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隻腕剣士の英雄譚  作者: 蒼空
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第5話 術科学校

~~リントヴルム王国・王都~~

見上げるように巨大な城門の前です身分証を示してそれをくぐると、眼前には整然と造られた街が現れた。


それまでディートフリートが暮らしていた街も周辺では一番の大きさであり、王都に着くまでにも大きな街を見ては驚きの声を上げていたが、王都の大きさは想像以上のものであった。


「ディート」


城門を背に辺りをキョロキョロと見回していたディートフリートは自分を呼ぶ声にそちらへ顔を向けると、そこには兄のカルロスが立っていた。


「兄さん!」


久し振りに兄と再会したディートフリートは相好を崩して駈け寄る。


「元気そうで何よりだ」


ディートフリート同様に笑みを浮かべながらカルロスは弟を迎えると、城門をくぐってくる者達の邪魔にならないよう端の方へと避ける。


「まずは食事でもしよう。

宿舎はそれからでも大丈夫だろ」


そう言うとカルロスはディートフリートが乗ってきた馬の轡を手にさっさと歩き始めた……



~~術科学校・宿舎~~

術科学校の宿舎は大きなコの字型となっており、正面は食堂となっており、向かって右側が女子寮、左側が男子寮となっていた。


「今年入学の生徒かい?」


宿舎の敷地へ入ったら所でその大きさに驚いていると、それを見つけた生徒が声を掛けてきた。


「はい、ディートフリート・ホーエンツォです」


「術科学校武術科三年のイオニアス・アッカーマンだ。

そちらの方は士官学校の方のようだか?」


「士官学校三年のカルロス・ホーエンツォだ。

弟の案内をしてきた。

あとは任せても大丈夫かな?」


「はい、お任せ下さい」


士官学校の生徒であるカルロスを意識しているのか、イオニアスは直立不動で答えると、ディートフリートに厩の場所を教えて先に置いてくるように告げた……



「部屋は基本的に一人一部屋になっている。

部屋にはベッドと机、椅子にクローゼットと…

まぁ、部屋は狭いが一人で生活するには十分な広さだろう。

一応、机には鍵が付いているが子供騙し程度の物だから貴重品は管理人に預けるか自分で管理するんだな。

宿舎にも学校にも出入り業者の店があるが、街中の方が安いから直ぐに必要な物でなければそちらの方がいいだろう」


階段を登りながらイオニアスは宿舎の説明をし、ディートフリートは短く返事をしながらその後ろに続いた。


そして、宿舎最上階の四階まで上がると部屋が並ぶ廊下へ足を進めた。


「ここが君の部屋だ」


そう言って管理人から預かった鍵でドアを開け、中を確認してからディートフリートへ場所を空ける。


「ところで、確認なんだが…」


そう告げてからイオニアスはディートフリートの背中に見える剣の柄と肘から先が失われた右腕をチラリと確認して言葉を続ける。


「君は剣士…なのかい?」


「はい」


相手の言わんとしている事はディートフリートも直ぐに分かった。


だが、それ以上何も答えないディートフリートにイオニアスは困惑した様子で「そうか」とだけ告げ、階段へ足を向けた…


~術科学校~

翌日。


食堂で朝食をとったディートフリートは宿舎とは道を挟んで真向かいにある術科学校へ向かう。


入学式は翌日になるが前日は制服の受け渡しがあるため、ディートフリートと同じように宿舎から術科学校へ向かう新入生らしき姿がチラホラと見られた。


制服の受け渡しは大きな室内訓練所で渡されるがあつらえて作られたものではないために、受け渡し場所の脇にはすぐにサイズ調整をしてくれる針子が控えている事にディートフリートは驚いた。


(少し大きい気もするが、サイズを直してもらうほどではないな)


