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怖すぎます、不動仁王さん!

今回は戦闘シーンなので美琴の一人称ではなく三人称で執筆しています。ご了承ください。

美琴がどのような行動をとるのかとじっと観察していた不動は、彼女がリュックサックからおにぎりを取り出し歩みを進めたのを見て、瞳孔を縮めて驚愕した。


敵に会えば躊躇うことなく往生させる。悪には一切容赦せずその命を奪うことこそが救済の道となる。


そう考えている彼にとって美琴の行動は理解不能であった。


何故、救いようのないガキ達に自らの食料を差し出す必要がある。


そのようなことをしても敵の心が揺さぶられることなどあるはずはなく、食料どころか命さえも奪われるのがオチだというのに。


彼の心配通りに敵である黒い忍者装束の男は、美琴の差し出したおにぎりを叩き落とし、大きく日本刀を振り上げた。


常人の反応であれば即座に逃げ出すか攻撃にでるか、いずれにせよ何らかの行動をとるはずである。

けれど美琴は闘うことも逃げることもせずに、瞼を閉じて口元に穏やかな笑みを浮かべているだけだ。


今にも命を刈られようとする寸前にも関わらず、彼女は動揺することなく己の運命を平然と受け入れようとしている。


自分が彼女の立場であったなら、すぐさま敵を瞬殺している場面であろう。


とても彼女と同じ真似はできまい。


「俺が動くしかないようだな」


彼は不敵な笑みを浮かべると、忍者が美琴に日本刀を振り下ろすよりも速く二人の間に割って入った。


振り下ろされる日本刀は不動の頭頂部に命中するものの、当たった箇所からポキリとヘシ折れてしまった。


「貴様は――」


「俺の名は不動仁王。怒りをもって人を救いに導く不動仁王だ!」


名乗りと同時に踵落としを忍者に食らわせる不動。


まともに食らった忍者はその場で真っ二つに裂けて死亡する。


「おのれ!」


分銅付の鎖鎌を持つ忍者は仲間を殺められた怒りを胸に鎖鎌を振り回して不動に突進する。


「お前は仲間を俺に往生され怒っているようだが、それは筋違いだ。元はと言えばお前達が俺達を追いかけ回さなければ、奴が往生されることもなかった。つまり、お前達が全て悪い!」


