ヨハネスさん、仮面を割るのは可哀相です!
ヨハネスのコートは単なるファッションではなく防御としての効果があった。
その事実を知ると、怪人は後方に跳躍して思案する。そして棒立ちとなった。
「どうしたのかな。仕掛けないのかい」
「……」
「僕が怖くなったのかな」
「……」
「君が来ないなら、こちらか行かせてもらうけど覚悟はできたかな」
相手が返事をしないのでヨハネスは接近して距離を詰め、掌から火炎放射を放つ。
「火炎弾!」
ボゥッ!
近距離から炎を撃たれ怪人が怯んだ姿を見せると、ヨハネスはムースを思わせるドロップキックの連発で一気に相手に止めを刺しにいく。
だが、自らの炎により発生した煙に視界を奪われ、怪人を見失ってしまった。
「どこに消えたのかな」
訊ねると、背後から鋭い殺気が放たれ、手刀が振り下ろされた。
まるで日本刀のように鋭利なそれは、ヨハネスの衣服をチーズのように切り裂いていく。
反応が遅かったのでガードの威力が不足していたのだ。
「くっ……」
「自慢の装甲が破壊された気分はどうだ。
お前は打撃は無効化できると言ったが、手刀はどうなるかは口にしていなかったな。
故に弱点を見抜くのは容易かった」
「驚いたよ。こんな短時間で僕のコートを台無しにするなんてね」
「お前の考えなど私は先手先でも読むことができる」
「どうやら君にも未来予知の能力があるんだね」
「そんなものはない。
ただ、お前達スター流の攻撃ならば私は全て予測できるというだけに過ぎない」
「限定的な予測か……もしかすると君はスター流の関係者かな」
「お前の想像に任せる」
「気になるね。仮面の下の素顔、暴かせて貰うよッ」
正拳突きをジャンプで躱して背後をとると、後ろから手を回して怪人の仮面を掴む。
「視界を遮る仮面なんて邪魔なものは僕が外してあげよう」
美琴はヨハネスの表情がいつもと異なる残忍な顔となっていることに気が付いた。
口元はキューッと口角があがり目からは冷たい殺気が溢れ出し、いつもの温厚な彼とはまるで別人のようだ。
怪人も抵抗するが、ヨハネスは後ろから両足を胴に絡ませ、右腕で首をぐいぐいと締め上げているので、酸素不足となり思考が鈍っていく。
すると、これまで無言だったメープルが言った。
「その怪人の仮面を外すと後悔するわよ」
「それならますます見てみたくなるよ」
「あなたはスター流屈指の知恵者みたいだけど、とんだおバカさんみたいね」
「挑発をしたって無駄だよ。僕は手を緩めたりはしない」
「わかっているわ。ただ、少し助言してあげただけよ」
「君の助言は不要だよ。美琴さんからのアドバイスならともかくね!」
ぐっと手に力を込め、ヨハネスは情け容赦なく怪人の木製の仮面をはぎ取った。
「さあ、どんな顔をしているのかな。見せておくれよ」
技を解き、前に回って顔を拝見しようとするが、怪人は俯いている。
「往生際が悪いよ。
仮面はもう僕の手の中にあるんだから、素直に降参するべきだよ。
それとも、仮面にまだ未練があるのかな」
仮面を地面に落とすと、怪人は拾おうとする。だがヨハネスはそれを踏みつけ、破壊してしまう。
「どうだい。これで頼りの仮面はないねえ。これで隠すこともできないよ」
「ヨハネスさん、なんてことをするんですか! この人は敵かもしれませんが大切にしているはずの仮面を割るなんて、いくらなんでも可哀想です!」
美琴が涙目になりながらも抗議をすると、ヨハネスはニコッとした笑顔で。
「甘いんだよ、美琴さんは。前にも言ったはずだよ。
僕は勝利を選ぶためなら手段を選ばないって」
「だったとしても、希望を与えて目の前で刈り取るなんて、酷すぎます!」
「この怪人は僕達の仲間である不動さんの魂を奪ったんだよ?
それぐらいの報いを受けるのは当然じゃないか。さあ、いい加減に顔を上げるんだ」
少年探偵が怪人の顎に触れて顔を持ち上げる。
するとこれまで得意げだったヨハネスの顔から血の気が引き、顔面蒼白となる。
驚きのあまり、二、三歩後退すると、尻餅をついた。
「そんな……き、君は――」
震える唇でどうにか言葉を絞り出す少年にメープルはにっこりし。
「だから助言してあげたのよ。見ない方がいいって」
果たして仮面の中から現れた顔とは。