制服を試着したディートフリートはサイズ調整が必要なかったため、そのまま受け取ることにして、直ぐに宿舎へ戻る事にした……


~宿舎~

「やぁ、君がディートフリートか?」


自室へ戻ろうとしたディートフリートは食堂からの声に足を止め、声の聞こえた方へと向くと、そこにはヘクトールが立っていた。


いや、よく見ればヘクトールと比べて背丈が小さく、全体的に縮んだように見るが、獅子の獣人には変わりなかった。


「はい、ディートフリートですが…」


ヘクトールではない事にディートフリートは気が付き直ぐに返事をしてから、以前ヘクトールが術科へ通う息子がいるという話しを思い出した。


「俺はヘルムート。

親父から話しは聞いてるぜ、片腕だがなかなか面白い剣術を使う剣士がいるって話しを」


父親と同じように豪快に笑太鼓い声をあげながらバシバシと肩を叩く。


「い、いえ、それ程でも…」


受け取ったばかりの制服を落としそうになりながらディートフリートは答える。


「まぁ、何かあったら言いに来な。

親父の知り合いの子なら兄弟も同然だ」


自分の胸をドンと叩きながら告げるヘルムートにディートフリートは礼を言うと、その周りにいる者達の向ける奇異の視線に気が付いた。


「まぁ、ああいったのには慣れるしかないな」


ディートフリートへ向けられる視線に気が付いたヘルムートはそっと告げた。


「リントヴルムは獣人に対しての偏見は少ない…が、人間ばかりの所で生活してた奴等にとっちゃあ俺みたいなのは魔物と変わりないって事だ」


「それは俺…、いえ、自分もそう見られていると?」


「王都の術科学校に入学してきたのが片腕で、しかも剣士だっていうんだ。

興味を持つなって言う方が無理ってもんだろ」


「そうなんですか?」


「魔法士だって言うならまだわかるけどな」


ヘルムートはガハハと笑い声を上げ、今度は軽く肩を叩くとディートフリートから離れ、近くで二人のやり取りを見ていた友人達の元へと足を向けた…


~~術科学校~~

制服を受け取った翌日の術科学校入学式当日。


ディートフリート達新入生は制服を受け取った室内訓練所へ集められると、クラスの発表が行われる。


「先に言っておくが、一学年でのクラス分けに意味は無い。

単純に同じ様な名前の者が同じ教室にいると我々が面倒だというだけだ」


台の上に立って身も蓋もない説明をした人物は次に新入生名前を呼び続け、その数が20人になると、担当教官を紹介してその場から出て行く。


そして、四組総勢80人の新入生が室内訓練所から出て行き、残り20名の名前が呼ばれ、その中にディートフリートの名前がやっと出て来た。


「以上、20名の担当教官は私が勤める」


ヨハネス・バルツァーと名乗った担当教官は残ったディートフリート達を一列に並べ、それまでと同じように室内訓練所から出て行った……


~大闘技場~

室内訓練所を出たディートフリート達は外へ出ると、校舎の後方にある円形の大闘技場に辿り着いた。


大闘技場の中は新入生達が整然と並び、その周囲には上級生の面々や新入生の家族らしき姿があった。


「これより入学式が始まるが、入学式には国王陛下もいらっしゃる。

くれぐれも粗相のないように」


ヨハネスはディートフリート達にそう告げると、他の担当教官達が控えている隅の方へと行ってしまった。


『リントヴルム王国ヴォルフガング国王陛下、御出座!!』


突然響き渡る声に、それまで雑然としていた大闘技場内の空気が一気に張り詰め、ディートフリート達の正面にある明らかに他に客席とは違う個室となっている場所に真っ白なローブに身を包み、白銀の髪を持った人物が現れた。


その人物が国王陛下であると判った瞬間、ディートフリートはその場で跪礼をする。


体が勝手に動いた事にディートフリートは驚いた。


だが、それはディートフリートだけではなく大闘技場にいた者達全てが同じようにその場で跪礼をしていた。


ヴォルフガング国王は式典の司会をしている者へ軽く手を上げると、司会者は立ち上がって出席者に起立するように告げた。


ディートフリート達新入生は怖ず怖ずと立ち上がるが、司会者の国王陛下からの祝辞と言う言葉に再び直立不動となる。


「いずれこの国の民を護る剣となり盾となる雛鳥達に祝福を」


国王はまず初めにそう新入生に対して祝福の言葉を告げ、さらに言葉を続けるのだった……


~一学年Eクラス~

入学式が終わり、それぞれの教室へと移ったディートフリート達はまずは自己紹介をし、次いで担当教官のヨハネスが術科学校の説明を始める。


「最初に一学年でのクラス分けに意味は無いといったが、それは嘘だ」


ヨハネスの言葉にディートフリートのみならず、その場にいた全員が小さく驚きの声を上げた。


だが、ヨハネスはそのような事など意に介す様子など見せずに言葉を続ける。


「だが、それは実力順にクラス分けされているという事ではなく、剣士と魔法士が各クラス同じ割合で配分されている。

これは、授業で剣士と魔法士お互いの考えを擦り合わせ、いざ共に戦う時にはお互いが何をどう考え、どのような戦術をとる事が有効なのか意識統一するためだ。

このシステムは戦術座学のみ卒業まで続くが約半年後には武術科と魔法科に別れて専門的なスキルを学んだり、訓練場での実戦訓練を行う。

また、半年後に一学年の席次を決める大会がある。

もちろん、武術科と魔法科で別れて競うものだか、これはお前達の三年後の進路にも関わる事だ」


淡々と説明をするヨハネスだが、生徒全員の様子を逐一確認するような鋭い視線を常に向けていた……

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