謎の少女とHNΩさんです!
電柱には一人の少女が立っており、HNΩとカイザーの戦闘を観戦していた。
しかし、少女は二人の力量差が圧倒的だと感じ取るなり、小さくため息を吐き、口を開く。
「これだけの時間が経っても一人も仕留められないなんて、あなたには失望したわ」
その声に気づき顔を上に向けるHNΩ。
彼は少女の姿を見るなり、HNΩの瞳が幾度も点滅する。
これは動揺している証拠だ。
「なぜ、あなた様がここに……!」
少女は電柱から飛び降りると、カイザーとHNΩの間に割って入る。そしてロボの方を向くと。
「あなたを処分しにきたの」
思いがけない一言に、HNΩはその場で土下座をし懇願する。
「どうか、今一度だけチャンスを!この男を命に代えても必ず仕留めてご覧に入れます! ですからどうか!」
美琴は信じられなかった。
ムースを瀕死に追い詰め、数々の多彩な攻撃法を持つ凄腕の殺し屋HNΩ。
カイザーに圧倒され劣勢気味とはいえ、高い実力を持つのは確かだ。
その彼を姿を見せただけでこれほどまでに動揺させる少女。
彼女は何者なのか。
HNΩは彼女に弱みでも握られ、従わされている立場なのだろうか。
ここでカイザーの顔を見てみると、彼は口を閉じ、彼らのやりとりを見ている。
彼ほどの実力者ならば、二人まとめて倒すことも不可能ではないはず。
そうしないのは、少女から放たれる気を感じ取ってのことなのか。
それとも他に別の理由が――
様々な憶測が頭の中を駆け巡る中、謎の少女とΩの会話は続く。
「残念だけど、あなたがどれだけ頑張ってもあの男には勝てないわ。
確かに、あなたは以前よりも何倍も力を増した。
けれど、それ以上に彼は進化していたのよ。
それは先ほど最大技を一蹴されたことでも証明されたはず。
潔く負けを認めるのも戦士として必要なことよ」
少女の掌に緑色のエネルギーが凝縮されていく。
「哀しいかもしれないけれど、処分を受け入れなさい」
「うわあああああッ! 嫌だ、嫌だ! 俺はまだ消えたくねぇえええ!」
頭を抱え絶叫したかと思うと、振り向くことなくHNΩは逃走する。
その姿は宇宙最強の殺し屋としての誇りはどこにも感じられない。
少女は超高速移動でΩに追いつくと、その背に貫手を放つ。
鋭い手刀はΩの背と胸を貫通し、彼の体内から山吹色の球体を取り出した。
球体はΩの核であり、これが破壊されると彼は再生も自らの存在を維持することもできなくなってしまう。
「さようなら」
「俺は――」
無慈悲に球体が潰されると同時にHNΩの身体は透けていき、遂には跡形もなく完全消滅してしまった。
唯一少女の手に残った球体も塵となって風の中へと消えていく。
少女の瞳から一滴の涙が零れた。
「どうして! 仲間にそんなことをするんですか!」
彼女が振り向くと、そこには後を追ってきた美琴達の姿があった。
美琴は少女のやり方が理解できなかった。
これまでの関係を見るに、彼女とHNΩは仲間なのだろう。
敵とはいえ、全力で闘ったΩに対し、劣勢という理由だけで始末した少女に、美琴は怒りを隠せなかった。
少女はくすりと笑い、深緑色の瞳を光らせ言葉を紡ぐ。
「約束を守れなかったからよ」
「約束?」
「彼はスター流の門下生の全てを始末するという条件で、監獄からの自由を求めた。
私はそれに応じて彼を出してあげたの。
でも、結果はご覧の通り。約束を守れなかったんだから、処分するのは当然のことよ。
そうでしょう、カイザーさん?」
話を振られたカイザーは口ごもるだけだ。
少女は口から棒付きキャンディーを取り出し、それを腰のホルスターに入れる。
「あらあら、答えられないのね。まあ無理もない話よね。ところで――」
ここで少女はムースに目をやり。
「あなた、とても良い香りがするわ」
「当然ですわよ。最高級のバラの香水をつけていますもの」
「私が感じているのは、あなたから発せられる甘い恋の香りよ」
甘い恋。少女の問いかけにムースは思い当たる節があった。
だが、相手に気づかれないように素知らぬ振りを決め込む。そんな彼女に少女は告げる。
「あなたには掟は関係なかったわね」
「……何のことですの」
「それは、あなたが一番よく分かっているはずよ。今日は少し挨拶に来ただけだから、もう行くわ」
少女は指を鳴らしてその場から消える。
スターのように。
ジャドウのように。
少女はスター流の関係者では?
名前も告げず、喋りたいだけ喋って消えた少女。
だがその彼女に対し、美琴は近づくことができないほどの、禍々しいオーラを感じ取っていた。




