短編 ジャドウさん、これは夢ですよ!
全てはスター様のために。
吾輩の行動原理は全てスター様のためにあり、彼以外はどうでもいい。
スター様は名無しの吾輩にジャドウという名と側近としての地位を与えてくださった。
それまでは誰からも必要とされず、天使と悪魔の間に生まれた子という理由で強い差別を受け続け、誰も信じることができず、強さを得ることで他人を見返すことしかわからない。
研鑽に研鑽を重ね、冥府の王にまで上り詰めたが、頂点に君臨する日々は空虚そのもの。
これまで吾輩を出自で見下してきた連中が、媚を売り始める姿に、この世の掌返しというものはなんと冷たいものなのかと思ったものだ。
だが、スター様は違った。
心の底から吾輩を信じ、人を裏切り続け悪に染まった吾輩だからこそできる使命があると説いて下さった。
彼の発する言葉ひとつひとつが、吾輩が長年欲し求めていたものであった。
この方に一生を捧げよう。
他の連中に何を言われようが知ったことではない。
たとえ、彼にどれほど多くの弟子ができたとしても、側近の座は譲らない。
彼の一番近くで守り続け、期待にこたえることこそ、吾輩が歩むべき道なのだ。
迷いも恐れもない。
全てはスター様のために。
☆
「ジャドウ君の本気で戦っている姿が見たい」
ある日のこと。スターコンツェルンの会長室に呼び出された吾輩は、いつもの朗らかな口調でスター様に頼まれた。
敵の侵攻から策略を駆使して事前に潰すのが吾輩の主な任務だったので、この日の彼の言葉に少しばかり面食らってしまった。
「ジャドウ君、最近の君は他の弟子たちに負け続けているようだね。
わたしとしては君が負け続けるというのがどうも信じられないのだよ。わたしが見たところ、君は戦闘のどこかで手を抜いているのではないかな」
「左様でございます」
青く輝く瞳に満面の笑顔。常に陽気なスター様だが、洞察力は鋭い。
吾輩の心の中を完全に見通してしまっている。
確かに彼のいう通り、吾輩は本気を出さずに戦っている。
最も、それは吾輩が他の者たちと本気で戦う価値はないと判断しているからではあるが。
スター様は机に腕を組んで、吾輩に告げた。
「君が本気で戦ったらどれほど強いのか興味がある。
そこで、もし良かったらでいいのだけれど、皆と全力で戦ってみないかね?」
「スター様がお望みならば、吾輩は喜んで彼らと戦いましょう」
「うん、いい返事だね! 素晴らしい!」
スター様は上機嫌のようなので、嬉しいのだが、問題は他のメンバーが吾輩の真の実力に耐えられるかどうかだが……
仮に耐えられず死亡してもその時はその時。
人数が減って管理の負担も少なくなるので、ありがたいではないか。
自室に戻り、酒を飲む。
今日のワインも極上であった。
練習試合当日。
吾輩とスター様の他に集まったのは、不動、カイザー、美琴、ムース、メープルの五人。
「フフフフフ。諸君らに真の力を解放した吾輩の相手がはたして務まりますかな」
「大層な自信だが、往生されても俺は知らんぞ」
不動が口角を上げて言ったが、彼とて吾輩の本気は見ておらぬ。
「ジャドウ。遠慮することなく、全力で戦ってもらいたい」
カイザーが吾輩を見つめて言った。相変わらずの人格者なことで。
「それでは、諸君にお見せするとしよう」
全身に力を込めると、皆の瞳孔が開く。
「若返った……!?」
美琴が息を飲んだ。練習場の後ろにある全身鏡に吾輩の姿がうつされているが、そこには黒く豊かな髪とつるりとした若い顔だ。人間でいうなれば三十代前半といったところか。
背中からは天使と悪魔の翼が展開している。
「この姿になったのは何億年ぶりか……さて、誰でもいいからかかってくるがいい」
「では、俺からいこう。お前を往生させてやるッ」
「気合が空回りせぬことを祈りますぞ」
不動はいつもと異なる吾輩に警戒したのか、軽技で様子を伺う真似はせず、いきなり最高必殺技を発動させた。蹴りで吾輩を高く打ち上げ、背後に回るとバックドロップの体勢を取る。
「不動倶利伽羅落としーッ!」
素早く足をかけ、彼の首を腕で固定した河津落としを仕掛け、勢いはそのままに落下していく。
予想通り不動は後頭部と背を強打し、気絶してしまった。
「一撃で倒されるとは情けないことですな」
肩をすくめると、次はカイザーが名乗りを上げた。
「天に祈り、己の過ちを悔いて、来世に生まれ変わるが良い。太陽の拳!」
自らを太陽の核と同等の200万度にまで発火させて放つ、エネルギーを纏った拳が吾輩の胸に着弾。
並の相手――否、相手が神であろうとも一撃で葬り去り、別の生物へと転生させる恐るべき技ではあるが、今の吾輩にはぬるま湯同然。
直に太陽の拳が着弾したにもかかわらず無傷な吾輩に対し、カイザーは当然ながら、スター様でさえ驚愕しておられる。
すぐさま吾輩は胸に刺さった腕を捉えて彼を横転させると、腕ひしぎ十字固めで彼の命とも言える右腕を折った。このような芸当ができるのも真の力を解放した故。
「では次はどちらがお相手ですかな。可愛らしいお嬢さん方」
「あの、わたしは棄権したいと思います」
「わたしもよ」
「わたくしもですわ」
女子三人は揃って危険したが、無理もない。
メープルとムースは自分が破壊される未来を想像したのだろうが、美琴は違う。
奴は今の吾輩と相手をしてもなお、勝てる自信があるのだ。
吾輩にケガをさせてしまうのではないかといらぬ心配をしている。
この女子だけは是が非でも葬り去らねば危険だが、奴の出自はあの闇野髑髏様から己の力の半分を分け与えられた特異な存在。
本気で戦えば全宇宙が滅びてもなんら不思議ではない。
だが、いつの日か必ず、吾輩がその首を奪ってみせる。
こうして吾輩との練習は終わり、日ごろの汚名をそそぐことができたのだった――
朝日の光を浴び、吾輩は現実へと引き戻された。
いかに他の者共に負け続けているとはいえ、これほど都合のいい夢を見るとは。
だが、いつの日から夢を現実にして見せますぞ。




