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ジャドウさんとは闘えません!

美琴にはなぜジャドウが自分に敵意を剥き出しにするのか、思い当たる節が見当たらなかった。


ジャドウはわたしにとってスター流の基礎を叩き込んだ師匠的存在であり、彼から学んだことは多い。


彼の『悪から学ぶ』の授業も真剣に取り組んできたつもりではある。


確かに当初こそ、その得体の知れない雰囲気からか警戒したこともあったが、今では同じ流派に属する同志として、それなりの仲間意識はあるし、失礼な態度をとった覚えはない。


それにも関わらず、どうして彼はわたしに敵意を向けるのであろうか。


理由がわからず首を傾げて困惑した表情をする美琴に、ジャドウがドスの利いた声で告げた。


「気に入らない。それがお前を殺す理由だ」


「待ってください! わたしがあなたに失礼な行為をしたというのであれば謝罪します。ですがわたしにはいつあなたの怨みを買うような行動をとったのか、見当がつかないのです」


「それもそうだろう。

傍から見ればお前は普通に接していたようにしか見えんのだから、わかるはずもない。

一言で言い表すならば、吾輩はお前の存在全てが気に入らぬ。

スター流は、吾輩が入門した当初と比較すると、明らかに堕落した。

それも全て、お前達が色香を使いスター様を惑わしたからだ」


ジャドウは理解ができなかった。


時代の流れとは言え、あれほど女子を弟子にすることを拒んでいたスターが、近年になり女子を弟子にとるばかりではなく、萌えアニメに目覚め、闘いとは無縁の堕落しきった毎日を過ごしていることに。


ジャドウの目に映るスターは、強い差別を受け孤独に生きてきた自分に光を与えてくれた大恩人である。自分を救ってくれた彼に報いるべく、絶対の忠誠を誓い、彼の指示に従ってきた。


だが、近頃の彼はどうだろう。嘗ての厳格な一面は消えうせ、修行も(ジャドウの印象では)生ぬるいものに変わり果て、ルックス重視で弟子を選ぶようになってしまった。


その為、弟子達は嘗てのような漢気溢れる者とは程遠い、線の細い美少年、美少女ばかりとなってしまった。遥か彼方に過ぎ去った時こそ最高のものと考える、懐古主義者の彼にとって近頃の弟子達には我慢ができないものがあった。


無論、彼らに一切の非は無いのだが、ジャドウは彼らこそスターを堕落させた原因と断じ、始末すべしと常々思っていたのである。


その感情が増大する切っ掛けとなったのが、美琴の存在である。


見目麗しく心も清らかな彼女は、悪を自称する自分とは相いれぬ者。


性格が正反対なだけならまだしも、スターは彼女を特に気に入り、自分よりも頻繁に会って食事をしたり会話をするようになった。


このままでは、忠臣の座を美琴に奪われ、スター流の栄光はますます過去のものに遠ざかるかもしれない。危機感を抱いたジャドウは、手始めに李に占いの結果を見せることで動揺させ、闘いに精彩を欠くことによって負傷させ、地獄監獄より復活したという目黒に李の抹殺を依頼。


目黒は依頼を果たすことはできなかったものの、李に再起不能の重傷を負わせることに成功した。


あとはこの事実をもって、美琴を精神的に追い込んだ後、亡き者にすればよい。


そうすれば邪魔者は消え、忠臣としての地位は守られる。


そして今に至るのである。


「死ね。美琴よ!」


腰に携帯した鞘から剣を引き抜き、鋭い突きを見舞う。


だが闘牛士のように身軽に躱され、姿勢を入れ替えられてしまった。


今度はあべこべに自分が断崖絶壁に立たされ、奈落の底へと落とされる恐怖を味わうことになったジャドウだが、彼は目を妖しく光らせ、高らかに笑う。


「フハハハハハハハハハ!

逆境こそ精神が研ぎ澄まされると言うもの。

来るがいい、美琴よ。吾輩を落としてみよ!」


だが、美琴はくるりと踵を返し、崖とは反対方向へと歩き出す。

まるで自分を歯牙にもかけないと言ったその態度に、彼の心の中に沸々と怒りが沸き上がってきた。


「美琴よ。吾輩をここで殺めねば後悔することになるぞ!」


「……できません。あなたはわたしに数多くの教えを授けてくださいました。あなたには恩があります。それに、わたしがあなたを落とす理由は何一つないのです。失礼します」


背を向ける彼女の声は涙声となっている。


「貴様は、どこまで吾輩を侮辱すれば気が済むのか。

何かにつけて泣いてばかりいるお前のその姿、吾輩が最も畏れたあの者によく似ているーッ!」


目を血走らせ、悪の形相となったジャドウは背後から急接近して美琴に袈裟斬りを浴びせる。


背を斜めに斬られ、服が破れ、白い肌から血が滲む。だが次の瞬間には傷口が塞がり、服は再生する。


「何が起きたと言うのだ……?」


ジャドウが疑問を口にした刹那、美琴の全身が光り輝き、衝撃波を放つ。


それにより吹き飛ばされ尻餅をついたジャドウが見たものは。


突如として上空に現れた黄金の剣を持つ巨大な腕だった。


黄の粒子で構成されたそれは、ジャドウに向かって剣を振り下ろす。


一刀両断にされ、大きなダメージをジャドウだったが、剣は攻撃を止めることなく、幾度となく剣を振るう。


巨大な光の剣に滅多切りにされたジャドウは徐々に崖の先へと追い詰められていく。


その間、美琴は背を向けたまま微動だにしない。


度重なる剣の斬撃を受けたジャドウは冷や汗を流しながらも、能力に関する心当たりを得た。


「貴様、スター様から超人キャンディーを頂いたな。

それも単なる超人キャンディーではない。

吾輩が誰にも与えてはならぬと警告を続けた、禁断の白いキャンディーを!」


「……」


「如何なる攻撃も何倍にもして相手に跳ね返す……

それが白いキャンディーの力。

俺でさえ、俺でさえ与えられなかった禁忌の力をなぜ!

なぜ! このような小娘が! 教えてください、スター様ァ!」


ジャドウは空へ声を張り上げるものの、答えは返ってこない。


彼は口元にキューッと張り付いたような笑みを浮かべ。


「美琴よ、覚えておくがいい。貴様はこの俺が必ず呪い殺してやるからなぁ――」

怨嗟の声と共に堅く拳を握った瞬間。


無慈悲に振るわれた一〇度目の斬撃により、ジャドウは跡形もなく姿を消す。


それと同時に光の剣と腕も消滅した。


ここで気絶していた美琴は意識を取り戻した。


「わたしは一体。ジャドウさんはどこへ?」


周囲を見渡してもジャドウの姿は無い。


「どこかに行ってしまったのでしょうか」


忽然と姿を消した彼を気がかりながらも、美琴はこの件を報告すべく、スターコンツェルンビルを目指して歩き出すのだった。

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