3.前世の記憶
俺は、瀬川 雅人。日本の中学二年生だった。
学年テストでは、150人中60位~80位ぐらいの成績。
体力テストでも、至って平凡で目立つことがない。
それなりに勉強して、運動して、友達と遊んで
そつなく毎日を過ごしていた。
「目的をもて!、向上心を出せ!」と言う人もいるかもしれないが、俺はその生活に満足していた。
しかし、そんな俺の人生は終わってしまった。
学校が終わり、通い慣れたいつもの道で帰っていたところ、車道を走っていた大型トラックが突然歩道に乗り上げ、そのまま俺を真正面から跳ね飛ばしたのだ。
あっけない人生だったなぁ
自分の死に際を思い出した時、ふと抱いた感想がこれだった。
そして、それ以上思いを巡らせることはなく、今の自分の状況に関心を向けた。
「お主に与えた技能獲得能力を活かし、
新たな時空にて、魂の研鑽に努めて欲しい。」
不思議な声の主が言っていたことと
赤ちゃんになっている今の状況から
生まれ変わったことはスッと理解できた。
しかし、技能獲得能力が何なのか分からない。
頭を悩ませていた時、黒髪の女が顔を見せた。
「ご機嫌ななめでちゅね〜。お風呂に入って気持ちよくなりまちゅか〜」
どうやら俺は無意識に唸り声をあげていたようだ。
女はベッドのそばに赤ちゃん用のバスタブと思われる小さな桶を持ってきて、そこに俺を入れた。
そして、親指の爪ほどの大きさの水色の石を取り出し、手で握り力を加えるそぶりを見せた。
すると、石を握りしめた女の手から、水が溢れ出した。みるみるうちに桶に水が溜まっていく。
えええ。何だこれは!
どんな仕組みか興味がわき、女の手の中の石を触らせてもらおうと手の伸ばした。
女の手に触れた瞬間、抑揚のない声がした。
『水魔術 を習得しました。』
え、え、これ、え、技能獲得能力ってこれのこと?