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これからもわたしは闘い続けます!世界を平和にするために!

リングの中をゆっくりと動き、互いの出方を伺う両者。


傍から見れば単に歩いているだけにしか見えないが、闘いは既に始まっている。


誰から仕掛けるのか。


どんな技が繰り出されるのか。


相手の動きを予想し、先手を取ろうとする。


静かな、けれど緊張感が全力の無言の勝負。


先に動いたのはメープルだった。中央に駆け、美琴に拳を打ち込む。


けれど美琴はそれをかいくぐり、逆に彼女の腹に掌底を叩き込む。


「クッ……」


くの字に身体が曲がり吹き飛ばされるが、踏ん張りを利かせてロープ際までの後退は回避する。


しかし、彼女はまた突進してくる。けれど、今度は攻めない。


棒立ちになり攻める姿勢を見せない。


互いに攻めない状態では相手を倒すことができないと考え、美琴は蹴りを見舞う。


靴底がメープルの顎に攻めるが、彼女は落ち着いて足首を掴むと甲板に一発食らわせる。


「え?」


その威力に美琴は目をぱちくりとさせた。全然痛みを感じないのだ。


痛いどころか触っただけにしか感じられなかった。どういうことだろうか?


疑問が頭を掠めるが、次なる攻撃は美琴を襲う。


身体を後ろに反らしてパンチを回避し、その腕をとって一本背負いでリングに叩きつけた。


特に抵抗もせずにマットに背中から衝突されるが、メープルは立ち上がる。


「速さ威力共に増しているみたいね」


「はい。あの後沢山修行をしましたから」


「そう」


メープルは美琴が後方に回るのを察知、伸びてきた腕を掴んで投げ技に移行させない。


くるりと背後を向いて裏拳を炸裂。


美琴の頬を穿つそれだが、今度の威力もまた軽い。


彼女は幾度投げられようと殴られようと、蚊に刺された程度の力でしか攻撃をかけてこない。


美琴にはそれがとても不気味に思えた。


決して自分に気を遣っているわけではない。


それならどうして、全く通じない事を繰り返すのか。


もしかすると何か策があるのではないか。


果敢に、けれど殺気や重さの無い打撃を捌きつつ、思案する。躱され、反撃され、それでもメープルは攻めの姿勢を崩さない。


傍から見れば美琴が圧倒的優位に見える状況下だが、美琴自身はどこか煮え切れないものがあった。


試合が開始されてどれほどの時間が経過しただろうか、ふとメープルが攻撃の手を止め、ニヤリと笑った。


それは己の不利を感じさせないほどの勝機に満ちた冷たい笑み。


何か来る。


そう、美琴が直感を覚えたその時だった。


がくり。


不意に美琴の体が傾いたかと思うと、まるで糸の切れた人形のように真横に倒れてしまった。


「何が起きたのでしょう?」


困惑しつつも立ち上がるべく、両腕に力を込める。


が、背に重石でも乗っているかのように身体を起き上がらせることができない。


腕はプルプルと震え、再び地面に倒れてしまう。


そこへ、射るような視線が飛び込んできた。


冷笑を見せつつ自分を見下ろしているのは他でもない、メープル=ラシックだ。


「かかったわね。私の策に。あなたの負けはこれで決定よ」


「!」


メープルは腰に両手をあて、上体を屈めて美琴を見下ろす。


「あなた、自分の能力の弱点に何も気づいていないのね」


「弱点、ですか?」


「スターはあなたに反射能力の2つの欠陥を教えずに授けていたとは流石ね。

冥土の土産として私が代わりに教えてあげるわ」


スターが美琴に授けた白の超人キャンディーは受けた攻撃を何倍にもして反射する能力を食べたものに与えることができる。


しかし、この能力は一見無敵に思えるが実は穴が2つ存在していた。


1つはヨハネスの開発した能力封印の薬。


相手の能力を封じる効果を持つ薬を注射として打つことで能力を封じることができる。


この薬の威力は強力で美琴とて例外ではない。


だからこそ、ヨハネスは嘗てのスパーリングで使用したのだ。


けれど一定時間を過ぎると効果が切れる為、制限時間内に倒さなければならないという欠陥があった。


しかも、1度打たれると耐性が付き、2回目からはその効果も薄くなる。


それを知っていたメープルはこの手を使わなかった。


反射の能力の2つ目の弱点はその最大の長所である反射にこそあった。


実はこの能力、相手の攻撃力を返すには一定の基準があり、それを下回る攻撃は反射することができないのだ。


本来なら誰もしらないこの致命的な弱点を彼女はジャドウの入れ知恵により完璧に突いてきた。


結果として美琴は立ち上がることさえできないほどの大きなダメージを体内に蓄積させてしまったのである。


「まさか、わたしの能力にこんな弱点があったなんて」


「驚いたかしら。でも、後の祭りよ。

私があなたに覆いかぶさって3秒間フォールすれば私の勝ちが決まるのよ」


すかさずフォールをしようとするメープルだったが、美琴は肩を浮かせて3秒のフォールを回避。


残された力で押し返すと、どうにか立ち上がり、闘う構えを見せる。


顔は青ざめ、玉の汗が額から流れ、見るからに彼女は衰弱していた。


それを目を細めて観察するとカリッと口に咥えたキャンディーを噛み砕き。


「命の炎が燃え尽きる寸前の最後の抵抗と言ったところね。でも、ここからどうするつもりかしら」


「あなたに勝つまで前進するのみです!」


美琴は腋を締めて拳を握ると、後退する様子を見せず、真っすぐ相手に向かう。


そして怒涛の打撃のラッシュを見舞ってきた。


