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李さんの涙です!

ビルに帰還した李と美琴は互いに深い傷を負っていたこともあり、医務室へと運ばれ、二人並んで隣同士のベッドへ寝かされることとなった。


彼女達は怪我の治癒を一通り受けた後、負傷箇所に包帯を巻いた姿で仰向けの状態で眠っていたが、夕飯の時刻になると空腹を感じ取り目が覚めた。


李と美琴は互いの方に頭を向けて言った。


「お腹、空きましたね」


「そうだね」


「今日の夕ご飯は何になるのでしょうか?」


「僕はラーメンがいいな。大好物だからね」


「わたしは大好物のおにぎりがいいです」


「フフフ……どっちも好きなものが食べたいなんて、僕達は少し似たところがあるんだね」


「そうみたいですね」


美琴は微かに微笑んだが、すぐに表情に影を落とし。いつもよりも元気のない声で告げた。


「わたしっていつも不動さんや李さんに守られてばかりいて、全然みなさんの役に立っていませんね」


「君はまだスターさんに弟子入りして僅か一か月じゃないか。

焦る気持ちはわかるけど、強くなるには毎日の積み重ねが大事だからね。

最短でスター流を卒業した子も三か月はかかったんだから、焦ることはないよ。それに僕から見て、君は才能があると思う。一か月で忍者達とあそこまで渡り合うことができたんだからね。君は役立たずなんかじゃないよ。立派な僕達の仲間、スター流の戦力だよ」


仲間、戦力。


自らを恥じて情けなく思っていた美琴にとって、李の言葉にどれほど励まされたかは想像に難くない。


心の不安が消えた美琴は先ほどの戦闘で気になった点を彼女に訊ねた。


「さっきの戦闘で李さんは炎を出しましたけど、あれはどうやったのですか」


「僕は炎を自由自在に操る能力を持っているんだ」


「それは、わたしみたいに小さい頃から備わっていたものなのですか?」


「いや。僕は最初は無能力者だった。スター流の卒業の証としてスターさんから能力を与えられたんだ」


「能力を……与えられる?」


「スターさんは『超人キャンディー』というキャンディーを製造していてね。それを食べると能力者になることができるんだ。どのような能力を得られるかは食べた色によって異なる。但し、このキャンディーは沢山能力を得たいからという理由で複数食べても能力が得られる訳じゃないらしい。スターさんが食べると何の変哲もないただのキャンディーらしいんだけど、僕達が食べると能力者になれるそうで、複数食べると拒絶反応が出て普通は死亡するらしい。

だからスターさんは卒業生一人につき、一個しか与えないようにしているんだ」


「わたしは小さい頃から超人的な身体能力が備わっていたのですが、それは李さんの言う能力に該当するのでしょうか」


「どうだろう。今のところは謎だね。でも、そのうち君の身体能力の秘密は明らかになるはずだよ」


ここまで話した時、不動がおにぎりとラーメンを載せたトレイを持ってきた。

そしてやや雑に彼女らの机に置き。


「食え」


「いただきます!」


二人は手を合わせて食べ始める。


美琴はペロリとおにぎりを食べ、歯を磨いて寝てしまったが、李はラーメンの味を噛みしめるかのように時間をかけて食べている。


もちもちとしたちぢれ麺に醤油の甘みと香りの漂うスープ、トロリと柔らかな歯ごたえのチャーシューに噛み応えがありよく味の染みついたメンマ。


そしてラーメンの定番でもある煮卵。それらをゆっくりと時間をかけ、スープまで飲み干して完食した。


彼女が食べ終わるまでの間、不動は壁に背中を預けてその様子を見ていたが、食べ終わったのを確認すると小さく呟く。


「美味かったか」


「今まで食べたラーメンの中で最高でした」


「今日のは俺が作ったのだが、ラーメン作りが別格なお前に言われるとは光栄だな」


「本当に美味しかったです、不動さん」


李は瞳を潤ませ、両の瞳から涙を流した。涙を拭こうとするが、彼女の目からは涙が後から後から流れてくる。


「あれ、可笑しいな……不動さんの作ったラーメンが美味し過ぎて涙が止まりませんよ」


「我慢する必要は無い。お前が泣く理由はわかる。今、この瞬間だけは思いっきり泣いていい。

俺が許す」


気丈なはずの李が普段は見せるはずのない涙。


顔をぐしゃぐしゃにして泣く彼女がどれほど辛い気持ちと向き合っているか、彼には想像ができた。


美琴が寝ている中、李は叫び声を上げて泣き続ける。


不動は彼女の背に手を回し、優しく抱きしめた。


無言で抱きしめるうちに彼女の声は小さくなり、荒かった呼吸も次第に落ち着いたものになってきた。


彼女の心臓の鼓動を聞きながら、不動は訊ねる。


「会いたいか」


「はい。出来る事ならもう一度だけ隊長――カイザーさんに会って、僕の想いを伝えたかった」


「仮にお前が想いを伝えたとしても、奴は決してお前の想いに応えることはないだろう」


「わかっています。彼が僕の想いに応えられなかったとしても、僕はこれから先も彼を永遠に愛し続けるでしょう」


「……そうか」


不動は短く言って踵を返すと、部屋を出た。


残された李はすやすやと眠る美琴の寝顔を見て。


「美琴さん、君の初恋を失恋にしてしまってごめんね。君と過ごせた時間は本当に楽しかったよ。

僕と仲良くしてくれてありがとう」


李は美琴の顔を除き込むと彼女の赤く生き生きとした唇に感謝の意を込めて優しくキスをした。


起きる気配の無い美琴を後にして李は静かに医務室を出る。


「これで悔いはない。あとは、大きな用事を済ませるだけだ」



夕刻。李は負傷した身体をおして荒野へとやって来た。


荒野には夕日に照らされた男が一人立っていた。


黒いソフト帽に黒スーツ、そして右目のスコープ。殺し屋である目黒怨である。


彼は李の姿を見ると口角を上げてニヒルに笑う。


「李、よく逃げずに来たものだ。連れはいないのか」


「いない。僕一人だけだ」


「尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだが、どうする」


「その言葉は君にリボンでも付けて送り返すよ」


「相変わらず口の悪い小娘だ。しかし、お前の毒舌も今日が聞き納めだ。何故ならば、お前を殺せと依頼が来たからな」


目黒は懐から赤い銃を取り出し、スコープで彼女の心臓に狙いを定める。


「仲間を連れて来なかったのは賢明な判断だ。犠牲も減らせるし、死に様を見られることもない」


目黒は容赦なく引き金を引き、青紫色の光弾を李に撃ち込むが、彼女は側転で弾を回避。避けられた弾は地に落ちて小さな穴を開ける。


「今の攻撃をよく避けたものだ。褒めてやってもいいぞ」


「君に褒められても嬉しくはないね。予め言っておくけど、僕は君のような三流の殺し屋に奪われるほど安い命は持っていないんだ」


「その方が俺にとっても好都合だ。半世紀ぶりに地獄監獄からシャバに出てきたんだ。久しぶりの標的が雑魚では萎えるからな」


目黒は喋りながらも銃を乱れ撃ちをする。けれど李は素早い動きで躱し続け、命中を許さない。


「地獄監獄に閉じ込められていたはずの君が、どうして地上に出てこられたのか気になるね」


「その訳はお前が俺に勝てたら教えてやる。だが、その日は永遠に訪れないだろうがね」

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