師に捧げる勝利です!
美琴は女性型の拷問器具アイアンメイデンへと閉じ込められてしまう。
この器具の内部には大量の鋭利な釘が取り付かれており、入った者は蜂の巣になり最後の一滴まで血を流し尽くす血の池と針山地獄に苦しみながら命を落とすことになる。
あまりに残虐な構造故に研究者の間では実際に使用されたことはないのではという声もあったが、ムースはその恐怖の拷問器具を出現させ、地獄絵図を再現したのだ。
完全に蓋が閉められているので中の様子はわからない。
しかしながら器具から噴き出される大量の血が、美琴がいかに凄惨な目に遭っているかを物語っていた。
「さすがのあなたもアイアンメイデンの激痛には跳ね返すことは不可能ですわ。
ですが、よくやりましたわ。
あなたは不動様でさえ使用することはなかったわたくしの奥義を発動させたのですから、称賛に値しますわ。
もっとも、あなたの肉体は既に原型を留めてはいないと思いますけれども。
さあ、惨めな肉の塊となった姿を観客の皆様とわたくしに見せてくださいな」
勝利を確信したムースが再度指を鳴らしてアイアンメイデンを消滅させると、そこには肉片どころか無傷な美琴の姿があった。
掠り傷さえも付いていない彼女の状態に、ムースは相手を指差し、冷や汗を流す。
「あなた、まさか、あのアイアンメイデンさえも耐えきったというのですか」
だが、美琴は答えない。
不意に訪れる強烈な既視感。
その予感は的中し、ムースは自分が思った通り――正確にはそれ以上の――苦痛に見舞われることとなった。
四方八方を取り囲んだ光のオーラの大砲が次々に光の短剣を放ち、彼女の至る所を貫いていく。
腕、肩、腹……
各部位を貫かれ、ムースの衣服にはいくつもの切り傷ができ、赤い血が滲んでいる。
それでも絶命しないのはコルセットが極めて頑丈だったからに他ならない。
両膝から崩れ落ちるように前に倒れ伏したムース。
倒れた場所には体内から噴き出された血が血の池を作り出していた。
直ちにダウンカウントが開始される。
「ワン、ツー……」
だが美琴は一〇まで数える前に彼女の手を掴んで起き上がらせる。
両足を震わせ、頬や額に赤い血を付着させながらも、ムースの顔からは笑みが消えない。
美琴は彼女の両肩を掴み、静かな口調で言った。
「ムースさん、あなたが試合中に受けた痛みは恐ろしいものがあったかと思います。ですが、これまであなたが快楽のために殺めた人々はそれ以上の苦痛と恐怖を味わったのですよ」
「それがどうかしたのです?
あなたも含め、この世の全ての生物はわたくしの玩具。その真理が揺らぐことはありませんわ」
視線を合わせないようにしながらも一切の反省の意思を見せようとしない。
美琴は一瞬、悲しみを帯びた瞳で彼女を見た後、膝蹴りを打ち込み、素早く背後をとる。
そして怪力で空高く放り投げた。
それを追いかけ、彼女の腰を掴む。
その体勢にムースは口角を上げる。
「おバカさんですわね。
あなたは先ほどの試合を見ていたのでしょう。わたくしの何を見ていたのです?
この技はわたくしに通用しませんわよ。
不動様の使い古された技など、今更仕掛けたところで無駄ですわ」
「あなたが不動さんの技を破れたのは、彼が著しく弱体化していたから。違いますか」
「!?」
「全力の不動さんの必殺技を食らったら、あなたは命を落としているでしょう」
「でもそれは不動様に限っての話。
あなたのような玩具が繰り出す技などに、わたくしが敗北するはずはありませんわ」
「確かにわたしは不動さんほどのパワーはありません。ですが、この技は通常の彼の必殺技とは一味違います」
言いながら真っ直ぐ落下していく。
「あなたの真下には、何があるかご存じですか」
美琴の問いに真下に視線を移したムースの視界に入ってきたのはリングを支えるコーナーポストの鉄柱だった。
「これで最後です!
鉄柱串刺し不動倶利伽羅落としーッ!」
完璧に脳天を叩きつけられたムースは、頭部から噴水のように血を噴き出し、ダウン。
「ま、まさかこのような変形技があるとは、うかつでしたわね。玩具の癖に生意気ですわ……」
その言葉を最後に血を噴き出し、目を閉じたムースは、遂に一〇カウントが数えられても立ち上がることができず、二〇分五二秒、美琴の勝利が決まった。
ムースの敗北と同時に時限爆弾のタイマーも止まり、李は救出された。
勝利の手が高々と上げられる中、美琴は思った。
やりましたよ、不動さん。
あなたの必殺技でムースさんを倒すことができました。
この勝利をわたしの大切な仲間である不動仁王さんに捧げます。




