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Final Gift  作者: トキハル
本編
13/49

第10話 最強談義はお好きですか?

「正直、あなたは護衛なんかいなくても、大抵のことは自力でなんとかできると思っているのだけど。どうかしら?」

 開口一番、綾ちゃんはそう疑問を投げかけてくる。

 綾ちゃんに限ったことではない。

 これまでも私は、この手の質問を何度も受け、まるで超人のような扱いをされることが多かった。

 その主な原因は、私の能力(アビリティ)にある。

「むしろ、できないことの方が多いと思うよ。」

 私はいくつものAランク能力(アビリティ)を保有している。

 しかも、そのほとんどが戦闘向きのもの。

 だからこそ、私の戦闘能力は本来のそれと比べて、過大評価されやすい。

 だけど…

「私の能力(アビリティ)は狙撃することに長けたものばかりだから、狙撃なら自信あるかな。」

 そう、私の真価は狙撃にある。

 標的が銃弾の届く場所にいるならば、たとえそれがどれだけ離れていたとしても、私は9割を超える精度で射抜くことができる。

 しかも、通常であれば狙撃手と共に行動する観測手(スポッター)を必要とせず、私一人で完結させることができる。

 スコープを覗いている時の私は、まさに超人と評しうる存在といえるかもしれない。

 が、同時に、これが私の限界でもある。

「でもそれ以外はまったくだよ。」

 スコープがなくなった瞬間、私の戦闘能力は大きく落ちる。

 不慣れなアイアンサイトしかないハンドガンの精度は、初心者の俊くんと比べても大差はない。

 加えて、

「特に、近接戦闘は苦手かな。」

 ナイフを持った時の私は、曰く「危なっかしくて見てられない」らしい。

 実際その通りで、自分が使っていたナイフで自分を切ったこともあるぐらいだ。

 それ以前に、狙撃に意識を集中しすぎて、魔獣の接近自体に気づかないことも少なくない。

 だからこそ、近距離戦闘が得意で、周囲を警戒してくれる俊くんや綾ちゃんのような護衛の存在は、私にとってかけがえのないものになる。

「それは意外だわ。近接戦闘ね…」

 綾ちゃんが少し考え込んだ後、本格的な打ち合わせが始まった。

弾倉(マガジン)はいくつ持って行くつもりかしら?」

「M200の7発入り(ラウンド)マガジンを2個、Beretta(ベレッタ)の15ラウンドマガジンは3個かな。綾ちゃんは?」

「MP7の40ラウンドを3個、Glock(グロック)の17ラウンドを2個かしら。」

「夏先生が、ペアを組む相手が使う銃のマガジンを1つは持っておくようにって言ってたよね?」

「ええ。『状況に応じた相互補助』に『緊急時のバックアップ』。それと『精神的なゆとりを保つ』ためだったかしら。」

「理にかなってるよね。補助もそうだけど、弾がまだ残っているっていう安心感はすごいから。」

「そうね。問題は『どのマガジンを持っていくか』ね。綾に持たせたいのはどれかしら?」

「う〜ん。念のためってことならベレッタのマガジンかな。20ラウンドのマガジンをお願いしてもいいかな?」

「ロングマガジンにするのね。いいわ。その代わりといってはなんだけど、綾もグロックの33ラウンドをお願いするわ。」

「うん、了解だよ。」

「刃物の類はどうしたものかしら?」

「私はいいかな。持っててもあまり意味がないから…。」

「そう。なら綾が持っていくわ。3本ぐらいあればいいかしらね。」

「3本も持っていくの?」

「『切る』『刺す』『殴る』だけがナイフの攻撃方法ではないわ。投擲よる攻撃力もかなりのものよ。だから、いつもコンバットナイフのほかに、スローイングナイフを2本持ち歩くようにしているわ。」