向かってくる忍者の胸に狙いを定めると、彼は貫手で相手の胸を貫いた。


忍者から手を抜き取とると、既に死亡した彼らに乱暴に砂をかける。


「往生されたとはいえ、お前達がそのままでは哀れなのでな。一応、弔っておいてやる。感謝するがいい。そして」


ここで彼は深呼吸を一つして、その猛禽類の如き瞳を更に光らせ。


「ガキ共! お前達が隠れているのはわかっている。全員往生させてやるから今すぐ出てくるがいい」


鳥取砂丘全体に響き渡る声で彼が告げると、砂の下から次々にホッケーマスクをかぶった忍者達の姿が現れた。


美琴と不動を取り囲むようにして現れた忍者の数は約三〇人。


「ガキ、お前はどうする。また先ほどのように握り飯を差し出すか?」


だが、美琴の返事はない。


どうしたものかと振り返ると彼女は目を閉じて動かない。


耳を澄ますと心音が聞こえることから不動は気絶したと気づいた。


「先ほどの忍者の刀に恐怖したのか知らぬが、情けない奴だ。おかげで俺が一人でガキ共を相手にお遊戯をしなければならなくなった」


それと同時に忍者軍団の一人が機関銃を構え、予告もせずに彼に発砲する。


放たれる無数の弾丸。


しかしそれらは不動の身体にかすり傷一つ付けることなく地面へ落ちていく。


全ての弾を撃ち尽くした忍者は呆然として彼を見る。


目の前の光景が信じられないのだ。


いくら鍛え上げていたとしてもアレだけの銃弾を受けて無事でいられるはずがない。


並の人間ならとっくに絶命し、蜂の巣のように体中に穴を開けられた無残な姿に変わり果てているはずである。


だが目の前の男は全ての弾を受けきったにも関わらず平然としているのだ。


これは夢だ、幻だ。


自分が闘っているのは明らかに人間とは異なるもの。そう、敢えて例えるならば。


「――バ、化け物ォ!」


「この俺を化け物呼ばわりするとは礼儀のないガキだ。

地獄でたっぷり閻魔に礼儀を教わってこい!」


不動は瞬間移動と思われる速さで忍者の元へ現れると、一本足頭突きで彼の頭部をザクロのように粉砕した。


「ヒ……ヒィィッ!」


首の無い死体となった仲間の姿に忍者達は恐怖に駆られ、不動を近づけまいと銃火器を撃ちまくる。


けれど不動はその全てを真っ向から受けきった上で、一人また一人と確実に忍者達を殺めていく。


ある者は胸を突かれある者は手刀で切り裂かれ、死体の山が築かれていく。


そして残り一〇人になった頃、不動はピタリと動きを止めた。容赦の無い人間凶器の猛攻に戦慄していた忍者達は彼が動かなくなったことに対し、警戒の色を強める。


不動は、そんな彼らに先ほどまでとは異なる穏やかな声で告げた。


「本当は俺としてはお前達を往生させたくはないのだ」


「……先ほどまで散々殺しておいて、貴様はよくそんなことが言えるな。

今度は俺達がお前の命を奪う番だ!」


彼の猛攻が収まったと思い込んだ忍者の一人が調子に乗って彼に近づくと、すぐさま不動の拳が飛んできて拳の衝撃波で彼を跡形もなく消し去ってしまった。


この時、忍者達は本能で感じ取った。


彼は紛れもなく、先ほどよりも怒っていると。


「に、逃げろーッ!」


隊長の命に部下忍者達は武器を放り出し、一目散に走り出す。


何も考えず、砂漠の砂に足を取られながらも必死で前に進む忍者達。


少しでも遠くへ離れることができれば、奴から逃れられる。


死にたくない。仲間のように惨殺されるのだけは御免だ。


組織の目的も今となってはどうでもいい。


あの世に行っては何もできないがこの世にいる限りはやり直しが効く。


今はとにかく逃げることだけを考えろ。


忍者達はどれも同じ考えを持ち、不動から逃げ切るという共通の目的で行動する。


息も絶え絶えになりながら遠く見ると、人影が見えた。


姿は見えないが、おそらく味方だろう。自分達は助かったのだ。


「おーい! 助けてくれぇ!」


忍者達はその人物のいる場所へ、声を限りに叫んで走り出す。


自分達は助かった。あの恐るべき敵、不動仁王を煙に巻いたのだ。


これは戦略的な勝利と言えるだろう。


仲間がいるという希望が彼らに前向きな希望を与えた。


そして、その人物の元へ向かった忍者達が目にしたものは。


「ガキ共。俺から逃げられると思うな」


あの恐るべき不動仁王だった。


「俺はお前達の何百倍も速く動くことができる。

それはつまり、予め先回りすることも可能だと言うことだ」


「た、頼む! 命だけは、命だけはお助けを!」


恥も外聞もかなぐり捨て、不動に対し土下座をして懇願する忍者達。

不動は暫く無言で立ち尽くしていたが、やがて重い口を開いた。


「……俺は先ほど、お前達を往生させたくはないと言った」


「は、はい! 確かにそう言いました」


「それは俺の本心だ。できることなら、お前達には生きたまま罪をこの世で償ってくれた方が一番有り難い。だがな」


不動はここで拳を握りしめ、彼らに殴りかかってきた。


「お前達はあの世で閻魔に鍛え直されるべきなのだ!」


拳圧の一撃でもって彼らを蒸発させた不動は、気絶した美琴のいる場所へと戻ってくると彼女を右肩に抱え上げ、死体の山を見つめる。


「死体の山があっては人間達が迷惑するだろうから、このガキ共の死体は俺が全て消滅させることにしよう」


空いた腕で拳を見舞うと、竜巻が起こり死体の山が舞い上がる。


そして竜巻が消えた後には死体の服の切れ端さえも残っていなかった。


不動は気絶したままの美琴を横目で見て、彼は呟いた。


「奴らの業は俺一人で背負えばいい」

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