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4.ユーリ 1歳

俺は、ユーリ。ヤイチ王国 シーチ村の、若干1歳の子どもだ。

電車、車、テレビ、電話、水道やガスや電気もないこの世界に、前世の記憶・経験を持ったまま転生してきた。おまけに技能獲得(スキルゲット)能力なんてものがあり、大人と同等の頭脳、身体能力を持っていた。


1歳としてはありえない能力を持つがゆえ、何をするにしても周りの注目を集めてしまう。

「天才」と騒がれ続ける毎日に、俺は辟易していた。



「ユーリちゃん、洗濯物たたむの手伝って」


キレイな顔立ちで黒髪の20歳ぐらいの女、もとい俺の母親、マァムが手伝いを求めてきた。

はいよ〜。


いつも通りのそっけない返答をしつつ、せっせと手伝う。


「お〜いユーリ、薪運ぶの手伝ってくれないか」


はいは〜い。


俺の父親、ファザが手伝いを求めてきた。洗濯物を畳終えるとすぐさま庭に向かい、ファザと一緒に薪置き場に薪を運ぶ。マァムより背が低いもののプロレスラーのようなたくましい体つきのファザは、重そうな薪を簡単そうに運んでいく。俺は引きずりながら運んでいく。


1歳に求めすぎだよ。家事手伝いじゃなくてもう仕事やっているようなもんだよなぁ。そう思いながらもキビキビと仕事をこなしていく。


「相変わらずあの子はすごいなぁ。1歳でファザの仕事を立派に手伝ってるよ。」

「すごいってもんじゃないわよ。ユーリちゃんは炊事洗濯何でもできるらしいわよ。優秀なお子さんを持ってマァムは随分助かってるみたいよ。」


村人があいも変わらず俺の噂をしている。そりゃそうだ。1歳といえばようやく簡単な単語を話せるようになったり、よちよち歩きができるようになる歳頃だ。それが仕事をこなしているんだからな。噂もしたくなるよな。


ファザとマァムは小さな宿屋を経営しており、毎日それなりに宿泊客がいたため日々忙しそうにしていた。赤ちゃんになったんだから食っちゃ寝してても誰も文句を言うわけないのだが、手助けできる力があるにも関わらず実の父・母 を無視することはできなかった。最初こそ二人は驚いていたものの、俺が二人の仕事を手伝うことは今では日常となっていた。ファザもマァムも大らかな性格で良かった。


仕事の手伝いをしつつ、技能獲得(スキルゲット)能力の検証もしていた。今分かっていることは、他者が発揮する力・技・能力に触れたり体験することでそれを獲得できる、ということだけだ。マァムが水を出すために水魔術を使っていた際彼女に触れたため、俺は水魔術を習得できたのだ。


「ユーリそれが終わったら、暖炉の準備しといてくれるか。」


ったく人使い、いや赤ちゃん使いが荒いなぁ。乾いた薪を何個か見繕って家の暖炉に運び込んだ。暖炉の周りに人がいないか確認したのち、俺は赤色の小さな石を薪の一番下に設置し、手をかざし力を注いだ。すると、赤色の石からメラメラと火があがる。赤色の石はだんだん小さくなっていき1、2分すると消えてなくなってしまったが、その頃には薪にしっかりと火が燃え移っていた。俺は火魔術を使い、薪に火をつけたのだ。


この世界には魔石と呼ばれる不思議な石があり、力を込めることで石から水を出したり火を出したりできる、魔術を使うことができた。俺が今使ったのは火の魔石、マァムが水を出すために使っていたのが水の魔石だ。水道やガスはないものの、魔石のおかげでこの世界の生活はそれなりの水準であった。水の魔石があれば、井戸に水を汲みにいくこともなく、家で水を飲めるし洗濯もできる。火の魔石があれば、簡単に火をおこして料理ができる。


ただ、魔術を習得するのは難しい。小さい頃から練習し10〜13歳でようやく使えるようになる。にも関わらず、俺はすぐに習得できてしまった。火魔術についても、俺をおんぶしたマァムが料理のため火魔術を使った際に習得してしまったのだ。


1歳で働きまわってるだけでも騒がれるのに、ましてや魔術も使えるとバレたら、ますます面倒臭いことになってしまう。そのため俺は、ファザとマァム以外には魔術が使えるとバレないように、魔術を使う時は周りに人がいないか確認することにしていた。


さて、暖炉も終わったしベッドで休もうっと。自分のベッドがある方へ振り返った瞬間、ファザでもマァムでもない人物が俺を凝視していることに気づいた。


やば。俺が魔術を使ったこと見られたか。


浅黒い肌で少し耳が尖った長身の男は、俺を凝視したままボソリと言った。

「魔術の天才だ。」


あちゃ〜。

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