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スターさんのお弟子さんに会いました!

スターさんに出会ってから三日が経過しました。


財布の中には見覚えのない三千円札がありましたので、おにぎりとお茶を購入し、その日の飢えをしのぎつつ彼のお弟子さんが現れることを待っていました。


おそらく財布に入っていた三千円はわたしが就活に失敗することを見越したスターさんがこっそりと入れていたものなのでしょう。本当にありがたいことです。


彼には助けられてばかりでまだ何一つとしてご恩返しをしていませんので、弟子入りをした暁には全力で彼の教えを学びたいと思います。


そして四日目の早朝。


公園に備え付けられてある長椅子で眠っていますと、誰かがしきりにわたしの肩を揺さぶってきます。


もしかするとお巡りさんなのかもしれません。


ここは風が強く少々寒いですので風邪をひかないようにと毛布か何かを持ってきてくれたのかもしれません。


とにかく相手を確認しないことには始まりませんので、わたしは目をゴシゴシと擦ってゆっくりと起き上がって相手の顔を見ました。


わたしの肩を揺さぶったのはお巡りさんではありませんでした。


茶色の艶のある長髪に鋭い眼光、端正ながらも般若の如く凶悪な顔立ちの若い男性でした。


上半身は何も身に着けてはおらず、筋骨隆々の体格を見せており、迷彩色のズボンを履いています。


一九〇を優に超える長身に屈強な体つきといい、只者ではないことは一目瞭然ではありますが、彼は一体何者なのでしょうか。


「あの、もしかしてわたしの肩を揺さぶったのはあなたですか?」


「そうだ」


「一体、わたしにどんな用事があるのでしょう?」


「迎えに来た」


「え?」


「スターから弟子が迎えに来ると聞かされているはずだ」


若い男性の口からスターさんの名前が出た途端、先日の記憶が蘇ってきました。


別れ際に確かにスターさんはわたしのところにお弟子さんを向かわせると話していたのでした。

ということはこの方が。


「察しの通り、俺がスターの弟子だ。不動仁王ふどうにおうという」


「スターさんのお弟子さんなのですね。

わたしはスターさんの新しい弟子になりました、美琴と申します。ふつつかものですが、よろしくお願いします」


立ち上がって挨拶をしますと不動さんは瞳を横に逸らしたかと思うといきなりわたしの手をとって走り始めました。


「あ、あの、どこへ行くのです?」


「話は後だガキ。今は逃げることに専念しろ」


「え? 逃げるってどこにですか? それにガキって――」


わたしは仮にも二一歳ですので子供扱いされるのはあまり嬉しくはありません。


それに自分の師匠を呼び捨てにするだけでなく、事情も告げずに逃げろというのは些か礼儀がなっていないのではないのでしょうか。


気づかれないように心の中で不満を口にしますと、彼はギロリとわたしを睨み。


「だからお前はガキなのだ。先ほどから我々を追ってきているガキ共の存在に気づかんのか」


「え? 子供だったら逃げる必要はないじゃないですか。一緒に遊んであげましょうよ」


「……後ろを見るがいい」


不動さんは左手で顔を覆います。


どうやら苛立ちを通り越して怒りを抱いているようですがわたしは彼を怒らせるようなことを口にしたでしょうか。


全く見当は付きませんが、とにかく言われるがままに後ろを向きますと、そこには何とホッケーマスクを被り黒い忍者装束に身を包んだ二人組がわたしたちを追いかけてきています。


確かハロウィンは十月三十一日ですので、時期的にはまだなはずです。


それにも関わらずなぜあのような恰好をしてわたしたちを追いかけているのでしょうか。


ここでわたしの脳裏に数年前に観たテレビ番組の映像がフラッシュバックしてきました。


内容は確か黒づくめの怪しい男性たちから制限時間内まで逃げ切ることができれば賞金を貰えるというものだったはずです。


状況的にはあの番組と少し似ているものがありますので、ひょっとすると不動さんはあのゲームの参加者として、賞金を確保するべく必死で逃げ回っているのかもしれません。


その旨を伝えますと、不動さんはますます怖い顔でわたしを睨んできます。


更にスピードを上げて走りますので冷たい風がわたしの頬を掠め、寒さと痛さで思わず目からボロボロと零れてきます。


忍者装束の二人組が不動さんに負けじと後を追いかけ、どういう訳かわたしを掴もうと手を伸ばしてきます。


たまにわたしの髪が彼らの手に触れることもありますが、今のところはギリギリで不動さんのスピードが上回っているようです。


どれほどの時間追いかけっこが続いたでしょうか。


時間も分からず彼に引っ張られ続けられた末に、突然に彼が急ブレーキをかけましたのでわたしは止まることができました。


「もう、疲れましたよぉ……」


「この程度で疲れるとはやはりお前はガキのようだ」


「失礼ですね! これでも二一歳なんですよ!」


「お前の年齢などどうでもいい。俺からすればガキに過ぎん」


不動さんの辛辣な物言いにショックを受け思わず下を向いたわたしは、地面が砂だらけであることに気が付きました。


よく見ると周りも一面砂でできています。


ということはここは砂漠なのでしょうか。


ですが、砂漠と言えばあの人の顔をした巨大なライオンさんであるスフィンクスさんがいるはずなのですが。


不思議なことに姿が見当たりません。


「おかしいですね。もしかしておトイレにでも行っているのでしょうか?」


「鳥取砂丘にスフィンクスがいるわけがないだろうが」


「ここは鳥取だったんですか!?」


「お前にはどの砂漠にも同じに見えるのだろうな……」


「おトイレで思い出したのですが、何だか少しおトイレに行きたくなってしまいました。

ここっておトイレはどこにあるんでしょうか?」


「便所が無いぐらいで狼狽するな。だからお前はガキなのだ。一回漏らした程度で死ぬわけじゃない」


「女の子にそんなことを言うなんて酷過ぎます!」


「その怒りをもってあのガキ共を往生ってみせるがいい」


彼の視線の先にはさきほどの忍者装束の二人組がいました。


一人は分銅付の鎖鎌を、もう一人は日本刀を構えています。


どうやらわたしたちを攻撃してくるつもりのようです。


困りました。わたしは争いごとはあまり好きではありませんし、できることなら闘わずに問題を解決したいものです。


まず彼らにどうしてわたしたちを追っているのか理由を聞いて、それからおにぎりを差し出して……

よし、プランはまとまりました。


あとは実行に移すのみです!


自分のできる限りのことをしようと、忍者達の方へ歩みを進め、リュックサックから非常食としてしまっておいたおにぎりを取って彼らの前に差し出しました。


「良かったらおひとついかがですか?」


言葉が相手に通じるかはわかりません。


ですが血眼になってわたしたちを追いかけていればお腹も空いてストレスも募るでしょう。


理由は定かではありませんが、空腹による苛立ちを取り払うことによって彼らの気持ちが少しでも安らぐのなら、それに越したことはないでしょうから。


そのわたしの態度に何を思ったのか、日本刀を持った忍者が近づいてきて、大きく刀を振り上げました。


どうやら彼はわたしを一刀両断にするつもりなのでしょう。


刀が直撃すれば間違いなくわたしの人生は終わりを迎えます。


ですが、それでいいのです。


自分の特異力で相手を傷つけるよりかは、誰も傷つけることなく命を終えた方がずっと幸せなのですから。


そしてわたしの意識はすうっと遥か遠くの彼方へ飛んで、目の前が一気に真っ暗闇に包まれていきました。

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