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隻腕剣士の英雄譚  作者: 蒼空
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第7話 祝勝会

~~術科学校・宿舎~~

クラスの仲間と共にディートフリートは宿舎に戻ってくると、その入り口に二学年や三学年の者達が詰めかけていた。


一体何事かとディートフリート達は入り口の前で身構えると、その中に宿舎を初めに案内してくれたイオニアスの姿もあった。


「イオニアス先輩、何かあったんですか?」


困惑した様子で問いかけてくる後輩の姿にイオニアスはニンマリとした笑みを浮かべると、ディートフリートは背後に気配を感じて振り返ろうとする。


だが、それよりも早く両肩を大きな手で摑まれた。


「!?」


ドキリとした顔でディートフリートは顔を背後に向けると、そこにはヘルムートが立っている。


「ヘ、ヘルムート先輩!?」


「ワッハッハッハッ!

 やったじゃないか、ディートフリート!!」


言うが早いか、ヘルムートはディートフリートの肩に乗せていた両腕を脇へ滑らせ、一気に体を持ち上げて自分の両肩に乗せて肩車の格好となった。


ディートフリートはバランスを崩して後ろに倒れそうになるが、どうにか上体を前屈みに持っていき事なきを得た。


「せ、先輩、一体何を……」


一層困惑した顔でディートフリートは告げるがヘルムートはガハガハと大きな笑い声を上げながら宿舎の中へ入って行くと、入り口周辺にいた者達が一斉に拍手し、そのまま全員が一階の食堂へと向かう。


肩車をされたディートフリートが宿舎の壁や梁に頭をぶつけないように気を付けながらどうにかバランスをとっている後ろ姿を暫く呆然と眺めていた同級生達はハッとなってお互い顔を見合わせ、慌ててその後を追い駆けた……



~~食堂~~

ヘルムートに担がれたディートフリートは食堂へ連れて行かれると、そこにはいつもの食事だけではなく、様々な料理が並んでいた。


「これは…、一体……?」


宿舎に着いてから何度目かの驚きの声をディートフリートが漏らすと、そこでようやくヘルムートが肩から降ろす。


「これは君の祝勝会のために我々が用意した食事さ」


「祝勝会?」


「ああ。一学年の生徒達はまだ知らなかったと思うが、我々術科学校の生徒が教官と対戦して勝利するとこうして祝勝会を開くというのがこの術科学校宿舎での古くからの習わしでね。

 特に一学年で教官を倒した場合、我々上級生は最大限の振る舞いをするというのが伝統なんだよ」


ニコニコとした笑顔をさせながらイオニアスはディートフリートや少し遅れて現れた一学年の者達へ説明をする。


「まぁ、そういった話しもおいおいするとして、だ」


イオニアスはそう言葉を区切るとディートフリートを食堂の中央へ連れて行く。


すると、そこにはローブを目深に被った人物がいた。


「今日はその祝勝会の主役が何と二人も!!

 それも二人共が一学年という偉業がこの術科学校に加わった!!」


まるで演説会のようにその場にいる者達に対してイオニアスが言葉を発すると、万雷のような拍手が巻き起こり、同時に指笛や歓声も上がった。


それが暫く続いたあと、イオニアスが両腕を高く上げてそれを制するとディートフリート達二人にスピーチを促した。


「まずは、レディーファースト……、一学年魔法士クラリッサ嬢!!」


イオニアスの紹介とともに再び拍手と指笛が鳴り響くが、今度はすぐに収まり紹介されたクラリッサの言葉を待つ。


「あの……えっと……あ、ありがとうございます……」


か細く短い挨拶をしてすぐに引っ込んでしまったクラリッサにイオニアスは慌てて拍手を促し、次いでディートフリートのスピーチを促すが、その視線は「分かっているな?」と何かを指示するような視線であった。


(さて……、どうするかな……)


ディートフリートはゆっくりとした足取りで前に進み、周囲にいる者達を一度見回してから口を開いた。


「まずは、このような会を開いて下さった先輩方に感謝を、そして、この素晴らし伝統を創って下さった多くの先達者たちに感謝します」


そこで言葉聞く区切ったディートフリートは軽くて一礼すると、周囲から拍手が起こり、それが収まるのを待って再び言葉を続ける。


「ご覧の通り、私には右腕がありません。

 これは幼い頃にゴブリンに襲われてこのような姿になりました。

 ですが、それが、僕が剣士を目指す事の本当の始まりの切っ掛けだったのだと思います。

 幸いにして、片腕の僕でもこの王立術科学校へ入学が認められ、よき先輩方と仲間達にも恵まれました。

 これから仲間達と切磋琢磨していきますので、先輩方もご指導をよろしくお願いします」


そう言ってディートフリートは再び一礼をして顔を上げた。


「あまり長くなると折角の料理が冷めてしまいますので、これで私の挨拶を終わらせて頂きます」


最後にもう一度頭を下げてからディートフリートは戻ると、それを追うように拍手が鳴り響いた。


イオニアスも満足そうに頷くと予め指示していた二学年の者達に目配せして皆に普段食堂で使っている木製のコップを渡し始めるが、ディートフリートとクラリッサだけはテーブルに、用意されていた木箱の中から真新しい銀製のグラスが出されて手渡される。


