8.妖精王との盟約
「さぁユーリ君、お手本を見せましたよ。やってみてく・だ・さ・い♪」おどけた様子でブラエフが妖精の鱗粉が入っていると思われる袋を手渡してきた。
「ユーリ〜。やって〜。」
「ユーリ〜。やってやって〜。」
「ユーリ〜。やってやってやって〜。」
同調圧力がすごい。やらずにすますことはできなさそうだ。嘘をつくのは上手い方ではない。だが、そんなことは言ってられない。渾身の演技力で俺はできない振りを装う!
先ほどブラエフがしたように袋を地面に起き、両手を袋に向け魔力を送る。もちろんでたらめなやり方で。
眉間にシワを寄せうめき声を上げ、徐々に全身を強張らせていく。顔の紅潮がピークに達したと思ったら、両手を震わせる。
ダメだっ・・。悔しそうな声を大袈裟にあげて、わざとらしく膝をおり地面にしゃがみこむ。
ブラエフが心配そうに俺にかけよる。
「すいません。いきなり無理をさせてしまいましたね。しばらく休みましょう。」
「ダイジョーブ〜?元気だせ〜。」
「ダイジョーブ〜?魔力切れか~?。」
「ダイジョーブ〜?私たちの魔力あげるよ~。」
妖精達は俺を中心に螺旋状に回り始めた。俺の頭の位置から足元までをゆっくりとゆっくりと、キラキラ光る鱗粉を振りまきながら。すると、体の奥底から沸々と力がみなぎってきた。
「「「これで良~し!ユーリ、元気になったね~。」」」
妖精達が屈託のない笑顔で喜んでいる。
『魔力譲渡 の術を習得しました。』
また新たな術を覚えてしまった。
「さぁ、今日の練習はここまでにして続きは明日からにしましょう。大丈~夫!ユーリ君なら練習してればきっと邪気払いの粉を作れますよ。」
邪気払いの粉の生成術以外については、できない振りはせず成功する姿を見せたが、邪気払いの粉の生成については、ブラエフの期待を裏切り、次の日も次の日もできない振りをした。練習を始めてから1ヶ月経過したが、一向に上達しない振りを続けていた。
「あれだけの魔術を使いこなせる才能があるんですから、できますよ!大丈夫!ユーリ君ならできます。」ブラエフは優しく言い続けてくれていたが、俺は心を鬼にしてできない振りをしていた。
2ヶ月が経過した頃、いつもは飛び回り遊んでいるだけの妖精達が如実にそわそわし始めた。
「ブラエフ~。このままだと妖精王との盟約守れない~。」
「ブラエフ~。盟約守れないと旅できなくなるよ〜。」
「ブラエフ~。旅できないと魔術の研究できないよ〜。」
話を聞いてみると、俺が信頼できない者(=妖精族の発展に貢献できない者)であった場合、ブラエフと妖精王とで結んだ盟約に違反することになり、ブラエフは罰を受けることになるらしい。
「大丈夫ですよ。ユーリ君ならできます。なんてったって私が天才と認めた人物なんですから♪」
相変わらず自信満々のブラエフの態度に、俺はげんなりしてきた。
罰って、どんな罰なのかな?
たまらず俺はブラエフに罰の内容を問うてみた。
「妖精族のもとで軟禁されて50年働くだけですよ。」
へ?ご、ごじゅうねん?
「妖精族の発展に貢献する者を増やすための盟約にも関わらず、むやみに妖精の存在を知る者を増やしたとなると、妥当な罰ですよね。」
ご、ごじゅうねんは長すぎだろ。エルフって言うぐらいだからやっぱり寿命が長いのか?ブラエフは苦手だけど罰を受けさせたい訳ではない。俺はぬくぬく生活したいだけだ。むしろ、俺のせいでブラエフが罰を受けたとなったら、罪悪感でぬくぬく生活なんて一層できなくなるんじゃないか。
邪気払いの粉の生成を始めてから、2ヶ月と10日目。とうとうできない振りをやめた。俺の手から流し込まれた魔力に反応して、地面においた袋が一瞬だけ光った。
「やりました〜やりました〜やりました〜♪ユーリくん、とうとう成功しましたね。」ブラエフが大喜びで駆け回っている。
妖精たちも口々に賞賛してくれる。
「ユーリ〜。やったね〜。」
「ユーリ〜。すごいね〜。」
「ユーリ〜。天才〜。」
ぬくぬく生活までの道のりは遠いなぁ。