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許せません、不動さん!わたしの怒り、大爆発です!

目を覚ましますとわたしは森の中にいました。


なぜ、森の中にいるのでしょう?


先ほどまで、確かにわたしは砂漠にいました。


一瞬でワープしたとは思えませんので、誰かがここまでわたしを運んだと考えるのが妥当な線ではないでしょうか。


それだとすると、一体誰がわたしをこのような場所に運んだのでしょうか。


忍者? それともスターさん?


忍者はわたしを刀で斬ろうとしたくらいですから、わたしに対して急に心を入れ替えたというのは少し考えにくい話です。


それではスターさんはどうでしょうか。


彼は以前会った際に指を鳴らして瞬間移動をしていました。


彼ならばわたしを瞬間移動でここまで連れてきたことも納得がいきます。


「おい、ガキ」


わたしのピンチを見かねたスターさんが知らないところでわたしを助けてくださったのでしょう。


まだこの美琴は彼にご恩の一つも返していないのですから、スター流の道場についた時にはぜひとも彼の教えを素早くモノにして彼の期待に応えなければ――


「ガキ、無視するな」


なんでしょう。


先ほどから「ガキ、ガキ」と呼ぶ声がします。


ここの森に甘い柿でもなっていてそれを探している声なのかもしれません。


いえ、もしかすると海のミルクと称されるカキを探しているのでしょうか。


ですが発音を聞く限りでは、どうやら「ガキ」と言っているように聞こえます。


ガキは子供を意味する言葉でもありますから、その声の主はきっと森の中で子供とはぐれてしまったのかもしれません。


できることならわたしも捜索のお手伝いがしたいのですが、わたしもこの森の道に関しては全くわからないので、力になることはできないのが残念です。


わたしには祈ることしかできませんが、どうか速くその人の子供が見つかりますように――


「いい加減にしろ! このガキが!」


「ひゃあ!?」


思わず口から素っ頓狂な声が出てしまいましたが無理もありません。


いきなり目の前に不動さんの凶悪な顔が現れたら誰だってそうなってしまうでしょう。


「ってアレ? 不動さん、いつからわたしの目の前にいたのですか」


「さっきからお前の後ろでガキと呼び続けていたが気づいてなかったようなのでな。こうしてお前の目の前に現れたというわけか」


「あの声は不動さんのだったのですね! わたしはてっきり森の中で迷子を捜しているものかと思いました」


「全く……」


ブツブツと小声で何か愚痴を言っていた不動さんでしたが、やがて森の中へと歩き始めました。


置いて行かれては困りますのでわたしもあとを追いかけます。


森の中は涼しい風が吹き、時折小鳥のさえずりが聞こえ、とても心地良いです。


森の中を二人並んで無言で歩くというのも面白くありませんし、せっかくの機会でもありますので気になったことを不動さんに訊ねてみることにしましょう。


「不動さん、先ほどわたしに刀を振り下ろそうとしていた忍者さんはどこへ行ったのですか。姿が見かけませんけど……」


「奴らなら俺が往生させてやったが」


「へ?」


「お前に分かりやすい言葉で伝えるならば地獄に送ってやった。つまり殺したということだ」


「それは、本当なのですか」


「当然だ。俺は嘘はつかん」


わたしは彼の後に続いて木製のいまにも壊れそうな橋を渡っている最中でしたが、彼の言葉を聞いた途端にピタリと足を止めました。


正確には身体が勝手に止まったと言ったところでしょうか。


わたしが足を止めたのに気づいてか彼はこちらを振り向きます。


すると次の瞬間。



「どうして……そんな酷いことをしたんですかぁっ!!」



自分でも驚くほどの大声が口から飛び出しました。


不動さんは眉間に深い縦皺を刻み鋭い眼差しを向けてきます。普段のわたしなら彼の形相の恐ろしさの前に何も言えなかったとは思いますが、この時は違いました。


彼に向っていき、その厚い胸板を何度も叩いて叫びます。


「不動さん、あなたは最低です! 助けてくれたことには感謝しますが、いくらわたしが襲われたからと言っても彼らを殺めることはなかったはずです! 彼らだって帰りを待ってくれている家族がいたはずです! それなのに平気で殺めるなんて、あんまりです!」