 そうだったんだ。

「全然知らなかったよ。」

「お互いにね。綾も、あなたが近接戦闘を苦手としていることを知らなかったもの。」

「結構長い付き合いなのにね。」

「もう10年以上の付き合いだったかしら?」

「初めて会ったの中1の時だよね…?」

「そうだったわね。もっと昔から知っていたような気がしていたわ。」

 その気持ちは理解できるような気がする。

 だって、私も同じだから…

「まあ、今まで綾たち二人で組むことはなかったのだから、こればかりは仕方ないわ。」

 私のパートナーは決まって俊くんだった。

 そして綾ちゃんのそばには、いつも新くんがいた。

 一緒に出撃することはあっても、戦闘スタイルや役割の違いから、違うペアのことまで知る機会はあまりなかった。

「これから知っていけばいいのよ。」

「そうだね。」

 見た目に反して、達観したような振る舞いの綾ちゃんは、どこか近寄りがたいような雰囲気を感じさせる。

「これで一通りの確認はできたと思うけど、ほかに聞いておきたいことはないかしら?」

「特にはないかな。どちらかといえば、私の仕事は前衛二人との連携が重要になると思うから。守りはお任せすることになりそうだけど…」

「かまわないわ、それが綾の仕事だもの。Cランクでも、『要人警護(ガーディアン)』の才能(ギフト)は飾りじゃない。奏のことは必ず護るわ。」

 でも、実際には誰よりも努力家で、根はとても優しい。

 その小さな体からは想像できないほどの、絶大な安心感をくれる綾ちゃんの存在は、私たちの精神的支柱になっている。

「ただ、まだ足りないわ。あなたを護るために、もう一つだけ訊いておきたいことがあるのだけど。いいかしら?」

 そして、もう一つ忘れてはならないことがある。

 綾ちゃんはたまに、

 ────すごく意地悪になる。

「いいよ、なんでも訊いて。」

 今日、私が得た一番の教訓は、「迂闊に返事をしてはいけない」ということかな。



「とっしー。俺らの仕事ってさー、前に出て戦うだけだよなー。確認することなんてあるかー?」

 開口一番、新は身も蓋もないことを口にした。

「魔獣を斬ったら終わりだろー?」

 自分の腕に自信があるのか、あるいはただの能天気なのか、まるで簡単なことかのように言ってくれる。

「間違いはないが、大まかな立ち回りぐらい確認しておくべきじゃないか?」

「たちまわりー?どっちが右とか左とかってあれかー?」

「ああ。俺たちは右利きだから、普段右手に武器を持って構えるよな。」

「そだなー。」

「右手に刀を持った人間が二人並んだ場合、左側にいる奴が攻撃する時に、右側にいる奴を巻き込む可能性があるだろ?」

「おおー、確かになー。」

「そうならないように、俺たちの立ち位置と、距離感ぐらいは確認しておきたいんだが…。いいか?」

「いいぞー。」

 このものわかりの良さは、話を進めるという観点で見ればとてもやりやすい。

「まずはどっちが左に立つかだな。」

「んー?」

 新が珍しく考え込…

「俺がいくー。」

 むことはなく、即答だった。

「大丈夫か?俺を巻き込むなよ?」

「『フレンドリーファイア』ってやつだなー。」

「いやいや、どこが『フレンドリー』なんだよ⁉︎」

 新が言うと冗談に聞こえなくて怖い。

「なにか考えがあるのか?」

「かんがえー?」

 まるでその単語を初めて聞いたかのような反応をする新に、俺はますます不信感を強めていく。

「いつも右で持ってる剣を、左で持てばいいんじゃないかー?」

「マジで?」

「マジだぞー。」

 普段、飯を食う時に右手で箸を使っているとしよう。

 それを左手に持ち変えた時、右手で使っている時と同じレベルの動きができるだろうか?

 剣術においても同じだ。

「まともに戦えるのか?」

「たぶんなー。」

 新の戦闘スタイルはいわゆる西洋剣術と呼ばれるもので、基本的に、右手に攻撃を担う両刃のショートソードを、左手に守りの要たる短剣(マインゴーシュ)を持つ。

 ここで右手による攻撃力、左手による防御力をそれぞれ100だと仮定する。

 持ち手を左右を入れ替えた時、この100という数値を維持することはほぼ不可能に近い。

 ほとんどの人間は、どちらの数値も大きく落ちる。

 稀に、利き手に移った方の数値を維持できる者はいるかもしれないが、やはりもう一方の数値は落ちるだろう。

 熟練者であれば、あるいは可能なのかもしれないが、新もさすがにその域までは達していないはずだ。

「夏せんせーに教えて貰えばいいと思うんだけどなー。どうだー?」

 ん?どういうことだ?

