表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/108

私、普通じゃありません!?

わたしの名前は美琴。性別は女性。二十一歳です。


わたしは幼いころから他の同級生とは少し違う力をもっていました。


五歳の時点で既にわたしの腕相撲で勝てる同い年の男子は存在せず、一二歳の男子が相手でも負けたことはありませんでした。


ジャンプでも地面を蹴って舞い上がれば、楽々と電柱と同じくらいの高さまで飛ぶことができました。


サッカーボールを蹴ればボールは破裂し、握力計で測定不能なほどの腕力。

どう考えても普通の人間とは明らかに身体能力が違っていたのです。


その為でしょうか、わたしにはよくスポーツ選手にならないかと様々な団体から勧誘が来たのですが、わたしは別のスポーツで活躍したいなどとは微塵も考えてはいませんでした。


もし仮にわたしが格闘技などをした時には、力の制御ができなくなって最悪の場合、相手選手の命を奪いかねないのです。


体格は決して筋肉質の部類ではなく、どちらかというと華奢に入るのでしょうが見た目に反してわたしの力は年齢を重ねるごとに人間離れしていくようになりました。


ですが一般とは大きく異なる力を得て、一つだけよかったことがあります。

それは、車にはねられそうになった女の子を救うことができたことです。


女の子が道路にボールを追いかけ飛び出したのを目撃したわたしは、すぐさま道路へダッシュし、車が女の子をはねる寸前に間に割って防ぐことができました。


わたしにぶつかった車は車体の前面が大きく凹んでしまいましたが。


なんにせよこの力がなければ救えなかった命を救うことができたのですから、そういう意味では感謝しなくてはなりません。


高校を卒業したわたしはこの日も当てもなくブラブラと街を歩いていました。


一時は大学行ってみようかとも考えましたが、学費が非常に高く、身寄りのないわたしにはとても無理な話でしたので大学進学はあきらめて就職をしようという結論に至りました。


ですが挑んだ会社のすべてで不採用を食らい、就活に失敗しました。


都会では仕事がなければ生きていけないことを学んだわたしは、山奥で暮らすことにしました。山には食べ物も水も豊富にありますし、人に会うことも怖がらせることもないのですから、一石二鳥です。


思い立ったら即行動と最低限の衣服だけをもって山へ入ったわたしは、色々と危険な目に遭いましたが、お腹を空かせて闘いを挑んできた熊さんを可哀想だとは思いながらも手刀で一刀両断にして丸焼きにして食べたり、山を降りて海に飛び込み巨大なサメさんを蹴りで仕留めてそれも丸焼きにして食べたり、山に生えているキノコや野草を食べたりして中々にワイルドな生活を送っていました。


けれど一年が過ぎたころ、急にある食べ物が恋しくなりました。


それは、お米です。


山には野草やキノコ、タケノコはあれど稲はありません。


最初はそれなりに楽しかった山奥での生活もお米の恋しさのあまり我慢の限界を超え、わたしはとうとう山を降りる決心をしました。


ですが山を降りて電車と並んで田舎道を駆けながらも、わたしの心は不安でいっぱいでした。


都会に戻れば再び就活をしなければなりません。


そうしなければ生きていくことも、ましてやお米を食べていくことさえできないのですから、就活するのは当然ではあります。


しかし、就活はするにしても採用されなければ意味がありません。


普通の人間を大幅に超えたわたしを雇ってくれる仕事場など、果たしてあるのでしょうか。


疑問に包まれながら東京の街中を歩いていますと、一人の男性が声をかけてきました。


「君、ボロボロだけど、すごく可愛いね。わたしの弟子にならないかな」


金髪に碧眼、白い肌。一八〇センチを超える体格の良い紳士で、高級感の漂う三つ揃えのスーツを身に着けています。


間違いなく外国の方で、初対面であるわたしに「かわいい」と言ってきました。


容姿を褒められるのは女子であれば誰でも嬉しいとは思いますが、わたしも例外ではありません。

初対面で外国の方とはいいましても「かわいい」と評されて嬉しくないわけがありません。


「ありがとうございます」


丁寧に頭を下げて、紳士の元を去ろうとしました。


褒められたのは嬉しいですが、わたしは就職活動をしなければならないのです。


彼にいつまでも付き合ってはいけないと思いました。


そのときです。


ぐうぅ~。


間の抜けた音がわたしのお腹の中から聞こえてきました。


慌ててお腹を抑え、紳士に訊ねます。わたしは英語は喋れませんのでもちろん日本語ですが、彼は流ちょうに日本語を話していましたので言葉が通じると思ったのです。


「あの……もしかして聞こえていました?」


「ハハハハハハハハ! 盛大なお腹の楽器だね。もちろん、聞こえていたとも。君はお腹が空いているようだね。よかったら、わたしが何か奢ってあげよう!」


「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」


丁重に断ろうとした途端に再びぐぅ~っとお腹の音が。


ああ、お願いです。わたしのお腹。


少しでいいですから音を鳴らさないでください。


ですがわたしの懇願に聞く耳を(お腹なので当然ですが)もたず、音は次第に大きくなっていきます。


仮にこの場を離れた場合、きっと男性はわたしのおバカな光景をネタにして友達に話したり、インターネットのブログなどでこの一件を報告するかもしれません。


この状況を無かったことにする方法はないのでしょうか。


顎に手を当て思案していますと、紳士は立ったままニコニコとした笑顔で告げました。


「この場を解決する方法は、わたしと一緒に食事に行くしかないようだねえ」


食事をおごってもらえるのは嬉しい半面、申し訳ない気持ちです。


それにわたしはお金を一円ももっていないのですから、彼にすぐにお金を返すことはできないでしょう。


そして仮にお誘いを断ってこの場を後にして就職活動に挑んだとしましても、空腹で力がでない状態で挑んだところで一蹴されるに決まっています。


それならこの場は紳士の好意に甘えて奢ってもらい、住所と電話番号を聞いた後で、わたしの就職が決まったらお礼のお金を渡しにいけばよいのではないでしょうか。


少なくとも結果が見えている今よりは、お腹も満たされていることでしょうし、就活が実を結ぶ可能性はきっとあるでしょう。


それらを天秤にかけたわたしの答えは決まりました。


「紳士さんさえ良ければ、お願いします」


「うん! よく言ってくれたね! じゃあ、さっそくご飯に行こう! 

君の好きなものを何でも行ってくれたまえ、その食べ物がある場所を探して行くから!」


紳士は満面の笑みを浮かべていきなり、わたしの肩に手を回してがっちりと組みました。


まるで親友のような親しみをもった態度ですが、わたしはこの方のことを何も知りません。


なのに、どうしてこんなにも親切に振る舞ってくれるのでしょうか。


頭を掠めたわたしの疑問は紳士のタクシーを止める声でかき消されてしまいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