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遠藤典子

【おいたち】


遠藤典子は静岡に住む27才の女である。


遅くに生まれた子供であり、父親も母親も40を過ぎてから授かった子供であった。


父親は高齢で過労が祟り、典子が幼稚園の時に既に亡くなっていた。

そのため家はとても貧しく貧乏で、生活保護で暮らしていた。

中々お風呂に入れない典子には常に蠅がたかり、小学校の時から『蠅の王』と呼ばれて虐められていた。


【はじまり】


それでもお母さんと一緒の典子は毎日が幸せだった。


そんなときに事件は起きてしまった。

その日典子が学校から帰ると、典子のお母さんが正座をして座っていた。


『おかえりなさい典子、ちょっとそこに座りなさい。』

お母さんが真剣な顔をしている。

『どうしたのお母さん?』

典子は不思議そうに聞いた。

『典子もうすぐ小学校最後の修学旅行でしょ!お母さん知らなかったわよ!どうして黙っていたの?』

お母さんが呆れている。

『私行かない。』

典子が下を向いている。

『ど、どうして行かないの?』

お母さんは不思議そうに聞いた。

『だってどうせ苛められるし、家お金無いし。』

典子は悲しそうだった。

『大丈夫よ典子、少しからかわれることもあるだろうけど、小学校最後の思い出なんだから、楽しんで来なさいよ。』

お母さんはニッコリと笑った。

『それにお金はあ母さんが何とかするんだから。』

典子は下を向いている。

『典子はこんなに可愛いんだもん、友達だって修学旅行くらい仲良くしてくれるわよ、絶対楽しいに決まってるわよ。』

お母さんが典子を励ましている。

『ホントに?』

典子は少し疑った。

『ほんとよ典子!お母さん、修学旅行で典子がはしゃいでる写真お土産に欲しいな。』

お母さんがニコニコしている。

『典子、お母さんが喜んでくれるなら行くー。』

典子がニッコリとした。

『でも、お金はどうするの?』

典子が不安に思っている。

『大丈夫よ、今度町内会でバザーがあるでしょ?そこでお母さんパンを出品するのよ、典子お母さんのパン、美味しいの知ってるでしょ?絶対売れるんだから!』

お母さんがガッツポーズをとっている。

『典子、お母さんのパン大好き!』

典子もようやくにっこりとした。


バザー当日、典子とお母さんは期待に胸を膨らませ、テントの一角を借りてパンを売っていた。

『いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!』

典子が一生懸命声をかけている。

お母さんも内心ドキドキしていた。


しかし、お昼を過ぎてもパンは殆んど売れていなかった。

パンが美味しくなかった訳ではないのだが、他の出し物が今流行りの珍しいものばかりで、只のパンなど見向きもされなかったのだ。


『売れないね、典子。』

お母さんは元気がなかった。

二人は夕方まで一言も話さなくなっていた。


暫くすると隣のテントで常にお客さんが途絶えなかった、メキシコ料理店のお店が、売り上げを置いたまま何処かにいなくなってしまった。

典子のお母さんの手の届くところに、お金が無造作に置かれていたのである。


典子のお母さんはその日、一日中典子の修学旅行の事を考えており、親として、せめて我が子に修学旅行だけは行かせてあげたい気持ちで一杯だった。

何時間も親としての自責の念に責められ続けていた典子のお母さんは、はじめは黙って売上金を見ていたが、ついに魔が差してお札を数枚ポケットに入れてしまった。


しかし、喫煙所でタバコを吸いながら売上金を見張っていた町内会の役員の男がそれを見ていた。


男は急いでみんなを集めて、典子のお母さんの所へ駆けつけてきた。


『おい!あんた!今隣の売上金からお金を盗んでポケットに入れたな!出せっ!』

町内会の役員が問い詰めている。


人が沢山集まってきていた。


『わ、私、知りません!』

典子のお母さんが青ざめている。


『嘘をつけ!俺はあそこの喫煙所からずっと売上金を見張っていたんだ!ポケット見せてみろ!』

男が詰め寄った。

みんなも典子のお母さんを見ている。

『お母さん、そんなことしないもん!』

典子は泣きながらお母さんに抱きついた。


典子と同じクラスの子供も数人それを見ていた。


『良いからポケットを見せてみろ!』

男は強引に典子のお母さんのエプロンのポケットから、お札を数枚取り出した。

『ほらみろっ!やっぱり盗みやがったな!お札にメキシコ料理のソースが着いてるのが証拠だ!』

男はみんなの前で典子のお母さんを吊し上げた。

典子のお母さんは呆然としていた。


『典子のお母さん、お金まで盗ってる!』

同じクラスの男子が大騒ぎした。

『典子は臭い上に泥棒だ!』

もう一人も騒ぎだした。


『違うもん!違うもん!』

典子は泣きじゃくりながらお母さんに抱きついた。


『町内会から出ていけ!』

他の男が騒いだ。

『その汚いパンをもって出ていけ!』

みんな騒ぎだした。


『お前んちのパン、蠅が集ってるんだ!』

同級生の悪がきどもが、典子のお母さんのパンを典子に思いきり叩きつけた。

他の子も、正義はここに在りと言わんばかりに、パンを典子と典子のお母さんに叩きつけた。

二人はみんなの前で公開処刑され、晒し者になってしまった。


典子とお母さんは潰れたパンを全部拾い集め、泣きながら二人黙って家に帰った。


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