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ドキドキ自己紹介! もしかしてこれは初恋なのでしょうか……

不動さんが超人的な秘密を持つ理由は分かったのですが、スター流の門下生の皆さんの姿が見当たりません。


不動さんはここにいると推測していたのですが、当てが外れたのでしょうか。


腕組をして考えていますと、奥の方から何やらビシバシという激しい音が聞こえています。


まるで闘っているような音なのですが、この先で何が起きているのでしょうか。


するとスターさんが急に駆け出しました。


「待ってください。どこに行くんですか?」


「この部屋の奥にあるスパーリング部屋だよ。

あの音からすると、皆が実践練習をしているのかもしれないね」


「実践練習?」


「そう。いつ敵と戦ってもいいように、絶えず実戦を想定したトレーニングを重ねる必要があるんだよ」


「あの、先ほどから外敵とか実戦とか、わたしにはどうも話の内容が飲み込めないのですが……」


「百聞は一見に如かずという諺がある! 

百回聞くより一度目で見た方がすぐにわかる! ついてきたまえ!」


相変わらずのテンションの高さで颯爽と走るスターさんを追いかけるわたしですが、彼の走る速度の速さにはついていくことがやっとです。


しかも、奥に行くにつれて通路が入り組んでいるのです。


真っ直ぐかと思ったら右に曲がり、その次は左、また少し真っ直ぐいったかと思ったら右……とまるで迷路のように複雑な通路です。


スター流の皆さんはこれほど複雑な通路を迷うことなく、目的地に辿り着くことができるのでしょうか。


するとわたしと並んで走る不動さんが口を開きました。


「複雑な作りの理由は侵入者を迷わせる意味も含まれている。とはいえ、このような通路にした理由の大部分がスターの『楽しいから』なのだろうが」


楽しいからという理由だけで頭が混乱しそうになる作りの通路にするとは、最初に会った際に言っていた通り、スターさんの中には常識というものが存在しないのかもしれません。


ということは、これから先ここで修行するとなると常識から外れた思考を身に着ける必要があるのかもしれません。


個人的に必要最小限度の常識や良識は残しておいた方が生きやすいとは思うのですが。

れから一〇分ほど走り回った後、ようやくスパーリング室に到着しました。


中に入りますと二人の人物が中央に設置されているプロレスのリングで激しい攻防を繰り広げていました。


「やあやあ、諸君! 今日も元気にやっているねえ!」


スターさんが声をかけますと二人は動きを止めて振り返り、軽々とロープを飛び越え床に着地し、わたし達の所へ歩いてきました。


するとスターさんはいきなりわたしの背中を押して二人の前へ突き出しました。


「この子は今日からわたし達の新しい仲間になる美琴ちゃんだよ。仲良くしてくれたまえ」


「あ、あの……み、美琴です。今日からよ、よろしくお願いしますっ!」


突然のこともあったのでしょうか、言葉が途切れ途切れになってしまっただけでなく変な声になってしまいました。二人はじっとこちらを無言で見ています。


何も言わないことからすると、もしかして怒っているのでしょうか。


弁解したいと思いながらも、恥ずかしさのあまり二人の顔をまともに見ることができません。


もしも二人に鏡を差し出され顔を映されたなら、わたしの顔は真っ赤になっていることでしょう。


ああ、穴があったら入りたいです……


なるべく二人に顔を合わせないように俯いていますと、いきなり誰かがわたしの頭を両手でがっしりと掴んで、無理やり引き上げたのです。


「な、何するんです、かぁ……」


途中で声が小さくなっていったのは、わたしの顔を上げた人に見惚れてしまったからです。


長い睫毛に白い肌、着ている中国服の右肩にはポニーテルにた赤髪が垂れかかっています。


まるでテレビなどで出てくるモデルのようにき綺麗な男性にわたしは一瞬で心を奪われてしまいました。


彼は爽やかな笑みを浮かべ。


「女の子が俯いてばかりいるのはよくないよ」


「は、はい……」


「自己紹介が遅れたね。リーだよ。よろしくね」


差し伸べられた彼の細長く綺麗な手を掴んで握ります。


李さんの方がわたしより少し背が高いのでわたしを見下ろす格好になってはいますが、彼と視線を合わせるだけで心臓の音が高鳴るのを感じ取れます。


生まれてこの方、恋愛には無縁でしたが、ここにきてわたしにもついに初恋の人に巡り合えたのかもしれません。


さっきは遠くで見ただけでしたので、顔はあまりよくわからなかったのですが、これほどまでに美しい男性とは思ってもみませんでした。


名残り惜しいではありますがいつまでも握っている訳にもいきませんし、もう一人の方も待っていることですから、渋々わたしは彼の手を離してもう一人の人物に顔を向けました。


「美琴です。よろしくお願いしま――」


ここで言葉が切れたのは決して李さんの時のように見惚れたからではありません。


その方の目があまりにも冷たかったからです。


不動さんと同等程度の高身長なのですが、彼とは違ってガリガリに痩せており、皺が深く刻まれ頬がこけた顔に立派な白いカイゼル髭、オールバックの髪が特徴で純白の軍服風の衣服を着たダンディな老紳士です。


彼は遥か上からわたしをギロリと見下ろしました。


その瞳からはまるで感情を読み取ることができず、視たものを全て凍り付かせかねないほどの冷たい妖気のようなものを感じ取りました。


この老紳士には近づかない方が賢明なのかもしれません。


ただ、一つだけ気になったことと言えば、純白で統一された服を着て、果たしてカレーライスを食べる時に服を汚さないかということだけでした。

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