「夏せんせーも剣を使うだろー?」

「そうなのか⁉︎」

 俺の知っている夏先生は、無類のM1911(ガバメント)マニアで…

「すごいよなー。剣4本使って戦うんだからなー。」

「4本⁉︎」

「んー?ある意味8本かー?」

「8本⁉︎」

「そうだぞー。使ってるのはなー、とっしーと同じ日本刀だったけどなー。」

 新も、俺と同じで夏先生とは済陽学園(ここ)で初めて出会ったはずだ。

 それなのに、この情報量の差はなんだ?

 俺の記憶が正しければ、夏先生が俺たちの前で刀を持ち出したことはない。

 それ以前に、刀を得物にしているということ自体初耳だ。

「なんでそんなこと知ってるだ⁉︎」

「見たことあるんだー。小さい時になー。」

 小さい時?

「いつ頃の話だ?」

「んー?忘れたー。」

 肝心なところは覚えてないのかよ!

 だが、こいつ言葉は信じることができる。

 なんたって、嘘をつけるほど器用じゃないからな。

 ならば、あの夏先生のことだ、剣の腕もおそろしく立つのだろう。

 そして新の持つ才能(ギフト)は、Bランクの『転写(トレース)』。

 他者の能力を、ある程度自身の能力として取り込むことのできるその力を使えば、もしかしたらもしかするかもしれない。

「わかった。左側は任せる。」

「おうよー。」

 俺たちだけでできる確認はこんなものか…

「基本は各個撃破、状況に応じて連携。これさえ押さえておけば、余程のことがない限りどうにかなるだろう。あとは、(狙撃手)との連携を確認しておいた方がいいか…」

「撃たれたらおしまいだもんなー。」

「『フレンドリーファイア』だな。」

「やられたら友達じゃなくなるのかなー?」

「そうならないために確認するんだろ?」

「それもそだなー。あやちーたちは…」

 俺たちは、少し離れた位置で確認作業をしている奏たちに目を向ける。

「なにやってんだ?あいつら。」

「なんだろうなー?」

 なぜか顔を赤らめている奏と、そんな奏に詰め寄る幼女(綾音)(15歳)。

 そこには、そんな不思議な光景が広がっていた。

「なにしているか当てっこするかー?」

「いやいや、お前何歳だよ…。あれは、奏が料理の腕について問い詰められている、ってところじゃないか?」

「結局やるんだなー。それよりもー、かなやんって料理苦手なのかー?」

「ああ。勉強でもなんでもそつなくこなすのに、料理だけはさっぱりだからな。」

 同じ人間から教わったはずなのに、奏と冬華でどうしてここまでの差がついてしまったのか…

「臨死状態を体験できるアトラクションみたいなもんだ。一回食ってみるか?」

「やめとくー。」

 まあ、当然だな。

 好き好んで口にするものではないことだけは確かだ。

「それで、おまえは何しているところだと思うんだ?」

「そうだなー。」

 確認作業の時以上に真剣な顔つきで、考え込んだ末に出された回答は…

「どの武器が最強か話していてー、意見が分かれてだなー、今はあやちーにかなやんが押されているところじゃないかー?」

 ………。

「いやいや、どこの筋肉だよ!」

「んー?腹筋とか背筋とかかー?」

「そういうことじゃねぇよ!」

「そうなのかー?」

 まったく、相変わらずだな。

 今日した確認もちゃんと覚えていてくれるんだろうな?

「ああ、もういい。大丈夫だ。それよりも、ここで話していても仕方ないし、もう行っちまおうぜ?」

「そうだなー。どっちが正解かなー。」



「さあ、答えてちょうだい。」

「それは…、その…」

 いったいどれだけの時間が経ったのだろう?

