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いざ、強盗退治!でも、私にできるのでしょうか……

美琴は人質の命がかかっていることや相手が武装した集団であるなどの理由から彼の依頼にはあまり乗り気ではなかったものの、スターに半ば強引に押し切られる形となり事件現場に赴くことになった。


彼女が新幹線をも遥かに超える超高速の脚力で現場に向かってみると、スーパーでは既に防弾チョッキやシールドで武装を固めた警官隊が周囲を取り囲んでおり、隊長と思しき人物がスピーカーで犯人たちの説得を試みている状況だった。


そのような緊迫した状況下に入ることを民間人である自分が入るのは場違いではないかと思った美琴だったが、同時に自分の力でこの困っている状況を改善できるのなら良いのではないかという考えに至り、勇気をもって警官隊の一人に声をかけてみることにした。


「あの、すみません……」


おずおずと言った調子で切り出す美琴に対し、警官隊の一員である男性は少し苛立った声を上げる。


「君! 民間人がここにいたら危ないから下がっていなさい!」


彼の声に一瞬萎縮した美琴であったがスターが事前に伝えるように指示していた言葉を思い出し、彼に告げた。


「わたしはスター流の者なのですが、この件に協力させてもらえないでしょうか」


すると厳しい表情をしていた警官がその一言で胸をなでおろし、別人のように穏やかな声色で敬礼し。


「これは失礼致しました。スター流の方とは知らずにご無礼を。いつもご苦労様です!」


「……えっ?」


「みんなぁ! スター流の方が来てくださったからもう安心だぞぉ!」


「あの……ど、どうなっているのですか!?」


隊員の大声に胸を撫でおろし、歓声を上げる警官隊達。


その豹変ぶりに困惑する美琴だったが、あれよあれよという間に警官隊に道を開けられ、スーパーの正面入り口の近くに一人で立たされてしまった。


警官隊は自分よりもずっと後方にいるため、いわば一孤立された格好となる。


「み、みなさん、どうしちゃったんですか!?」


眉を八の字にしてオロオロとする彼女に対し、警官隊の隊長はシールドに隠れながら右手を突きだしサムズアップをする。


「あとはお任せします! 人質を救出してくださいっ!」


「無理です無茶です! わたしになんかできませんよぉ……」


「スター流の人なんですから大丈夫です! 先日も不動仁王さんが活躍して指名手配犯を一〇人も捕まえてくれたじゃないですか」


美琴はスター流に入門してまだ一日も経っていない。


当然ながらそのような話は知る由もないのだが、警察官達の態度からスター流という組織がいかに警察に頼りにされているかということだけは理解できた。


彼らの期待を一心に背負う中、美琴は思った。


自分はいかに超人的な力を有していても、肉体的な耐久力という点に関しては一般人と大差はない。


機関銃が火を噴けば自分の命は無い。


だが皆が期待しているし、スターに恩を返さなければいけない手前でもある。


逃げたくても逃げられない状況に置かされてしまった以上は自分にできる全力を尽くすしか道はない。


美琴は怯える自分に言い聞かせ、唇を噛みしめて気合を入れ直す。


そしてゆっくりとではあるが、確実に一歩ずつスーパーの前へと足を進めて行く。


スーパーの自動ドアが開くと覆面をした強盗五名がライフルや機関銃を手に、縄で縛られ口にガムテープを貼りつけられた店員達を相手に脅していた。


「早く現金一〇億円持って来い、警察共!」


「妙な動きをしたらテメェらの頭がトマトみてぇにグシャっと吹き飛んでまうが、それでもいいのかよ」


ここで彼らは自動ドアが開く音に反応し後方を見る。


警官が現金を持って入ってきたのかと期待したが、現れたのは黒いロングヘアに白い肌、白い忍者装束に身を包んだ美女だった。


「何だテメェは!?」


「コスプレパーティ会場じぇねぇんだ。買い物をしに来たのか知らねぇが、これが目に入らねぇのかよ」


ライフルを見せびらかし脅す強盗達だったが、美琴の顔色は変わらない。


彼女は落ち着いた、けれども凛とした声で訊ねた。


「あなた方はなぜこのようなことをするのですか」


「そんなもん決まっているじゃねぇか。遊ぶ金が欲しいからよ」


「何の遊びに使うのか存じませんが、人を悲しませてお金を得ようとするあなた方の行動を見過ごす訳にはいきません」


「お前のような女が俺達に何ができるって言うんだよ!?」


軽い口調で言った強盗の一人に目にも留まらぬ速さで接近した美琴は彼が所持するライフル銃の砲身を鷲掴みにするなり、バルーンアートでもするかのようにグニャグニャに捻じ曲げてしまった。


その人間離れした怪力の前に彼は怯み、もはや使い物にならなくなった銃を手から離した。


「テメェ、人間じゃねぇな!?」


「強盗などやめて警察に自首をしてください。遊ぶお金に飢えているあなた方の気持ちには同情しますが、やはり強盗はいけないことなのです。今なら罪もいくらか軽くなるでしょうから、罪を償って新しく人生をやり直していただけないでしょうか」


「く、来るなァ、化け物ォ!」


祈るように両手を組み、薄らと涙を浮かべた潤んだ瞳で彼らを見つめる美琴に戦慄した強盗集団のリーダーが機関銃を乱射するものの、美琴は平然とした顔で歩み続ける。


強盗には分からなかった。


普通ならば当たれば即死するはずの量を撃ったはずなのに、なぜこの女は傷一つついていないのか?


すると美琴は微かに微笑み。


「あなたの撃った銃弾を全て超高速かつ紙一重で避けているのです。

流石のわたしも銃弾が命中すれば命はありませんから」


「う、嘘だ! そんなことあり得るはずがねぇ!」


動揺するリーダーに不安を抱いたのか、仲間達も次々に銃を乱射するがスーパーの壁や窓は割れこそするものの、彼女からは一摘の血も流れない。


やがて、引き金を引いてもカチカチという虚しい音が響くばかりになった。


「畜生……弾切れかよッ!」


歯をガチガチと鳴らし滝のように汗を流すリーダー。


部下達は次第に距離を縮める彼女に恐怖し、ぺたりと尻餅をつき動けなくなってしまっている。


「こ、腰が抜けた!」


「これは夢だ、フィクションだぁ!」


口々に叫ぶ彼らの真ん前に遂に到着した美琴は、一筋の涙を流し。


「暴力は嫌いなのですが、お許しください」


彼女はリーダーの首に一発の手刀を打ち込んで気絶。


そして他の強盗達にも腹パンを食わらせ失神させると、彼ら五人を右肩に担ぎ、出入り口に向かって歩き出す。そして呆気に取られている人質となっていた店員達に澄んだ口調で言った。


「皆さん、もう大丈夫ですよ」

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