切だ。それに、男子寮(ここ)にいるのは弁えのある奴がほとんどだし、必要以上に警戒することもないだろう。」

 寮監様がそこまで言うなら仕方ない。

「わかりました。」

 とりあえずは信じておくことにしよう。

()()()()()()、ですけど。」

「ああ、いいだろう。」

「にぃ〜に。ご飯できたよー。運ぶの手伝ってー。」

 わかったと返事をし、冬華が作った3人分のボンゴレパスタを机に運ぶ。

「簡単な料理ですけど、先生にも気に入ってもらえたら嬉しいです。」

「おう!ゴチになるぜ!それじゃさっそく…」

 そう言って夏先生は、料理がくる前から手に持っていたフォークにパスタを絡ませ、そのまま口に運ぶ。

「おー、美味いな。なにがどう美味いのかはわからんが、間違いなく美味いな。」

「もう少し時間があれば、もっとしっかりした料理を出せたんですけど…」

「そこまで贅沢言わんさ。押しかけてるのはこっちだし、十分いいもん出してもらってるし、文句なしだ。うちに入学したら単位をやろう。」

「あはは、ありがとうございます!」

 俺よりも先に単位を得たところで、冬華が切り出した。

「それでさっきの話ですけど、わたし、ここに居ない方が良いんでしょうか?」

 すでに一応の解決をみた話題だが、それはあくまでも俺と夏先生の間だけの話。

 当事者である冬華は、料理をしながらも、自分が参加できないまま進む俺たちの会話を聞いて不安に思っていたのかもしれない。

「冬華、それは…」

「そーかもしれないな。」

 フォローを入れようとする俺の言葉をかき消すように、夏先生が口を開いた。

「男子寮は、文字通り男だらけの空間だ。そんな中に女がいれば、治安が悪化する一因になりかねない。」

 夏先生の言っていることは正論だ。

 正論であるがゆえに、俺たちに返すべき意見は残されていない。

「加えて、女性特有の悩みなんかもあるんだろーが、残念ながらここにはそれに気づくことができる奴も、真に理解できる奴もいない。」

 それを頭では理解しているし、できている。

「そーいう意味でも、冬華ちゃんがここで暮らすことによるマイナスはかなり大きいといえるな。」

 だが、たとえ邪論だと言われても、冬華を追い出そうとするようなその物言いに反抗心が込み上げてくる。

「女子寮で暮らした方が不便はないだろーな。あっちも今は部屋に空きがないし、あったとしても学園生じゃない冬華ちゃんに貸すわけにはいかねーが、奏あたりに頼めばいけるかもな。」

「そう、ですよね…」

 正論に晒されるたびに身をすぼめていく冬華を見て、俺は決意を固める。

「ちょっと夏先生!」

「だが────」

 しかし、夏先生は、俺からの反抗を待っていたかのように手のひらを返した。

「プラスの面があることも否定できない。」

 俯いていた冬華は顔を上げ、俺はというと、急な展開に呆気を取られていた。

「可愛い子が近くいると、自分をよく見せよーとするのが男だからな。今年になってからここに住んでいる奴らの成績は右肩上がりだ。」

 まだ1ヶ月も経っていないのに⁉︎

「ちなみに、学年主任から俺に対する評価は右肩下がりだ。」

 それは知らねーよ!

「まあ、主任に折られた心も、冬華ちゃんの手料理を食えばほら、この通りだ。」

 絶対心折れてないよこの人。

「そんでなにより、冬華ちゃんがいなくなると、そこにいる殺意剥き出しの奴が寂しがるだろーな。」

 夏先生の指差す先にいたのは、他でもない俺だった。

「いやー、怖いね〜。いったい誰のために、こいつは教師を睨みつけているんだろーな?俺にはサッパリだ。わかるか?冬華ちゃん。」

「にぃに…」

 すがるように俺を見つめる冬華を前に、折られていたのは自分の心だと自覚する。

 同時に、その不安を払拭してやるように力強くうなずいた。

「そーいうわけで、冬華ちゃんが居たいと思うなら、居ればいいだろう。無理に追い出そーとは思わないし、大きな問題が起こらない限りはとやかく言うつもりもない。面倒なことに、俺は寮監部屋に閉じ込められているんでな、何かあれば遠慮なく言ってくれ。」

「はい!」

 そこにあったのは、冬華の弾けるような笑顔だった。

「………勝てる気がしないな。」

「何か言ったか?」

「いえ、なんでもないです。」



「さて、世話になったな。そろそろ俺はお暇するとしよう。っても、1階の部屋に戻るだけだがな。」

 なんだかんだで、食後の後片付けは夏先生が率先してやってくれた。

 意外なことに、家事をやり慣れているのか手際がとても良かった。

「秋、明後日は頼んだぞ。何かあれば明日聞いてやる。」

「新が先生に剣を習いに行くって言ってましたよ。」

「うげー、剣術かよ。しかも、よりによって新かよ。」

「先生、剣使えたんですね。」

「むしろそっちがメインなんだが…。言ってなかったか?」

「はい。」

「それは悪かったな。」

「奏との連携確認もあるんで、先生のとこに行くのはその後になると思いますけど。」

「へいへい、お待ちしておりますよ。一応、お前も来いよ。」

「そのつもりです。」

「いーだろう。冬華ちゃんもよろしくな。」

「はい!」

 ……………ん?

「そんじゃ、ゴチそーさんだった。また来るんで、そん時は頼むわ。」

 こうして我が家に訪れた台風は、最後の最後に気になる言葉を残して過ぎ去っていった。

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