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怒りの化身、不動仁王さん!女の子にも容赦なさすぎです!

試合開始のゴングが鳴るなり、不動はムースに真一文に突進する。


だが彼女はそれを軽々と飛び越え、後方に着地すると、素早く不動の腋腹に蹴りを食らわせる。


「わたくしを感電させたかったみたいですが、そう甘くはありませんわよ」


「だろうな。だが、その方が俺も腕がなるッ!」


不動は振り返り裏拳で反撃する。


彼の拳を屈んで躱し、足払いで地面に倒したムースは口元に手を添えて微笑む。


「何でもない攻撃で倒れるとは、まだ試合序盤ですのに情けないですわね」


「軽口が叩けるのも今のうちだ」


不動は好戦的に笑うと相手の服の胸倉を掴んで、自らの頭部を大きく引く。


そして速度をもって額を彼女の顔面に衝突させた。


「ああああッ」


高い悲鳴をあげ、額と鼻っ面から血を噴き出しムースはふらりと体勢を崩した。


「女の子の顔面に頭突きをするなんて、マナーがなっていませんわね」


「それがどうした」


懐から取り出した白ハンカチで血を拭く彼女に構わず、不動は二撃目の体勢に入る。


振り下ろされた鋼鉄の頭は、ムースの小さな両手によりしっかりと受け止められてしまう。


「ホホホホ……同じ攻撃がわたくしに通用するとお思いでしたら、随分と低く見られたものですわね」


だが、不意に彼女の腹に激痛が走る。


「かはっ……」


目を大きく見開き、口から血や唾を吐き出す。不動に腹を殴られたのだ。


ムースの可憐なコルセットにはしっかりと不動の拳の跡が付いていた。


腹を抑えつつ、彼女は訊ねる。


「今のは撒き餌だったというのですか」


「それぐらいも見抜けぬから、お前はいつまで経ってもゴミなのだ」


不動は容赦なく彼女の華奢な腹に立て続けに膝蹴りを打ち込み、更にがら空きとなった顔面に殴打を加えていく。


不動の鉄拳に左右の頬を打たれ、ムースは徐々に後退していく。


背後はいうまでもなく、電流が流れる鉄柵が待ち構えている。


並の人間ならば挟み撃ちにされて終わりだが、ムースは違った。


彼女は不動の股下をスライディングで抜けて安全な背後に回ると、彼の両肩に飛び乗った。


相手は頭上にいるため、不動からの攻撃手段は皆無に等しい。


その光景を目の当たりにした美琴の脳裏には、三日前に首を絞められ失神した不動の姿が鮮明に浮かび上がってきていた。


「不動さん、頑張ってください!」


まるで祈りを捧げるかのように手を強く組んで師を応援する美琴。


鉄柵に阻まれているが、声なら届けることができると、美琴は珍しくも声を大にした。


「あなたは先ほど言いました!自分がムースを倒すと。わたしの出番はないのだと。

あの言葉は嘘だったのですか!?嘘でないのなら、ここから反撃してみてください!」


その時、美琴の背後から意外な人物の声がした。


「立って応援すると疲れるから、椅子に座った方がいいよ」


聴きなれた声に振り返ると、そこにはパイプ椅子に腰かけたスターがいた。


「どうしてあなたがここにいるのですか」


「試合を間近で観戦したいからね。君も隣の席にどうぞ」


いつの間にか、彼の隣にはもう一つのパイプ椅子が用意されていた。


「スターさん、こんなに近くで座っていたらお客さんの迷惑になってしまいますよ」


「特等席だから問題ないよ。それに、立っている君の方がよほど観客の視界を遮っているんじゃないかな」


正論を言われ言葉に詰まる彼女に、スターは指で隣のパイプ椅子のクッションをつつく。無言で座れと示しているのだ。


彼の言い分も一理はあったので、美琴はひとまず座ることにした。


隣に目をやると、スターは偉そうに足を組み、ポテトチップスの袋を開けて、美味しそうにパリポリと食べる。


その態度に美琴はため息を吐き、彼を咎めた。


「スターさん。不動さんが命懸けで闘っているのですから、そのような態度で試合を観戦するのは失礼ではないでしょうか?」


「不動君は両腕を防がれているし、リーチ的にもムースを振り落とすのは無理があるだろうねえ。

さて、ここからどう反撃に出るかな」


言葉を完全無視し、にこにこ顔で語るスターに美琴は改めてリングに視線を戻す。


不動はムースにより脳天肘打ちを無防備のまま食らい続けていた。

やがて彼の額が割れ、鮮血が顔を隈取のように赤く染めていく。


「不動様。これぐらいの攻撃でもうお手上げですか。でも、無理もないですわね。

頭上からの攻撃を防ぐ術はないのですから」


「思い込みが激しいゴミだ。教えてやる。この体勢は、こうすれば崩れ去るッ!」


不動はコーナーポストに突進すると、そこを駆け上がり、飛び上がると、背中からリング目がけて落下する。


すると当然のことながら、組みついているムースも一緒に落ちることとなり、結果としてマットに首を強打してしまった。


頭を振り、立ち上がろうとする彼女の下に大きな黒い影ができる。


見上げると、そこには猛禽類の如き瞳に殺気を宿し、仁王立ちで見下ろす不動の姿が。


「ゴミ、ここからは俺の反撃といこうか」


ムースの細い腹を巨大な足で踏みつけ、更にその身体を膝の上に乗せ、弓なりにさせることで標準を合わせ、一気に拳を解き放つ。


「往生させてやるッ!」


怒りの籠った拳はムースの顔面にクリーンヒット。


彼女は口から血飛沫を噴き出し、マットを赤く染める。その光景に不動はニヤリと笑い。


「地獄はまだ始まったばかりだ」

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