短編 ムースさんとおそろいの買い物です!
「~♪」
ムースの朝は髪のセットから始まる。長く淡い金髪を櫛でといて艶を与えていく。
以前は桃色に派手に染めていたが、今は元の髪色に戻している。
本来の髪色をレモンみたいで綺麗だと美琴が褒めたからだ。
いつもは螺旋状のツインテールにまとめるのだが、今は流しっぱなしにしてみる。
ふんわりとした髪を鏡に写して満足気に笑った。
「今日もわたくしの髪は完璧な美しさですわ!美琴様は、どう思われますの?」
「素敵ですよ。ただ、少し何かが足りないような気がします……」
「それはなんですの!?」
鏡から振り向いて、ぐいと美琴に顔を近づける。彼女は引きつった笑顔を見せてから、ムースに自分の主張を言った。
「カチューシャをしてみてはどうでしょう?」
「カチューシャ、ですの?」
「良かったら一緒に買いに行きませんか」
「美琴様と一緒のショッピング、大歓迎ですわ~!さっそく参りましょうか」
ムースは美琴の右腕を掴んで身体を寄せて頬づりまでしている。
まるで主人に甘える猫のようだが、美琴としては周囲の目が気になって仕方がない。
「あの、ムースさん。少しだけ離れてくださいませんか。ちょっと周りの人の視線が」
「世間など気にしてはいけませんわ。美琴様はご自分の美貌を誇って、堂々と胸を張って歩けばいいのですわ!」
「そうでは、なくて……」
誤解を解こうとしたが、ムースは離れようとしない。
結局そのままの状態でデパートのカチューシャ売り場まで来た。
「ムースさん、これはどうですか」
「イマイチですわねえ」
猫耳のカチューシャを当てられ、ムースは小首を傾げて不満を顔に出した。
「それでは、これはどうですか?」
今度は空色のカチューシャだが、困ったような眉になったムースは首を振った。
「美琴様には申し訳ないですけど、わたくしの好みではありませんわね。
ところで、美琴様はどうされますの?」
「わたしはムースさんが喜んでくれたらそれでいいのです」
「ダメですわよ!美琴様のものも選ばないと!」
ムースは赤いカチューシャを持ってきて、美琴の頭にはめる。
艶やかな黒髪と赤いカチューシャのコントラストが美しい。
美琴自身も鏡に映る自分の姿を見て、頬を赤く染めて驚いた。
「これが、わたし、ですか?」
「もちろんですわ。最高に似合っていますわよ。そうですわ、わたくしも同じものにしますわ!美琴様とお揃いならわたくしも満足ですの!」
「わたしも、同じ気持ちです」
「今、なんと仰いましたの!?」
「大切なお友達とお揃いができるなんて、幸せだなあって思ったんです」
「ああ、そういう意味でしたの……」
ムースはちょっとだけ肩を落とした。一瞬両想いになれたのかと思ったが、まだまだ先は長い。でも美琴の恋愛感情に鈍いところも含めて、ムースは彼女がたまらなく好きだった。
同じカチューシャをして手を繋ぎながら帰り道を歩く。
ムースにとって、ほんの一歩だけ恋が進んだような気がするのだった。