彼にとっては拙い言葉に聞こえたでしょう。


わたしの叩く拳の威力は蚊に刺されるほどにも感じなかったことでしょう。


ですが、わたしは自分の感情の全てをぶつけて彼に訴えました。


涙で視界が潤んでよく見えません。それでもわたしは彼に思いの丈をぶつけました。


「馬鹿! 不動さんの馬鹿!」


彼はわたしがどれだけ言葉を、そして拳をぶつけても何も言ってきません。


抵抗する素振りも見せません。


不動さんは暫く無言でしたが、やがてわたしの頭に手を乗せ、優しく撫でると口元にいつもの彼とは異なる笑みを浮かべて言いました。


「お前はどうやら俺には無いものを持っているらしい。

スターがお前をスカウトした理由が分かった気がするよ」


「……え?」


「何でもない。先へ行くぞ」


踵を返して先をずんずんと歩く不動さんは、わたしに何を感じたと言うのでしょうか。


わたしの想いが少しでも彼に伝わっていればいいのですが……


そんなことを思いながらわたしは彼に置いて行かれないように、涙を拭いて追いかけます。




森を抜け山を越え、電車に乗ってわたしたちがやって来たのはオフィス街でした。


見渡す限り高層ビルが立ち並び、飲食店なども軒を連ねるこの街に本当にスター流の道場があるのか、どうも信じられないのですが道場の場所を知っているのは不動さんだけですので、わたしは彼にあまり疑いの顔を見せないようにしながらついていきました。


スマホを操りながら忙しく行きかう人達を尻目に彼の後を追っていきますと、彼はこのオフィス街の中でもひと際大きな三〇階はありそうな高層ビルの前で足を止めました。


「どうかしたんですか?」


「このビルの中にスター流道場がある」


目を細めてビルの看板を読んでみますが『スターコンツェルン』の文字が輝くばかりでどこにもスター流道場の名称はありません。


「どこにもスター流道場の名前が無いのですが、本当にここで会っているのでしょうか」


「俺が間違えると思うか」


ギロリと彼が睨んできましたので、ここは彼の自信に任せることにして取りあえず中に入ってみることにしました。


広々としたロビーを抜けてエレベーターに乗り込みますと、彼は最上階のボタンを押して扉を閉めました。どんどんと上昇するエレベーターの中で不動さんが口を開きます。


「スターは今や世界に名高いスターコンツェルンの会長を務めている。大企業の事業の一つとしてスター流道場は組み込まれたが、その方が俺達にとっては都合が良い。名を告げぬ行いこそ本物だからな」


わたしの頭の中に沢山のクエスチョンマークが生まれます。


今の会話の中でわかったことと言えば、スターさんは大金持ちで、不動さん達スター流の門下生は何か大々的に活動できない秘密があるということだけでした。


自分の頭の悪さを情けなく思っていますと、エレベーターは遂に三〇階に到着しました。


広くて長い廊下を歩いていますと、遠くに観音開きの扉が見えるのがわかりました。


近づいてわかったのですが、その扉の真上には大きな黒い字で会長室と書かれています。


不動さんは何の躊躇いも見せることなく扉に触れ、中にいるであろう人の許可を得ることもなく扉を開けてしまいました。


「勝手にそんなことをしたら怒られちゃいますよ」


「案ずるな。奴が怒った姿を俺は一度も見たことが無い」


「そうその通り! わたしは常に怒らないように心がけているからね!」


不意に後ろから声がしましたので背筋に冷たいものが流れるのがわかります。


不動さんも少しだけ目を見開いていることからも、彼も何者かに背後を取られるなど想像もしていなかったのでしょう。


ともかく恐る恐る振り向いてみますと、わたし達の後ろに立っていたのは金髪に澄んだ青い瞳ににこやかな顔、茶色の三つ揃えのスーツを着た紳士でした。


「よくここまで来たね! 美琴ちゃん、そして不動君!わたしは君達に会えて嬉しいよ!」

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