 いや、もしかすると、長いのは体感時間だけなのかもしれない。

「なんでも訊いていいって、言ったわよね?」

 こちらの弱みを的確に突いてくる綾ちゃんに、私は防戦一方だ。

 あんなことさえ言わなければなぁ…

 それに、こんなこと言えるわけないよ…

 どうにかしてこの場を切り抜ける方法を見つけ出さないと、このままじゃあ…

「奏、ちょっといいか?」

「ひゃい⁉︎」

 背後から声をかけられ、思わず変な声が出る。

 振り返ると、そこには俊くん(訊いておきたいこと)が立っていた。

「と、俊くん⁉︎な、な、何かな⁉︎」

「顔が赤いが、どうしたんだ?」

 どうしたもこうしたもないよぉ…

「簡単な話よ。奏にあなたのことをどうッ!」

 容赦なくネタをばらしにいく綾ちゃんの口を咄嗟に塞ぐ。

 目を細め、肩越しに私を見るその視線がとても痛い。

「本当にどうしたんだ⁉︎大丈夫か?」

「大丈夫!本当に大丈夫だから!」

「そうか?それならいいんだが…」

 俊くんも、そんな私たちのやり取りを見て訝しんでいるようだ。

「とっしー、確認はいいのかー?」

「ん?ああ、そうだったな。」

 確認?確認ってまさか…

「こっちの確認作業は一通り終わったんだが、狙撃手とも連携の確認をしておきたいってことになってな。そっちも終わったなら付き合ってくれないか?」

 その言葉に、私は胸をなでおろす。

 もし綾ちゃんと同じ確認事項だったら、私は死んでいたかもしれない。

 でも、こんな心が揺れ動いている状態で確認作業なんてしても、全然身に入る気がしない。

 俊くんと新くんには悪いけど、

「ごめんね。明日でもいいかな?」

「俺はかまわないが…」

「俺もいつでもいいぞー。」

 二人ならそう言ってくれるよね。

 人柄を利用しているようで気がひけるけど、今はそんなこと言ってはいられないかな!

「ごめんね、本当にごめんね。そ、それじゃあ、私たちはこれで…。ほら!綾ちゃんも行くよ!」

 口を塞いだまま、ジト目の綾ちゃんをまるで子供を誘拐するかのように教室から連れ出した。

「なんか、どっと疲れた気がするよ。」

 しばらくした後、二人が追ってこないのを確認すると同時に、緊張の糸が切れ、大きなため息がでた。

「お疲れ様ね。」

「誰のせいだと思ってるのかな?」

「なんでも訊いていいって言ったくせに、なにも答えなかった嘘つきのせいじゃないかしら?」

 やっぱり綾ちゃんには勝てる気がしないよ。

「そう拗ねないの。あなたが可愛くていじめてしまっただけよ。」

「そもそも、いじめないで欲しかったかな。」

「大丈夫よ。さっきのやりとりで知りたかったことはわかったし、今日のところは見逃してあげるわ。」

「え?あ、ありがとう?」

「あなたも変わらないわね。」

 変わらないってどういう意味かな?

「とりあえず、あなたをゆするためのネタも手に入ったし、綾は満足よ。」

「どういう意味かな⁉︎」

「一応、誤解のないように説明しておくわ。護衛対象の心理。特に、対象(あなた)の行動基盤が何か知りたかったのよ。いざという時に何を、誰を優先し、どんな行動を取るのかを知るためにね。」

 その説得力のある説明に、私に頷く以外の選択肢は残されていなかった。

「本番は明後日。それに明日は筋肉たちと確認作業をするのでしょ?」

「うん。」

「なら、寮に戻りましょう。綾は食事にするけど、よければ一緒にどうかしら?」

 こうして、私にとって苦難の一日は終わりを迎えた。

 一つの教訓と、綾ちゃんへの警戒心を残して。

<天山綾音のG18C>

・製造メーカー「Glock (グロック)」

・製造国「オーストリア」

・正式名称「G18C」

・通称「G18C」

・マシンピストル

・ブラックカラー

・装弾数17+1発 (ロングマガジン使用時は33+1発)

・セレクター操作でセミオートとフルオートを切り替えることができる。

・綾音の採用理由は、「グリップが握りやすい」から。

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