そして、それぞれのコップとグラスにワインが注がれた。


「新たな勝者に」


『勝者に』


イオニアスの言葉に周囲の者達が続いてコップを掲げ、ディートフリートはそれに答えるようにグラスを掲げると、隣のクラリッサも慌てて同じようにグラスを掲げた。


ディートフリートは手にしたグラスを隣へ向けると、クラリッサは怖ず怖ずとした様子でグラスを向けてくる。


二人は軽くグラスを傾けるとワインを一息に飲み干した。


ワインを飲み干したディートフリートは「ほぅ…」と小さく息を漏らし、隣のクラリッサを見やる。


すると、あまり飲み慣れないのかグラスのワインを舐めるように飲んでいた。


(確か魔法士と言っていたが……)


ディートフリートのクラスでは今日の魔法士の試験は的を攻撃するだけであったため、どのように教官から勝利をおさめたのだろうと思った。


だが、先輩達が代わる代わるワインを注ぎに来るためにそれを聞くことは出来ずにいると、ヘルムートが現れてさらにワインを注いでくる。


「それで、一体どうやって勝ったんだ、あのヨハネス教官に?」


ディートフリートのグラスに注いだ後に残ったワインをボトルのまま口を付けながらヘルムートが問い掛けてくる。


「まぁ、黙っていてもそのうち知られると思うので」


ヘルムートの言葉にディートフリートは近くにあるナイフやフォークが入った木箱を手近に寄せると、それを昼間に木製の剣や槍を操ったのと同じ様に空中へ浮かび上がらせ、縦横無尽に飛ばせて見せた。


その光景に唖然としている皆の前で、ディートフリートは空中に浮かぶナイフとフォークで少し離れた場所にある分厚いステーキを切り分けて近くにいる者達の口へと運ぶ。


「それは……風の魔法……ですか?」


皆が唖然とする中、ディートフリートの隣に座るクラリッサが問い掛けて来た。


「違います。

 確かに僕には魔力がありますし魔法の心得もありますが、風魔法ではありませんし、勿論、他系統の魔法でもありません。

 知り合いのエルフが言うには魔力だけで動かしているそうです」


「魔力だけで……」


クラリッサは信じられないと言った様子で呟いた。


だが、目の前で空中に浮かぶナイフとフォークからは確かに魔力が感じられ、その出所はと言うとやはりディートフリートであった。


「勿論、ヘルムートさんのような剣士から見れば僕の剣は邪道かもしれない。

 だけど、僕が強くなるにはこれしかなかったんだ」


残った左手を握り締めながらディートフリートは告げた。


その言葉にヘルムートはボリボリとタテガミを掻き、ディートフリートの頭へと大きな手を乗せた。


「!?」


ズシリと重いヘルムートの手にディートフリートはドキリとしながら顔を向ける。


「まぁ……、正直に言えばそういう事を言う奴はいるとは思う……

 だがな、それは俺も同じだ。

 獣人は普通の人間と比べりゃ力があり過ぎる。

 口にはしなくてもそれを妬む奴は少なからずいるのが現状だろう。

 だがな、それは強者の常だ。

 強くありたいと思うなら周りの妬みなんぞ気にするな」


ガシガシと頭を撫で繰り回しながらヘルムートは告げると、再びワインボトルを口に運んだ……



「ふぅ……」


宿舎の食堂から外に出たディートフリートはシャツのボタンを一つ外して大きく息を吐いた。


少し飲まされ過ぎたと感じたためトイレに行った後、そのまま外に出て外気に当たり酔いを醒ましていた。


飲めないという訳ではないが15歳で成人となってからワインや蜂蜜酒、エールなどを試してはいた。


だが、飲み始めて短いからか、いまだ慣れないような気がしていた。


「あ、あの……」


不意に声を掛けられてディートフリートは振り返ると、そこにはクラリッサが立っていた。


「ああ、どうも……」


食堂を抜け出して来てしまったためクラリッサにだけ酒や人が集中してしまったと思ったディートフリートは軽く伸びをしてから食堂へ戻ろうとする。


だが、クラリッサはディートフリートの前に立ったまま、その場を動こうとしなかった。


「どうかしましたか?」


キョトンとしながらディートフリートは問い掛けるが、クラリッサは視線を泳がせるばかりで口を開こうとしない。

仕方なくディートフリートはクラリッサを避けて食堂へ戻ろうと思ったが、それまでの様子を思い出して彼女は口下手なのかもしれないと思った。


「あの……、ゆっくりでいいので」


ディートフリートの言葉にクラリッサはホッとした表情でコクリと小さく頷き、小さな声で話し始めた。


「あ、あの……、な、何で……、剣士なんですか……?」


「え?」


クラリッサの言葉の意味が分からずにディートフリートはキョトンとした様子で小さく呟いた。


「えと……、そ、それくらい魔力が強ければ……、魔法士にも……なれたんじゃ……?」


ディートフリートは納得した様子で「あぁ……」と小さく漏らした。


「僕は確かに人よりも魔力が多くあるようですが、魔法が使えないんです。

 いや、違うな……

 魔法は使えるんですが、実際には使えないんです」


「?????」


ディートフリートの言葉の意味が判らずに今度はクラリッサがキョトンとしながら頭の上に?を乗せていた……

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