短編 レストランでお食事です! 不動さんはスーツ着るんですね……
スターコンツェルンの会長室で、スターは腕組みをして思案していた。
近頃の弟子たちの活躍は素晴らしいものがある。
しかし、働き過ぎは体に毒だ。
最高の状態で地球を守ってもらうには、やはり適度な息抜きが必要だろう――
そのように考え、スターは弟子たちを招集した。
「君たち。たまには美味しいものでも食べに行こう。私のおごりだよ」
「断る」
スターの提案を即座に却下したのは、不動仁王だ。
彼は殺気立った鋭い目で師を睨み、言葉を続けた。
「俺は水さえあれば生きていける。お前の下らん提案に付き合う暇などない」
「ほほう。その言葉は関心できませぬな、不動殿。
せっかくのスター様の提案に乗らぬとは、よほどの怖いもの知らずとみえる」
ジャドウ=グレイは芝居じみた言い回しと共に腰の剣の柄に触れた。
これ以上偉大なる師を侮辱するなら斬るという態度だ。
ジャドウの様子に不動は口角を上げて。
「俺は俺のやりたいようにやる。文句があるなら、往生させてやる」
「では、吾輩も遠慮なく」
ジャドウが刃を抜くのと、不動が拳を突き出すのは同時だった。
拳と刃は衝突し、激しい火花と衝撃波を発生させる。
会長室全体に闘気が満ちる様を見て、美琴は冷たい汗を流した。
「あの、ふたりとも、喧嘩はしない方が――」
「黙れ、ガキ。これは俺たちの問題だ」
「小娘風情が口を挟むとは大した度胸。では不動の前に前菜としてお前から葬るとしよう」
「ええっ!?」
怒りが飛び火して自分に向かってきた。
ふたりの増幅した怒りに困惑する美琴に救いの手を差し伸べたのは、カイザーだった。
「……ふたりとも、気持ちはわかるが落ち着きたまえ」
カイザーの一言に不動とジャドウは闘気を消した。
彼の戦闘力には両者とも一目置いているのだ。
カイザーはスターに向き直ると、先を促す。
「ありがとう、カイザー君。
では、私のおごりでイタリア料理を食べに行こう。いいかね?」
「俺はハンバーガーとホットドックを希望」
「拙者は和食が食べたいでござる」
手を挙げて異議を唱えたのは、ロディと川村猫衛門。
少年侍といった風体の川村と西部劇の保安官そのままのロディ。
普段、別行動が多く滅多に本部に現れないふたりが会長室にいるのは珍しいことだった。
カイザーはふたりの意見を耳にすると、すぐに頭を回転させる。
このままではジャドウが怒り、血の気の多いロディと大喧嘩になる。
川村と美琴が仲裁に入るだろうが、彼らでは分が悪い。
ならば、取るべき行動はひとつ。
「……ロディと川村。君たちには別行動を許す。好きなものを食べてくるといい。
ジャドウ、不動、私の三名はスター様と一緒にイタリア料理を食べてくる」
「さりげなく俺を数に入れるな」
「……美琴、君はどうする?」
「わたしも一緒に行きます。みなさんと一緒にお食事ができるのはうれしいですから」
「……よし、決まりだ」
話を完全に無視された不動は、苛立ちを飲み込むのだった。
当日。イタリアンレストラン前にやってきた美琴は、あっと驚いた。
不動仁王が黒いスーツを着用しているのだ。
鍛え上げられた筋肉はスーツを破きそうなほどだが、服を着ている彼の姿は新鮮だった。
「不動さんがスーツなのは珍しいですけれど、似合っていますよ」
「月並みなお世辞など要らぬ。こういう場所でいつもの戦闘スタイルでは、客に迷惑がかかる。入るぞ」
「そうですね」
不動という男は普段は尊大だが、その裏では人の心の機微に鋭いのかもしれないと美琴は思った。
皆が到着して、和やかな食事が始まった。
前菜→パスタ→ピザ→デザート→食後の飲み物と滞りなく進み、日頃はおにぎりしか食べていない美琴も別の料理を食べられたのは貴重な経験と満足をしていた。
スターもにこにこと笑って嬉しそうだ。
ジャドウはベルを鳴らし、ウェイトレスを呼び出した。
「ようかんをカステラで挟んだ菓子は置いていないのかね?」
「お客様、申し訳ございません。当店にはそのようなものはないのでございます」
「なんと」
ジャドウは自慢の髭を撫で、わずかばかり目を丸く見開いた。
殆ど表情を変化させない彼が驚いたことに、美琴に動揺が走る。
すると、スターが口を開いた。
「いやぁ。とってもおいしい料理だったね。みんなはどう思う?」
スターの問いかけにジャドウは額を抑え、天を仰いだ。
不動は両肩を落として唇を噛みしめ、カイザーは身体を震わせている。
ただならぬ様子の三名に美琴は直感で何かが起きることを予測した。
「スター。正直に言うぞ。俺はこれほど不味い料理を食べたことがない」
「ほう」
スターが目を輝かせると、ジャドウも切り出す。
「パスタの麺は柔らかすぎ、せっかくの食感が損なわれていますな。
しかもピザは冷凍の市販品。おまけに解凍さえしておりません」
「……プリンを食べていましたが、大量の『す』が入っていました。
カラメルソースは相当に焦げており、苦みが強く、プリン好きの人は悲しむでしょう」
「俺が気になったのは前菜のスープだ。ぬるい。十分に火が通っていない。
中の具材も相性も何もなく、ただ適当に入れただけだ。これで金を取るとは」
「それで、君たちはどうしたい?」
師の問いに三人は顔を見合わせた。
嵌められた。
スターはわざと自分たちに不味い料理を食べさせたのだ。
怒りを引き出し、自分たちに料理を作らせるために。
スターは満面の笑みで立ち上がり、高らかに告げた。
「皆様! これより、伝説の三人のシェフたちが特別フルコースを作ります。
興味のある方はぜひ、ご試食を!」
もう、あとには引けない。ここで後退してはスター流以前に料理人としての恥だ。
目の前には数多の客がいる。全員が喜ぶ最高の料理を振舞わねばならない。
絶対に負けられない戦いの幕が上がった――
不動、ジャドウ、カイザーの三人が純白のコックコートを身に着けて厨房に入るのを見届けたスターは、美琴にウィンクして言った。
「良かったね。世界最高峰の料理が無料で食べられるよ!」
弟子たちは最初から師の掌の上で操られていたのだ。




