第7話 伏兵は家の中に
一悶着ありはしたが、俺は無事に注文書を書き終えていた。
銃はColt社製「M45A1 CQBP」。
カラーリングをブラックに、グリップパネルをPachmayr製のラバーグリップに変更した特注品だ。
「見た目だけなら、MEU(SOC)ピストルとあまり変わらないんじゃないかな?」
俺の注文書を見た奏が、「夏先生の影響でも受けた?」と言わんばかりに痛いところを突いてくる。
そんなことはないと思いたいが、不思議と自分でも自信が持てない。
これ以上考えまいと、俺は話題を変えることにした。
「奏はどうしたんだ?もうBerettaがあるんだろうが、何か注文したのか?」
そう尋ねた後、俺はこの話題を振ったことをすぐに後悔した。
「ふっふっふっ!よくぞ訊いてくれたね!私は、これだよ!」
奏は目を輝かせながら、スコープと二脚を装備した回転式拳銃を取り出した。
「狙撃って『数百メートル離れた場所から、狙撃銃で標的を狙い撃つ』ことだと思われがちだけど、それだけじゃないんだよ!数十メートルっていう比較的近い位置からの狙撃もあるの!でも、それをスナイパーライフルでやると、取り回しが悪い上に、威力過剰で大変なことになりかねないんだ。」
嬉々として語っているように、奏の本職は狙撃手だ。
少人数による隠密行動によって適当な狙撃位置を確保し、気づかれることなく敵を排除する。
それが奏の主たる役割になる。
そのため、使用する銃器はスナイパーライフルが多く、拳銃はバックアップ程度にしか使っていない。
だからこそ、ここで奏が新たなハンドガンを調達するとは思っていなかったのだが…
「そこでこの子、10インチモデルの『Manurhin MR73』が活躍するの!.357 Magnumっていう弾を使う銃で至近距離で使うにはちょっと威力が高すぎるんだけど、ある程度の距離から狙撃するにはちょうど良いんだよ!それで、ここからが大事なとこなんだけどね!MR73は────」
「とまあ、今日はいろいろありすぎて疲れたな。奏のガンマニアっぷりも健在だったし。まさか、先生とやりあうとは思わなかったが…」
疲労困憊で寮の自室に戻った俺は、妹を相手に愚痴をこぼす。
「奏ねーだからね。しかたないよ♪愛美先生は真面目で優しそうなイメージだったけど、結構面白い先生なんだね♪」
そして冬華は笑いながらもこう続ける。
「でも、悔しいな〜。わたしもそこにいたら、にぃにの相談に乗れたのに。」
冬華も奏と同じく、その能力上、銃器への適性が高い。
当然、ハンドガンも所持している。
というか…
「なあ、冬華。」
「どうしたの?にぃに?」
「あれ、大丈夫なのか?」
俺は床に転がっているそれを指差しながら確認を取る。
「あぁ、『なごちゃん』のこと?」
なごちゃん。
それは冬華の愛銃である「Cz75」のことだ。
「Česká Zbrojovka」社が「1975年」に開発したから「Cz75」。
「75」だから「なごちゃん」。
このネーミングの是非については一度置いておくとして…
「そうだ。なんであんなところに放置しているんだ?」
冬華のCz75はただのハンドガンではない。
フルオート機構が搭載された、「機関拳銃」に分類される特殊なものになる。
そのため、法律上要求される管理義務は、通常のハンドガンの比ではないはずだ。
そう、そのはずなんだが…
「放置なんかしてないよ?あそこに置いてあるだけだよ♪」
妹よ、それを世間では「放置」というんだ。
「それに、まだ終わってないからね♪」
まだ終わっていない?
どういうことだ?
「なにかしていたのか?」
「うん!」
俺の問いに、冬華の元気な返事が返ってきた。
「フルオートで撃つ時の発射速度が物足りなかったから、もうちょっと上げようと思っていじってたの♪」
………………え?
「なあ、今なんて?」
「サイクルレートを上げるためにいじってるって言ったんだよ♪」
おいおい冗談だろ?
なごちゃんはすでに、毎分1800発という異常ともいえるサイクルレートを持つ。
それをさらに上げるだって⁉︎
「一応訊いておくが、どこまで上げるつもりなんだ?」
「んー。とりあえずの目標は2000かな?」
2000⁉︎
そんなにサイクルレートを上げてどうするんだ?
今の時点でも、引き金を引けば一瞬で弾倉が空になるために弾持ちが悪く、発射される十数発の銃弾が持つ高いエネルギーを一度に受けるせいで反動が大きい、まともに撃つことのできない問題児だというのに…
「最終目標は3000だよ!」
……これはマズイ。
ただでさえ冬華は才能に爆弾を抱えているんだ。
その導火線に火をつけなねない代物を、ここではいどうぞと渡してしまっていいはずがない。
それ以前に、毎分3000発のサイクルレートなんて物理的に実現可能なのか?
いや、できるかどうかは問題ではない。
今やるべきは、冬華を止めること。
ただそれだけだ。
だから、言わねばなるまい。
「やめておけ」という一言を。
果たさねばなるまい。
妹を護るという使命を。
「冬華…」
「なぁに?」
「頑張れよ。」
「うん!」
って、俺は何を言っているんだ⁉︎
「わたし頑張るよ!」
「手伝いが必要だったら言えよ?」
「ありがとっ♪にぃに♪」
だから!違うだろ!
いや、まだだ。
まだ間に合うはずだ。
言え、言ってやれ。
「やっぱりやめておけ」と。
誰でもない、冬華のために。
『俺たちは助言することはあっても、お前らに価値観を押し付けるべきではないというだけのことだ。』
クソッ!
こんな時にあの時の言葉が頭によぎりやがる。
『心配するってことは、周りにいる奴だけの特権だ。そいつがどんなにしっかりしていても、どんなに危なっかしくても、まずは見守ってやるといい。ただ、遠くに行ってしまわないように、しっかり手だけは握っておけよ。連れ戻せるのは、お前だけなんだからな。』
え?
この言葉は…
「にぃに?」
「…ん、ああ」
冬華に声をかけられて、俺は現実に戻される。
「大丈夫だ、なんでもない。」
その頃には、冬華を止めようという気持ちはどこかにいってしまっていた。
「いじるのはいいが、片付けはしろよ?」
「うん!」
冬華を連れ戻すことはいつでもできるだろう。
今はただ…
「腹減ったな。飯にするか。」
「準備はできてるよ♪」
「さすがだな。運ぶのは任せろ。」
<和泉冬華のCz75>
・製造メーカー「CZ (チェスカー・ズブロヨフカ国営会社)」
・製造国「チェコスロバキア(現在の「チェコ」)」
・正式名称「Cz75 FullAuto」
・通称「Cz75」、「なごちゃん」
・マシンピストル
・ブラックカラー
・装弾数15+1発 (ロングマガジン使用時 25+1発)
・予備マガジンをフォアグリップとして使用する。
・サイクルレート狂信者である冬華により、サイクルレートが1800rpmまで引き上げられている。




