ムースさんから見た私はどういう風に映っているのでしょうか。
ムースは美琴がどのような能力を有しているかは全く知らなかったが、相手の身体に突如として起きた謎の発光現象に警戒し、攻撃を止める。
刹那、彼女の周りが薄暗くなる。
大きな影ができているのだ。
「影? 飛行機でも飛んでいるのでしょうか」
ふと空を見上げると、青い空から光のオーラで生成された黄金の巨大な足の裏が自分に迫ってくるのに気づいた。
大きさからしてとても逃げられるようなものではない。
「な、何なのですの、コレは!?」
突如として振ってきた巨大な足の存在にムースはひきつった笑みを浮かべることしかできない。
そして、巨大な足は彼女を容赦なく、幾度も踏みつける。
「ギャアアアアアアッ!」
不動、そして美琴戦と連戦してきたムースがはじめて上げる絶叫。
これまで苦痛を与える側だった自分が生まれて初めて耐えられないほどの痛みを与えられたのだ。
その衝撃は彼女にとって計り知れないものがあった。
防御力の高いコルセットのおかげで致命傷はどうにか防ぐことができたものの、口から血を吐き、足は微かに震えている。
「何だったのですか、今のは……」
微かに呟き顔を上げると、先ほどまで倒れていた美琴が起き上がっていた。
見ると、彼女に付いていたはずの服の埃や傷が消えてなくなっている。
服だけではなく、彼女自身も息一つ乱しておらず、ムースの目には彼女が先ほどまで激しい攻防をしていたどころか、たった今リングインしてきた相手のように思えた。
謎の発光現象が起きてから次々に起きている。思い当たる節があるとすれば、たった一つしかない。
「あなた、能力を使いましたね?」
「……ムースさん。棄権してください。このまま闘い続ければ、あなたの命にかかわってきます」
戦闘の構えにはいり、落ち着いた口調で語る美琴。
だが、彼女の瞳には涙が流れている。
ムースは彼女の様子に声のトーンを落として。
「不動様と同じくあなたも冗談がお上手ですこと。玩具の分際で棄権を勧めるなど……
わたくしをここまで小馬鹿にした方はあなたが初めてですわよ!
お覚悟を決めなさい!
玩具が身分を弁えないとどうなるか、たっぷりと教えて差し上げますわ!」
ムースは激高した。
自分は誰よりも偉く、自分より偉い者などこの地上に存在するはずがない。
それにも関わらず、この玩具は自分に試合の放棄を勧めている。
負けを認めリングを去るなどという屈辱的な真似を誰ができようか。
いや、できるはずがない。
それに自分は強い。
あの不動を圧倒するほど強いのだ。
自分と同年代の相手に不覚を取るようなことがあってはならないし、あるはずがないのだ。
「あなた達玩具は! 永遠にわたくしの支配下に置かれ続ければそれでいいのですッ!」
目を血走らせ、電気椅子を出現させ、同時に彼女を拘束する。
「一〇〇万ボルトで消し炭にしてあげますわ」
青白い電流がバチバチと美琴の身体を包み込むが、彼女は瞳を閉じたまま呻き声ひとつ漏らさない。
「あなたも不動様と同じく電気に耐性があるとでもいうのですか?」
疑問を口にした途端、自らの身体に異変が起きたことをムースは感じた。
両腕が動かないのだ。
見ると、自分の腕が金属の拘束具で自由を奪われている。
足も動かず、腰も何かに座ったかのようにピクリとも動かない。
見ると、いつの間にか美琴にかけていたはずの電気椅子が姿を消している。
「あなた、どうやってこの一瞬で脱出したのです」
「気を付けた方がいいですよ」
「何を言って――」
彼女が訊ね終わらないうちに、全身を青白い電流が駆け抜ける。
体内から火あぶりにされているかのような凄まじい痺れと激痛にムースの口からは悲鳴が飛ぶ。
自然と涙が溢れ、滝のような汗が流れる。
三〇秒後、地獄のような苦しみから解放された彼女はキッと相手を睨み。
「また何か不思議な力を使いましたね。ですが、まだまだこれからですわよ」
ムースは能力を発動し、不動戦と同じく鞭や機関銃で美琴を苦しめようと試みる。
だが与えた攻撃は悉く自らに跳ね返えされてしまい、あべこべに自分が地獄の苦しみを味わう羽目になってしまった。
ムースは思う。
ボロボロの自分。無傷な相手。
嘗て、これほどまでに追い詰められたことがあっただろうか?
いや、ない。
不動と闘った時もジャドウに地獄監獄に入れられた際もこれほどの経験をしたことはない。
この理不尽な仕打ちは何だ。
どうして自分の攻撃が跳ね返ってくる?
全く理解できない。原理も不明。
もしも自分の与えた攻撃が全て跳ね返ってくるのだとしたら、これまで彼女がこちらの攻撃を躱したり、受け流したりしていたのは、わたくしに跳ね返りによるダメージを与えないため?
そんなはずはない。そんなことはない。
支配者であるわたくしが玩具に気遣われるなど、そのような屈辱があっていいはずがない。
相手に接近しようとするが、一歩一歩が鉛の鉄球を足に付けられたようにムースは感じた。
まさか、これが恐怖?
わたくしがこの玩具に恐怖を覚えている。
そのようなことが現実に起きるなど、あり得るはずがない。
あっていいはずがない。
ムースは首を激しく振って現状を否定し、虚ろな目とヘラヘラとした笑みを浮かべ。
「不動様の試合では出すまでもなく、あなたに試合を止められてしまいましたが、あの決着は不本意でしたわ。ですので、お楽しみを奪われた怨みを返してご覧に入れますわ。
わたくしの奥の手で!」
ムースは大きく両手を広げたかと思うとそれを打ち鳴らし。
「秘儀・アイアンメイデン!」




