風神と雷神
『典子ちゃん可愛そう。』
国の報告書を聞いて、智子がボロボロ涙を流している。
『典子ちゃん、逮捕されちゃうの?』
智子が残念そうに言った。
『ようやく片が付いたわね。』
典子の居場所が分かったのを聞いて、香は安心して一休みしていた。
『香、典子ちゃんやっぱり刑務所に入んなきゃだめ?』
智子が悲しそうに聞いた。
『刑務所?』
香は総理の武井を見た。
暫く黙っていた武井が、いつになく真剣な顔をしていた。
香は下を向いていた。
『智子ちゃん、典子は見付け次第その場で処刑されるんだよ。』
総理は真剣に智子を見ている。
『えっ?ウソ?な、何で?』
智子は不思議そうだ。
『だってまだ何の罪も犯してないんでしょ?』
智子は香の方を向いた。
『しょうがないのよ智子、こればっかりは、いくら典子が可愛そうでも、世界中の人の命を危険に晒す賭けはできないのよ。』
香もそっぽを向いている。
『殺すことはないじゃない!説得してみるとか、せめて施設に閉じ込めておくとか!』
智子は必死に訴えている。
弱いものの味方に付いた智子は、意地でも一歩も引かない、小さい頃からそうだ。
それは香が一番よく知っている。
『無理よ、智子、今回ばかりは、無理なのよ。』
香が申し訳なさそうに下を向いている。
『典子はもう世の中を恨んでいるわ!ここまで世の中を憎んでしまえば、もう何を言っても聞きはしないわ、心に届かないのよ!手遅れなの。
それに施設に閉じ込めても、直ぐに抜け出してしまうわ!
私には誰かと数回話をするだけで、その人を意のままに操るだけの洗脳術があるの、それはきっと典子も同じだわ。』
香が智子を説得している。
『だからと言って殺すことは無いわ!だって、まだ誰も死んでいないじゃない!証拠だって何一つないんでしょ?
それに死んだのは、典子さんのお母さんだけよ!
私たち世間が殺した、典子さんのお母さんだけじゃない!』
智子は激昂している。
『ごめん智子ちゃん、もう風神と雷神が向かっているんだ。』
総理の武井が申し訳なさそうに言った。
『か、香!香なら何とかできるでしょ?お願い、典子ちゃんまで殺さないで!』
智子が泣きながらお願いしてきた。
香は暫く考え込んで、パッと武井の方を向いた。
『武井、ごめん。』
香は申し訳なさそうに呟いた。
『いえいえ、では此方は国として対応させて頂くまでです。』
武井は冷酷な顔つきになった。
『じゃあ智子、行くよ!』
そう言って香は智子の手を引いた。
香は早速迅速に対応し出した。
智子は本当に香がともだちで誇らしかった。
香は歩きながら何処かに電話をかけ、誰かと話をし出した。
『もしもし、遠藤典子さんですか?誰だか分かりますか?先程からあなたの邪魔ばかりしている真鍋香と言うものです。』
何と香は遠藤典子に電話をし出したのだ。
『お分かりかと思いますが、もうあなたの住所は判明しました。もう終わりです。国はあなたに殺し屋を2人送り込みました。
では、手短に用件を言います。
今すぐ南に逃げてください、私たちはあなたの死を望まないものなのです。
信じるか信じないかはお任せします。
典子さん、私たちはあなたに関する報告書を読ませて頂きました。
典子さんが目を覚ましたとき、頬と首にパン粉が着いていたそうですね。
それはあなたのお母さんが首を吊る前に、一晩中あなたの幸せを願いながら、あなたの頬を撫でていたのと同時に、一緒に死んだ方が幸せなのかと思い、首に手を回したからだと思います。
つまり典子さん、あなたのお母さんは一晩中迷っていたのです。あなたが死んだ方が幸せなのか、生きた方が幸せなのかを。
そしてお母さんは、あなたに生きて欲しいことを選んだのです。
だから典子さん、お母さんのためにも生き抜いてください。
殺し屋の方は、今から私が仕留めます。
では忙しいので切らせていただきます。』
そう言って香は電話を切った。
次に香は風神に電話をかけ出した。
『もしもし風神?香だけど。ごめん、二人には悪いんだけど、典子は逃がすことにしたの、居場所を知っているのは私だけになるわ。
それでね、いまから言う廃屋のビルの4階に来て欲しいの、どうせ殺しに来るんでしょ?』
そう言って香は電話を切った。
『香、風神も雷神も殺しはしないんじゃない?だって流石に香とは長い付き合いでしょ?娘みたいなものでしょ!』
智子は少し安心していた。
『だめよ男は!任務優先よ!情なんか無いわ!』
香の目がキリッとしている。
『あの二人そんなに強いの?香勝てるの?』
智子が心配そうに聞いた。
『強いわよー、昔ウクライナの森でロシアの特殊部隊30人が一晩で壊滅させられたことがあるの。何でも非人道的兵器を使ったとかで、国際的に非難されていたわ。
多分あれ、風神と雷神の仕業よ。』
香がしれっと答えた。
『特殊部隊30人を二人で一晩のうちに?そんなのに勝てるの?』
智子は泣きそうになっていた。
『まあ負けはしないけど、途中固めの鍋の蓋を二個買ってから戦闘に望むわ。女の武器は鍋って決まってるのよ。』
香は全然平気そうであった。