相手の予想外の猛攻にメープルは押される。


「何なのこの力は? とても最後の抵抗とは思えないわね」


「やあああああッ」


延髄蹴りを食らい、大きくのけ反るメープル。


続けて胸に蹴りを受けて、ロープに飛ばされ、反動で返ってきたところにキッチンシンクで胃袋を抉られる。


胃液を数粒吐き出すものの、ダウンはしない。


美琴はその隙を突いて彼女の両腕を羽交い締めにすると後方に投げつけた。


倒れたところに鋭い膝爆弾であるニードロップが炸裂。


その威力に悶絶するが、美琴は素早く足をとって捻り上げる。


先ほどはメープルが美琴を困惑されていた。


しかし、今は自分がその立場に置かれている。


普段の美琴はどちらかといえば消極的でカウンター攻撃を主としている。


だが、今はどうだろうか。まるで別人のように矢継ぎ早に攻撃をしているではないか。


「何があなたをここまで積極的にしたというの?」


「わたしは見つけたのです。あなたを救う方法を」


「お節介もいいところね」


美琴は考えたのだ。


メープルは能力が発動しないように細心の注意を払っている。


発動すれば勝ち目がないと踏んでいるからだ。


恐らく余程の事がない限り、冷静さを失うことはないだろう。


かといってこちらが待ちの姿勢では相手を倒すことはできはしない。


ならばどうするか。自分から積極的に攻めて相手が攻撃をする隙を与えず倒しきってしまえば良い。


そうすれば能力を発動することもないから、彼女を必要以上に苦しめる事にもならない。


弓矢固めを極めつつ、メリメリとメープルの骨が軋む音に耳を傾けながら、美琴は懇願した。


「メープルさん。潔く敗北を認めてください。このままでは、あなたの背骨が折れてしまいます」


「敗北を促されるなんて随分舐められたことね。でも、私を甘くみないことね」


驚異的な柔軟性で身体を更に反らして、美琴の手足から脱出する。


美琴も立ち上がり、両者は互いを見据える。互いに息を乱し、汗を流す。


両者とも長時間の戦いで体力は底に尽きかけていた。


残るは気力の勝負だ。


タックルを美琴はしかけると彼女を上空に放り投げ、自らもそれを追い、空中でパイルドライバーを慣行。


「スター流奥義№15 3時のスイーツ!」


真っすぐにピンと真横に伸ばした自分の脚と垂直になった相手の体が時計の午後3時の形に見えることから名づけられたこの技は、完璧に極まった状態でメープルの脳天をマットに激突させた。


凄まじい衝撃音と土煙がもうもうとあがる中、技を解く美琴。


けれどメープルは体をユラユラと揺らしながらも、まるでゾンビのように起き上がってくる。


「私は負けられないのよ。スター流を全滅させるまで……」


そんな彼女に美琴は歩み寄り、優しくハグをした。


「愛する人を失った、あなたの気持ちはわかります。

前の戦いでわたしも初恋の李さんとお友達のヨハネスさんを失いましたから」


「それなら私が憎しみを募らせる気持ちも理解できるでしょう。

おとなしく、私の復讐の為に散りなさい!」


「復讐をしても愛する人は帰ってきません。

それに、わたしは気付いたんです。

確かに李さんやヨハネスさんはわたしの目の前で消滅してしまいましたが、彼らの思い出はわたしの心の中で生きています」


「思い出が心の中で生きている……」


「あなたも、そうでしょう?」


囁くような声で言われメープルはハッとした。


大好きだった少年との思い出が次々に蘇ってくる。


共に修行をしスターの元で学んだ日々。遠い昔の出来事のはずなのに、彼女にはそれが昨日のことのように近く感じられた。


ハグを通して伝わってくる美琴の温もり。


その熱く優しい抱擁に彼女の頑なで凍てついた心は少しずつ溶かされていった。


「復讐をしても心も満たされず、愛する人も悲しむでしょう。

あなたの愛した方はきっと、天国であなたを見守っていますよ」


「……そうね……」


その言葉を共にメープルはガックリと倒れ伏し、完全に失神。


体力の限界に加え美琴の愛の抱擁により復讐心で支えられた気力が消えてしまったのだ。


彼女が所持していた瓶の蓋を開け、美琴は不動の魂を解放。


彼の魂は大空へと昇華していく。


きっと、元の体に戻るだろう。


試合の様子を上空から観察していた者が3人いた。


1人はスター、もう1人はジャドウ、最後の1人は老紳士だ。


「スターさん。よくぞ美琴をあそこまでの戦士に育て上げましたな」


「先生に褒められると照れますが、私は何もしていませんよ。弟子達の教えが良かったのです」


「しかし、流石はスター流の守護神でありスター様の師匠である闇野髑髏やみのどくろ様の意思を継ぐ者。

吾輩が手塩に育てたメープルさえも撃破するとは、恐ろしい才能ですな」


「でも、先生も自分の名前くらい美琴ちゃんに告げれば良かったのに」


「いやいや。わしのような不細工の後継者と知ったら彼女もガッカリすることじゃろうからな。

あの子は何も知らぬまま、スター流で成長させた方がいい」


闇野髑髏の言葉にスターが続ける。


「いずれくる後継者任命のその日まで、ですね」


「そうじゃ。ジャドウ、君からも時折、試練を与えてやるといい、彼女の成長を促す為にもな」


「ハハ―ッ、偉大なる守護神、闇野様の命、光栄に思いまする」


闇野は踵を返し、弟子とその側近に背中を向けたまま告げた。


「これからも彼女の事を頼むぞ」


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