短編 お菓子作り大会!審査員はムースさんです!
ムースはシュークリームを一口頬張った。
薄皮が弾け、白と黄色のクリームが飛び出し、彼女の口の中を柔らかな感触と優しい甘さで包み込んでいく。
少女は頬を抑え、うっとりとした表情でシュークリームを再び頬張る。両手で掴んでいた洋菓子を食べ終わったところで、目の前の女性を見つめた。
女性は真一文字に口を結び、真剣な目で彼女を見つめ、言葉を待っている。
少女は軽く息を吸って、口を開いた。
「美琴様、大変美味でしたわ」
「本当ですか!? 良かったです!」
美琴は胸を撫でおろして安堵した。今日はスター流の試験日である。
スター流は武術の腕は当然だが同時に料理も一流でなければならないとされ、定期的に試験を行うようにしているのだ。
今日のお題はお菓子で、不動はどら焼き、ジャドウはミルフィーユ、カイザーはパンケーキを作った。審査員はムースが勤めることになった。
首には自爆装置付きのチョーカーを装着され、能力封じの薬も注射されてはいるが、味覚は変わらない。
パスティス家の令嬢として世界の美味、珍味を食べつくした彼女の舌は相当に肥えており、満足させるのは並大抵の技術ではないのだ。
それを易々とやってのけた美琴の腕は確実に上がっていた。
審査に合格し、審査結果が告げられるまではと我慢していた特大おにぎりに噛みつく美琴の姿は幸せに溢れていた。
そんな中、苛立ちを覚える男がひとり。
「何故、俺のドラ焼きは不合格で、あのガキが合格せねばならぬのだ」
不動は歯をギリギリと鳴らし、今にも往生させそうな目でムースを睨む。
だがムースはそんな不動をどこ吹く風でマイペースに口を拭いていた。
苛立ちを抑えきれない不動に弟の星野が呟く。
「不合格は兄さんだけではありませんよ。僕も、それからジャドウさんもです。
合格したのはカイザーさんと美琴さんだけですね」
「何だとッ」
不動は愕然とした。星野はともかくとして洋食に関してはスター流で右に並ぶものがいないと言われるジャドウまで不合格だったとは。
不動は身体を震わせた。
「・・・・・・もう我慢ができぬ!」
「兄さん?」
星野が訊ねるなり、不動はムースに接近し、彼女を指さして言った。
「もう一度俺のドラ焼きを食べて貰おう」
「判定が不服なのですの?」
「当たり前だ。だから言っている」
「何度食べても同じだと思いますけれど」
「四の五言ってないで食ってみろ」
「不動様は相変わらず品性のない方ですわね。まあ、そこまで仰るのでしたら頂きますわよ」
渋々と言った体でどら焼きを受け取り、一口かじる。
ふんわりと柔らかく適度な甘さに作られたカステラ生地に温かく甘い餡子。
先ほどと異なるのは生クリームとカスタードクリームが新たに挟まれている点だ。
美琴のシュークリームからヒントを得た発想は、不動のどら焼きを何倍もの美味さに進化させていた。
「ふああああああ・・・・・・」
恍惚とした笑みを浮かべながら、何度もどら焼きに噛みつく少女。
不動は口角を上げ、訊ねた。
「どうだ。美味いか、不味いか」
「不味いに決まって――」
「顔と口が一致していないが」
「――ッ」
もはや反論することさえできぬほどの甘味の圧倒的な攻撃力に、遂にムースは首を垂らし、机に腕を乗せて呟いた。
「美味しいですわ。わたくしの負け、ですわ」
「その言葉が聞きたかった」
不動は踵を返し、堂々と歩いて部屋を出ていった。
そして部屋の外で男泣きに泣いていた。
三百年以上に渡り敗北のトラウマを抱え続け、格闘でも敗れた男が料理という土俵で念願だった初勝利を手にしたのだ。
鬼神の如き強さを誇り畏れられる男の中にも人間味に溢れるところはあるのだった。




