第8話 『最強』はいいものです
それは、今日の授業もすべて終わり、放課後を迎えるための最後の儀式、HRの時間で起こった。
「さて諸君。いきなりだが、明後日、『城山』で楽しい魔獣狩りをすることになった。秋、新、綾音、奏の4人は狩りに参加。残りのメンバーは、麓にあるモニタールームでその様子を見学してもらうことになる。質問はあるかー?」
そう、徴兵である。
しかも、スタメンに俺が起用されてしまっている。
いやまあ、交代要員とかいないだろうけど。
「夏先生。」
クラス中が呆然とするなかで口火を切ったのは、同じ徴兵仲間である綾音だった。
「いきなり狩りに参加しろと言われても困るわ。詳しく説明をして欲しいわね。」
「まあ、当然だろーな。」
明らかに不機嫌な綾音に対し、夏先生は悪びれる様子もなく答える。
「諸君も知っているとは思うが、城山には魔獣が入り込むことがある。つか、今まさに入り込んでるわけだ。んで、あそこはこの街きっての観光地ゆえに、放置することもできない。つーわけで、4人に狩ってきてもらうことになった。」
むしろ、どこか楽しんでいるようにも見える。
「最初は、俺と愛美先生で行ってこいって言われてたんだけどな。めんどく、もとい君らの後学のためになればなーと思って、生徒に任せることにしてみたわけだ。参加メンバーについては、実戦経験があり、それなりに連携が取れそうなメンツを選んだにすぎん。まあ、運がなかったと思って諦めるんだな。」
どこか本音が見え隠れしているが、筋は通っているようにも思える。
だが、それだけで納得できるわけがない。
「ちょっと待ちなさ…」
やはり綾音も同じようで、すぐに意見しようとするが…
「ああ、いい忘れてたが、すでに学園長の決裁は通ってるんだ。諸君が納得しようがしまいが、よほどのことがない限りこの決定は覆らないからよろしく!」
夏先生は強引にその言葉を遮り、
「そーいうわけで、4人はこの後すぐに、職員室の俺のとこまで来るよーに。以上。かいさーん!」
半ば強引にHRを締めくくった。
どうやら俺たちに、拒否権なんてものはないようだ。
「綾音、そろそろ機嫌を直したらどーだ?」
HR後に夏先生を訪ねた俺たちは、職員室の隣にある小さな会議室に通された。
「先生がやれと仰るなら、拒否権のない綾は、ただそれをやるだけ。綾のことなんかいちいち気にしてないで、さっさと始めたらいいわ。」
トゲトゲしさが残る発言に、「綾音は手強いなー」と呟きつつも、その言葉通りに説明を始める。
「作戦行動中は2人1組で活動してもらう。確か、主兵装は、秋と新が刀剣、綾音が短機関銃、奏が狙撃銃だったな?」
「はい。」
「そうっすよ。」
夏先生からの問いに、奏と新が肯定して返す。
「なら、秋と新はコンビで前に出て、魔獣相手に切った張ったと頑張ってもらうおーか。そんで、奏が二人を後方から索敵と狙撃で支援。綾音には大切な狙撃手のボディガードを任せる。お前らは入学以前からの付き合いみたいだし、チームワークの方も、まあ大丈夫だろう。」
そんな問答だけで、あっという間にチーム分けが決まった。
しかも、4人それぞれの能力と、戦闘スタイル生かした最適な組み分けがなされている。
「作戦行動についてだが、基本的には決められた区画を移動しつつ、魔獣を発見次第始末して、一つずつ潰していくというオーソドックスなやり方でいかせてもらう。8つある区画をすべて潰せばミンションコンプリートだ。索敵は奏にも頼るが、UAVを飛ばす手筈にもなっている。オペレーターもつけてやるから安心しろ。」
作戦が決まるのもあっという間だ。
しかも、その内容にも抜かりはない。
どんなに優れた作戦でも、それが複雑なものだった場合、俺たちに遂行することができるかどうかはあやしい。
オーソドックスなんて言っているが、経験の浅い俺たちにはそのシンプルさがちょうど良いといえる。
「あー、そうそう。全員、拳銃は持っていくように。秋と新もだ。まずは持つことに慣れないとな。ただし、勝手に抜くんじゃねぇぞ。」
こういう指導もまったく抜かりない。
「それから、全ての銃に消音器をつけとくよーに。作戦行動中は城山を封鎖するが、どこで誰が聞いてるかわからんからな。うるさい奴もいることだし、対策するに越したことはないだろう。」
まさに完璧な計画だ。
この時までは、俺もそう思っていた。
「夏せんせー。」
「ん?なんだ?新。」
「俺の銃、サイレンサーつけれないっす。」
突然のカミングアウトに、夏先生が目を丸くする。
夏先生だけじゃない、その場にいた全員がそうだった。
「え?どゆこと?」
今回のように市街地近辺での戦闘では、一般市民に配慮して、極力銃声を響かせないようサイレンサーを使用することが多い。
そのため、一挺はサイレンサーを使用できる銃を持っておくのが定石だ。
それは銃を選ぶ前に、愛美先生から念押しされていたはずだが…
「お前、何選んだの?」
「M500っす。」
「マジか…」
一般的に、回転式の銃はサイレンサーをつけることができない。
より正確に言えば、つけようと思えばつけれるが、構造上つけたところで意味がない。
俺も詳しくは知らないが、シリンダーギャップというものが関係しているらしい。
だが、そんなことはもはやどうでもいい。
今一番問題なのは、新が選んだ銃がM500であることだ。
「初めての銃、なんだよな?」
「そうっす!」
元気に返事をする新を前に、夏先生が頭を抱える。
「一つ訊くぞ。どうしてM500にしたんだ?」
愚問だ。
夏先生にしては珍しい、意味のない質問だ。
なぜなら、答えは訊かずとも明らかだからだ。
「『世界最強の拳銃』って聞いたからっす。」
「なんでやねん!」
俺たちにとっては予想通りの答えに、夏先生がお手本のようなツッコミを入れる。
その気持ちもわからないではないが…
「ブレないわね。」
「あはははは…」
新の好きな言葉の一つに、「最強」の二文字がある。
そしてM500の火力は、確かに「最強」を名乗るに相応しい。
その一方で、M500の持つ反動も、文字通り「最強」といえる。
あまりにも強すぎるそれは、安易に撃つと何らかの身体的異常をもたらすほどだ。
いずれにしても、初心者が手を出すような代物ではないことは確かだろう。
中学生の頃から、このどこか憎めない、間の抜けた古川新という人間を知っているが、思っていた以上の逸材だったようだ。
「一通りの説明はしたし、とりあえず解散だ。新は俺と来い。M500の代わりになるもんを貸してやる。」
「了解っす!」
夏先生はため息をつきながら、新を連れて会議室を後にする。
そして俺たちには、一抹の不安だけが残されるのだった。
<古川新のM500>
・製造メーカー「Smith & Wesson (スミス アンド ウェッソン)」
・製造国「アメリカ」
・正式名称「M500」
・通称「M500」
・リボルバー式ハンドガン
・シルバーカラー (ステンレス)
・装弾数5発
・Xフレームを採用する、50口径の大型拳銃。
・新が「最強の銃」という肩書きに惚れて選んだ。
・あまりの威力と反動に、製造メーカーも「人間の限界に迫ったスペック。安易にこの銃を撃った場合、射手の健康は保障できない。」と言ってしまうほどの代物。




