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病院にお見舞いに行ってきます。

朝食を食べ終わってみても、李さんが帰ってくる様子はありません。


これほど長い時間が経過しているのですからトイレであるとは考えにくいですし、そもそもトイレにこもっているのなら、同じ女子であるわたしが気づかない訳はないのです。


もしかすると、彼女はどこかに外出して、何か事件に巻き込まれているのかもしれません。


刑事ドラマのような発想ですが、李さんも武闘派集団であるスター流の一員ですから、何者かに因縁をつけられ決闘を挑まれるということが無いとも限りません。


ベッドの上に座っているだけでは不安が募るだけですので、わたしは上の階にあるレストランで朝食を食べに行くことにしました。


スターコンツェルンビルの中にあるスターレストランはその名の通りスターさんが所有しているレストランです。


その為、スター流の門下生であるならばいつでも食べ放題・飲み放題でしかも無料なのです。


そういうところもわたしがスター流に入門してよかったと思える一因です。


さて、わたしが朝食のロールパンにバターを塗りながら食べていますと、スターさんがレストランへ入って、わたしの席へと歩いてきました。


彼はわたしの向かいに腰を下ろし、手を組んで言いました。


「美琴ちゃん、君に二つの知らせがある。嬉しい知らせと悲しい知らせ。どちらから聞きたい?」


突然の言葉に困惑しましたが、悲しいお知らせを聞けば嬉しさも半減してしまうかもしれませんので、まずは嬉しいお知らせから聞くことにしました。


「美琴ちゃん、嬉しい知らせと言うのはね。李ちゃんが帰ってきた」


「えっ!? 本当ですか」


「わたしは嘘は吐かないからね」


「それで、今、どこにいるんですか!?」


「……ここからが悲しいお知らせなのだがね」


スターさんは声を少し低くして告げました。


「スター病院の肉体治癒装置の中にいる。

肉体治癒装置とは全身の負傷を徐々に回復させる最新鋭の装置のことなんだがね」


肉体治癒装置。


何故、李さんがそのような装置の中に入らなければならないのでしょうか。


もしかすると――


わたしの嫌な予感を察知するかのように、スターさんが言葉を続けました。


「昨日の深夜、彼女は目黒怨という名の殺し屋と闘った。

辛うじて彼女は勝利を収めたが、代償は大きかった」


「そんなに酷い怪我なのですか」


「いや。肉体疲労、骨折や怪我などは一日あれば治癒できる。

だが問題は、彼女が『太陽の拳』を発動したことだよ」


太陽の拳。聞いたこともない技名です。

わたしが学んだスター流の教科書(という名目のスターさんの自伝)にも書かれていません。


「太陽の拳は通常のスター流奥義のもうワンランク上の奥義、スター流超奥義として分類される技でね。習得が難しい上に威力が桁違いだから、使用できるものが一握りしかいない。その中でも『太陽の拳』はカイザー君しか発動できない代物の奥義なんだ」


「……」


「李ちゃんはそれを発動した。

この技は己の魂を拳に宿すことによって撃ち出す一撃必殺の奥義なんだけど、

李ちゃんは技を繰り出すまでは見事だったそうだけど、相手を消滅させる過程で己の魂のエネルギーを全部使ってしまったらしいんだよ。それで、彼女の魂は消滅してしまったと、ジャドウ君が言っていた。

彼の口ぶりと実際の彼女の様子を見て推測するに――

恐らく彼女が意識を取り戻すことは無いだろう」


李さんの意識が戻らない。どう考えても信じられないことです。


つい昨日まであれほど元気そうに喋っていたのに。


彼の話を聞くだけでは全貌が把握できないので、わたしは李さんの入院しているという病院へと向かうことにしました。


彼女が入院している病院の場所をスターさんから聞いたわたしは、急いで彼の病院へ行きますと、入り口の自動ドアの前にジャドウさんが立っていました。


「小娘よ。この病院に何の用かね」


「李さんのお見舞いにきました。そこを通してください!」


すると彼は自分のガイゼル髭を指で撫でて。


「ほほう。無謀にも太陽の拳を放って抜け殻状態となった李の見舞いに来るとは、お前も物好きな奴よ」


「……今の言葉、申し訳ありませんが、撤回していただけませんか」


「何故かね」


「経緯はわかりかねますが、李さんは彼女なりに精一杯闘ったのだと思います。その努力を踏みにじるようなあなたの発言を聞き捨てる訳にはいきません」


「下らん。この世は勝者か敗者しか存在しない。スター流の同志だか何だか知らぬが、目黒如きに辛勝しているような落ちこぼれなど、吾輩の興味の範囲外」


「あなたは仲間を何だと思っているのですかッ!」


「仲間? そんなもの、吾輩には無い。そして必要だとも思わない」


彼は高速でわたしの目の前に接近すると、不気味に笑って。


「お前が気になるのなら行くが良い。吾輩は止めぬ。

但し、奴の哀れな様を見て絶望する姿が目に見えるが」


「そんなこと、彼女を見てみたいとわかりません!」


わたしは彼の言葉を気にせず、李さんがいるという肉体治癒装置のある部屋へと歩みを進めます。


すると遠くの方でジャドウさんの低い笑い声が木霊しているような感覚に陥りました。


李さん、待っていてくださいね。


わたしがいま、あなたに会いにいきます。

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