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怖すぎます!帰りたいです、魔の地下六階!!

スターさんの姿を見たわたしは再会できた嬉しさのあまり涙が堪え切れなくなりました。


泣いているわたしを見たからでしょうか、スターさんはハンカチを差し出しました。


「君は神秘的な雰囲気とは違って、意外と泣き虫なんだね」


「ごめんなさい」


「謝ることはないよ。泣きたいときは思いきり泣くといいのだからね」


涙を拭いて彼にハンカチを返しますと、彼は今度はわたしに大きく手を広げ、そっと両腕でわたしを優しく抱きしめました。


彼の腕の中はとても優しい感触で温かみを感じます。


できることならこのままいつまでも彼の腕の中にいたいと思う程です。そんなわたし達を見た不動さんは軽蔑するかのような視線を送っていましたが、やがてポツリと呟きました。


「修行を重ねたつもりではあったが、ああも簡単に背後を取られるとは、やはりスターの腕は鈍ってはいないようだ」


「そんなことはないよ、不動君。君は今でも充分に強い。ただ、わたしが君の遥か上を行っていただけだよ」


「その言葉は励ましにはならんぞ」


「おっと! これは失礼したね」


高らかに笑うスターさんとは対照的に不動さんは背中を小さく丸めて珍しくため息を吐きました。


それが修行しても追い越すことのできない師匠に対する尊敬のものなのか、それともスターさんの底抜けの明るさに呆れてのため息なのかはわかりませんが。


少なくともわたしに言えることはこの二人のレベルにまでスター流を極めるには相当なレベルの修行を積まないといけないということだけでした。


スターさんはハグを解くと自分の腕時計を見てにっこりと微笑み。


「いい時間だから、美琴ちゃんの自己紹介も兼ねてそろそろ道場に顔を出すとしようかな。

不動君、君はどうする?」


「……たまには奴らの顔を見るのも悪くはないかもしれんな。いいだろう、付き合うとしよう」


「そうこなくっちゃ! じゃあ、早速行くとしようか!」


わたしの腕を掴んで軽快なスキップで歩き出すスターさん。


その後ろをしかめ面で歩く不動さん。


彼らの間に挟まれてわたしは何とも言えない気持ちになりました。


先ほどのエレベーターに乗り込みますと、スターさんはエレベーターのボタン列の真下にある空白のスペースを押しました。すると空白部分から新たに六つのボタンが現れたのです。


それぞれ地下一階~六階まで表示されていることから、このボタンは地下行きだということがわかりますが、スター流道場はまさかこの建物の地下にあるのでしょうか。


そんなことを考えていますとスターさんは瞳を輝かせて。


「君の推測通りだよ。スター流道場は地下にある!」


「……私の心を読みましたね。でも、どうして地下に作ったのですか?」


「地上にいると外敵が多くてね。

その点地下なら滅多に侵入されることもないし、気づかれる心配も少ないからね」


「外敵?」


「君には言っていなかったけど、スター流はただの格闘流派ではないんだ。

その秘密は門下生が説明してくれるはずだからお楽しみにね」


ウィンクをするスターさんですが、わたしは彼の顔が一瞬だけ真剣な色になったのを見逃しませんでした。


「さあ、着いたよ! ここがスター流道場だ!」


興奮気味に語るスターさんの前には会長室と同じように観音開きの扉があります。


「今日もみんなに会いに来たよ! 君達、元気にしていたかなー?」


高いテンションで扉を開けるスターさんですが、中には誰もいないようです。


道場の中は扉と違って意外にシンプルな作りになっており、部屋の中央にプロレスのリングが設置されてある以外はサンドバックが吊り下げられていたり、ランニングマシンがあったりと道場というよりはスポーツジムに近い形のようです。


それにしては不動さんのような筋肉隆々な体格を作るにしては、設備的に不足しているように感じるのは気のせいでしょうか。


名前の通り仁王立ちになっている不動さんとは対照的にスターさんはサンドバックの裏側を見たり、リングのエプロンの下を覗き込んだりと忙しく動き回っていましたが、やがて小首を傾げました。


「おかしい。みんなかくれんぼでもしてわたしを楽しませる魂胆なのかと思ったけど、どうやら違うらしい」


「当たり前だ。誰がお前を楽しませるか」


「それはそれで残念だけど、ともかく皆を探さないことには美琴ちゃんを紹介することができない。困ったぞ……」


「一階にいないとなると六階に行ったと考えるのが妥当だろうな」


「そうか、六階か! わたしはすっかり六階の存在を忘れていたぞ!」


不動さんが「六階」という単語を口にすると途端にスターさんの顔がパアッと晴れやかになり、ピョンピョンとスキップを始めました。


その様子を見たわたしはこっそり不動さんに耳打ちします。


「スターさんっていつもあんな調子なのですか」


「そうだ。長年の付き合いだが、奴のテンションの高さにはついていけん」


「何か言った?」


「何でもない(です)」


急に彼が聞き耳を立ててきましたので、わたし達は慌てて誤魔化します。


まさか不動さんと言葉がハモる時が来るとは思ってもみませんでした。



「……」


結論から言いますと六階へ足を踏み入れたわたしは言葉を失ってしまいました。


先ほどのスポーツジムに似た外観とはまるで違うのです。


広大な施設の中には全面を超強化ガラスで覆った透明な部屋の中の四方八方に機関銃が取り付けられ、中へ入った人を蜂の巣にするコーナーや、学校などでよく見かける長四角形のプールの中に凶暴なワニを何匹も入れたもの、特大の水槽にシャチやサメなどを一緒くたに入れたもの、火の輪くぐりや舌が煮えたぎる溶岩となったボロ橋の上に取り付けられたリングなど、どれをとっても常識では考えられない設備ばかりが整っています。


スターさんは興奮気味に設備を説明をしていますが、正直言ってわたしは血の気が引いてきました。


わたしが思うにこれはあくまで視覚で人を刺激させる為だけに作った設備だと思うのですが、実際はどうなのでしょうか。気になったわたしは、究極の質問をスターさんにぶつけました。


「まさかとは思うのですが、スター流の門下生のみなさんは毎日ここで修行を重ねているのですか?」


「そのまさかだよ」


「……大変失礼なのですが、ここで修行したら命を落とす方もいるのではないでしょうか」


「常人なら一〇〇%死んでしまうね。そうなるように設計して貰ったから。

でも、わたしが弟子入りさせたのは全員普通ではない子達ばかりだからね。君を含めて」


君を含めてという彼の物言いがわたしが普通ではない存在ということを認識させると同時に、こんなとんでもない場所で修行するのかと改めて実感するに相応しい力を持っていました。


横を並んで歩く不動さんを見上げつつ、彼に訊ねてみます。


「不動さんもこの修行を受けたのですか」


「いや。正直言ってここの小さな設備では俺の修行の足しにもならないのでな。世界中の猛者を相手に放浪の旅をしていたところだった」


「放浪の旅……ってここが修行にもならないって……」


「スターも甘くなったものだ。昔の奴は今とは比較にならんほど厳格な指導をしていた。昔が懐かしいものだ」


ということは彼はこれ以上の過酷な修行を強いられていたということでしょうか。


これなら不動さんが極限まで鍛え上げられた筋肉を有しているのもわかる気がします。

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