そんなの嘘です!仮面の怪人さんの正体!
ヨハネスが尻餅をついたことにより、美琴にも怪人の素顔がはっきりと見ることができた。
長い睫毛に白い肌の美しい顔立ちをした少女。
怪人が男性ではなく女性であることにも驚愕したが、その顔は美琴やヨハネスにとってよく知る顔でだった。
「李さん!」
喉の奥から、美琴は辛うじて相手の名を告げることができた。
不動の魂を肉体から分離させ、他の多くのスター流を苦しめた謎の怪人。
その正体が太陽の拳の仕様により魂が消滅して意識不明なはずの李だったとは。
彼女が動いていることも信じられなかったが、それ以上に美琴は彼女が悪行に手を染めていることの方が信じたくはなかった。
「李さん、意識が戻ったんですね。でも、どうしてこのようなことを」
「お前は何を勘違いしている。私は李などではない」
「……え?」
「私の名はレイ。メープル様の忠実なる僕だ」
「違うよ。君は僕達の仲間、李だ」
尻餅をついたヨハネスが立ち上がると、レイと名乗る少女は後方に蹴りを見舞い、ヨハネスの顎に足をめり込ませる。立て続けにこめかみを蹴り、足先で甲板に鋭い蹴りを打ちこんだ。
「ガフッ……」
ヨハネスは吐血し、敵側のコーナーへ衝突。
そのままズルズルと倒れ込んでしまった。
レイはフッと口角を上げ、口を開く。
「戯言を。私を惑わそうというのだろうが、そうはいかぬぞ。
敵である貴様らの言動に誰が耳を傾けるものかッ!」
倒れているヨハネスの腹に貫手で追撃。
鋭い手刀が腹に食い込むと、ヨハネスは唾を吐き出した。
そして相手の長い金髪を掴んで立ち上がらせると、顔面に蹴りを炸裂。
ヨハネスは後頭部はコーナーの鉄柱に強打、前面はレイの威力の高い蹴りを浴びで、血を噴き出す。
「これぞ名付けて地獄のサンドイッチだ」
「やめてくださいッ、ヨハネスさんとわたしは李さんの友達です!」
「友達? 笑わせるな。貴様らは敵以外の何者でもないッ」
レイの凍てついた目を見た美琴は思った。
あれほど優しかったはずの李さんが仲間に手を加えるなんて考えられません。
それに李さんは現在病院で入院中のはず。
魂が消滅してしまっているのですから、悲しい話ではありますが動けるはずがないのです。
それなら、わたし達の目の前にいる方は何者なのでしょうか。
声や顔立ちこそよく似ていますが、李さんはあんなに冷たい目をしていませんし、何より名前が違うのです。
そうなると考えられるのは、よく似た別人でしょうか。
もしもそうでなければ。
美琴の脳裏に恐ろしい仮説が浮かんでくる。
できることならば否定したいが、今はその材料が無い。
そうであってほしくないと全力で願いつつ、美琴は己の考えを口に出した。
「李さん、もしかして――わたし達の記憶がないのですか?」
「左様」
恐る恐る訊ねた問いに答えたのは、いつの間に現れたのだろうか、ジャドウ=グレイだった。
彼はガイゼル髭を撫でつつ、低音で告げた。
「お前の推測通り、レイの正体は李だ。
吾輩が魂のぬけた身体に奴の魂を再構成させて入れ直したのだ。
但し、お前達と過ごした記憶を全て忘れさせた上でな」
「!?」
「ジャドウ、何故仲間に対し、そのようなことを!」
衝撃の大きさに返す言葉の無い二人に代わってカイザーが問うと、ジャドウは不敵に笑い。
「現在の弱体化したスター流を元の神聖で偉大なるものへと戻すため。
つまり、スター様を汚す存在であるお前達の始末をするため、こやつを無慈悲な戦闘マシーンとして作り替えた」
「貴様の言葉を聞いたら、会長がどれほど悲しむかわかっているのか!」
「悲しまんよ。会長は喜ばれるだろう。少なくとも吾輩はそう思う」
「そんな勝手で仲間の命を弄ぶなど、許せんッ!」
ジャドウの非情に怒りを覚えたカイザーが彼に殴りかかろうとするが、彼はそれを手で制し。
「カイザーよ。此度の闘いはヨハネスと美琴のはず。
お前が吾輩と一戦交えるのであれば、ルールに反することになるが、それでもいいのかね?」
ルールの縛りを出され、カイザーは突撃を中止した。
ここで自分が感情に駆られては二人に迷惑をかけてしまうと判断したからだ。
震える体を言い聞かせ、カイザーは再び椅子に腰を下ろす。
シャドウも反対側に移動すると指を鳴らして椅子を出現させ、尊大に足を組んで座った。
「互いに観客が一名ずつというのもまた面白いもの。
では、李もといレイよ。邪魔な奴らを始末せよ」




