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隻腕剣士の英雄譚  作者: 蒼空
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第6話 剣舞

~~王都・術科学校~~

ディートフリートがリントヴルム王国の術科学校へ入学してから一ヶ月が経った。


親しい友人も出来、休日には王都を見てまわるなどの年相応の事もしていたディートフリートだった。


そして、そんな日々を過ごしていた術科学校の生徒達に、その実力順をためす日がとうとう訪れた。


一学年の生徒達はその実力を量るため、クラス毎に屋外訓練場へ集められる。


「これから君達の実力を見せてもらう。

魔法科希望者は標的への魔法攻撃。

武術科希望者は私との仕合だ」


担当教官のヨハネスはそう告げると、まずは魔法士達を前に出して一人づつ標的に対して炎や水、風、土の魔法を放っていく。


それをまだ出番が廻って来ないディートフリート達武術科希望の生徒達は各自準備運動をしながらそれを眺めていると、突然背後から爆音が鳴り響き、もうもうと黒煙が立ちのぼる。


「何だ!?」

「爆発したみたいだそ!」


その場にいた者達が一斉に驚きの声上げながら立ちのぼる黒煙を見上げている。


「落ち着け!!」


『!?』


不意に聞こえて来たヨハネスの声に生徒達はビクリと体を震わせてからそちらへ視線を向ける。


「どこかの訓練場で魔法を暴発させたのがいたんだろう。

非難を報せる魔法も上がらないようなので、このまま続けるぞ」


そう告げたヨハネスは黒煙を一瞥しただけで再び生徒の名前を呼び始めた…



「踏み込みが浅い!」


生徒の斬撃を受けたヨハネスはそう叱責しながら間合いを詰め、手にした木剣ではなく体当たりで相手を弾き飛ばした。


「どうした、もう終わりか?」


体当たりを受けた生徒は息を詰まらせながらも立ち上がり、どうにか手にした木剣を身構える。


先ほどまで魔法科希望の生徒を監督していたヨハネスとは別人と感じてしまう程の変貌に、武術科希望の生徒達は驚きつつも、ヨハネスとの仕合を行っていた。


だが、相手のヨハネスは術科学校の教官だとしても、元は王国騎士団の団員である。


まだ若い生徒達ではその経験則に雲泥の差があるのは同然で、まだヨハネスとの仕合をしていないディートフリート達の周りには彼に打ち負かされた生徒達が息も絶え絶えといった様子で寝転んでいた。


「次……、ディートフリート、前に出ろ」


先ほどまでヨハネスと対戦していた生徒が力尽き、ディートフリートが呼ばれた。


「はい」


ディートフリートは返事をして前に出るとヨハネスは不思議そうな顔をして口を開こうとすると、それより先にディートフリートが口を開く。


「武器は何本使ってもいいのでしょうか?」


口を開き掛けたヨハネスはディートフリートから提出された身上書の剣技の項目を思い出す。


(我流と書かれていたが、二刀流ということか?)


そう考えたヨハネスはディートフリートに許可を出す。


「構わん、早く準備をしろ」


「はい」


ディートフリートは返事をすると右腕を真横へ伸ばし、失われた肘から先の骨と筋肉を魔力で創るイメージを頭の中で構築する。


幼い頃から繰り返してきたそれは、すでにディートフリートの脳裏に焼き付き一瞬で失われた右腕の前腕を作り上げる。


だが、ディートフリートのイメージはさらにその先をいき、魔力で創り上げた前腕が伸びてさらにそれが枝分かれすると、訓練用に置かれている木製の剣や槍、短剣を持ち上げた。


『!?』


突然剣や槍か空中に浮かび上がった事にその場にいた生徒達のみならず指導教官のヨハネスも驚きのあまり言葉を喪う。


「いきます」


小さな掛け声とともにディートフリートは右腕を振るうと、空中に浮かんだ様々な武器が一斉にヨハネスへ襲いかかる。


「くっ!?」


目の前の光景に驚いたヨハネスだったが、すぐに迫り来る剣や槍を打ち払う。


だが、ディートフリートに操られた武器は払われようが落とされようが次の瞬間には再び浮かび上がり、ヨハネスへとまた襲いかかる。


(クソ……、キリが無い……)


単純に正面から突き進んで来る槍に横薙ぎや打ち下ろし、袈裟斬りに斬り掛かってくる剣、そして、その隙を突いて死角から忍び寄る短剣。


一見すると、無秩序に襲い掛かってくるように見える武器達だが、その実態はまるで熟練の小部隊のような連携で襲われているような感覚をヨハネスは覚えていた。


そして、数本の槍が遠方から狙いすます弓兵の矢の様に自分を狙っているのがヨハネスの視界の端に捉えられていた。


四方八方から攻めたてるディートフリートはその全てを打ち、払い、躱すヨハネスに「さすが元王国騎士団だ」と感心していた……



ディートフリートとヨハネスの仕合が始まって十数分。


だが、見ている者達にはすでに三十分以上経っているように感じていた。


この剣撃はいつまで続くのかと他の生徒達が思い始めた頃、ヨハネスが打ち落とした剣の一本がそのまま浮かび上がらず、地面に落ちたままになる。


それを見たヨハネスはディートフリートの魔力が切れかけていると判断し、まだ空中にある武器全てを打ち落とすと、一気に間合いを詰める。


それを見たディートフリートは自分の周りにはあった槍を一斉に撃ち放った。


だが、気が焦ったのか放たれた槍は全てヨハネスの足下に突き刺さる。


勝利を確信したヨハネスは地面に突き刺さった槍を飛び越えてディートフリートの頭目掛けて木剣を打ち下ろした。


しかし、ディートフリートはそれを予見していたのか、いつの間にか左手に持っていた木剣で打ち下ろされるヨハネスの木剣を払い落とした。


「!?」


ヨハネスは慌てて態勢を立て直し上体を上げると、その周囲には地面へと落ちていた何本もの剣や槍が浮かび上がりその刃先にあたる部分が体中の急所へ突きつけられていた。


『おぉ……』


溜息とも感嘆ともとれる声がそこかしこで漏れた。


それを聞いたからか、ヨハネスは軽く溜息を漏らしながら手にしていた木剣を手放した……

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